2010-09-22

BRICs徹底分析〜ロシア編その5 プーチンの長期国家プラン

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<モスクワ争乱:最高会議ビル(ホワイトハウス)に集まった市民>

写真はこちらからお借りしました



1991年にソ連が崩壊してから、90年代のロシアは悲惨でした。食糧品を求めて長蛇の列を作る人々の映像、大統領と最高会議との間の対立が内戦状態までに進展し、「ホワイトハウス」と呼ばれる建物に戦車が砲撃している映像などがテレビから流れ、それまでアメリカに対抗する東の大国としての誇りが、一度に吹き飛んでしまうような状態でした。


ところが、ウラジーミル・プーチンが大統領になってからは、その失った誇りを取り戻すかのような快進撃を続け、GDPは’99年の1870億ドルから’09には1兆3000億ドルに成長し、停滞していく欧米に変わって世界を牽引していく一角として、その存在感を増してきました。


原油価格の高騰という幸運な要因に支えられた面があるにせよ、’90年代の国家解体の危機を乗り越えて経済成長を導くうえで、プーチン政権が果たした役割は決して小さくはありません。
今回は、プーチンの政策に焦点をあてつつ、これからのロシアがどうなっていくのか、日本はロシアとどう付き合っていくべきなのかを見ていきます。


稼ぐのは自由だが、国家の発展のために貢献せよ!
20年間という長期計画を可能にしたプーチン
「強いロシア」とどう付き合うか



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<ウラジーミル・プーチン>

写真はこちらからお借りしました

 

プーチンといえば、大統領権限を強化してより一層の中央集権化を進めたり、オリガルヒが経営していたユコス社を脱税で挙げて破産に追い込んだり、独裁者的なイメージが強いですが、実は決して横暴なわけではなく、彼が「超法規的」な決定をしたり、そうした力を有していることを周囲に知らしめるような振る舞いをしたケースは、皆無に等しいくらいです。


むしろ、法学部出身で弁護士資格も有しているプーチンは、「憲法に沿って行動する」という考えを繰り返し強調してきたし、「発言にぶれのない、首尾一貫したリーダー」というイメージを守ることを重視してきました。
では、プーチンはどのようなルールに基づいて行動しているのでしょうか。



稼ぐのは自由だが、国家の発展のために貢献せよ!

大統領に任命される直前の1999年12月29日に発表されたプーチンの政策プログラムから今日のメドヴェージェフ大統領やプーチン首相によるさまざまな場面での発言まで、すなわち過去10年間にわたって貫かれる経済分野でのゲームのルールは、「個々の企業経営者たちを国家の戦略的利益に従わせつつ、ロシア経済を危機に強く再構築し、発展を導くこと」である。


前段の考え方、すなわち「国家の戦力的利益に従」いという部分は、エネルギーの分野では、国家による天然資源の管理強化を導くことになった。ロシアにおいては、個々のビジネス関係者がそれぞれのものさしで戦略的利益について考え、ロシアの発展のためにそれぞれのアプローチを採用するというやり方は好まれない。「戦略的利益」はプーチンの発言や法規範化のプロセスによっておおよそ定義されるようになっていったので、一部の例外を除き、ロシアで活動するビジネス関係者はそこから逸脱するリスクをあえて冒そうとはしなかった。


経済活動の究極的目標を国家が目指す方向に合致させようとする試みは、実践のレベルでは「正しく納税せよ」というシンプルな形で表現され、さらには「稼ぐのは自由だが、国家が定めるルール(特に税制)には絶対に服従し、国家の発展のために貢献せよ」というメッセージがこめられていく。



プーチンが大統領を2期8年務めた後、大統領後継問題が起き、三選禁止規定を取り除くのではないかという噂も流れました。しかし、大統領選挙が近づく中で憲法を変えるような選択肢は、ルールを重視するプーチンの頭の中にはありませんでした。


憲法が定めた秩序に従って大統領職を去りつつも、自らが着手したロシアの発展計画を実現するまで関与していく方法として、彼が選択した道がメドヴェージェフを後継者にして、自らは首相の座に就くことでした。





20年間という長期計画を可能にしたプーチン

プーチンは、自らの大統領時代において、20年程度の間に経済を変え、それによって国家を立て直す計画を打ち出した。政府が発表する中期計画の多くが「2020年までの」というタイトルなので、2020年くらいまでの期間を意識していることは間違いない。「プーチンのプラン」の中心的課題は社会経済分野にあり、具体的には、天然資源から得られる収益を最大化し、それを国民への配分と「貯蓄」に振り分けつつ、充実した社会福祉と危機に強い経済構造を構築することである。


重要なのは、20年をかけようとしている点である。他の先進国の場合、指導者たちの頭には短ければ3〜4年、長くても2期8年程度の政権交代のサイクルがあるので、通常は20年といった期間でものを考えることができない。これに対し、プーチンは自らの政権基盤を強固なものとしたうえ、メドヴェージェフという「同志」を後継者に就けたことで、20年というタイムフレームで考えることができるようになった。プーチンとメドヴェージェフがこのような時間の感覚に基づいて仕事をしていることは、ロシア経済やエネルギーを読み解くうえでの大前提である。彼らの時間軸は、議院内閣制における首相とも、他の大統領制の国々における大統領のそれとも異なる。だからこそ、欧米の感覚からすればあまりに遅いテンポでも、本人たちにとっては改革が進んでいるということになる。


そのように考えるならば、プーチンが大統領だった8年間は、社会経済分野における20年計画の端緒であり、準備期間であった。原油価格の高騰による経済の好調、対外債務の期限前返還、自信を取り戻した対外政策(経済・エネルギー分野の対外関係を含む)などによって、プーチン時代が1つのサクセス・ストーリーと見られることが多いが、実は「プーチンのプラン」の全体像かあ見れば準備期間に過ぎなかった。


これに対し、メドヴェージェフ政権時代は、最初のフェーズとして、社会の基本インフラを整備しつつ、天然資源産業のいわゆる「価値連鎖」を強化し、農業や金融サービスなどの分野にも力を入れていくことになるだろう。2008年後半からの国際的な金融危機でスピードは明らかに落ちたものの、改革はゆっくりとではあるが進んでいるようである。フェーズ1てある程度の成果が得られれば、効率の悪い国営企業の改革を含む、より野心的な目的の追求に向かうであろう。


これまでプーチンやメドヴェージェフが年次教書演説などの機会を活用して述べてきた言葉を読み解くと、「プーチンのプラン」には具体的ないくつかの目標があるらしい。その中で最も重要なのは、天然資源の価格によって簡単に経済状態が上下する構造から脱却し、より持続可能な経済モデルを構築することである。まさに、この目標が経済政策全ての基本にあると言ってよいだろう。これを基盤に、エネルギー分野の企業に梃子入れを図り、その他の企業の国際競争力強化や、中小企業の活動支援といった具体的な目標を設定し、具体的な施策が段階的に講じられている。



BRICsの一角をなすロシアは、欧米の衰退も相まって、相対的な地位を向上させてきました。そして現在も、エネルギー分野だけでなく、「優先的国家プロジェクト」として、教育、住宅、保険、農業といった国民生活に直結し、社会経済発展の鍵となる分野の開発を着実に進めています。


そしてそれは独裁的な手法に基づくものではなく、「ロシア的」なものを残しつつ、ルールに基づいて統治されており、全ては「国家の発展のために、強いロシアのために」という目標に向かっています。





「強いロシア」とどう付き合うか

この問題を考える出発点は、「強いロシア」を脅威と見なすのかどうかにある。冷戦時代は米ソの二極対立構造であるから、当然ながら相手陣営の強化は自らに対する直接的な脅威であった。冷戦が終わった後、’90年代について言えば、西側諸国の真意がどうであったにせよ、ロシアは、その頃の西側の関与(ロシアでは介入とか干渉と受け取る向きも多い)をロシアを弱体化させる試みだったと考えている。


非常に単純な図式で考えるのであれば、その’90年代への「リベンジ」を企図して存在感を示してきたプーチン政権は、西側をはじめとする国際社会の脅威になりえ、警戒すべき対象ということになる。民主派に対する締めつけや、エネルギー分野での国家管理の強化、中国やインドとの接近といった具体的な政策も、ともすれば脅威認識を煽るものであった。


しかし、強いロシアが国際社会の他のプレーヤーにとって本当に脅威になるという決定的な論拠はないし、逆に言えば「弱いロシア」が世界にとって利益になるという論拠もない。ロシアは、これまで説明してきた独自のゲームのルールをもって行動するため、一般的な西側のルールに抵触し、それゆえに混乱を引き起こしたり、「頭痛の種」になることは珍しくないが、それが脅威であることを意味するわけではない。脅威ととらえる限りにおいて、協調よりは対抗のベクトルが強まる。それはロシアと付き合ううえで得策とは言えない。ロシアと関わりを持ち、それを真に互恵的なものにするためには、お互いの意図を理解することが不可欠である。

 

豊富なエネルギー資源と自給率100%を目指せる農業を携えたロシアは、市場経済では原油価格の騰落によって影響を大きく受けるものの、国民の生存という根底的な地平では極めて安定度が高い国家です。

エネルギー資源に乏しい日本にとって、ロシアとの関係構築は今後、より重要度を増してきます。その意味で、ロシアとの関係構築に尽力してきた鈴木宗男氏や佐藤優氏を不当に逮捕して葬り去った日本の現勢力(特に検察)は、いったい日本の国益をどう考えているのでしょうか
プーチンの爪のあかでも煎じて飲んでみることをお勧めします

本文中の囲み記事は、「ロシアの論理」武田善憲著 中公新書 からの引用です

List    投稿者 watami | 2010-09-22 | Posted in 07.新・世界秩序とは?4 Comments » 

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コメント4件

 もえおじ | 2011.06.29 16:43

自分は専門が物理学なので話の内容は理解できますが、ハイドリノが存在するという説には否定的です。 まして、ハイドリノが存在することでHAARPが大地震を発生させることができることなど、到底信じられません。
たとえ、百歩譲ってHAARPが地震を発生させることができると仮定しても、数百回数千回以上の余震をどうやって発生させられるというのでしょうか? 不真面目というか馬鹿馬鹿しい議論は止めにしてもらいたいです。

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