2009-03-01

経済政策の総括〜政策金利はもう不要?〜

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少し前のニュースですが、09.2.5付のMSN産経ニュースより。
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090205/biz0902052325026-n1.htm

英中央銀行のイングランド銀行(BOE)は5日の金融政策委員会で主要政策金利を0・5%引き下げ、年1%とすることを決めた。即日実施した。利下げは5カ月連続で、1694年のBOE創設以来の最低金利を更新した。大幅な金融緩和で景気後退入りした経済を下支えする狙いがある。一方、欧州中央銀行(ECB)は同日、主要政策金利を2%に据え置いた。


イギリスは08年9月まで5%程度で推移していましたが、それ以降毎月段階的に引き下げています。ECBも2月は据え置きましたが、毎月引き下げてきました。この間、各国とも政策金利を下げ続けています。
このように政策金利を下げるのはなぜでしょうか?
一方日本の政策金利を見ると、ずっと低いままでほとんど変化がありません。これは一体なにを意味するのでしょうか?
 
 
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■1、なぜ各国とも政策金利を下げている?
 
まず政策金利とは一体何なのでしょうか?
現在金融政策には大きく3種類あるとされています。
1、公定歩合操作
2、公開市場操作
3、預金準備率操作

 
従来の金利政策とは、このうち1の公定歩合操作を指します。
公定歩合とは中央銀行が民間銀行にお金を貸し出すときの利率で、民間銀行はそれより高い利率で企業などに貸し付けることで利益を得ます。
公定歩合が下がれば、民間銀行は資金を調達しやすくなり、貸し付けを増やすので、経済全体にお金が行き渡って経済活動が活発化するとされています。

 
今回各国が軒並み政策金利を下げているのは、景気回復というよりも、世界的な金融危機による金融機関や企業の破綻を防ぐためという、より切迫した状況にあるからです。
 
参考:
2の公開市場操作とは、例えば景気を回復したいとき、銀行間の短期金融市場(コール市場)で民間銀行が保有する国債や手形を買い上げて、民間銀行が日銀に持つ当座預金口座に代金を置きます。このようにして資金を供給することで、民間銀行の貸し出し増を狙います。無担保コール翌日物の利率がその誘導目標とされており、現在の政策金利の位置付けにあります。
 
3の預金準備率操作とは、民間銀行が日銀に持っている当座預金口座に、預金の一定率以上を預けさせる率(預金準備率)を操作することです。市場の資金量を増やしたいときは準備率を下げて民間銀行がその分を貸し出しに回せるようにします。但し日銀は1991年以降準備率を変更していません。

 
これらの手法は異なりますが、要は3つとも、民間銀行に対する資金供給量を調節して、経済活動をコントロールするという意味では同じことです。
 
過去の事例を見ると、例えば世界恐慌時に高橋是清が行った金融政策は成功したと言われています。
http://www.adpweb.com/eco/eco287.html

高橋は矢継ぎ早に、デフレ対策を行った。まず「金輸出の解禁」を止め、さらに平価の切下げを行った。最終的には約4割の円安になった。そして積極財政に転換し、その財源を国債で賄った。さらにこの国債を日銀に引受けさせることによって金利の上昇を抑えた。
(中略)
1932年に国債の日銀を引受けを始めたが、物価の上昇は、年率3〜4%にとどまっている。1936年までに日銀券の発行量は40%増えたが、工業生産高は2.3倍に拡大した。そしてこの間不良債権の処理も進んだのである。


こういった実績があるので、今でもその手法が続けられているんですね。
しかしこれらの金融政策に効果があるのなら、現在の日本の経済が回復しないのはなぜなのでしょうか?
 
 
■2、なぜ日本の金利は低いままなのか?
 
ここで簡単に日銀の金利政策を振り返ってみます。
 
1994年9月まで民間銀行の金利は公定歩合と連動していて、日銀は公定歩合を操作することで金融政策を行っていました。しかし、
1994年10月に、民間銀行の金利は完全に自由化されたため、公定歩合を利用して民間銀行の金利を操作することはできなくなりました。(公定歩合は1995年9月から2001年2月まで0.5%のまま)
1999年2月、日本銀行は短期金利の指標である無担保コール翌日物金利を史上最低の0.15%に誘導することが決定しました。(ゼロ金利政策)
2000年のITバブル景気を機に一時解除されますが、2001年のITバブル崩壊を機に事実上復活。
2006年に景気回復を理由に再び解除となりますが、2008年12月の世界金融危機と米国のゼロ金利導入を機に、2008年12月19日に日銀が無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.1%に設定することを決定し、再びゼロ金利政策を実施する方向へ向かっています。

 
公定歩合操作が機能しなくなった直接の原因は金利の自由化と言えますが、公開市場操作に比重を移しても景気は殆ど回復していません。それはなぜなのでしょうか?
 
日本では世界に先駆けて物的な豊かさを実現したため、市場拡大が停止し、余ったマネーがバブルを引き起こしました。そしてバブル崩壊後の経済を立て直すために、それ以降低金利政策が続けられてきました。
しかし日本全体が物的に飽和している以上、いくらお金を借りやすくしても事業拡大には向かわず、デフレは改善されませんでした。しかしそれに対する有効な方針もなく、相変わらずゼロ金利⇒量的緩和が続けられてきたのです。
 
つまり貧困の消滅という、外圧状況の大きな変化にも関わらず、旧来の理論や手法から抜け出せていないので、成果が出ないのだと言えます。
 
例えば今までは、市場拡大という前提があるからこそ金融業が成立していたし、インフレの懸念があったから中央銀行制度が必要とされていたし、人々の物的需要は無くならないという前提があったから金融政策による景気コントロールが機能していたのです。
しかしそれらの前提は崩れ、既存のシステムは役に立たなくなりました。現在は、今までの市場の枠組み自体を見直す段階にきているのです。
 
 
■3、ゼロ金利でやって来られたということは何を意味する?
 
このように、政策金利を下げたり通貨量を増やしたりして景気が回復するというのは古典的手法であり、殆ど効果がないことが見えてきました。また金利がゼロということは、融資して利息を得ることでの「旨み」が薄れてきたということを意味します。まとめると、
 
1、政策金利は経済の安定に対して無効になった
2、金利では儲けることができなくなった

 
つまり国家にとっては社会を統合することができず、金貸しにとっても貸し付けでは儲けることができなくなっており、今までの金融政策ではどうしようもなくなっています。
  
ではどうしたらいいのでしょうか?金利ゼロの状況下で、国家はどのような対策がとれるのでしょうか?
 
例えば一つの手法として、国家が自前で通貨を発行する「政府紙幣」が考えられます。金利はゼロであればいくら発行しても借金が膨らむことはありません。このことは、金貸し支配から脱却できる可能性を示しています。
 
これまでは金貸しが国家を相手に金を貸し付けることで、莫大な利益を得ると同時に、国家を支配していました。人々も金貸しが作った金融システムに支配され、彼らが作り出したバブル経済やマネー経済に振り回されてきました。
 
しかし金貸し支配も、市場拡大停止とともに終わりを迎えつつあります。今後は金貸し支配の反省から、政府による管理市場へと移行していく必要があると考えられます。(例えば政府紙幣の発行など。)その時に経済が混乱せずにうまく機能していくために、既存のシステムを見直し、外圧状況に適応した新しいシステムを構築することが求められているのです。

List    投稿者 kknhrs | 2009-03-01 | Posted in 07.新・世界秩序とは?No Comments » 

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