米国はどのように衰退してゆくのか?(21)〜シリーズ総まとめ〜
5月から半年ほどにわたって、衰退途上の米国の歴史と現在の状況を、多様な面から扱ってきました。
1.プロローグ
2.アメリカ通史
3.アメリカの侵略を支えてきた軍事力
4.侵略国家の中枢、軍産複合体
5.米軍分裂の可能性は?
6.金融主義の末期・米国ドル崩壊への道その1 ドルはどのようにして覇権通貨となったか
7.金融主義の末期・米国ドル崩壊への道その2 ニクソンショック(金兌換停止)後の金融覇権を維持した手練手管
8.金融主義の末期・米国ドル崩壊への道その3 世界をマネー経済に巻き込んでいった’80〜’90年代
9. 金融主義の末期・米国ドル崩壊への道その4 リーマン・ショックとその後の世界
10.金融主義の末期・米国ドル崩壊への道その5 加速する世界のドル離れ
11.金融主義の末期・米国ドル崩壊への道その6 縮小する投機市場
12.米国産業の行く末は?その1 南北戦争後に重厚長大産業が勃興、財閥が形作られる
13.米国産業の行く末は?その2 大衆消費財産業と豊かな社会
14.米国産業の行く末は?その3 60年代以降の産業衰退と新しい支配の仕組
15.米国産業の行く末は?その4 そして何が残るのか
16.米国人の精神構造は?その1 米国政党から見る精神構造
17.米国人の精神構造は?その2 アメリカ人にとってのキリスト教
18.米国人の精神構造は?その3 銃社会から見えるアメリカ人の疑心暗鬼と分裂の予感
19.米国人の精神構造は?その4 米国が生み出した最大の文化、映画に見る意識
20.米国人の精神構造は?その5 シリーズまとめ
そして、11月6日開票の米大統領選では民主党バラク・オバマが共和党ミット・ロムニーを押さえ再選しました。選挙戦終盤に米国東部に甚大な被害を与えたハリケーン「サンディ」の襲来は、これからの米国の行く末を暗示しているようです。
これまで扱った内容から、米国の今後の展開を描写してみます。
いつも応援ありがとうございます。
●大統領が誰になろうと、衰退してゆく米国経済
再選を決めたオバマは、「中間層のための新たな雇用確保のために戦い続ける」と、経済の建て直しと雇用の回復・拡大を宣言しました。しかし、これは不本意な結果に終わる可能性が高いでしょう。なぜなら、現在の米経済の悪化は歴史構造的な市場終焉の流れによるものであり、この流れの最先端を行っているのが他ならぬ米国だからです。
●まず、金貸し支配の力が衰弱し続けてゆく
シリーズ(6)で見た通り、1913年の連邦準備制度の成立により、一握りの金貸しが米国を拠点に世界を支配するシステムが始まりました。
数年後ウィルソン大統領は後悔し以下に記述した。
我々の豊かな産業国はクレジット制度に支配されている。クレジット制度が国民を支配している。よって国家の成長と全ての政策はある数人の男達の手の中に渡ってしまった。彼らの独断で国家経済の停滞や自由も破壊できる。我々は世界で最も独裁的な支配力の下に置かれている。政府には自由な意見も信念も多数投票もない。ある少数の権力を保持している男達の国家である。
その後、金貸したちは、第二次大戦を経て基軸通貨となったドルと、自分たちにもっとも有利に働くように設計・構築した金融システムによって、市場を拡大し、資力によって軍や政治、マスコミを従え、世界を支配し続けてきました。その金貸しの資力支配の構造は、市場とマネーの膨張限界を迎え崩壊しつつあります。それが現在の世界的な経済危機です。
シリーズ(11)では、その金貸しの資力支配の力の源泉であるマネーの量が、投機市場において急激に縮小していってることを扱いました。
’08年リーマン・ショック以降、株式売買は、急落していることがわかります。また、’08年〜’12年では、約55兆ドル減となっており、株投資の減少は顕著に表れています。
半減している株式市場の出来高
つまり、現在進んでいる最も大きな変化は、「金貸しの支配力の急速な弱体化」だと言えます。
では、金貸しの支配力が弱体化してゆくと、米国では何が起こるのでしょう?
●被支配勢力の統合不全の顕在化
金貸しの支配力の低下は、彼らに支配されていた勢力の反発あるいは内部分裂を引き起こします。シリーズ(5)で紹介した米軍の分裂の兆候も、その一つです。
米陸軍=愛国派
VS
米軍(主に海軍?)=金貸し=軍産複合体=ネオコン=イスラエル史上初の米露軍事合同演習
あるいは、「Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)」運動も然りです。現在、それが統一された反体制運動や反金貸し勢力の形成には繋がっていませんが、こうした国内の分裂・対立は、企業・政治・官僚・マスコミなど、様々なところで顕在化してくることが予想されます。
●不安・警戒心の増大と強い観念欠乏の生起
こうした米国経済の悪化と情勢の不安定化によって、米国民には当然ながら不安が蓄積していっています。日本も同様に経済悪化と情勢の不安定化(とりわけ統合階級の暴走)が起こっていますが、その不安の中身は、米国と日本ではかなり異なっていると考えられます。
共同体の歴史を持つ日本はもちろんのこと、ヨーロッパと比べても、人工国家のアメリカ人は必然的に他人に対して強い警戒心を持つことになります。
シリーズ16、シリーズ19でみたように、縄文以来塗り重ねられてきた共同体社会の日本と違い、僅か250年前に原住民を殺して居座ったアメリカ人=バラバラの移住者を統合してきたのは、「世界一の国家たるアメリカ」という、これまた人工的な観念(それを植えつけてきたのが20世紀の映画)であり、現在の国力の衰退は、その統合観念が崩れ去ることを意味しているからです。
この統合観念の瓦解が米国人の意識にもたらす影響は、二つ考えられます。
一つは、彼らがもともと互いに持っていた強烈な警戒心の顕在化です。アメリカ人とは、いわば「世界一の国家建設」という急造の目的で集められた傭兵部隊のようなものです。その目的が崩壊すれば、彼らにはともに生きる必然性を失い、むしろ互いに「いつ寝首をかかれるか分からない敵同士」という潜在思念の方が優勢になってゆきます。シリーズ18でみた銃売上の急増は、その傍証です。
次いで、生起した強い不安と警戒心を再統合するための観念欠乏が強く生起すると考えられます。共同体性が欠如したアメリカ人は、何らかの人工的な観念に収束することで意識を統合し、集団を形成するしかないからです。その候補の一つが、シリーズ17で見たキリスト教観念への回帰になるのかも知れません。しかし、現在でもアメリカ人が強く収束しているキリスト教でさえ、原理主義やモルモン教など様々な宗派に分裂・対立し、3億人の人間を統合できるものではありません。「世界一のアメリカ」という従来の統合観念が瓦解した以上、この国が一枚岩として存在し続ける可能性は小さいでしょう。
●収束した観念の対立で分裂してゆくアメリカ
それでも米国に残る産業は、おそらく、IT・情報産業の一部と、前段でシェールガスなど、米国という広大で資源豊かな国土が要求するエネルギー産業と食糧産業、そして、移動手段としての航空産業などになるでしょう。かつ、他国への支配力が衰えていく以上、それらは、他国に対して優位性を発揮するグローバル産業としてではなく、米国の内需を基盤としたものにならざるを得ないでしょう。即ち、金貸し支配終焉後の米国産業界は、建国時に近い「大陸型産業」に縮小回帰してゆく道しか残されていないと考えられます
シリーズ15でみたように、産業・経済的にも、従って政治的にも「世界一」の看板を下ろし「普通の国」になってゆくアメリカは、彼らアメリカ人が次にそれぞれ収束する観念内容の対立によって、分裂を引き起こしてゆくことが予想されます。
リーマンショックの直後、元KGBのロシア学者が発表した説は、米国が大きく4つ(細かくは6つ)の地域に分裂する、というものでした。
ロシア学者の米国分裂予想
東海岸(赤)は、EUに組み込まれる。
中央北部(黄)は、カナダの一部または影響下に置かれる。
カリフォルニア共和国(薄緑)は、中国の一部または影響下に置かれる。
テキサス共和国(青)は、メキシコの一部または影響下に置かれる。
アラスカ(紫)は、ロシアの領土になる
ハワイ(緑)は、日本もしくは中国の領土になる
下は、シリーズ17で紹介したキリスト教バプテスト派(≒原理主義寄り)の分布マップです。
ロシア学者の分割説は、その後、世界中が金融危機の波に呑み込まれたため、この通りにはならないでしょう。しかし、米国という超大国が今までの超大国のままでは持たない、という感覚は、既に誰もが共感できるほどに普遍化しており、キリスト教派の分布図と並べてみると、その分裂ラインが自ずと見えてくるようです。
その分裂ラインを決定づけるもの=アメリカ人が収束する観念は、宗教なのか?政治思想なのか?人種なのか?企業派閥のようなものなのか?は、まだ見えていません。
しかし、大統領選では、ロムニーに投票した人間の88%は白人で、黒人やラテン系は僅か、という結果になり、オバマは勝利演説で「分裂せずにやっていこう」と訴えています。これは逆に、米国において、これまでに無く分裂の圧力が強まっていることを示しています。
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シェールガスの産出によって、2020年には原油産出量がサウジを抜くとの見通しもあり、辛うじて米国が食いつないでゆく道は残されたかも知れません。しかし、拠り所にしてきた世界の支配権と、「世界一の超大国」という観念を喪失した米国は、建国以来その精神に根深く刻み込まれた警戒心と自我の露呈を通じて分裂してゆく。これが、現在想定できる米国衰退の姿です。我々は、「既にアメリカは、分裂過程に入り始めている」という認識で、物事を見ていくことが必要なのかも知れません。
長い間、シリーズにおつきあい頂き、ありがとうございました。
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