2012-10-24

米国はどのように衰退してゆくのか?(19)〜米国人の精神構造は?その4米国が生み出した最大の文化、映画に見る意識(誇りの時代と堕落の時代)

前回は、他国から米国社会の病理と指摘される「銃社会」に潜む、米国人・白人の根強い他民族(先住民、黒人層)への潜在的な憎悪を見てみました。

米国はどのように衰退していくか?(18)〜米国人の精神構造は?その3銃社会から見えるアメリカ人の疑心暗鬼と分裂の予感

今回は、米国の文化と国民意識を取り上げます。米国が生み出した文化として、映画(テレビ)、ジャズ、プロスポーツ(野球、バスケット、アメフト)を挙げる人が多いでしょう。そこで、エジソンが映写機を発明し、作品としても産業としても世界最大を誇っている映画に焦点を当ててみます。

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   『国民の創生』の公開時ポスター

以下のように、映画産業の興隆期(作品を誇れる時代)と衰退期という視点から分析してみます。

①世界中で一番映画を見ている米国国民
②映画産業を作りだし、米国国民を結集させた時代
③全盛期の米国、世界に誇れる芸術作品を生み出した時代
④特殊撮影の虚構と擬似戦争で、儲ける映画に堕した米国

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①世界中で一番映画を見ている米国国民

下の表は、各国の映画産業の状況です。年間入場者数、一人当たりの年間入場回数、制作本数、映画館数、興業収入、映画館の平均料金、公開される映画の国産率です。

米国は、巨大人口で映画好きのインドには及ばないが、年間の映画館入場者数は14億人。一人平均年5.2回映画館に行き、世界一です。
また、映画館数6千館、興業収入(約1兆円)と他の国を圧倒しています。また、公開する映画の殆どが米国産の映画という特徴を持っています。
まさに、米国国民は映画大好き、映画が不可欠といえます。
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次の図は、米国の映画興業収入の推移を見たものです。

2008年のリーマンショック以降の不況突入期に、映画興業収入が逆に増加しています。米国では、安い入場料金(500円)もあって、映画が手軽な娯楽の中心に座っているのです。
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②映画産業を作りだし、米国国民を結集させた時代

米国を映画発祥の国といっても良いと思います。エジソンが映写機を発明し、1910年代には映画づくりの街、ハリウッドを造っていきます。

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<表中の順位とあるのは、インフレを調整した米国興業収入の順位です。以降の表では順位30位までを載せています。>

米国の映画初期は象徴的です。無声映画時代、最初の物語性のある映画が、『大列車強盗』です。本格的な長編画が『国民の創生』、最初のトーキー(音が出る映画)が『ジャズ・シンガー』です。

列車強盗という有りそうな物語、南北戦争をテーマとした『国民の創生』、トーキーでは、ジャズというように、米国国民のアイデンティティを作りあげようとしています。

『国民の創生』(原題:The Birth of a Nation)を簡単に見てみます。

物語は、南北戦争とその後の連邦再建の時代の波に翻弄される、アメリカ北部・アメリカ南部の二つの名家(ペンシルベニア州のストーンマン家とサウスカロライナ州のキャメロン家)に起こる息子の戦死、両家の子供達の恋愛、解放黒人奴隷による白人の娘のレイプ未遂と投身自殺などの出来事と、南北戦争、奴隷解放やエイブラハム・リンカーンの暗殺などが、ドキュメンタリー映画を思わせる迫真の映像とともに、白人の視点から描かれる。
(ウイキペディアより)

そして、1929年の世界大恐慌から復興していく1939年に米国映画史上、不朽の名作(歴代興業収入第1位)の『風と共に去りぬ』が公開されます。

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   『風と共に去りぬ』のスチール

物語の舞台は、またもや南北戦争です。南北戦争に敗北していく南部の大農場主の白人女性(スカーレット・オハラ)が主人公の物語です。

日米開戦を間近にして、米国国民の統一(南北戦争の和解)という隠れたテーマがあると思います。

隆盛期の米国映画は、その技術と産業を米国自身が作り出しているという自負と南北戦争という傷を克服して、米国国民というアイデンティティを形成する役割を担っていたように思います。

まさに、「映画は米国が生み出した文化だ」という意識です。

③全盛期の米国、世界に誇れる芸術作品を生み出した時代

次の時代は、第二次世界大戦後の米国映画です。経済的に他を追随させない全盛期の米国、豊なアメリカを世界中に見せつける時代です。

この時代には、興業収入上位に、いわゆる『名作』として世界中で上映された多くの作品が生み出されています。『十戒』、『ベンハー』、『サウンド・オブ・ミュージック』、『ドクトル・ジバゴ』、『卒業』です。

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また、『眠れる森の美女』、『101匹わんちゃん』、『ジャングル・ブック』というディズニー名作も生まれています。

『十戒』、『ベンハー』、『サウンド・オブ・ミュージック』、『ドクトル・ジバゴ』、『卒業』は、確かに芸術性豊な作品として、世界に受け入れられました。

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   『十戒』の海が裂けるシーン

しかし、米国国民から見ると、違った分析もできそうです。

『十戒』は、旧約聖書の「出エジプト記」を基にしたモーゼの十戒の物語です。『ベンハー』は、ローマ帝国・キリスト生誕時代のユダヤ貴族の物語です。前半は、戦車競技のスペクタクルが展開されますが、後半は、らい病に罹った母親と妹が、キリストの奇跡によって回復する物語です。

両作品は、米国国民に、キリスト教を改めて啓蒙する意図が感じられます。

『サウンド・オブ・ミュージック』は、オーストリアの貴族に雇われる家庭教師の話で、最後は、ナチスの圧迫を逃れスイスへ脱出する物語を、ミュージカルとして描いています。自由を愛する世界というメッセージとして、有名な歌と一緒に送り出されます。

『卒業』は、ダスティ・ホフマンが名演技をし、サイモン&ガーファンクルの音楽が素晴らしい映画です。しかし、冷静に見ると、性の自由と略奪婚(結婚式の教会から花嫁を奪っていくラストシーン)の正当化のようにも見えます。

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  『卒業』のラストシーン

経済全盛期の米国ですが、豊かさの中で、国民意識が分解しかねない事を、最大の文化であり娯楽でもある映画で支えようとしたと見えます。

米国国民のアイデンティティを、毎年毎年確認しているともいえます。

④特殊撮影の虚構と擬似戦争で、儲ける映画に堕した米国

最後は、日本・ドイツに産業としては追い上げられ、ベトナム戦争の泥沼にはまり、ニクソンショックで経済大国に傷がついた以降の米国映画です。

1970年以降の映画には、興業収入上位には登場しないが、社会の陰の部分を取り上げた沢山の映画が制作されます。ベトナム戦争後の狂気を描いた『地獄の黙示録』(1979年)、『俺たちに明日はない』(1967年で少し早いが)などです。

しかし、次の表に見られるように、興業収入上位に来るのは、特殊撮影(特撮)を駆使した、SF・擬似戦争映画(E.T .やスター・ウォーズシリーズ)、恐怖映画(エクソシスト、ジョーズ)です。

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大胆に結論づければ、1970年以降の米国映画は、映像技術と荒唐無稽の物語で、米国国民の解脱意識を刺激し続けるものに堕落したと言えます。

米国国民の映画を受け取る意識も、娯楽として惰眠を貪るだけのものになってしまったのです。

米国経済が衰退の局面に入り、米国の可能性が閉ざされるに従って、国民は現実逃避を強め、中身のない映画に収束していったと結論づけられそうです。

米国が一番世界に誇れる文化「映画」が、かっての力を失い、米国国民の意識統合の役割を担えなくなったのです。

これまで、政党、宗教、銃社会、文化(映画)とみてきました。次回は、米国の精神構造、崩壊への潜在意識をまとめる予定です。

List    投稿者 leonrosa | 2012-10-24 | Posted in 07.新・世界秩序とは?No Comments » 

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