BRICs徹底分析〜最終回、4カ国の今後はどうなる
BRICs徹底分析は、中国、インド、ブラジル、ロシアとみてきました。
経済面では、強い産業は何なのかを中心に扱いました。さらに、国の安定と発展には、政治指導層の資質が重要であり、指導者の分析を行いました。
今回は、シリーズの最終回として、各国の経済と政治指導の安定度をまとめてみます。
ドル崩壊による世界経済の破局も予想される中、各国の経済の状況はどうか、経済的な自立度(自給状況)はどうなのか、混乱を乗り越える指導層は安定しているかをみてみます。
本文に入る前に、改めて、4カ国の人口、国土面積、名目GDPを確認します。人口規模は、中国13億人、インド11億人、ブラジル・ロシアも1億人を超えています。国土面積でも、インドは329万平方キロメートルとやや小さいですが、いづれも、米国に匹敵する国土面積をもっています。
人口と国土面積からいうと、4カ国は、いづれも米国に匹敵する『大国』です。
この大国が、先進国の停滞を尻目に、高度成長を果たしていますので、早晩、GDPという指標でも米国に迫って行きます。
1.4カ国の経済成長と経済自立度(自給状況)
2.政治指導の安定している3カ国(ブラジル、インド、ロシア)
3.経済社会不安と次期政権闘争に入った中国の危うさ
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1.4カ国の経済成長と経済自立度(自給状況)
今や世界経済成長の半分を担っているBRICs4カ国
まずは、2008年のリーマンショック後の4カ国の経済状況を見てみます。
関志雄氏の中国経済新論の『BRICsの主役としての中国』から紹介します。
高まる世界経済における存在感
BRICs諸国は、高成長を背景に世界経済における存在感が増しており、その主役となっているのは中国である。2000年から2009年の10年間で、世界GDPに占めるBRICsのシェアは、名目為替換算(ドルベース)では8.0%から15.4%へ・・・・・(表1)。
表1 BRICs諸国の経済規模(2000年と2009年の比較)
世界GDPに占めるBRICsのシェア拡大は、これらの国の経済成長率が先進国をはじめとする他の国と比べて高いことを反映している。これまでの10年間(2000年〜2009年)、中国の成長率は年平均10.0%に達しており、インド(6.9%)、ブラジル(3.3%)、ロシア(5.4%)を上回っている。特に、世界的金融危機が勃発した2009年において、中国は9.1%の高成長を遂げ、他のBRICs諸国と比べて好調さが一層目立った。
今年に入ってから、BRICs諸国の経済成長はいずれも加速しているが、その中で中国は引き続きトップの成長率を維持している。IMFによると、2010年の各国の成長率は、中国が10.5%、インドが9.4%、ブラジルが7.1%、ロシアが4.3%と予想される。BRICs諸国の2010年の世界経済成長率への寄与度は、中国が1.3%、インドが0.5%、ブラジルが0.2%、ロシアが0.1%と、合わせて世界全体(4.6%)の約半分に当たる2.1%に達する見込みである(図2)。
図2 高まるBRICs諸国の世界経済成長への寄与度
BRICs諸国はGDP規模だけでなく、貿易規模も急拡大している。2000年から2009年にかけて、世界輸出と輸入に占めるBRICsのシェアはそれぞれ7.1%から14.6%へ、5.7%から12.5%へと拡大している。中でも、中国はすでに世界1位の輸出国と第2位の輸入国となっている。
経済自立度(食料とエネルギー)、安定度のある3カ国と危うい中国
ドル暴落後の世界経済の破局的事態も予想されます。経済社会の自立度(食料とエネルギー)をみてみましょう。
ブラジルとロシアは、食料と石油・天然ガスを輸出しています。破局的事態になった場合の自立度は高いです。インドは、食料やエネルギーを輸入していますが、食料自給率は大きく、自立度は相対的に高いです。この3カ国は、いざとなったら『鎖国的経済・社会』に転換することが可能です。
経済自立度が最も脆弱なのが、中国です。爆食中国といわれるように、大量の食料を輸入し、エネルギー消費も今や世界一です。そして、食料とエネルギーを輸入する為に、世界の工場として製品輸出が必須なのです。中国は、もはや『鎖国的経済・社会』へは後戻りできないのです。
今後の情勢をみる上で、中国が焦点になるわけです。
2.政治指導の安定している3カ国(ブラジル、インド、ロシア)
世界経済の破局的混乱が生じた場合、政治指導(経済政策)の安定度が問われます。そこで、国のトップ(大統領や首相)の任期、選挙を含めて、4カ国をみてみます。
・ブラジルは、今年10月が大統領選挙
・ロシアは、2012年が大統領選挙
・インドは、下院の選挙が2014年。シン首相の任期はまだまだある
・中国は、2012年が共産党全国大会(指導層の交代)
ルラ大統領の後継者ルセフ女史が10月選挙を制する
今年、ブラジルでは、ルラ大統領の2期8年が終わります。そして、10月3日が大統領選挙です。
大統領選挙では、ルラ政権でエネルギー大臣と官房長官を務めた、ジルマ・ルセフ女史が当選し、与党であるPT(労働者党)の政権が継続する見通しです。
与党のルセフ候補がリードを広げる—ブラジル大統領選挙(世界週報)
【サンパウロ綾村悟】来月3日に予定されているブラジル大統領選挙で、17日に二つの世論調査結果が発表され、与党・労働党(PT)候補のジルマ・ルセフ前官房長官の支持率が伸びていることが明らかになった。
発表されたのは、独立系のIBOPE社とVOX・POPULI社によるもので、両社共にルセフ候補の支持率が51%と過半数を超えていることを示した。次点でブラジル社会民主党(PSDB)のジョゼ・セラ前サンパウロ州知事の支持率は24%(VOX・POPULI)から25%(IBOPE)の間にとどまっている。
ブラジルの大統領選挙は、候補者の得票率が過半数に満たない場合には上位2候補の間で決選投票(来月31日)が行われることになっているが、今回の世論調査結果を受けて、与党のルセフ候補が決戦投票を待たずに勝利を確定する可能性が高まった。
ルセフ候補の支持率拡大は、現職ルラ大統領への人気によるものが大きく、同大統領は先日の世論調査で78%超という過去最高の政権支持率を得たばかり。好調なブラジル経済と就業率の拡大、最低賃金の調整などで貧困層から中流階級、富裕層にまで幅広い支持を得ている。
ルセフ女史は、1947年生まれの、ブルガリアからの移民の2代目です。そして、ルセフ女史の当選が確実視され、政権の継続性が見通せますので、国営石油会社であるペテロブラスが海洋油田開発投資に向けて、巨額な増資を発表しました。
ルセフ女史(左)、ルラ大統領と一体で進めてきた選挙活動(右)
写真は英文ウイキペディアのDilma Rousseffからです。
ロシア2012年の大統領選。世界経済の混乱が強まればプーチン氏の再登場
ロシアの次の大統領選挙は、2012年です。メドベージェフ大統領がひき、プーチン氏が再登場するかどうかと観測ニュースが流れますが、2012年以降も、プーチン・メドベージェフの国益重視主義の政策は継続します。
但し、2012年段階の世界経済の混乱状態が大きければ、危機からの回復を実行した、プーチン氏の『力』への期待が高まり、プーチン大統領・メドベージェフ首相という組み合わせになると思います。
インド2014年の総選挙、シン首相の任期はまだ4年あり
インドの首相は、下院の指名で選出されます。下院の選挙は5年毎に行われますので、次の下院選挙は2014年です。
現在のシン首相は、2004年の下院選挙で『国民会議派』が多数を占め、国民会議派が指名しました。そして、2009年の下院選挙でも国民会議派が多数となり、シン首相が再指名されました。
シン首相は、国民会議派のソニア・ガンジー総裁の信任も厚く(ソニア総裁が一歩引いて、シン首相を指名した)、経済・社会を前向きに発展させていますので、政権は安定しています。
唯一の懸念事項は、今年78歳になるシン首相の健康問題だけでしょう。
3.経済社会不安と次期政権闘争に入った中国の危うさ
2012年の共産党全国大会での指導層交代
中国では、5年に一度、中国共産党の全国大会が行われ、5年間の指導層が決まります。そして、次の全国大会時点で70歳を超える指導者は引退することが暗黙の了解事項となっています。(定年規定です。)
前回全国大会は、2007年。指導層は下の表の通りです。(表では、現在66歳以下、2012年で定年規定に該当しない政治局委員を加えてあります。)
現在の胡錦濤総書記、温家宝首相は、2012年には定年規定により引退する予定です。
そして、次期指導者は、習近平氏(57歳、国家副主席)と李克強氏(55歳、常務副総理)に絞られています。
習近平氏は、特権を享受する「太子党」(高級幹部の子弟グループ)の代表と見られています。一方、李克強氏は、共産主義青年団育ちで、組織派です。
二人のトップ候補者がいるので、指導権争いが勃発しかねないのです。
日本が火をつけた?指導権争い
5月に日本訪問を行った温家宝首相は、天安門事件で失脚した胡耀邦氏を尊敬していて、中国社会の民主化(共産党・政府の指導層に対する選挙拡大)をめざしています。
この温家宝首相が、8月下旬に重要な発言をしています。
温首相、政治改革に言及 内部分裂激化の証しか
【大紀元日本9月1日】 「政治体制の改革を推進しなければ経済改革によって得られた成果が再び失われる」。中国の温家宝首相が8月下旬、改革開放のモデルとして実施して30年を迎えた深圳市を視察した際のこの予想外の発言は、国内外の高い注目を集めた。少し前に報道された中国国防大学トップの劉亜州将軍の現政治体制に対する厳しい批判に続き、温首相の政治改革への言及は、中共党内の改革派と保守派の闘争が一段と激しくなったことを示唆していると思われる。
中共は第13回党大会以降、政治改革への言及はしなくなり、それ以来あらゆる改革を「行政制度の改革」と位置づけてきた。今回、温首相が政治改革に明言したことは尋常な現象ではないと取られている。海外メディアの最近の報道によると、「太子党」を主体とした保守派が第18回党大会以降に望む人事は、習近平が総書記・主席で薄煕来が総理を務めるという「習薄ペア」だが、改革派は、「太子党」を権力の中枢からことごとく追い出し、現副総理の李克強が総書記・主席で現副総理の王岐山が総理を務め、王滬寧が宣伝部長を務めることを望んでいるという。
2012年の開会を控え、人事闘争がますます激しくなっている今、温首相の発言は改革派が態度を表明したものと読まれている。
大紀元という反中国共産党のメディアであることを差し引いても、中国で、次期指導者を巡る軋轢が強まっています。
そして、今回の尖閣諸島を巡る日中対立では、温家宝首相が、強硬発言を行っています。温家宝首相は、共産党内及び解放軍の保守派から攻撃されることを避けたのです。
一方、習近平氏は、ロシアのメドベージェフ大統領と9月28日に、上海で会談しています。
習近平副主席、中ロ関係の一層高い発展に期待
中国の習近平国家副主席は28日に、上海でロシアのメドベージェフ大統領と会談した際、「中ロ双方は両国関係の良好な発展という目下の状況を大事にし、勢いに乗って二国間関係を一層高いレベルに押し上げていくよう推進してほしい」と語った。
上海という場所がキーです。上海は、江沢民元総書記の基盤であり、太子党の拠点でもあります。また、温家宝首相が上海万博へ地方幹部が大挙して押しかけるのを停止させました。上海派・太子党にとっては、温家宝首相は敵ともいえます。
習近平氏が、日中の緊張関係の増大を背景にして、攻勢に出たともいえます。
但し、29日には新たな動きがあります。胡錦濤総書記が政府と党の規律を重視する学習会を開催しています。
人民内部の矛盾の正しい処理に向け、胡総書記が4つの指示
中共中央政治局は29日午前、新時期の人民内部矛盾の正しい処理に関する第23回集団学習を行った。
学習会を主宰した胡錦濤総書記は「複雑で変化に富む国際情勢、極めて困難で重い改革・発展の任務を前に、われわれは人民内部の矛盾を正しく処理することの重要性や緊迫性を深く認識し、最大限に社会の創造力を喚起し、調和要素を増やし、非調和要素を減らすことに着眼し、人民内部の矛盾をより積極的・主動的に処理して、科学的発展の推進、社会調和の促進のために、小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的な建設という努力目標の実現、社会主義現代化の加速のために、良好な社会環境を創出しなければならない、と強調した。
学習会では中国社会科学院「財政・貿易経済研究所」の高培勇教授、政治学研究所の房寧研究員が問題について解説し、意見や提案を述べた。
胡総書記は人民内部の矛盾を正しく処理するために(1)矛盾の根源からの緩和を重視する(2)大衆の権益擁護を重視する(3)大衆工作を重視し、大衆の心の声や実際の求めを速やかに把握する(4)社会管理の強化・革新を重視し、社会管理の情報化レベルを高める—-よう指示した。
胡錦濤総書記と温家宝首相のコンビが、『大衆の権益擁護を重視せよ』とアナウンスし、習近平氏と太子党派を抑え込もうとしています。
世界経済の破局的混乱が起これば、BRICsの中で、中国が最大の影響を受けます。また、現在、不動産バブルのコントロールに苦慮しています。
経済の不安定さを抱えている中国で、本格的な指導権争いが勃発する可能性が高まっています。
BRICs4カ国の今後の見通しは、安定度の高い3カ国(ロシア、ブラジル、インド)と危なっかしい中国という結論になります。
なお、BRICs徹底分析のシリーズは、本ブログのカテゴリー『新・世界秩序とは?』の頁から辿れます。
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コメント11件
s.tanaka | 2011.07.23 22:56
>Mint様 コメントありがとうございます。
そうですねー。調査の初期段階、と書いてありますから、放射能が出てるとは知らなかったのかも知れませんね。
福島の事故があった今では、ガイガーカウンターは随分身近なものになりましたが。
匿名 | 2013.08.19 19:22
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Mint | 2011.07.20 23:49
核兵器が使われた場所をガイガーカウンタも持たずに調査したのですか?