ブロック経済前夜2 〜第一次世界大戦、そして英国・ポンドの凋落〜
先日のエントリー「ブロック経済前夜1 〜イギリスによる国際金本位体制の成立〜」では、イギリスポンドが世界経済の中心になる過程について書きました。
本日はそれから一転、ポンドの衰退過程に焦点をあててお送りします。
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ヨーロッパを舞台とした第一次世界大戦の勃発により、世界の覇権は大きく変動しました。
それまで世界の覇権を握っていた英国が衰退し、米国が新たな世界の覇権国として台頭してきた時代です。
今回は、ブロック経済へと向かう前夜の状況(その2)として、第一次大戦後の戦後復興から世界恐慌に見舞われるまでの歴史・時代状況を見ていきましょう。
◇欧州各国の明暗
第一次世界大戦は、オーストリアの皇太子がセルビア人の過激派学生に暗殺されたことをきっかけに、オーストリアがセルビア侵攻に踏み切ったことが始まりです。
そこに両国の同盟各国が加わって、ヨーロッパを舞台にした大戦争に発展しました。
戦争の開始とともに金本位制は停止され、各国通貨はフロートするとともに、敵国への貿易投資は不可能になった。味方の国同士でも、いろいろな為替管理や貿易制限が行われて、取引は自由には行えなくなった。イングランド銀行や(ロンドン)シティーが四〇年間続けてきた国際金本位制の巧みな管理は崩れ去り、活躍する場がなくなって、ポンドも大英帝国以外では紙切れ同然となってしまった。
戦争は長期化し、アメリカは一九一七年にイギリス・フランス側に着く。その結果、イギリス・フランス側はアメリカから大量に物を買う。その決済代金として、イギリス・フランスから金が大量にアメリカに流入していった。あっという間にアメリカは、世界最大で史上最大の金保有国になった。
※「通貨の興亡」(黒田東彦著、中央公論新社)より引用。
〜ポンドの衰退構造〜
(参考)「基軸通貨の衰退過程と金貸しの動き」 その1〜3 (リンク1)(リンク2)(リンク3)
第一次大戦がドイツ、オーストリアの敗北で終焉したときに、ヨーロッパでは二つのことが問題になった。一つはドイツの戦後賠償、もう一つは金本位制の復活である。そのいずれについても、ケインズは、世の中の多くの人が言う常識と異なる、しかし、結果的には正しかった対応を勧告したが、いずれも受け入れられなかった。
すなわちドイツの賠償については、フランスなどの要求する巨額の賠償は実現不可能だし、ヨーロッパ経済を悪化させるだけだと主張したが、受け入れられなかった。また、イギリスは、一九二五年に旧平価で金本位制へ復帰するが、これは深刻な不況をもたらすと強く反対したが、これも受け入れられなかった。
※「通貨の興亡」(黒田東彦著、中央公論新社)より引用。
ケインズの主張もむなしく、英国は、フランスの主張を入れてドイツに巨額の賠償を課し、旧平価(平価:金本位制における自国通貨と金との交換比率)で金本位制への復帰に踏み切りました。
これにより、欧州各国の戦後復興は明暗を分けることになります。
その例として、フランス、ドイツ、イギリスを上げてみましょう。
○フランス
国内インフレの程度よりも、フランの為替レートの減価のほうが大きかったので、実質的為替レートは大きく下がっていた。
これにより輸出に有利な状況が生まれ、フランスの輸出は増加し、国内経済は1920年代に大きく持ち直した。
この輸出増加とドイツからの巨額な賠償金により、金準備も増え、1928年にフランが減価した後の新平価で金本位制に復帰した。
○ドイツ
敗戦後のドイツは、天文学的なインフレに見舞われ、1923年に一兆分の一というデノミネーション(呼称単位の変更、通貨切り替え)を行った。
このとき政府は「新紙幣はドイツの資本や土地を担保に発行しているので、単なる不換紙幣ではない」と主張し、奇跡的な成功をおさめ、インフレがおさまった。
翌年の1924年に新平価で金本位制に復帰した。
○イギリス
ケインズが懸念したのは、イギリスのインフレ率とアメリカの物価との関係であった。
旧平価のままで金本位制に復帰した場合、ポンドは恐らく10%は過大評価されることになる。
そうすると、イギリスの国内物価が10%下がらないと国際収支は均衡しなくなる(貿易赤字になる)。
それは、国内産業に大変なデフレ圧力を加える事になり、国内産業は疲弊する。
しかし、結局、1925年に旧平価で金本位制に踏み切ったイギリスは、輸出が低迷し、金準備も低迷した。
1920年代末にようやく経済が回復しかけた時に、今度はアメリカ発の世界大恐慌が起こり、再びイギリス経済は不況に突入する事になった。
◇イギリス苦渋の選択、金本位制からの離脱〜ブロック経済化
第一次世界大戦後、ヨーロッパ諸国の復興を支えたのは、好景気に沸くアメリカへの輸出であり、アメリカからの資本輸入でした。
基軸通貨としてはドルとポンドの並立に近い状況となっていましたが、1921年の時点で既に金の保有量ではアメリカが英国の3倍と差が開いていました。ここで英国が金本位制に復帰したことがさらに裏目に出ます。
開戦時4.78ドルだったポンドが1921年には3.78ドルに下落していて、ポンド安で金が流出、その後、NY株式暴落を機に1929年に起こった世界大恐慌も結果的にアメリカより英国の経済力を失わせることになり、大恐慌後の1932年にはアメリカと英国の金保有量の差は6倍に開いていました。
こうした状況下で、金本位制の本家であるイギリスが、各国の先頭を切って、1931年に金本位制から完全離脱します。
今回の離脱は、戦時の一時的なものではなく、金本位制そのものを捨てようとするものでした。
ここから世界経済は、ブロック化の道を歩み始める事になるのです。
次回はいよいよ、各国がとった政策、ブロック化の中身に入っていきます。
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コメント16件
牙狼 | 2009.10.04 17:59
コウルズ財団など、どの時代を見ても、○○財団と経済学者達のつながりか浮かび上がってくる。
委員会を作って経済学者を集め、中には資本を学者に運用させたりもしている。
要するにパトロンの金庫番が経済学者だったのでしょうか?
金融工学まで俯瞰すると、学術と言うより、賭博理論。
もっと言うと、八百長賭博学・・・・カイジ真っ青。
経済学者達が、やたらと、道徳的な理論を持ち出すのも、この様な欺瞞性が故なのでしょうかね?
緑一色 | 2009.10.05 10:51
アダム・スミスは、近代経済学の基礎を築いた学者であるが、労働価値説や道徳情操論、国富論は当時の大衆、特権階級のどちらに支持されていたのだろうか?
>世論を敵に回さないようにする屁理屈
労働価値や同感といった概念は、一見本源風に感じられる。しかし結局は特権階級の正当化の一役を買っていたに過ぎないのではないか。
watasin | 2009.10.05 11:31
>この純理論モデルは、現実を説明しきれないにも関わらず、モデルの限界が明確でなかったこと、他の行動モデルを扱うことができなかったことを理由に、長い間、存続し続けました。
なるほど!
ここポイントですね。
そう考えるとこれまで「経済学の前提がそもそもおかしい」ってことに誰も気づけない+問わなかったことのがやはり不思議。資本家による見えない力学でしょうかね。。。
>つまり「経済学」とは資本家の利益拡大の為の学問とも言える。
ここのところ、もう少しミソを教えてもらえませんか? なんで資本家に有利なのか・・・中身がもうちょっと知りたいです。お願いします!
Kato | 2009.10.05 22:56
>企業は利潤最大化を、消費者は効用最大化を目的として経済活動を行う、というものです。
このあたりが日本人にとって今ひとつしっくりこないところです。
■長寿企業の秘密は社会的役割意識(http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=209939)
■長寿企業から集団のあり方を考える(http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=207518)
創業200年を超える企業の40%が日本にあり、その多くは上記の前提とは違う理念の下、今も存在し続けているという事実が、その胡散臭さを証明しています。
ヤンバルクイナ | 2009.10.10 0:58
>このような人間像を「合理的経済人」(ホモ・エコノミクス)と呼びますが、この純理論モデルは、現実を説明しきれないにも関わらず、モデルの限界が明確でなかったこと、他の行動モデルを扱うことができなかったことを理由に、長い間、存続し続けました。
実際はそのような人間像でないと理論がなりたたないからそのようなモデルにしたと考えられます。
>つまり「経済学」とは資本家の利益拡大の為の学問とも言える。
資本家は経済学者に助成し、金儲けの手法を考えさせ、世論を敵に回さないようにする屁理屈を考えさせたのだろう。
小難しいことは、内容が高尚に思いがちなのですが、実際には事実を隠していることが多いと思われます。
あたりまえのように経済学を論じている人たちは、意外と事実を知らないか知っていても黙っているとおもられます。
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産業革命以降、古典経済学→新古典経済学・・・→新市場主義と言った経済学の変遷を俯瞰すると、社会正義とは真逆の追求学問と思えてならないですね。
これらの経済学は、産業革命に始まる。
疎外労働が問題となり始めると労働価値を持ち出し、機械生産の限界が見えてくると効用理論を説く。
その後、国家財政投入を誘い、ファイナンス理論までもが登場してくる。
最終的には、新市場主義などと裾野を広げ、とっくに限界を越えていてドッカン!!これが今回のハタンでしょうか?
って事は、一番悪いのは経済学者??