2010-05-28

シリーズ「活力再生需要を事業化する」10 〜就農定住の成功事例 山形県高畠町〜


これまで、「活力再生需要を事業化する」というテーマでお送りしてきました。
「活力再生需要を事業化する」〜活力源は、脱集団の『みんな期待』に応えること〜
シリーズ「活力再生需要を事業化する」2〜ワクワク活力再生!〜
シリーズ「活力再生需要を事業化する」3 〜老人ホームと保育園が同居する施設『江東園』〜
シリーズ「活力再生需要を事業化する」4〜企業活力再生コンサル〜
シリーズ「活力再生需要を事業化する」5 〜企業活力再生需要の核心は「次代を読む」〜
シリーズ「活力再生需要を事業化する」6〜金融、ITビジネスはもはや古い?!新しいビジネス“社会的企業”〜
シリーズ「活力再生需要を事業化する」7〜社会起業家の歴史・各国の状況
シリーズ「活力再生需要を事業化する」8 〜社会的企業を支える「アショカ財団」〜
シリーズ「活力再生需要を事業化する」9 〜『生産の場として、儲かる農業』が、みんな期待に応える事になるのでは?

前回の記事では、「農」への可能性を提示しましたが、今回は「農」への可能性の一つとして、 「就農定住」 を扱いたいと思います。

しかし、現在深刻な過疎化や高齢化によって、地方自治体は深刻な状況下にあり、「就農定住」と一言で言っても、困難な点はまだまだ多く存在します。
そんな中で、今回は「就農定住」を成功させている『山形県高畠町』の事例を取り上げながら、成功した要因を分析していきたいと思います。
その前に、農業、地方自治体の状況を掴んでいきましょう。
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◆農業、地方自治体の状況と問題

①工業化→過疎化、生産者不足
1960年代の高度経済成長期には、急速な工業化に伴って、農村から都会、特に太平洋ベルト地帯への労働力としての人口移動が起こり、工業基盤を持たない地域は労働力の供給基地となり、過疎化が見られるようになった。
その後、日本の産業は第二次産業中心からサービス業など第三次産業中心へと移行したものの、政治・経済の中央集権的傾向も改められずに人口の偏りは続き、中央政府が景気対策として実施した公共事業により地域産業の中央依存傾向が強まることで、地域の自立性が失われていった。
ウィキペディアより)

工業化により,生産の手は機械化され,農業従事者は益々減っていく一方です。

表は農業の担い手の現状と課題からお借りしました。

②近代農業→品質▼
こういった過疎化に追い討ちをかけたのが、安い輸入作物です。
安価な輸入作物に対抗するように、地方自治体も大量生産、効率化を図るために、科学技術が取り入れられ、工業プラント化されていきます。
こういった、近代農業化が、現代では野菜そのものの栄養価を下げ、品質低下を招いている元凶でもあるのです。
>「野菜の味が昔と違う」「水っぽくて野菜固有の匂いや味がなくなった」・・・これは年配の方たちほど感じているはずですが、実はそこには現代野菜の大きな問題点が隠されています。
現代と昔では、野菜の色や形が同じでも、その中身が大きく変わってきています。
言い換えれば、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素が極端に少ない栄養不足野菜が氾濫しているのです。
参考:現代における栄養不足野菜の氾濫

③絶対的な価格格差→儲からない→従事者▼
そして、農業を始めるにも初期投資は莫大な費用がかかります。そして、決定的にはその生産物である農産物には、市場における様々な商品との“価格格差”が絶対的に存在するため、儲からない。
その結果,農業従事者が減る決定的な原因でもあります。

人が居ない,農場従事者が居ないといった地方自治体、農業が衰退していく状況に対しての半答えが,「就農定住」なのです。

◆「人(=生産基盤)」こそが重要という認識転換
現在,「農」に可能性を感じ,新規就農者数は少しずつではあるが増えている一方で,上記のような状況下もあり,なかなか持続できないという問題があります。

このような”持続性”を保つための重要な認識転換が下記の投稿で示されています。

かつて、みんなが農業に従事していたときは、地域共同体があって、一人でそんなに気負わなくても、みんなで取り組む課題だったからみんなできてた。
だとしたら、失ってしまった地域共同体を再生し、自ら先陣をきって、地域を社会の課題を担っていくこと、それこそが、実は農業に就くという課題なのかもって思いました。
就農定住事業に求められているのは、農業技術の伝授よりも、自分課題⇒みんな課題へといった認識の転換や、どうやったら活力を持って農業に取り組めるのか、地域を再生していくにはどうしたらいいのかといった共同体再生事業なんだという捉え方が大切なのでは?
就農定住事業は共同体再生事業☆より引用

勿論、技術伝承や経営方針も重要なのですが、それよりも
“活力が沸く基盤(あるいはシステム)が無い”ということが,持続的に就農するうえで、最も重要な問題なのではないでしょうか。

いくら機械・工業化が進み生産性があがっても、そこに人が居なければ、その場に活力が生まれるはずもありません。
ましてや、私権時代→共認時代においての活力源は,人との関係(=社会)の中で生まれる、共認圧力であり、”人(=活力の沸く基盤)”こそがまさに重要なのです。

◆就農定住の成功事例 〜山形県高畠町〜
現在,難しいとされる「就農定住」を実現させている事例がいくつかあります。
>自治体レベルでそれを上げるならば、山形県の高畠町であり、大分県の取り組みが上げられよう。加えて最近は岩手県北上市、長野県駒ヶ根市、愛知県赤羽根町、兵庫県加西市などが目立った取組みを行っている様である。
就農定住の成功事例 〜山形県高畠町①

このうち、山形県高畠町での成功要因を分析した投稿が,るいネットにありますが,先ほどの認識がどう活かされているのでしょうか?

以下、就農定住の成功事例〜山形県高畠町③より引用します。

さて次に、一例だけでは偏りのあることは承知の上で、敢えて高畠町の成功要因を抽出してみよう。
①有機農業の先駆地としての知名度と都市との交流。
(地域としての有機栽培の方法論の定式化、販売ルートの確保による、基幹農家の安定)
②青年団活動に代表される地域の集団の存在。
但しこれら2点は,地域の魅力や潜在的活力を形作る上で土台を成しているが、成功の要因はもちろんそれだけではない。これらの土台を生かすことができたのは
③河原氏に代表される、地域の人々を再結集させ人的資源を引き出し、対外的に具体活動として、アピール活動を具体化させた指導者の存在。
④「たかはた共生塾」と言う形でまず地元の人々の結集と参加の場をつくり、それを土台に県外の農や地域に関心のある人々を結集させたこと。
⑤その結果(偶然か意識的にターゲット化してかは不明だが)都市の自由業者で田舎志向の人々を呼び寄せられたこと。またその事により人材不足になりがちな人材層を厚くし得たこと
⑥専業農家を敢えて目指さない様、指導していること。(Iターン者の多くは農的生活を求めてやってくるが、専業になれるまでの資力がないと困難なため)
⑦地域に受け入れる窓口となる人が存在すること。窓口になりうる人は地元にすんでいても非常に広い視野を持つ人か、一旦地元外に出たUターン者であることが多い。
実際地元での人間関係を巡って町を去っていく人が多い。
⑧空家と空き農地の確保
以上であろうか
ただし現在の最大の課題は、副業の場合の「本」職。とりわけ上記の専門能力を持つ、自由業の人々を生かす職(仕事)が無いことであること。
居住場所、居住環境において公的な支援が不可欠であること、のようである。

◆就農定住の成功要因のまとめ

引用のポイントを,前述の”人(=活力の沸く基盤)”という切り口で整理すると,

★“人”こそが活力基盤!(引用文②、④、⑤)
「就農定住」を可能にしたのは、活力を生み出し続けることが可能になる“人”こそが重要です。
まず今回の事例では青年団体のように人が集まる“集団”が存在していました。
その“集団”を活かしながら、さらに外部から人が参加できる仕掛け(=“人が参加できる場”の設立)によって、活力基盤の再生を可能にしたのです。

★社会を対象化できる(=社会の期待を捉えることができる)外部の人間の参入(①、③、⑦)
“農への関心”や“食への安全・安心”という意識潮流は、今や社会全体の期待であるという認識が重要です。社会からの期待と評価があって始めて活力が沸いてくる。
今回の事例では、その(“社会期待”を認識していたかどうかは別として、)“社会期待”に即した有機農業の先駆地であったことに加え、“社会期待”を対象化できるのは、その地域外部で“社会圧力”を受けてきた、外部の人間が適しており、そういった人間が事業を先導して取り組んでいったことに成功の要因があるようです。

★「儲かる農業」を実現させる、経営的視点を持っていること(⑥、⑧)
経営的視点に立てば,現在の市場において価格格差があるかぎり,「兼業」が最も適しています。
また,都市のビルの屋上での菜園など、今では増えてきているようですが、土地代が高く収益性は見込めません。あくまで自家栽培レベルが限界なので、社会期待を捉えているとは言い難いのではないでしょうか。
事業として成り立たせる(=儲かる)ことが,社会からの評価でもあるのです。

>評価指標としてのお金を得ること、つまり「儲かる」ことを目的にすることで、「儲かる=お金が集まる=評価が集まる⇒活力上昇」していきます。そしてそれは決して私権充足のためではなく、期待に応えて評価されたその証としてのお金を得る=共認充足を得るためであり、儲けるということの意味が私権から共認へと変わってきているのです。
>農業が採算にのるようになれば、外部に依存せず自前で農業生産を続けていくことが可能になります。またそうなれば新規就農者や企業の参入が増加し、供給体制の充実につながります。この点からも、儲かる農業であることが不可欠なのです。
シリーズ「活力再生需要を事業化する」9 〜『生産の場として、儲かる農業』が、みんな期待に応える事になるのでは?

このように分析してみると彼らのシステムの根底には”人(=活力基盤の再生)”の重要性が組み込まれています。

しかし,今回の事例は特殊な事例で,一般解としてはまだまだ難があるでしょう。
実は、この就農定住をもっと簡単に実現する方法があるのです!
『活力再生需要を事業化するシリーズ』の最終回は,その秘策をご紹介したいと思います
お楽しみに

List    投稿者 tutinori | 2010-05-28 | Posted in 07.新・世界秩序とは?1 Comment » 

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コメント1件

 bambi | 2011.01.27 1:46

記事も図解もわかりやすくてとても勉強になりました!
アメリカの力は衰えたと思いつつ、やっぱり世界がアメリカのために動かされている面もまだまだ大きいんだな〜と思いました。
ところで質問なのですが、途上国が投機資金の流入に対してとれる対策って、税金をあげる以外にも何かありますか?
後、対策を打つ時にWTOやFTAのために制限されてしまうことも結構多いのでしょうか?
次回の投稿も楽しみにしています!

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