米国はどのように衰退してゆくのか?(3)〜アメリカの侵略を支えてきた軍事力〜
08年世界金融危機以降、米国覇権の凋落は明らかとなりましたが、現在のところ、その崩壊は緩慢に進んでいるように見えます。
マスコミから米国の情勢は殆ど発信されず、せいぜい大統領選の推移が時おり流れる程度で政治・経済的に大きなニュースはありません。その一方で、ネット上では、米軍やCIAの分裂、州の独立、旧支配階級の一斉逮捕など、驚くべき事態の急展開を伝える記事が増えています。米国内は一体どうなっているのか、状況が読みにくくなっています。本シリーズでは、衰退の途にある覇権国家アメリカを改めて扱ってみたいと思います。
前回はアメリカの通史を扱い、「いかにアメリカが多くの侵略を繰り返し、西へと領土を広めてきたか」 ということが解りました。
米国はどのように衰退してゆくのか?(2)〜アメリカ通史〜
今回は超大国アメリカの侵略を支えてきた軍事力について、まずは基礎的なデータを見ていきたいと思います。
世界最強とも言われるアメリカ軍は、どれほどの費用がかかっているのか?
まずは国防支出費から見ていきます。
【国防支出費】
アメリカの国防支出費は世界第1位です。その金額も7128億ドル(57兆円)と第2位の中国764億ドル(6.1兆円)の10倍近くにも及んでいることが分かります。
またアメリカの国防支出費の変遷をみると年々増加の傾向にあります。特に2003年に勃発したイラク戦争以降は国防支出費が大きく増え続け、2008年には6932億ドルと戦争前の2002年の3290億ドルから倍以上となっています。
【兵力】
アメリカの兵力は、陸軍63.9万人、海軍33.6万人、海兵20.4万人、空軍34.0万人で、合算した現役総兵力は156.3万人となっています。アメリカの兵力は中国の現役総兵力228.5万人(陸軍が160.0間万人と多い)に次ぎますが、海軍、海兵、空軍の数は他国を圧倒し、特に海兵が群を抜いて多くなっています。(海兵について詳しくは後述します。)
【兵器】
アメリカの主な兵器は、戦車6242両、艦艇255隻、空母11隻、潜水艦71隻、航空機3687機、核弾頭1968発です。国防支出費第2位の中国と比較すると、潜水艦は同数で、戦車の数は少ないものの、空母、航空機、核弾頭数は世界第1位です。空母については、近年中国もアメリカを意識しながら建設に躍起になっているようです。
またアメリカは各兵器の性能も高く、各国を圧倒的に引き離していると言われています。
例えばアメリカ軍の最新鋭戦闘機(第5世代)のF-22を見てみます。
(F-22 ラプター)
F-22 ラプター(日本語訳:猛禽類)はアメリカ軍の主力戦闘機F-15の後継機として開発され、ステルス性能、大推力エンジンの搭載による高機動性とアフターバーナーを使用しないスーパークルーズ(超音速巡航)能力など、他戦闘機を凌駕する性能を持っています。
これまでの主力戦闘機F-15は、イラク戦争で一機の撃墜もされずに相手国の主力戦闘機MiG-29を数十機も撃墜した優秀な機体です。F-22はこのF-15とのシュミレーション戦闘では、ほぼ全戦全勝かつF-15を4機同時に相手しても勝つとされていることからも、現在のアメリカ軍兵器の圧倒的ともいえる性能の高さが分かります。(F-22 ラプターの詳細は→リンク)
【組織図】
アメリカ軍のトップは最高司令官であるアメリカ合衆国大統領です。その下に国防長官が大統領の補佐官として国防総省(ペンタゴン)を統括し、統合参謀本部と共に具体的な軍事作戦計画を練り、その計画に沿って各統合軍(北方軍、中央軍、南方軍、欧州軍、太平洋軍等)が動いてきます。また他省庁や国家機関(中央情報局(CIA)等)も、世界情勢や戦況把握などの大きな役割を担っています。
アメリカ軍は陸軍、海軍、空軍、海兵隊の4軍から成り、全て国防総省の管轄下に属しています。
●陸軍
陸軍(Army)は主に陸地において行動する地上部隊から成る軍事組織です。陸軍の第一の任務は地上の重要な地域を占領して陸上権を獲得することにあります。
陸軍は陸上で活動するために歩兵部隊や砲兵部隊、戦車部隊などがあります。歩兵部隊は携帯可能な武器を装備して徒歩で移動する兵士からな成る部隊で、砲兵部隊は車両などで輸送する火砲を装備した部隊で、戦車部隊は戦車を装備した部隊を指します。
●海軍
海軍(Navy)は主に水域で行動する艦艇から成る軍事組織です。海軍の第一の任務は制海権の獲得にあります。制海権がある海域では自由に自国商船も航行することができます。
海軍部隊は概ね複数の軍艦から構成されています。航空母艦は航空機の格納庫と滑走路を備えた艦艇で、航空機が離着陸することが出来ます。巡洋艦は外洋を航行して火砲などの武装を持つ比較的に大型の艦艇です。潜水艦は潜水して航行し魚雷などの武装を持つ艦艇です。これ以外にも駆逐艦や水雷艇、給油艦、掃海艇、フリゲートなどがあり、海軍はこれら艦艇を以って艦隊を編制されています。
●空軍
空軍(Air force)は主に空域で行動する航空機から成る軍事組織です。空軍の第一の任務は空における軍事的な優勢を確保することです。空の軍事的な優勢は航空優勢と呼ばれ、航空優勢がある空域では空軍力を自由に運用して地上・海上部隊を支援することもでき、また空中から偵察をすることもできます。
空軍部隊は複数の航空機から編制されています。航空機もその目的から敵機を空中戦で撃墜するための戦闘機、地上目標を攻撃する攻撃機、広域レーダーを装備した早期警戒機などがあります。またこれ以外にも偵察機や輸送機、空中給油機などがあり、これら航空機から飛行隊を編制して運用しています。
●海兵隊(アメリカ)
海兵隊は、地上・海上・航空など陸海空軍の全機能を備えている軍事組織です。海兵隊の任務は、上陸・空挺作戦などによる拠点制圧です。
戦争が始まったら真っ先に敵地に上陸して敵を掃討していきます。海兵隊は装備や兵士の質が高く、270両を超える戦車を筆頭に大砲や軍用車両を持ち、F/A-18やAV-8Bなどの200機を超える航空部隊も保有しているとされています。
(参考:WIKIBOOKS)
【世界展開図】
アメリカ軍の世界展開は、北方軍(アメリカ本土)109.8万人、中央軍21.8万人、南方軍0.2万人、欧州軍10.1万人、太平洋軍11.1万人、アフリカ軍0.1万人となっています。戦争が終結したイラクからは軍を撤退し、今後の焦点は中国を取り囲む太平洋軍に移りつつあります。
この世界展開図からも見て取れるように、これまでもアメリカは世界の各方面に軍を展開してきました。世界平和を旗印(自国正当化の道具)として、朝鮮、ベトナム、イラクなど、アメリカは圧倒的な軍事力を持って世界各地で戦争を繰り広げています。
戦争によって数えれきれないほどの建物の破壊や死者を出す背後で、兵器を開発し販売する軍事産業は莫大な利益を上げています。そのためアメリカは軍産複合体とも呼ばれ、アメリカ経済はもはや戦争なしでは成り立たないとまで言われています。
日本で現在話題となっている老朽化した戦闘機(F-4)の次期主力戦闘機の選定問題も、このアメリカの軍事産業が密接に絡んでいます。当初は前述のF-22が次期主力戦闘機となる予定でしたが、機密保持と日本の軍事力抑制のため性能を抑えたF-35に変更となっています。またF-35の価格も1機80億円程度のはずが、アメリカの軍事産業の利益を大幅に乗せた1機102億円を購入価格として調整しています。(リンク、リンク)
次回は世界の戦争及び軍備の背後で利益を上げてきた、アメリカの軍事産業(軍産複合体)について追求していきます。
最後まで読んで頂いてありがとうございました☆
<これまでのシリーズ記事>
米国はどのように衰退してゆくのか?(1)〜プロローグ〜
米国はどのように衰退してゆくのか?(2)〜アメリカ通史〜
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.kanekashi.com/blog/2012/05/1876.html/trackback