2023-04-18

外国人労働者市場~実態から未来予測

〇顕在化しているマイナス要因~外国人労働者の日本人気は低下傾向にある

「国民全体が親日」「日本アニメが大好き」「日本は平和で安全」「母国より何倍も稼げる」といったキーワードで外国人にとって日本は人気国である、というのはもはや過去となりつつある。

例えば、ベトナムは現在も日本への最大の送り出し国だが、入国までに関わる諸々の手数料や企業が本人に支払う給与は増額傾向にある。職種で見ると、飲食料品製造は引き続き人気だが、介護職などはかなり雇用条件が厳しくなっている。単純に言えば、それなりの費用を払わないと採用が困難になっているということ。理由は「ベトナム現地でも人集めに苦労するようになったから」。人を集めるためのエージェントへの支払い額や、広告費・途中離脱者ための補填費用などが、大幅に増加したと言われている。現地送り出し機関もビジネスであるため、当然必死になって求職者を集めるが、それゆえの質の低下も別問題として指摘されている。では集客が苦戦してきた要因は何か、それは日本就職の相対的なポジションダウンと在留資格制度の魅力不足が要因として考えられている。

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〇諸外国の魅力向上~中東・東アジア(韓国・台湾)との競争時代に突入

引き続きベトナムを例にすると、日本同様に台湾・韓国への送り出しも増えており、東アジア内での人材獲得競争が起きている。

台湾のベトナム人単純労働者数は223,300名(2018年)で、日本のベトナム人技能実習生164,499人(2018年12月末時点)と比較すると労働者の多さがわかる。韓国のベトナム人就労人数も約72,000名(2016年5月時点)。在留資格の違いもあり単純比較はできないが、台湾・韓国でも外国人労働者を積極的に受入れている現状がわかる。

また、フィリピンは海外への人材送り出しが盛んな国の一つで、世界の客船乗務員はフィリピン人が大多数を占めている。近年はランドベース(陸の上の仕事)においても圧倒的に給与水準の高い中東での建設業、シンガポールやヨーロッパでの家事使用人・看護師の仕事で多くの人材が働いている。ミャンマー・カンボジア・インドネシアなどその他東南アジア諸国も「親日」のイメージを持つ人もが、若い労働者に日本のイメージを聞いても回答に詰まることが多々ある。「働きたい国は?」と質問すると「韓国」と回答することが圧倒的に多い。理由を聞くと韓国のコスメとファッションが好きだから等が挙げられていた。

 

〇海外現地事情~なぜベトナムからの来日人数が多いのか

「ベトナム人は勤勉で日本側の評価が高い」「ベトナム人は日本が大好き」 という回答が多そうだが、実態は異なる。ベトナム人の来日人数が多い要因は「ベトナムの現地の人材エージェントがやる気になっていること」、つまり民間の活力を活用していることにほかならない。500社近くあると言われる日本向けの送り出し機関(人材エージェント)が激しく競って人材の集客・教育を行っている。その結果、送り出し機関の日本語ができる社員数は多くなり、日本語教育レベルは高く、また日本企業とのスムーズなやりとりが実現している。日本政府の意向とは関係なく、どの国においても自国民が他国で労働する際に関わる現地法令やガイドラインが存在するが、ベトナムはエージェントが利益を上げやすい仕組みになっている。求職者と採用企業側両方から手数料を取ることが可能になっている。また、フィリピンの場合はPOEA(フィリピン海外雇用庁)が行う雇用側の審査に通過する必要があるが、ベトナムの場合、在留資格申請において日本の採用側(企業)に特殊な手続きは必要ない。ただ「民間の活力を活用する」ことは、この大きなプロジェクトを進めるうえで非常に大きな要素。特定技能制度の推進の鍵もこの点にあると言っても過言ではない。

 

〇人材の質は低下している?なぜ人によって外国人労働者への評価が極端に違うのか

以前から介護・看護EPAを導入した介護施設や初期の技能実習生を入れていた企業からは近年は人材の質の低下を憂いた声が聞かれる。新しく外国人材を受け入れた事業者からも「外国人はよく頑張って素晴らしい!」という声がある一方、「想像とはちょっと違った。文句も言わず黙々と働くと思ったのに」と少々不満の声も聞こえてきます。なぜこうも極端な印象になるのか

→外国人が増え人材が多様化したことでいろいろな人に出会う確率が増えたから

憧れの国ニッポンに来ることができて嬉しい、日本が大好き、だから賃金が安くても頑張る、といったイメージがあるかもしれないが、全員が全員そのような価値観を持って日本で働くわけではない。そのようなイメージを外国人労働者に持っていると、ギャップが起きてしまうのは当然。

留学生だけで約30万人、技能実習生も約35万人、身分系在留資格(日本人と結婚した人など)は約60万人存在する。留学生だけを取り上げても、大学と専門学校・日本語学校では在籍する人物のバックグラウンドは大きく異なる。また、前述したように海外現地での集客の苦戦から、質の低下も指摘されている。そのため、モンゴルやインドなどまだ日本渡航者が多くない国にアプローチする技能実習の監理団体も出てきている。

 

〇今後の課題 選ばれる日本になること

集客の苦戦傾向は前述のとおりだが、円安・諸外国の賃金アップが進む中で日本の相対的なポジションダウンは更に進む可能性がある。悲観的に考えれば、日本側の意思に関わらずいずれ外国人は減少していく。しかし、対策は明確で、「選ばれる日本になること」

・特定技能制度の日本側の理解

受け入れる企業側の理解が進んでいないケースが多い。「なぜ賃金を日本人と同等にしないといけないのか」「支援業務にお金と手間がかかるが理解できない」「転職されるリスクがある」との声も聞かれる。

「日本の給与水準が30年前と変わらない」問題は海外労働者にとっても直面している問題。ただでさえ日本語という大きな壁があるうえに、他国の給与水準が相対的に上がれば日本を選択しなくなるのは当然。安い給与で簡単に雇える状況ではなくなってくるという現実を理解する必要がある。

・受け入れる組織のダイバーシティ

外国人の日本人化を求めるだけではなく、日本企業の国際標準化も重要。対応言語はもちろん日本語、日本文化・日本の企業文化を否定する必要はない。ただ、それでも「やさしい日本語の活用」「日本文化こそ独特だという理解(≒外国人が特殊ではない)」、「わかりやすい就業規則への変更」など企業側がすぐにとれるアクションは多々ある。

・家族同伴は必須要件

求職者側の立場にたったとき、家族との生活維持は日本へ来る際の大きな要素になる。

 

10年後の市場は不透明だが、10年後も選ばれる日本であることが重要。無条件に外国人が来日してくれる時代ではなくなってくることが現実的な予測。そのための制度変更や受け入れ企業側のスタンスや体制も重要。変わってきたと言われる一方で、外国人を雇うことへのマイナスイメージが色濃く残っている会社が多いのも事実。また、マーケットの活性化には民間の活力・ノウハウも欠かせない。市場が活性化するためには、海外現地や日本の人材会社が一定儲かる仕組みのすべてを否定はできない。

List    投稿者 itou-t | 2023-04-18 | Posted in 05.瓦解する基軸通貨No Comments » 

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