クルド人自治区住民投票のきっかけは、北朝鮮の善戦か?
9月25日にイラクのクルド人自治区で分離独立の是非を問う住民投票が行われました。投票の結果は、賛成票は92.73%、投票率は72.61%と予想通り賛成が圧倒的多数でした。
シリアの内戦が収束し、IS国の制圧も進んで、やっと中東も落ち着くかと思った矢先の出来事で、またCIAが裏で糸を引いて、中東の地域紛争を継続させ、軍需産業の飯の種にしようという魂胆かと思いましたが、アメリカは当事国であるイラクやトルコに次いで強く住民投票に反対を表明していました。この動きは、どこが仕掛けたのでしょうか。
他にもロシア、EU、国連もイラクの統一を支持する立場からクルド側の「一方的な措置」に否定的で、賛成を表明したのは唯一、イスラエルだけだったようです。
イラクのクルド人自治区は、政治・行政面で混乱・麻痺状態にあるとともに、財政や経済に深刻な危機に瀕しており、バルザーニー大統領自身の任期も実は2015年に満了しており、それ以後は超法規的に「居座っている」も同然の状態だそうです。
IS国との戦争状態にあった間は、非常事態という事で抑え込まれていた様々な問題が、戦争が収束に向かうにつれて抑え切れなくなり、それをイラクのせいにすることで、クルド人たちの不満が自治政府に向かう事を防ぐのが、住民投票を実施した最大の理由だったのかもしれません。
一方で、同時期にスペインのカタルーナ州で分離独立の是非を問う住民投票が行われたのも、偶然とは思えません。全世界で民族主義の気運が高まってきているのは、間違いないようです。そして、それに火をつけたのが北朝鮮ではないでしょうか。北朝鮮がアメリカを相手に対等に渡り合っている状況を見て、アメリカをはじめとする大国も、国連も北朝鮮のような小国を相手にして有効な手が打てない。今の国際世論の状況を見ると、簡単に制圧できないことが明らかとなり、このような動きが噴出し始めたのかもしれません。
一昔前であれば、クルド人自治区で分離独立の住民投票をしようとすれば、イラク政府は平気で武力制圧していたと思います。それが、殆ど妨害らしい妨害も出来ず、投票後も圧力を高める程度の手しか打てていません。今後もこのような動きは、世界中に広がりそうです。
■米政府、クルド人の住民投票に「深く失望」2017年9月26日
イラク北部のクルド自治政府が同国からの分離独立の是非を問う住民投票を実施したことを受け、米国務省のナウアート報道官は25日、「一方的に住民投票の実施を決めたことに深く失望している」とする声明を発表し、自治政府を批判した。
米政府はイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)掃討作戦に影響が出るとして住民投票に反対してきた。
■イラク・クルド人自治区で住民投票 独立賛成多数の見通し2017年09月26日
イラク北部のクルド人自治区で25日、独立を問う住民投票が実施され、同国政府や周辺国の反対にもかかわらず多くの人が投票した。開票は終わっていないものの、独立賛成票が反対票を大幅に上回った公算が大きい。
イラク政府は「違憲」だとして否定している。トルコやイランは、自国内に住む少数派のクルド人による分離運動の高まりを懸念し、国境閉鎖や石油輸出に対する制裁を警告している。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、住民投票が地域を「不安定化させる可能性」への懸念を表明した。
■クルド独立投票「賛成9割超」…政府は「違憲」アバーディ首相は独立交渉に応じない方針2017年09月26日
住民投票が25日夜(日本時間26日未明)に締め切られると、地元メディアは一斉に、独自集計を基に「賛成多数」と報道した。地元テレビ「ルダウ」によると、開票率約10%の時点で賛成は93%を占めた。
選挙管理委員会によると、投票率は約72%で、有権者約450万人のうち約330万人が投票した。在外のクルド人約10万人もインターネットで投票した。選挙管理委員会は26日中にも中間集計を発表するとしているが、結果が確定するのは28日以降になる見通しだ。
■イラクのクルド独立、93%が賛成 住民投票の結果発表2017年9月28日
イラクのクルド自治区で25日に実施された、同国からの独立の是非を問う住民投票で、クルド自治政府は27日、賛成票が圧倒的多数を占めたとの開票結果を発表した。
公式開票結果によると、賛成票は92.73%、投票率は72.61%だった。住民投票に法的拘束力はなく、イラク中央政府は違法だとして認めない方針を示している。
アメリカ、ロシア、EU、国連などはイラクの統一を支持する立場からクルド側の「一方的な措置」に否定的で、アメリカ政府は住民投票実施に失望感を表明した。ただし、これらの当事者やそれに類する立場を表明した諸国は、クルド自治区に派遣した外交団の引き上げのような強硬措置を取ってはいない。
そうした中、首相が「クルドの独立を支持する」と表明したイスラエルの立場が、非常に目立っていた。
もう一つ見逃すことができないのは、当のクルド自治区自身が政治・行政面で混乱・麻痺状態にあるとともに、財政や経済に深刻な危機に瀕していることだ。これにより、公務員給与の遅配・減配とそれに対する抗議行動が相次いでいる。給与の詐取を目的とした「幽霊兵士・公務員」も数十万人規模で存在する。また、バルザーニー大統領自身の任期も実は2015年に満了しており、それ以後は超法規的に「居座っている」も同然の状態である。
クルド自治区が直ちに「独立」へと邁進するよりも、当座は投票結果を背景に連邦政府と交渉し、権益や予算の配分でより良い条件を引き出そうとする可能性も高い。また、クルド人の独立どころか「自治」の強化・拡大も嫌うトルコ、イラン、シリアに対しても、既成事実に基づいて立場を固めることに努めることになろう。これらの諸国にしても、イラクのクルド自治区に対し直ちに大規模な軍事行動に出るのは、各々の能力や軍事行動か生じる負担やリスクに鑑みれば簡単ではないだろう。
■イランとトルコ クルド自治政府への圧力強化で一致2017年10月5日
イランのロウハニ大統領とトルコのエルドアン大統領は4日、イランの首都テヘランで首脳会談を行いました。エルドアン大統領は「クルド自治政府の住民投票は正当性がない。イラクの中央政府とトルコ、イランはより断固とした措置をとる」と述べて、さらに圧力を強めていく方針を示しました。また、ロウハニ大統領も「国境を変えることはいかなる状況でも許されない」と述べて分離独立の動きをけん制しました。
両国は地域大国としてライバル関係にありますが、最近では内戦が続くシリアでも、停戦に向けた協議を主導するなど急速に接近していて、中東の紛争に対応する中で関係を深めています。
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