トランプ大統領のウクライナ疑惑、民主党はなぜ弾劾に踏み切ったのか。
アメリカ民主党は、トランプ大統領の弾劾訴追を決定、早ければ13日にも可決される見込みだそうです。民主党が多数派を占める下院では可決されることはほぼ間違いありません。しかし、ここで採決されるのは訴追だけです。訴追された弾劾の裁判権を持つのは共和党が多数を占める上院ですから、弾劾裁判の結果は無罪となり、トランプ大統領が罷免される可能性もありません。それがわかっていて、なぜ民主党は弾劾に踏み切ったのでしょうか。
不思議なのは、ロシア疑惑での対応との比較です。あれだけ大々的に報道され、1年ほどかけて大規模な捜査まで行われたロシア疑惑の際に、民主党のペロシ議長は弾劾を見送りました。それが、なぜ正式な捜査が行われず、議会の調査だけしか行われていないウクライナ疑惑では、勝てないとわかっていて弾劾することにしたのでしょうか。
前回もお伝えしたように、アメリカの大衆はマスコミも役人も信用していない状態であり、いくら民主党が騒いでも、トランプ大統領の支持率が下がることはなく、むしろ反感を増長し逆効果になっていることを民主党もわかっているはずです。
では、何のためなのか、弾劾をすることで何を得られるのかと考えると、訳が分からなくなりますが、弾劾をしないと何を失うかと考えると見えてくるものがあります。それは民主党の支持者です。ロシア疑惑で民主党は何も成果を出せませんでした。今度こそはと取り上げたウクライナ疑惑でも何も成果を残せず、うやむやに終わらせてしまったら、その無能ぶりに愛想を尽かされて民主党の支持者が減ることになりかねません。
幸いなことに、正式な捜査が行われたにもかかわらず違法という判断が出なかったロシア疑惑とは違い、ウクライナ問題では下院の調査結果を民主党の多数で問題ありとすれば事実はどうあれ、弾劾に持ち込むこともできます。民主党支持者に、民主党はやるべきことをやったと、成果を示すことはできるのです。次の大統領選挙でこのままでは大敗を喫しかねない状況に追い込まれ、土俵際ぎりぎりで踏みとどまる最後の手が、弾劾だったのではないでしょうか。
■トランプ大統領“弾劾”への「反対」が「支持」を上回った 「両刃の剣」が民主党側に突きつけられるか2019年11月25日
トランプ米大統領に対する弾劾調査も下院の情報特別委員会による聴問会が終わって一段落したが、ここへきて米国世論が弾劾に否定的に変わってきた。まず今月17日から20日の間に世論調査で定評のあるボストンのエマーソン大学が行なった世論調査で、トランプ大統領に対する弾劾を支持したものが43%、反対したものが45%で、10月に行なった調査よりも「支持」が5ポイント減り「反対」が1ポイント増えて賛否が逆転した。中でも注目されたのが民主、共和どちらにも与しない「無党派」の変化だ。10月の調査に比べて「支持」が14ポイント減って34%に、「反対」が10ポイント増えて49%になっている。
また、ウィスコンシン州のマーケット大学が同州で今月13日~17日の間に行なった世論調査で、弾劾を「支持」するとするものは10月の調査より4ポイント減って40%に、「反対」が1ポイント増えて53%になっていたが、「無党派」の中で弾劾を「支持」したのは36%に過ぎなかった。
■ペロシ議長、トランプ大統領弾劾訴追に向け下院に迅速な日程求める2019年12月6日
ペロシ米下院議長は5日、トランプ大統領の弾劾訴追に向けた歴史的採決について、迅速な日程で進めるよう下院に指示した。ペロシ議長は大統領の弾劾調査を行ってきた下院委員会の各委員長に弾劾訴追状の作成を指示し、国民の信頼を「甚だしく踏みにじった」トランプ大統領に責任を問わなければならないと指摘。「紛れもない事実だ。大統領は個人の利益のために職権を乱用した」と議事堂で述べた。
■米民主党、トランプ大統領への弾劾条項2項目を発表 権力乱用と議会妨害2019年12月11日
米連邦議会下院で多数を占める野党・民主党は10日朝、ドナルド・トランプ大統領に対する弾劾条項2項目を発表した。権力乱用と議会妨害でトランプ氏を弾劾する決議案を、近く下院司法委員会で審議する。下院では、司法委員会が弾劾決議案を今週中にも可決し、下院本会議に上程する可能性が高い。下院本会議が弾劾を可決した場合、共和党が多数を占める上院は来年1月初めにも弾劾裁判を開始する見通しとなっている。
弾劾訴追権は下院が、弾劾裁判権は上院がそれぞれ持つ。下院でこの弾劾決議案を可決した後、上院が弾劾裁判を行う。上院議員の3分の2以上が賛成すれば、大統領を解任できる。
現在の下院では、定数435議席のうち民主党が235議席を占めているため、弾劾訴追が成立する可能性は高い。一方の上院は、定数100議席のうち共和党が53議席を占める。解任の動議成立に必要な3分の2以上の賛成票を得るには、多数の共和党議員が造反する必要があるため、大統領が実際に解任される見通しは少ない。
■米上院共和党、トランプ大統領弾劾裁判を早期決着する方向に傾斜2019年12月12日
米共和党上院議員らによると、トランプ大統領の弾劾裁判を短期間で終わらせる方向で同党では早くも合意が形成されつつあり、証人からの聴取なしで同大統領を無罪放免にすることについて採決される可能性がある。
大統領を有罪とする判断を下すには上院議員の3分の2以上の票が必要だが、証人の必要性や直接採決に進む是非を決めるのは51人の票で済む。マコネル氏が証人の召喚を阻止するため51人の票を確保できるか、バイデン氏や内部告発者の召喚を求めるトランプ氏を共和党議員51人が支持するかどうかはまだ明らかではない。
米下院司法委員会はトランプ大統領のウクライナ疑惑をめぐる弾劾訴追状案を12日(日本時間13日)にも採決する。
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