金融資本主義の崩壊、その実相追求 5.暫定合意でしのいだ米国デフォルト
米国債務上限引上げ問題は、8月1日下院→8月2日上院→同日、オバマ大統領による上限引上げ法案「財政コントロール法(Budget Control Act of 2011)」署名により一旦回避された。その後、それにも係らず米国債格下げを端緒にする金融不安は拡大の一途となっている。本シリーズタイトルである金融資本主義の崩壊という視点で見つめてゆくと、今後とも気が許せない状況にある。
何故、米国債を紙くず同然とするのではないか?と世界中を震撼させ、基軸通貨ドルの信認を大きく揺るがす事態になる債務引上げ問題を招くこととなったのか?この問題から紐解いてゆく。
この問題を追求してゆくと、米国が抱えている根本問題(膨らむ財政赤字)、歩み寄らない政争(先鋭化する対立)など、金融資本主義崩壊の芽が見えてくる。
まず、米国債務上限引上げの問題とは何か? そして、金融資本主義崩壊の芽とは何か? を取り上げる。
(1)連邦政府債務には上限あり
(2)財務省の金庫に1ドルも無くなり、やっと暫定合意
(3)根本問題(膨らむ財政赤字)と、歩み寄らない政争(先鋭化する対立)
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(1)連邦政府債務には上限あり
連邦債務額は法律で決まっており、この法律は議会の議決を経て成立する。(この構造にも問題の芽)
財務上限引上げは、過去何度も繰り返されてきた。
ここで、丸紅作成の連邦政府債務残高と法定債務上限の推移図を示したい。
法定債務上限は何度も何度も引上げられている事実、政府債務残高は年額にして1兆ドルを超える見通しになっていることを再認識しておきたい。
2009年12月に発生した同じような債務引上げ問題を取り上げた「金貸しブログ」(世界経済破局への長い序章?4.米国連邦政府、毎月法案審議で自転車操業中)を紹介しておきたい。
このブログでは、連邦政府の赤字の実態「2009年会計年・2010年会計年(2008年10月〜2010年9月)のたった2ヵ年で財政赤字は3兆ドルを超え」、赤字スピードが余りにも速すぎて法律が間に合わなくなる事態がくること。また、議会では与野党の対立があり法律の審議も時間がかかることを分析、今回も再び同じことが繰り返されている。(だから財政赤字と歩み寄らない与野党の関係は構造問題と言える)
(2)財務省の金庫に1ドルも無くなり、やっと暫定合意
昨年、2010年10月中間選挙があり、下院で共和党が多数派(上院は民主党)となり、議会のネジレ現象が生じ対立が顕著となり、今回の上限引上げ問題は、時限ギリギリまで引延ばされてきた。
共和党は政府予算の大幅削減案「メディケアやメディケイド(低所得者向け医療保険)の抜本的な改革を含め、一連の大幅支出削減を通じて債務増加を抑制する内容」、民主党は金持ち増税案「年収25万ドル以上の高所得者に対する減税を打ち切り歳入を増やす」を主張、財政赤字縮小という目的は同じであっても方策を巡って対立してきた。ここまで妥協が長引いたのには理由がある。その分析は複雑な要素を含んでおり次項に回し、まず合意内容を確認する。
一見、赤字財政削減案となっているが、両党が目標とし、かつ格付け会社が米国債の格下げ回避の目安とした10年間で4兆ドルの赤字削減レベルからは程遠い内容だった。デフォルトは回避されたが、つい先日米国債の格付けは引下げられた。(その余波は既に現実に乱高下している)
また、赤字削減幅に目途がついたものの、削減内容は決定していないので、年末に向けて赤字削減内容を協議する中で、さらに対立を深め12年度予算の成立さえ危惧される。
(3)根本問題(膨らむ財政赤字)と、歩み寄らない政争(先鋭化する対立)
この対立構造がここまで先鋭化されたのは何故だろう。対立構造を端的に解説する双日総合研究所
(溜池通信) より引用したい。(文章は一部組替え)
デフォルト危機を招く政治状況
この問題は(日本の)特例公債法案をめぐるわが国の国会状況と瓜二つである。自民党が「バラマキ4Kを止めなければ、赤字国債を出すことを認めない」と言っているように、米国における野党・共和党は、大幅な財政支出削減がなければ上限を上げることに賛成しないと言っている。政権党である民主党側は、支出削減よりも増税による赤字減らしを目指したい。この差が埋まらない。
ティーパーティ運動の支援を受けている共和党議員は、支出削減で簡単に引き下がれば支持者から総スカンを食らう。逆にリベラル派の民主党議員は、支出を減らしてしまえば自分の再選が危うくなってしまう、来年の選挙を控えて、与野党共に引くに引けない状態になっている。
さらに言えば、財政削減の問題は、失業率低下に直結、現状でさえ各地で暴動直前の状況(英国では既に若者の暴動騒動が起きている)にある。そうした中で前にも進めない、後ろにも引けないという硬直した状況が現在でないか?
金融資本主義崩壊の芽とは、このような状況認識に見ることが出来る。
対立が先鋭化するメカニズムとは
米国ウオッチャーの視点から言えば、①「米国を再統合する」と言っていたオバマ大統領が、むしろ分断する役割を果たしていること、②ティパーティという非妥協的な勢力が伸長したこと、③選挙区割りなどによって二大政党の中道派が退潮し、左右の極端な考え方が勢いを得ていること、と指摘している。
こうした政治の不毛をもたらしていると思われる要因を列挙してみよう。
①危険な外敵の消失
これが冷戦時代や、「対テロ戦争」を強く意識していた頃であれば、米国内の政治対立がこれほどまでに過熱化することはなかっただろう。体外的な緊張感が低下したせいか、今の米国は国内の喧嘩が外に丸見えでも気にしなくなっている。
②ネット社会による政治の変質
インターネット社会は政治の構造を変えつつある。今までは有権者の政治参加が容易になるなどの「良い面」が強調されがちだったが。「悪い面」も目立ち始めた。ネット社会は、“Vocal Minority”を組織化して力を与えることが多く、“Silento Majority”の主張を相対的に低下させる。結果として左右の党派色が強まりやすくなる。
③政治における複線的関係の途絶
かつて米国の上院議員は、「週末になっても地元に帰らず、ワシントンで家族ぐるみの社交を深める」「日中は論戦を戦わせても、夕方になれば党派を超えてビールを飲む」などのライフスタイルであった。
しかし今では政治家は選挙区とワシントンを忙しく行き来するようになり、“Mutual Respect”の美風も失われている。政治家同士の関係が薄まり、政治が「政策中心」になるとともに、議会の合意形成能力も低下しているように見える。
デフォルト危機を招く政治状況認識に加え、対立が先鋭化するメカニズムを探ってゆくと、さらに何処にも解決の道が見出せない状況であることが分かる。現実の問題として、リーマンショック・ギリシア問題に引き続いて起きている米国の債務上限引き上げ問題、米国債格下げの事実は、これから始まる金融資本主義崩壊の端緒を示唆しているようだ。
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コメント6件
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「ポイント・オブ・ノーリターン。引き返すことのできない瞬間を示す言葉」
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「日本のエネルギー問題では、来年か再来年、それは来ると言われている」
【朱音】
「そこから先はどんな手の施しようがなくなる」
【瑚太朗】
「日本が人の住めない環境になる」
【朱音】
「他の国にでも移住しない限りね」
【瑚太朗】
「ははは、SFだ」
【朱音】
「おまえ”たち”は」
朱音の声が、底知れない怒りを帯びた気がして、俺はたじろいだ。
【朱音】
「いつまで、夢をみているつもりなの?」
(中略)
【朱音】
「人間をなくせば良いのよ。つまり日本滅亡」
発送電分離だ、火力だ、原子力だ、自然エネルギーだなどという論争そのものがそもそもナンセンスだ。
なぜなら老朽化した送電線自体が破壊されてしまっては、どんな手段で発電したところで意味はない。
もはや送電網自体が壊滅すると予測されており、エネルギー問題を論じている時期ですらないのだ。では方法はあるのか?
http://tinyurl.com/dyaqy3d
ここにある。漸く実験に成功したようだ。