2010-07-07

BRICs徹底分析〜インド編 その4.インドの指導者(知性)は、決して欧米に屈服はしない(続き)

前回は、インドの指導者として、シン首相とセン(経済)博士を取り上げました。

1.欧米の手の内を熟知しているマンモハン・シン首相(77歳)
2.ノーベル経済学賞もつインドの知性アマルティア・セン博士(77歳)

今回は、3.食糧グローバリズムを鋭く批判するヴァンダナ・シヴァ科学哲学博士・女史(58歳)を取り上げてみます。

 india401.bmp
左から、ヴァンダナ・シヴァ女史、サムドン・リンポチェ<チベット高僧>、サティッシュ・クマール氏。
Navdanyaにて。Navdanyaは9つの種子という意味。シヴァ女史が母親の土地に開設した農業と環境保全の教育農場です。

シヴァ女史は、論理鋭くグローバリズムを批判します。その論理性はどこからくるのでしょうか。
また、Navdanyaを開設することで、都市に住むエコ主義者、フェミニズム派、反グローバリズム論者とは一線を画しているように思います。

ヴァンダナ・シヴァ女史は、インド哲学とインドの大地が生み出した、本物の認識者であり、実践者と見ることができます。以下、構成です。

1)量子論の世界とチプコ運動が共存していた青年期
2)バンガロールでの研究から『科学・技術・自然資源政策研究財団』での活動
3)種子の保存を最も重視するNavdanyaの実践活動

本文を読む前に、応援クリックを!

    

にほんブログ村 経済ブログへ


1)量子論の世界とチプコ運動が共存していた青年期

シヴァ女史の博士号取得までの経歴をみてみます。

ヴァンダナ・シヴァは、1952年デヘラードゥーン市の谷間の地区で生まれる。父親は森林保護官、母親は農業をしていました。
シヴァは、ナイニータールの<St Mary’s School>とデヘラードゥーンの<the Convent of Jesus and Mary>(女子学校)で教育を受け、体操選手として訓練されて後、物理学のコースを修了しました。
そして、カナダのオンタリオ州のゲルフ大学の科学哲学の修士課程に進み、その上で、1979年に、西オンタリオ大学の博士課程を修了し、博士号(Ph.D.)を取得。彼女の博士論文は、「量子理論における隠れた変数理論と非局在性」です。

生誕地はヒマラヤ山麓の学園都市

デヘラードゥーン市は、ウッタラーンチャル州の州都です。デヘラードゥーン市はヒマラヤ山麓の都市で、学園都市ともいわれています。同市には、英国植民地時代の1906年に設立された森林研究所(Forest Research Institute)があります。父親が森林保護官というのもうなずけます。下は、ウッタラーンチャル州とデヘラードゥーン市の位置です。

  india404.JPG

インド哲学と量子論

シヴァ女史は、何故、女子学校で物理学を修め、科学哲学と量子論を研究したのでしょうか?
写真は、現在の<the Convent of Jesus and Mary>のWebページからです。

india402.bmp

理論物理学・量子論の研究には、インドが深く係わっています。不確定性原理を唱えたハイゼンベルグは、インドの哲学者・詩人であるタゴールとの対話を介して、量子論を確立して行きます。量子論の確立には、インド哲学の思惟が必要だったのです。

ミッション系女子学校で勉強をしていたシヴァ女史が、どこかで、哲学と物理学が合流する量子論に関心をもったと推察されます。数学及び論理学は得意だったのでしょう。

貧困階層の女たちの森林伐採阻止、チプコ運動に出会う

まずは、チプコ運動の紹介。

「チプコ」はヒンディー語で、英語の hug を意味していて、 hugging a tree to defend it ということでして、まあ、みんなで伐採から木々を守ろう!といったことなんです。これは1973年、ウッタール・プラデーシュ州(現ウッタランチャル州)のチャモリ地区の住民たちが、クリケットのバットを作っているシモンズという会社に対して、数十本の木々の伐採を阻止したことから始まりました。 
 
ふだん女性たちが生活のために木々を集めていたけれど、その場所が使えなくなると、より遠くへ行かなくてはいけなくなる、という非常に生活に結びついた動機だったんですね。その運動の大きさを深刻に受けとめた州政府は、植物学者や政府役人ら9名からなる委員会を発足させ、森林の営利的な利用を禁止するレポートを提出しました。 
 
強調されるのは、「貧しい人を支持する環境保全主義 (pro-poor environmentalism)」 を主導した、という点です。このチプコ運動について、ある活動家は、「この運動は、国民がそれまで抱いていた、貧しい人々こそが、環境保全を妨げ、それを破壊している、という誤った考えを拭い去り、ここにきて初めて、彼らがどれほど環境とうまく共生しているかを認識するようになりました。彼らは、この木に手をかける前に私に手をかけなさい、この木は、私が生きるためになくてはならないもので、私の命よりも大切なのですから、と訴えました」と指摘しています。 
 
インドの環境運動

    india405.bmp

シヴァ女史は、このチプコ運動に出会い、共感し、インドの森林、農業、その担い手である農民・女性の現実に目を向けだしました。(カナダで量子論を研究していた時期とダブります。)

1986年には、チプコ運動をまとめた論文を発表しています。
J. Bandopadhyay and Vandana Shiva: Chipko: India’s Civilisational Response to the Forest Crisis. Indian National Trust for Art and Cultural Heritage. Pub. by INTACH, 1986.

2)バンガロールでの研究から『科学・技術・自然資源政策研究財団』での活動

バンガロールの数年間を経て、故郷のデヘラードゥーンに戻る

インドに帰国し、バンガロールの科学大学院(the Indian Institute of Science)とインド経営大学院バンガロール校(the Indian Institute of Management in Bangalore)で科学、技術、および環境政策に跨る学際的な研究に進みました。 
 
1982年に、デヘラードゥーンに戻り、『科学・技術・自然資源政策研究財団』(現在は、『科学と技術とエココジーのための研究財団』)を設立しました。
1987年に種子保存運動を興し、1991年には、複数の州に地域種子保存銀行を創設している。

ヴァンダナ・シヴァ女史の活動の広がりを「アース・デモクラシー」の訳者の解説から。

シヴァの活動領域は、以下ざっと挙げてみるだけでも、きわめて広範囲にわたる。 
 
すなわち、森林保護や水資源保全などの環境保全活動。
伝統的小規模農業の保護と生物多様性、とりわけ種子の保存活動。
倫理とエコロジー両面からの遺伝子工学への異議申し立てや、遺伝資源や伝統的知識を特許化する「バイオパイラシー」への反対運動。主に知的財産権と農業分野における、世界銀行やWTO政策への批判。 
 
「グローバリゼーションにかんする国際フォーラム」の創設など、経済のグローバル化によって民衆が被る影響を監視し、批判する活動。食糧に対する権利として、民衆の知る権利と食糧安全保障を求める活動。ジェンダーの視点からの開発批判等々……。 
 
版元ドットコムの「アース・デモクラシー」から

シヴァ女史のメッセージ(書籍)

邦訳されている書籍の一覧(10冊)です。

生きる歓び — イデオロギ−としての近代科学批判 (邦訳書出版1994年)
生物多様性の危機 — 精神のモノカルチャ− (1997年)
緑の革命とその暴力 (1997年)
バイオパイラシ− — グロ−バル化による生命と文化の略奪 (2002年)
ウォ−タ−・ウォ−ズ — 水の私有化、汚染そして利益をめぐって (2003年)
生物多様性の危機 — 精神のモノカルチャ− 明石ライブラリ− (2003年)
生物多様性の保護か、生命の収奪か — グロ−バリズムと知的財産権 (2005年)
食糧テロリズム — 多国籍企業はいかにして第三世界を飢えさせているか (2006年)
ア−ス・デモクラシ− — 地球と生命の多様性に根ざした民主主義 (2007年)
食とたねの未来をつむぐ — わたしたちのマニフェスト (2010年)
紀伊国屋書店・ヴァンダナ・シヴァの著書(邦訳)一覧

英文のウイキペディアでは1981年出版の<Social Economic and Ecological Impact of Social Forestry in Kolar(コラール地域の共有地森林の社会的生産と自然環境のインパクト)>から始まる20冊が紹介されています。*Kolarは、バンガロールの隣の地域です。

3)種子の保存を最も重視するNavdanyaの実践活動

Navdanya(9つの種)運動とは

私の踏み出した最初の一歩はナブダニャ(Navdanya)と呼ばれる、種子を保存し、種の多様性を守り、そして種子と農業を独占的支配から自由に保つための運動を開始することだった。 
 
ナブダニャ運動はインドの6つの州において16の地域的な種子銀行を始めた。今日のナブダニャは、種の多様性を保護し、化学物質を使用しない農業を実践し、自然や先祖からの贈り物として受け取った種子と種の多様性を保全し、かつ分かち合うことを続けると誓った数千のメンバーを擁している。 
 
インドでは農薬を買うお金がないという理由から、最も貧しい小作農達が有機農業を行ってきた。今日、意識的に農薬と遺伝子組み替えを避ける国際的な有機農法運動が彼らに合流している。 
 
盗まれた収穫から引用。
掲載雑誌Resurgenceは、環境的また精神的に考える国際フォーラムのため1996年にイギリスで創刊された。ガンジーの理念を経済学に適応しようとしたE.F.シューマッハーが、たびたび寄稿したことで知られている雑誌。インドからきたサティシュ・クマールが現在は編集長を務めている。

冒頭の写真のサティシュ・クマール氏とつながって来ましたね。

Navdanyaの現在

Navdanyaは、インドの16州に広がる50万人の農家が活動会員となっている。
現在、16の州の54地域にコミュニティ種子銀行を設立している。 
5000人以上の専門家が、種子銀行を拠点として、種子の多様性と種子知識の普及を行っている。
Navdanyaは、50万人の農民に訓練を行い、米については3000種の種子を保存している。
Navdanya : An Overview  
 
india406.JPG

Navdanyaの風景

オフィシャルサイトにあるレポートから、ビジュアルに紹介します。


農場の鳥瞰模式図、ポップアップです。

india408.JPG
冒頭写真の3人が中央に写っています。

india409.JPGindia410.JPGinndia411.JPG
写真の右は、種子の貯蔵庫です。

図、写真はBija Vidyapeeth The International College
For Sustainable Living
から

ヴァンダナ・シヴァ女史は、インドの知的な能力、量子論にまで行き着く論理性、そして、インドの大地と自然的生産の存続がもたらす視野が、見事に統合されている。だから、市場経済主義・グローバリズムには決して洗脳されない強靭さを生み出し、対抗する道を見出している。

なお、シヴァ神は、戦闘的で荒ぶる神様ですが、世界の秩序再構築の際に登場する神様でもあります。
シヴァ神とヴァンダナ・シヴァ女史が重なって見えてきます。

List    投稿者 leonrosa | 2010-07-07 | Posted in 07.新・世界秩序とは?4 Comments » 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.kanekashi.com/blog/2010/07/1326.html/trackback


コメント4件

 静かなる革命2009 | 2011.04.04 7:21

原発危機:高レベル放射性汚染水の海洋への漏出を止める

今日で震災発生から25日目,1号機の爆発から数えても24日が経過したが,事態は概ね前回のエントリ『原発危機:福島第一原発水葬までのロードマップ』に示した方…

 XRumerTest | 2013.12.24 0:14

Hello. And Bye.

 wholesale bags | 2014.02.09 22:40

金貸しは、国家を相手に金を貸す | 市場縮小の深層:7 男達は『力の基盤』を失った

 XRumerTest | 2014.03.02 2:25

Hello. And Bye.

Comment



Comment


*