『経済が破綻したらどうなる?』〜第6回.大破局への備え。日本は経済破局を乗り越えられるか?〜
戦後日本の経済破綻からスタートし、戦後の経済破綻事例を見てきましたが、いよいよ『経済が破綻したらどうなる?』シリーズも残すところあと2回となりました。
【過去記事】
・プロローグ
・第1回〜戦後日本のハイパーインフレ時はどうだったの?〜
・第2回〜預金封鎖と新円切替〜
・第3回〜メキシコ通貨危機〜
・第4回〜アルゼンチンの国家破産〜
・第5回〜ロシア経済破綻〜
今回は再び日本に戻り、過去の経済破綻に学びながら、経済破局したらどうなるのか、国家はどういう政策を打ち出すのか、を予測します。
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○経済破局したらどうなるの?
国債が暴落したり、国の借金が返せなくなってデフォルトを起こすと、貨幣の価値が暴落し、激しいインフレーションになるのは過去の事例で見てきたとおりです。そして、貨幣の価値が下がる前に物に換えておこうと、国民による預金の引き出しとパニック買いが発生し、国家は対応に追われます。
(‘11年2月。韓国の大田貯蓄銀行営業停止時の取り付け騒ぎ。画像はこちらから。)
米国債が暴落したら、世界経済はどうなるのでしょうか?
米国債のデフォルトを皮切りに、世界中の国債が暴落すると、まずパニック買いや銀行取付騒ぎが始まり、デフォルトから1〜2週間で預金封鎖が強行される(但し、ex月50万円までは引き出し可)。
国債暴落とは貨幣価値の暴落と同義であり、あらゆる物価が2倍→3倍→5倍と跳ね上がっていく。この超インフレ状態が、1〜2ヶ月続くだろう。
そういう状況に追い込んでおいて、1〜3ヶ月後に世界中で一斉に新紙幣が発行される。ここで、旧紙幣は新紙幣とは交換不可とすることで、旧紙幣は完全に紙クズになる。(※新1:旧100といった低い交換比率でも、交換される限りは通貨単位が変わるだけ、つまり単なるデノミと同じで、それでは何も変わらない。)
交換不可とすることで、国債をはじめCDS債権etcあらゆる貸借関係は消滅する。旧紙幣や旧国債の価値はゼロとなるが、企業の銀行借入や家計のローンetc全ての借金もゼロとなる。
実現論.序5より
貨幣価値が崩壊し、貯蓄も借金も一旦リセットされるのは、ほぼ確実です。
実際、過去の事例でも同じような状況になりました。
しかし、戦後日本やロシアが秩序を保ったのに対して、メキシコやアルゼンチンは貧困層が増大し、治安の悪化や麻薬組織の横行など様々な問題となって国民生活を蝕みました。この違いはどこにあるのでしょうか?
○グローバル化した市場経済が、国家を混乱に陥らせた
経済危機に陥った当時、メキシコの食糧自給率は90%、アルゼンチンに至っては世界2位で250%もあったのです。
にもかかわらず、アルゼンチンの都市には貧困層が溢れ「馬やカエル、ネズミを食べて飢えをしのいだり、物乞いをする人が多かった」ように、食料不足に陥ってしまいました。
こうなってしまったのは、‘80年代以降の経済危機が、グローバル化した市場経済によって引き起こされたものだからです。
70年代までは、先進国でも貧困の圧力が残っていたため、戦争などで生産基盤が崩壊されることによって(物不足から超インフレーションになり)経済危機が生じていました。ところが、’70年以降、生産力の向上によって豊かさを実現した先進国は、需要を供給が上回ることになり、そのまま放っておくと市場が縮小(=GDPマイナス成長)してしまうので、不足する需要を発展途上国や新興国に求めるようになりました。西欧列強が利益を求めて弱小国に参入しやすいように作り出されたものが、「貿易自由化」や「グローバリズム経済」なのです。
だから、メキシコやアルゼンチンは生産基盤はしっかりしているにもかかわらず、国際金融市場のマネーが利益を求めて流入し、バブル化したところで資金を引き上げられたことで経済破綻してしまったのです。
「利益のためなら自国も海外も関係ない」というグローバリズムの価値観は、自国内の富裕層も同じです。
アルゼンチンでは人口の2%の地主が農地の55%を所有していますが、地主たちは、海外に輸出した方が儲かるので、国民のために安く農作物を供給したりはしないのです。これが、文字通りの「自由主義経済」です。
○食糧をはじめとする物資の分配が秩序維持のカギ
それに対してロシアが危機を乗り越えられたのは、もともと共産国だったこともあり物資の分配体制が構築されていたことに加え、全世帯の4割が小さな畑付のコテージ(ダーチャ)を所有し、そこで野菜を作ったり家畜を飼ったりする自給生活の基盤が整っていたからです。準主食のジャガイモの8割、野菜の7割以上がダーチャで生産されているというのが、最大の強みです。
日本は、一応資本主義社会ではありますが、先進国でも有数の貧富の差が少ない国で、今でも共同体的体質を色濃く残しています。自分の利益よりも集団の秩序を優先する共同体体質が、危機的状況で力を発揮し、現に阪神大震災や東北大震災時に打ち壊しなどの暴動が発生せず、秩序が維持されたことは記憶にも新しいです。
しかし問題は日本の食糧自給率40%という低さです。いくら相互扶助といったところで、食糧の絶対量が不足すれば飢えてしまいます。農村人口が過半数だった終戦直後とは時代が異なり、農家が人口に占める割合は1.6%しかありませんし、ましてやロシアのダーチャのような畑付き別荘など夢のまた夢です。
(ダーチャがあるロシアの風景。画像はこちらから。)
果たして、日本に展望はあるのでしょうか?
○日本は世界第5位の農業大国
興味深い記事を見つけました。
農水省や政治家やマスコミが、自給率向上を叫ぶ根拠として、「日本は世界最大の海外食料輸入国」で「海外に食料の大半を依存している」といいます。その認識そのものが誤っているとして、浅川氏は、下表の事実を提示しています。
それどころか日本は、農業の国内生産額は826億ドルで、先進国のなかでは米国の1775億ドルに次いで2位。世界全体で見ても、1位:中国、2位:米国、3位:インド、4位:ブラジルに続き第5位の農業大国なのだといいいます。これは、目からウロコでした。
新しい「農」のかたちより
農水省・政治家・マスコミの喧伝するいわゆる自給率は、「供給熱量総合食料自給率」俗に「熱量ベースとか、カロリー・ベース」という総合自給率で、分母となる「国民1人当たり供給熱量」は、例えば牛肉を生産するための大量の穀物や原料も含まれる他、コンビニから毎日出る売れ残り廃棄物まで含まれています。(ちなみに廃棄分を除いて計算すると食糧自給率は54%まで跳ね上がるそうです)
参考:オーウェルの日本再生論
食糧自給率のデータを鵜呑みにしてはいけません。そもそも、日本は緑と水資源では恵まれた環境にあり、食糧が自給できないというのは根本的におかしいのです。
参考:るいネット「田畑、丘陵、森林の広がる日本:食糧自給自足が可能である」
有事の際に、最終的に生死にかかわるのは国内生産量であり、しかも米やいも類、野菜などをどれだけ自給できているのかにかかっています。
米の自給率はほぼ100%、いも類75%、野菜は80%が自給できており、全員が(肉を我慢して)腹八分目の食事をすれば、現在の生産量でも乗り越えられない水準ではありません。
○国家紙幣発行と食糧配給体制の構築が緊急の課題
とは言っても、米といもと野菜だけを食べて過ごす訳にはいきませんし、小麦などが手に入らなければ、それだけ米やいもの消費量が増えて、米だって自給率100%は維持できなくなってしまい、食糧価格が高騰してしまうと秩序維持が危なくなります。
そこで、経済破局後にただちに手を打たなければならない政策が、食糧価格の沈静化と国家紙幣発行による新紙幣の信認獲得です。
食糧価格を沈静化させるためには、国家が全食糧を買い上げ、全国民に配給するしかない。その場合、政府が国債を発行し、中央銀行が紙幣を発行して国債を買い受けるという従来の体制のままでは、旧国債と旧紙幣が紙くずになってしまった直後であり、新紙幣に対する信認を形成することができずに、食糧価格の暴騰から暴動へ、そして最終的には秩序崩壊に陥る可能性が高い。むしろ、秩序崩壊を避けるには、中央銀行を廃止し国家が自ら紙幣を発行した方が簡単で、新紙幣に対する信認も得られやすく、安全度が高くなる。
経済予測3 リセット後も中央銀行存続なら、暴動→略奪で、米・中は崩壊するより
新紙幣の信認を形成することができて、食糧価格を沈静化することができれば、当面の秩序は維持できます。
(守るべきもののために新しい社会を作りたい。画像はこちらから。)
世界同時経済破局時に秩序を維持することが出来れば、その後は市場経済システムに替わる新しい社会統合の仕組みを作っていくことで、農業をはじめ「必要なのに、市場経済ではペイしなかった生産活動」を政策的に後押しして、経済活動を軌道に乗せていくことになります。
次回はこのシリーズ最終回として、経済復興に向けての取り組みと、どんな社会を作っていくのかを、「長期的な日本再生の活路」と題してお届けします。
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