アメリカのシリア空爆は、どんな効果があったのか?
4月6日に行われたアメリカによるシリア空爆、全世界が驚きました。それまでトランプ大統領は、シリアの内戦を終結させるためには独裁政権であるアサド政権とそれを支援するロシアのシリア政策を認めると明言していました。
それが、毒ガス兵器をアサド政権が使用したことを理由に、いきなり59発のトマホークミサイルをシリアの空軍基地に向けて発射したのです。これは、戦争が始まるのではないかと驚きましたが、攻撃されたアサド政権も、これを支援しているロシアも抗議はしましたが、比較的冷静な対応でした。
そして中国に至ってはアメリカの行動を容認するという、信じられない反応でした。一体、なぜこうなったのでしょうか。
報道を見ていると、トランプ大統領がシリア空爆を実施した理由は、国内でロシアとの関係を追及され、政策運営も上手く行かず支持率が下がっていることから、国内での人気取りのために後先考えずに、やってしまったという見方が多いようです。しかし、これはトランプさんの動機を説明できても、シリア、ロシア、中国が空爆を冷静に受け止めている理由にはなりません。
彼らが、冷静に受け止めているのは、この空爆がロシアにとってもメリットがあったからではないでしょうか。ロシアでは反プーチンデモに続いて、地下鉄爆破テロが発生し、国内の混乱が懸念される状況でした。これはプーチン、トランプの反グローバリズム勢力の拡大に対抗するために、グローバリズム勢力がソーシャルネットワークを使い、アラブの春と同じ戦略でロシア国内の民主派大衆をあおり、混乱を引き起こそうとしている事が原因と考えられます。(反プーチンデモと地下鉄爆破、ロシアで何が起きているのか)
このように、ロシア国内に対立分裂の萌芽が見られる状況で、今回のアメリカによるシリア空爆が行われました。その結果、ロシア国内の世論、インターネットでもアメリカの空爆を批判する発信が増えています。米露の対立緊張が政権維持に必要だったのは、アメリカだけでなく、ロシアにも都合が良かったのは間違いありません。
報道では、アメリカが空爆する前に、ロシアにも通告したと伝えられていますが、単なる通告ではなく米露、双方合意の上でアメリカのシリア空爆は実施され、その後の批判合戦は、両国の対立を演出しているだけではないでしょうか。
■トランプ政権、シリアにミサイル攻撃 ロシアは侵略行為と非難2017年4月6日
米国防総省の報道官は、地中海東部に展開する米海軍の2隻の駆逐艦から、59発の「トマホーク」ミサイルがシリア政府軍の空軍基地の航空機、防空システム、燃料貯蔵庫などに向けて発射されたと述べた。
米国防総省の報道官は6日、米軍がシリア空軍基地への攻撃について事前にロシア軍に通知し、ロシア軍が駐留しているとされる場所を攻撃しなかったことを明らかにした。シリアでの過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦の際に衝突事故を防ぐために設置していた連絡手段を通じて連絡を取ったという。
■アメリカのシリア攻撃、プーチン大統領が批判2017年4月7日
ロシアのペスコフ報道官が4月7日、アメリカ軍のシリア攻撃に関するプーチン氏の考えを明かした。それによると、プーチン氏は「主権の侵害であり、国際法違反にあたる」との見方を示した上で、「攻撃は米ロ関係を損なうものであり、テロリストたちとの戦いに逆行すると考えている」と指摘したという。
一方、ロシアのインターネットユーザーたちもアメリカの攻撃を批判。攻撃を伝えるノーボスチ通信の記事のコメント欄には、「(シリアに配備されている)ロシアの地対空ミサイルS400はどこに行った?」「アメリカとIS、どっちがましか。アメリカはいったい何の権利があってシリアの主権を侵害するのか」などとする投稿が続いた。
■米シリア攻撃 ロシア「59発中23発 基地に命中」2017年4月7日
ロシアの監視レーダーによれば、発射された59発のミサイルのうち、シャイラート空軍基地に命中したのは23発だったということです。報道官によりますと、この攻撃でシリア空軍の戦闘機「ミグ23」が合わせて6機破壊されたほか、レーダー施設や倉庫のほか、教育施設や食堂が破壊されたということです。
■シリア攻撃で安保理 米国「待つ日々は終わった」2017年4月8日
アメリカのシリアへの攻撃を受けて開かれた国連の安全保障理事会で、アメリカは追加攻撃も辞さない考えを示し、アサド政権を牽制(けんせい)しました。ロシアには「アサド政権が化学兵器を使う度にかばってきた」と強く非難しました。これに対して、ロシアは「アメリカの攻撃は単にテロリストをより強くしただけに過ぎない」「素人のような批判はやめてもらいたい」と強く反発しています。
■米軍、シリアにミサイル発射 専門家「歌舞伎役者が見得を切った感じ。ポーズの意味合いが強い」2017年4月9日
放送大学教授の高橋和夫氏によると今回の攻撃についてシリアはロシアを通じて事前に攻撃を把握していたという。高橋氏は「メッセージとしては『アメリカは怒っている。いい加減にしろということ』。歌舞伎役者が見得を切ったという感じで、ポーズという意味合いが大きいだろう」と分析した。
■トランプはロシア疑惑をもみ消すためにシリアを攻撃した?2017年4月10日
ロシア軍は今後、「最も貴重なシリアのインフラ」を守るためにシリア上空の防衛を強化することになるだろうと、ロシア国防省の報道官イゴール・コナシェンコフは言った。
トランプ政権はロシア政府との間にあまりに疑惑が多過ぎて、世界の目前で民間人に化学兵器が使用されたのに何もしないとなれば、ロシア政府との間にやましいつながりがあったからだと思われてしまう。トランプの支持率は先週は36%と、歴代大統領の就任一年目の数字として最低を記録した。
■シリア情勢、北朝鮮情勢に対して米世論が冷静な理由2017年4月11日
シリアと北朝鮮をめぐる情勢は緊迫しているがアメリカ世論は至って冷静。シリア空爆以降、トランプ政権がこれ以上の軍事行動に出ることはない、という見方が広がっているため
一つには、ロシアの反応に一種の「抑制」が見られることです。もう一つ、本稿の時点では、ティラーソン長官とプーチン大統領の会談が行われる見通しから、全体として米ロ関係が危険なほど悪化することは「なさそうだ」という見方が広がっています。
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