反グローバリズムの潮流(スウェーデンで反EU政権は成立するか?)
9月の初めに、スウェーデンの総選挙で反EUを掲げる極右政党が第一党に躍進する勢いであることを伝えました。選挙結果がどうなったか、反EU政権は成立したのか、その後の状況を調べてみました。
選挙前の世論調査では第一党になる可能性もあると言われた極右政党の民主党でしたが、9月9日に行われた総選挙の結果、民主党は躍進したものの第三党のままと言う結果でした。これで第一党になった社会民主労働党を軸とする左派連合が新政権を樹立して、反EU政権が成立する可能性は無くなったかと思われたのですが、9月25日社民党のロベーン首相の信任投票で不信任案が可決され、新政権は樹立に至りませんでした。
その結果、国会議長の提案で第2党穏健党のウルフ・クリステルソン党首が、首相候補となりましたが、第1党の首相候補の信任案を否決したのですから、これもすんなり新政権が樹立できるとは思えません。
極右政党という事で、第1党、第2党の両方から嫌われている民主党ですが、政権樹立のために右派の穏健党が妥協し、民主党が新政権に参加し反EU政権が成立する可能性も残っています。
所謂「極右」とメディアが決めつけているスウェーデン民主党の躍進が予想される、スウェーデンの総選挙が明日に迫ってきた。最新の世論調査によると得票率で25%程度で第一党さえ伺う勢いだという。
スウェーデンにおける政治的な空気は冷戦崩壊後保守化しており、穏健党の新自由主義路線が長く続いていたが、前回の総選挙で新自由主義的改革の負の側面が意識され、前回2014年中道左派が辛勝したもののかつては泡沫政党だった極右SDも躍進した。
スウェーデン人の危機感は、共同体を形成する「価値」が、社民党的な「進歩的な理念」によって破壊されていて、それが危機的なレベルに達しているという確信である。それを象徴するのがシリア難民の問題以前から表面化していた、「ユダヤ教徒」への迫害や「ロマ」の流入といった問題でもある。また近年医療、教育の質の低下が著しく、「車中出産」が激増した事も「スウェーデン的な理念」への深刻な疑問を生む結果となっていた。
■少数連立の公算大、スウェーデン新政権発足への協議難航2018年9月10日
第1党の社会民主労働党を軸とする中道左派ブロック、第2党の穏健党を中核とする中道右派ブロックとも過半数に及ばず、今回も少数連立政権となる公算が大きい。反移民の極右の民主党は前回選挙の12・9%から今回17・6%(暫定結果)と得票率を伸ばし、政治的な影響力が強まった。
■スウェーデン総選挙で極右政党躍進 与野党とも過半数届かず 連立難航へ2018年9月10日
スウェーデン議会(定数349)総選挙の投票が9日行われ、10日までに開票がほぼ終了した。ネオナチの起源を持ち「反移民」を主張する極右政党、民主党が第3党にとどまったものの、2014年の前回選挙から大きく得票を伸ばした。
与党の社会民主労働党が得票率28・4%で第1党を維持。中道右派の穏健党は19・8%、民主党が17・6%だった。中道左派勢力の得票率は40・6%、中道右派4党は40・3%と拮抗(きっこう)している。
■視界不良のスウェーデンの次期政権~メインストリームの敗北とポピュリストの躍進はここでも~2018年9月10日
得票率(前回比較) ・獲得議席(前回比較)
社会民主労働党<中道左派> 28.4%(-2.6)・101(-12)
穏健党<中道右派> 19.8%(-3.5)・ 70(-14)
スウェーデン民主党<極右> 17.6%(+4.7)・ 62(+13)
中央党<中道右派> 8.6%(+2.5)・ 31(+ 9)
左翼党<左派> 7.9%(+2.2)・ 28(+ 7)
キリスト教民主党<中道右派> 6.4%(+1.8)・ 23(+ 7)
自由党<中道右派> 5.5%(+0.1)・ 19(± 0)
環境党<中道左派> 4.3%(-2.6)・ 15(-10)
■スウェーデン首相、不信任に 新政権づくり難航2018年9月25日
スウェーデン議会は25日、第1党の社会民主労働党(中道左派)のロベーン首相の続投の是非を問う信任投票を行い、不信任204、信任142で不信任を決めた。
9月の議会選ではロベーン首相率いる社民党を軸とする左派連合が144議席となり、穏健党を中心とする保守連合の143議席をわずか1議席上回るにとどまった。一方で、「反移民」を掲げる極右・スウェーデン民主党が62議席と台頭して発言力を強めた。
スウェーデンではこれまで主要政党が一致して「反移民」を掲げる極右・民主党を中枢政治から排除してきた。しかし移民・難民の受け入れ凍結を公約に掲げた同党は今回の議会選で躍進し、発言力を増した。仮に穏健党が民主党の協力をとりつければ、極右の中枢政治への接近を退けてきたスウェーデン政治にとって大きな転機となる。
■左派より1議席少ない右派がスウェーデン政権樹立を模索へ 極右勢力を排除できるか2018年10月3日
選挙結果(3ブロックとも、議会で過半数を得られていない)。左派ブロックは144議席。右派ブロックは143議席。両派から連立を否定されている、スウェーデン民主党は、62議席。
9月24日、新しい国会議員を迎えた議会では、新たな「国会議長」を任命する採決がおこなわれた。結果、右派ブロック、穏健党のアンドレアス・ノーレン氏が、国会議長に。極右・スウェーデン民主党から、支持された故の結果だった。
9月25日、左派ブロックの首相が不信任に(極右の投票が決め手)。第1党の社会民主労働党のロベーン首相は、右派ブロックと極右から、不信任を投じられた。
10月3日、ノーレン国会議長は、各党の党首との話し合いを重ねた後、穏健党のウルフ・クリステルソン党首に、首相候補として、新たな連立政権を探るように提案した。国会議長は、「連立政権づくりができそうだ」と判断する党首を、「4回」提案することができる。首相候補らが新政権づくりをできない状態が4回続けば、再選挙となる。
右派と左派が極右と連立を拒み続け、どの党も妥協しない場合、新たな「中道ブロック」ができる可能性もある。中央党がリーダーとなり、自由党(右派)、社会民主労働党(左派)らと、妥協して連立し、「妥協政権」をつくるかもしれない。もしくは、右派の穏健党とキリスト教民主党の2党が、極右のスウェーデン民主党と組み、新たな右派ブロックを作るかもしれない。
スウェーデン民主党が62議席も占めているからこそ、右派と左派は連立政権をつくれずにいる。ポピュリストの波は、「既存政治や議会のかたちを変える」という意味では、すでに影響を及ぼしている。
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