2012-02-08

脱金貸し支配・脱市場原理の経済理論家たち(4)シルビオ・ゲゼル

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写真はコチラからお借りしました。


現代は市場原理に基づく経済システムが実体経済から遊離(バブル化)して、経済は崩壊の危機に陥っています。この経済システムに、過去〜現在に至るまで異議を唱えてきた経済理論家たちがいます。このシリーズではそれらの理論家の思想や学説を改めて見つめなおし、次代の経済システムのヒントを見つけていきたいと思います。

前回は、ミヒャエル・エンデの学説に触れました。
脱金貸し支配・脱市場原理の経済理論家たち(3)ミヒャエル・エンデ

今回はミヒャエル・エンデやシュタイナー、ケインズなどに多大な影響を与えた【自由貨幣】と【自由土地】を提唱したシルビオ・ゲゼルに着目してみようと思います。

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【人物紹介】

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シルビオ・ゲゼル

シルビオ・ゲゼルは1862年にドイツ帝国のライン地方に生まれた。マルメディ近郊というところで、ドイツ文化とフランス文化が混じっていた。父親は会計局の役人、母親は教師。9人兄弟の7番目で、家の中ではフランス語、外に出るとドイツ語を喋った。

千夜千冊より引用(以下同様))

ギムナジウム(中等教育機関)を卒業後、ゲゼルは郵政局の職員になったり、兄弟で歯科用の医療機器を扱う店を開いたり、スペインで軍務に服従したり、機会メーカーの通信員になったり、職を転々とします。

1886年、24歳のゲゼルはアルゼンチンに行く。兄のパウルが製造した歯科治療器具をブエノスアイレスで販売することが仕事だが、アルゼンチンはインフレとデフレを繰り返す金融混乱時代になっていた。ゲゼルはこの地でアンナと結婚し、輸入業者としての荒波をくぐりはじめた。とくに国内の不換通貨に金の価格の変動が重なって、国際為替相場が暴力的なほどに擾乱していくのを体験する。

好調に見えた投機ブームが2年ほどたつと、アルゼンチンの経済は最悪になってきた。政府はデフレ政策をとり、金の流出と引き換えに追加的な対外債務を求めるのだが、いっこうにうまくいかない。銀行も不振に喘ぎはじめ、投資家たちは政府の債務返済猶予を認めない。すぐさま紙幣の価値が低落し、破産企業が続出すると、闇の投機が躍り、貨幣の売り買いが始まった。

この頃のアルゼンチンは、内政の安定により外国資本と移民の流入が一気に加速した時代です。イギリス経済の従属化が進む一方で、農牧業を中心としたモノカルチャーの奇跡(麦と牧畜だけで物価の変動にも耐え効率的に国家の発展を実現した)と呼ばれるほどの経済発展も進みました。

そんな中で、ゲゼル自身は実業家として成功したものの、新興国として金の蓄積が少なく、国内通貨(ペソ)は金兌換を保障できず、金兌換の国際通貨(ポンド)との為替交換が常に不安定という事実に疑問を持ち、この問題はどこにあるのかを追求しはじめたのではないかと思います。

事業で成功した資金をもとに、農業をしながら理論活動に耽り、貨幣についての書籍を何冊か出します。1900年にスイスに戻り、今度は「土地」について考えました。
そして、1916年に主著『自由土地と自由貨幣による自然的経済秩序』をまとめます。

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『自由土地と自由貨幣による自然的経済秩序』


1918年〜1919年には、バイエルン革命で成立したバイエルン・レーテ共和国では、金融担当大臣に就きましたが、一週間で共産主義者に権力を奪取されます。ゲゼルがその通貨政策を実行に移す機会は失われてしまいました。

そして、世界が大恐慌に見舞われていったさなかの1930年3月11日、69歳の誕生日を前にゲゼルはベルリン郊外に没しました。ちなみに、この前年ミヒャエル・エンデが誕生しています。

ゲゼルは実業家として成功するとともに、実業家の視点から理論追求に入り、貨幣と土地について独自の分析を行いました。

それでは、主著『自然的経済秩序』を通して、ゲゼルの理論を見ていきたいと思います

【シルビオ・ゲゼルの問題提起と提案】

シルビオ・ゲゼルは、大きく2つの問題提起をしています。【自由貨幣】【自由土地】です。それぞれシルビオ・ゲゼル研究室のHPより『自然的経済秩序』のゲゼルの言葉を引用させてもらいながら、詳しく見ていくことにします☆

1.自由貨幣

ゲゼルは、貨幣は交換手段であることが本質であると強調します。

お金は交換手段でしかない。お金は商品の交換を簡単にし、物々交換の困難の回避に一役買うべきである。物々交換は不確かで面倒で、費用がかかり多くの場合拒否される。それを解決すべきお金は、そのため商品の交換を保証し、加速し、簡単にしなければならない。
それこそがお金に対して求められていることだ。商品の交換の確実性や速度、それに簡便性の度合いは、お金の利用性の試金石となる。

『自然的経済秩序』4-1 自由貨幣より引用)

一方で、お金は他の商品と比べて、いつまででも貯蓄でき、いつでもどこでも使えるという流動性を兼ね備えています。その結果、交換を促進するはずのお金が、交換を抑制する方向に働き、経済停滞や失業の原因になっていると分析しています。
 
そこで、ゲゼルが提起したのが、【自由貨幣】です。
お金を交換手段として改良するために、商品同様お金を劣化させるというものです(詳細は、こちら)。この減価する自由貨幣を用いると、下記のことが実現できると言っています。

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自由貨幣の見本

ここまで自由貨幣について言えることは、以下の通りである。

1.需要が計量可能なものになり、お金の所有者の意思や気まぐれ、利益欲や投機を克服する。需要はもはや、お金の所有者の意思表現ではなくなる。
2.どのような状況でもお金の流通は、いつでも需要に合致するように、流通機構の許す限り最高の流通速度で通り抜けてゆこうとする。
 a) 政府が流通させ、管理する通貨量
 b) 流通機構の許す限りの流通速度
3.実質的に民間の通貨発行と見なされかく乱要因となる民間レベルでのお金の蓄積が全体として自動的に解体し、それを通じて政府は信頼できる通貨の基盤を確保できる。

『自然的経済秩序』4-5 要約より引用(以下同様))

投機家の陰謀や、地代生活者や銀行家の見解や気分で市場にお金が出回っていましたが、減価する自由貨幣の導入により、持っていれば価値が下がっていくので、貨幣が本当に必要な需要の分だけ高速で流通するようになります。また、3は難しいですが、減価する自由貨幣により、民間銀行に資金が大量に集まることがなくなり、信用創造による弊害もなくなるということを言っているのではないかと思います。

自由貨幣がまずこのような働きをすることによって、引き継ぎ次のような結果が持たされる。

1.景気停滞がなくなることによる、商品の規則的な販売
2.現在生産されるだけの商品が常に供給される
3.これまで販売の停滞によって生じてきたあらゆる物価変動の終息
4.市場で需要や供給が今後規則的に発生するため、商品がお金とうまく連関しないために起こる、今まで至る所で見てくれた大規模な価格変動はなくなる。
5.需要を供給に直接適合できるようにし、それを通じて一般的に商品価格の完全な安定を達成するためには、政府はわずかな量の通貨を発行したり回収したりすればよい。
(中略)
自由貨幣が条件とするお金の流通の強制を通じて、さらに以下のことが起こる。
 
1.交換手段と貯蓄手段との明確な区別が行われる。
2.お金の所有者がお金を無条件に、金利や利益を考えずに流通させねばならなくなる。
3.お金は、金利が下がってなくなっても流通する。
4.お金は所有者に利益にならなくても流通する。

この状況の結果、一般的な経済停滞を不可能にし、商品とお金とが民間経済上完全に同じ立場になります。それにより下記のようになります。

1.お金のかわりに、不可欠な品物の貯蔵が好まれる。
2.以前のように少量ではなく、樽やトランク一杯のつまり持てるだけの商品が買われる。
3.これを通じて商店は空となり、多くの商人は無用となる。
さらにまた、
4.掛売りはなくなり、一般的に現金決済が行われる。
5.何百万もの倉庫に分散している商品の在庫を個人が利用できなくなるため、投機が不可能になる。

また、自由貨幣導入後の中央銀行についても詳しく述べています。中央銀行は紙幣発行権を奪われ、そのかわりに日々のお金の需要を満たすことを使命とする政府通過局が登場します。政府通貨局は銀行業務は行いません。小切手の売買も、企業のランク付けもせず、個人との関係も持ちません。国内でお金が不足しているときにお金を発行し、お金が余っているときには回収するという機能だけ持つようになります。
 
自由貨幣については、現在でも若干志を変えてはいますが、いくつかの地域通貨(スイス、イスカなど)として受け継がれています。また、ゲゼルは世界通貨の提案『自然的経済秩序』4-7 世界通貨同盟)まで行い、ケインズのブレトン・ウッズ会議に際して提案した世界通貨(バンコール)はこのゲゼルの考え方に基づいていました。

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世界通貨のモデル

2.自由土地
 
ゲゼルは土地の私的に占有する権利を認めることが問題であると分析しています。一部の地主が土地を所有する権利を持っていることが地代による搾取を許し、国家が土地の権利を持っていることが戦争を引き起こす原因になっている、というのがゲゼルの指摘です。

地主は自分の土地を耕作するかどうかを自由に決められる。(中略)

地主はまた、自分の所有するもの(農地、建設用地、鉱山、水力発電所、森林など)を他の人に代償なしで利用させる必要がない。その土地の使用に際して代償(地代)が地主に払われなければ、土地は休耕されたままだ。地主は完全に土地の支配者なのだ。

『自然的経済秩序』1-3 地代を通じての労働収益の天引きより引用)

土地やそこから得られる資源に対して公的な権利や国家主権が成り立つ余地はない。国家主権は人間の手で作られたものにしか関わるべきではない。個人に委ねられる権利を国に認めるとすぐに、この権利が戦争をもたらす。全人類はそれぞれ全地球の土地に関して等しく譲渡できない権利を持っており、この根源的な権利へのあらゆるすべての人間、あらゆる個人制限は暴力や戦争を意味する。

『自然的経済秩序』2-0: チューリヒで1917年7月5日に行われた講演より引用)

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持たざる土人を従える、持てる文明人という構図

そこで、ゲゼルが提起したのは、【自由土地】です。
土地の私有をなくせばいい。個人も国も土地の特権を持つべきではない。私達はみんな地球の先住民なのだから、みんな平等に土地に関する権利を持っていると述べています。

1.人間の間での競争は、土地に関する個人ならびに国家の特権がすべて廃止されたときにのみ、公平な土台の上で決着がつけられ、かつその高邁な目的に従って行われる。
2.誰もが例外なく、人種や宗教や教育や健康状態に関係なく土地に関する平等な権利を持つ。そのため誰もが希望する土地への移住する権利を持つ。そこで彼らは先住民と同様の土地の権利を享受するべきだ。土地に関してはどのような特権も個人や政府、あるいは社会が持ってはならない。なぜなら我々は誰もが、地球の先住民だからだ。
3.自由土地の考えには制限というものは許されない。これは絶対的なものだ。それ故、地球との関連で言えば国家間の国際法、国家の主権や自己決定権というものはない。地球の主権は人類にあり、国にあるのではない。このことからいかなる国も、国境を制定したり輸入関税を徴収したりする権利はない。自由土地の考えにおいて、地球は単なる球体なのであり、そこには商品の輸入も輸出もない。従って、自由土地の意味する所は自由貿易、しかも世界的な自由貿易、あらゆる関税の壁の完全な撤廃である。国境は単に行政の境界、たとえばスイスの州境のようなものであるべきである。

『自然的経済秩序』2-1: 自由土地ということばの意味より引用(以下同様))

さらに詳細な説明が続きます。

4.こういった自由土地の主張に従えば、「イギリスの石炭」や「ドイツのカリウム」、あるいは「アメリカの石油」などといった表現は、これらの産地を示すだけのものとなるべきである。イギリスが所有する石炭やドイツが所有するカリウムというものはない。それは、どの国籍を保有していようが誰もが「イギリスの石炭」や「アメリカの石油」、あるいは「ドイツのカリウム」に対する同等の権利を有しているからだ。
5.世界の誰もが例外なく参加できる公的な競売を通じて、土地は耕作者に貸与される。
6.こうして得られた貸借料は国庫に入り、余すところなく子どもの数に応じて毎月母親に支給される。出身がどこであれ、母親はすべてこの分配を受ける。
7.土地の配分は完全に、耕作者の必要に応じてなされる。つまり、小家族には小さな土地が、大家族には広い土地が与えられる。また、広い土地は協同組合、共産主義的・無政府主義的・あるいは社会民主的なコロニー、さらには宗教的団体に割り当てられる。
8.少しでも自由土地の考えを制限しようとする国や国家、民族や言語共同体、宗教団体や経済組織は追放され、禁止され法の保護を受けないものとされる。
9.今日の私有地の地代を廃止するにあたっては、それに相当する額の政府債務証書の発行を通じて完全に補償される。

ゲゼルは家族やいろんな原理で集まっている集団が土地という活動基盤を持つことが大事だと結論づけています。
 
 
【今後の社会に向けて】
 
ゲゼルは、減価する貨幣(=自由貨幣)ではよく知られていますが、土地についても大胆な論理を展開していることが分かります☆労働における搾取の原因を貨幣制度の構造的欠陥に見出し、自由貨幣を提唱しましたが、それだけでは不労所得はなくならないことに気づき、土地に目を向けたのでしょう。最初、地主の土地の個人私有をなくせば、搾取はなくなると考えました。しかし、国の土地の私有権が残ると、その土地の権利を巡っていつまでも戦争が続くことに気付きます。そこで、国家の土地の私有も認めず、地球の先住民(地球のみんな)に平等の土地の権利があると主張したのも納得です。
  
貨幣の貯蓄と土地の私有が悪の根源であるとし、それらを認めなくすることで、資本家や金貸しの支配から脱却できるようになる。ゲゼルが最終的に求めたものは、資本家や金貸し支配から脱却した、貨幣と土地をみんなで共有する世界システムの樹立です。一見、過激にも思われますが、みんなで共有していくという大きな方向性は、共認時代に入った現代でも参考になる部分が多々あるのではないかと思います。
 
 
次回は、仏教経済学を提唱したエルンスト・フリードリッヒ・シューマッハーに焦点をあててみたいと思います
最後まで読んで頂いてありがとうございます☆

List    投稿者 mihori | 2012-02-08 | Posted in 07.新・世界秩序とは?No Comments » 

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