2012-02-04

『なぜ今、TPPなのか?』【10】EUはどう見ているか?

『なぜ今、TPPなのか?』のシリーズでは、ニュースが伝えない背後構造を探るべく、これまで世界に広がるブロック経済圏の現状や世界各国がTPPをどう見ているのか?を調査してきていますが、今回はEUです。
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<野田佳彦首相とキャメロン英首相の首脳会談:画像はこちらからお借りしました>
EUは現在金融危機の真っ只中にあり、TPPどころではないと思われますが、そもそも日本はEUから自由貿易交渉の相手にもされていないようです。
そこで、日欧貿易の現状から、EUはTPPをどう見ているのか?を探ってみます。
今までの記事は以下をご覧ください。
【1】プロローグ
【2】基礎知識の整理
【3】貿易自由化交渉の歴史
【4】世界に広がるブロック経済圏の現状(1):欧州
【5】世界に広がるブロック経済圏の現状(2):北中米、南米
【6】世界に広がるブロック経済圏の現状(3):アジア
【7】中国はどう見ているか?
【8】中国はどう見ているか?(なぜ中国はTPPに参加しない?分析編)
【9】ロシアはどう見ているか?〜資源大国ロシアの世界戦略〜
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●日本とEUの貿易の実態
「EU事情と日EU関係【統計編】2012年1月」より、日本とEUの貿易の実態を整理します。

・EUは日本の輸出相手国の2位(10.7%)、輸入相手国の3位(11.7%)。
・EUから見ると日本は輸出相手国の6位(3.2%)、輸入相手国の6位(4.3%)。
・貿易収支は日本からの輸出が7.6兆円、EUからの輸入が5.8兆円で、1.8兆円の黒字。
・日本から見ると、EUは中国や米国に並ぶ大口のお得意様だが、EUから見ると日本はたいしたお客さんではない。EUのお得意様は米国、中国、スイス、ロシア等。

■対EU輸出7.6兆円の内訳【概況品別上位10品目】
1 乗用車12.9%
2 自動車の部分品5.2%
3 原動機4.6%
4 科学光学機器4.2%
5 半導体等電子部品4.0%
6 ポンプ・遠心分離機3.1%
7 映像機器2.8%
8 有機化合物2.7%
9 船舶2.5%
10 電気回路等の機器1.7%
乗用車、機械や電気機器の部品のシェアが高い。
■対EU輸入5.8兆円の内訳【概況品別上位10品目】
1 医薬品14.0%
2 有機化合物9.1%
3 自動車7.9%
4 鉄鋼7.6%
5 魚介類及び同調製品5.7%
6 科学光学機器5.1%
7 原動機2.7%
8 バッグ類2.2%
9 自動車の部分品2.1%
10 電気計測機器2.0%
医薬品、化学製品のシェアが高い。自動車や鉄鋼もそこそこ。

■対EU輸出の高関税品目【上位5品目】
   品目           金額 関税率 シェア
1 乗用自動車         8,840  10.0%  13.1%
2 モニター・テレビ受像機器  133  14.0%  0.2%
3 貨物自動車          115  15.8%  0.2%
4 照明・ワイパー(自動車用)  89  11.0%  0.1%
5 輸送用自動車          41  13.0%  0.1%
【輸出:無税品目上位5品】
   品目           金額 シェア
1 印刷機・プリンター     3,338  4.9%
2 ダイオード・トランジスタ  1,510  2.2%
3 金               1,206  1.8%
4 医療・獣医用機器     1,146  1.7%
5 集積回路          1,059  1.6%
自動車やテレビ受像機器の関税率が高く、有税が70%を占める。
■対EU輸入の高関税品目【上位5品目】
   品目               金額 関税率 シェア
1 バッグ類                977  13.0%  1.8%
2 履物                  297  28.5%  0.5%
3 チーズ                 233  17.4%  0.4%
4 カーディガン・ベスト等メリヤス製品 147  10.9%  0.3%
5 チョコレート等            127  10.0%  0.2%
【輸入:無税品目上位5品】
   品目           金額 シェア
1 医薬品           5,638  10.2%
2 乗用自動車        3,615  6.6%
3 たばこ類          2,060  3.7%
4 自動車部分品       1,139  2.1%
5 医療・獣医用機器    1,074  1.9%
履物・バッグ類(たぶんブランド品)、チーズ、高級衣料の関税率が高く、有税が33%、無税が66%を占める。

・EUは域外貿易に対して、日本よりも多くの品目で関税を課しており、自らが得意とする自動車やテレビ等に高い関税率を設定して保護している。
・日本はEUの高級ブランド品(履物、バッグ等)には高い関税を課しているが、そのシェアは小さく、関税を課している品目は少ない。逆にEUの得意とする医薬品や自動車等は無税となっており、EUにとって有利な関税システムとなっている。

●日本にとってTPP参加はEUとの自由貿易交渉の布石?
・上記のようなEUの方が高い関税を課している実態に対して、日本政府はEUと自由貿易交渉を進め、関税を撤廃させることによって、EU向けの輸出をさらに拡大したい思惑です。
「日欧EPAの実現、日英首相が一致 仏で会談」
>野田佳彦首相と英国のキャメロン首相は、日本と欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の実現を目指すことも確認した。
・その背景には、日本はFTA比率が低く、出遅れているという事情があります。
・既にライバルの韓国にも先を越されており、日本の政財界は「バスに乗り遅れるな」と焦っています。
「世界のEPA/FTAの状況はどうなっているのか」
>アメリカのFTA比率は38%、韓国は36%、EUにいたっては76%(EU内を含む)だ。FTA比率とは、その国の全貿易額の中でFTA相手国との貿易額が占める割合で、この数字が大きければ大きいほど、FTAが進んでいることを表す。
>対して、日本のFTA比率は16%。これは中国の21%にも劣る。
「通商交渉:TPP、日中韓FTA、日EUのEPAも」
>日欧EPAも「TPPに刺激された」(外務省幹部)。日本の狙いは、EUの関税縮小・撤廃で、自動車(10%)や薄型テレビ(14%)が焦点だ。既にEUとFTAを結んだ韓国に対抗するため、産業界の要望が強い。一方でEUにとっては、既に工業製品の関税撤廃が進んだ日本とEPAを結ぶメリットが小さく、日本に対し、医薬品・食品添加物の承認手続きの遅さや、酒類卸売りの免許制度など、関税以外の規制緩和を要求、交渉入りが遅れていた。しかし、東日本大震災やTPPを契機に態度を軟化。(中略)今年前半の交渉入りを目指す。
・京都大学の中野剛志氏は「TPP亡国論」(P96〜P103)の中で、経済産業省の主たる狙いは、TPPそれ自体というよりはむしろEUとのFTAの締結にある。日本がTPPに参加すれば、EUが日本とのFTAに関心を示すだろうとの思惑らしいが、EUが日本とのFTAに積極的になってくれる保証はなく、無謀な作戦であると論じています。

●EUはTPPをどう見ているか?
・EUの首脳が正式にコメントしたような情報が乏しいので、推測をするしかありませんが、日本政府が、TPPを足がかりにEUとの自由貿易も拡大したいと焦っているのに対し、EUの方は冷ややかに見ているのではないかと思われます。
・EUにとっては、既に工業製品の関税撤廃が進んだ日本とEPAを結ぶメリットは小さく、むしろ、EUが保護している自動車やテレビ等の得意分野が日本製品に侵食されるリスクがあります。
・EUは現在金融危機の最中にあり、ユーロを防衛するのが優先課題なので、実質日米の2国間協議にしかすぎないTPPなどは眼中にないのかも知れません。欧州VS米国の金融戦争の成り行きが注目されますが、少なくとも、EUの世界戦略は、米国から経済の覇権を奪回することを狙っていますので、米国が環太平洋に覇権を拡大しようとする戦略(追い詰められた縄張り死守)に加担するスタンスは取らないだろうと考えられます。
・むしろ、EUの世界戦略は、ロシアのプーチンがロスチャには容認姿勢を見せているとか、中東では米国の民主化の仕掛けに対して主導権を奪回しようと狙っているといった分析からみて、その眼差しは日本ではなく、中国、ロシア、インド、ブラジル等のBRICS諸国やトルコ等の中東諸国に向いていると考えられます。
>エネルギー市場はどうなっている?(10)〜破局後の覇権獲得を狙うエネルギー大国ロシア〜
>『なぜ今、中東民主化が起きているのか?』【10】まとめ(1)金貸し支配との関係はどうなっているのか?

今回で、世界貿易の現状は一通り押さえましたので、これからはいよいよ本題の『なぜ今、TPPなのか?』の構造分析に入っていきます。
次回は、これまでの常識を疑ってみるという観点から、「コラム:日本は貿易立国って本当?」をお届けします。お楽しみに!

List    投稿者 yukitake | 2012-02-04 | Posted in 07.新・世界秩序とは?No Comments » 

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