2009-11-10

ドルに代わる通貨システムは?〜6.湾岸共通通貨ができるとどうなる??

湾岸協力会議(GCC:左図の6カ国)が2010年の導入を目指して進めていた湾岸共通通貨(ハリージ)は、オマーンとUAEの相次ぐ脱退で暗礁に乗り上げているように見える。しかし、10月6日には英インデペンデント紙が「アラブ湾岸諸国が原油取引でのドル利用を停止し、人民元などで構成する通貨バスケット建て取引に移行する案をロシア・中国・日本・フランスと極秘に協議している」と報道、サウジやクウェートが慌てて否定するという一幕があった。さらに、10月21日にはカタール副首相が「原油ドル建ての見直しは継続中」と発言。事態は水面下で進んでいる。
湾岸共通通貨の問題は、中東諸国の通貨のドルペッグの廃止、そして原油のドル建て表示・決済の廃止と一体不可分だ。米国はこの問題に極めて神経質になっている。なぜなら、原油のドル建て表示・決済は、金兌換停止以降のドル基軸通貨体制の生命線だからである。
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◎金兌換停止後のドルの地位維持⇒原油ドル建ての秘密協定
現在、世界の原油取引の大半はドル建て表示で行われ、中東産油国の多くは自国通貨をドルペッグとしている(GCC6カ国中、クウェートは08年5月に通貨バスケットに移行)そもそも、どういう経緯でこのような体制ができあがったのか?イーストヒル ジャパン「原油のドル建て表示制からドル先行きを見る」から引用する。

1971 年8 月、ニクソン米大統領がドルの金交換性を停止することを発表した。ブレトンウッズ体制の崩壊により、西欧などの主要先進国は次々とドルペック制をやめ、固定為替相場制から変動相場制に移行した。その後、米国はドルの暴落を防ぎ、ドルの国際地位を維持するために、サウジアラビアと秘密協定を締結した。この秘密協定では、サウジアラビアは引き続きドルを原油輸出の唯一の表示通貨とすることが義務付けられた。

当時アメリカ経済はまだ十分に強さが感じられ、またサウジアラビアは世界一の石油輸出国であったため、他のOPEC加盟国もこの協定を承認した。そして、この秘密協定の内容はドル建て表示の堅持だけでなかった。こちらのブログ(週刊エコノミスト記事の転載)によれば、

①サウジ経常黒字が続く限り、その5%は同国の外貨準備を増やすためとっておく。
②サウジ流動資金(国内必要投資額の余剰金)の87%を米国の長期市場に投資する。
③その投資には7.5%の利子がつけられ、米国から兵器などのハードウエア購入の決済に充てられるーーなど。
極めて重要な内容を含んでいた。

ニクソン・ショックによって金(GOLD)という後ろ盾を失い不換紙幣となった米ドルが、その後も基軸通貨の地位を保ち続けられたのは、中東の盟主サウジとの秘密協定によって、国際原油取引におけるドルの寡占状態と巨額なオイルマネーの米国還流という構図を確立したからだった。
◎原油ドル建て表示制が支えてきた20世紀後半の米国覇権
原油ドル建てによって米国が享受する利益は計り知れない。同じく「原油のドル建て表示制からドル先行きを見る」より引用。
1.通貨発行益の獲得

米財務省がドルの紙幣を印刷しただけで石油を購入できることは、ほかの国に無い特権と言える。米国はドルというバーチャルの記号の輸出を通じて石油というリアリティの資源を入手できる。

2.原油価格の支配

原油取引がドル建てで決済されるため、米国国内の金融政策は原油価格に大きな存在と言え、金利政策と為替政策は共に直接に原油価格を影響する力を持っている。ドル安となったら原油は値上がり、ドルが切り上げしたら原油価格を圧迫する。

3.世界的な経済成長からの利益享受

世界的な景気拡大期では、原油などの商品への需要が拡大している背景に、原油価格は高止まりしている。そのため、ほかの国は自国の石油輸出需要を満たすために、輸出を増加してドルをもっと稼がなければならない。つまり、各国の経済成長に伴って、ドルへの需要も高まるわけ。米国はドルを発行することに通じてより多くの通貨発行益を獲得、輸入に使うことができる。一方で、油価高騰で石油輸出国にはドル建てのオイルマネー(Petro-dollar)が膨らみ、中国などの石油輸入国でも石油輸入に備えて大量のドル建て外貨準備を確保しなければならない。これらのドルは米国の国債、株などに投資する方式で米金融市場に還流され、米国内の融資コストを低下させ、米経済成長に有利な環境を作り出す役割がある。

20世紀後半のドル基軸通貨体制と米国の経済覇権を支えてきたのは、原油のドル建て表示制だと言っても過言ではない。逆に言えば、原油のドル建て表示・ドル建て決済が廃止されるということは、米国が享受してきたこれらの利益構造が悉く崩壊することを意味する。

GCC.jpg

◎臨界点に近づく産油国のジレンマ
しかし、20世紀の終盤、基軸通貨に依存した過剰消費体質によって米国の産業が空洞化し、日本円の台頭やユーロの登場でドルの価値が徐々に下落していく中、ドルペッグを続けてきた産油国の悩みが生じる。産油国の輸出の大半は原油でドル建てだが、輸入の多くは欧州に頼るため、インフレが深刻化していった。これが、湾岸共通通貨創設や原油のドル建て見直しの最大の原動力となった。
まず最初にドル建てを廃止したのは、埋蔵量世界第3位のイラクだった。2000年にフセイン大統領は原油決済のドル建てからユーロ建てへの切り替えを高らかに宣言したが、その後の歴史は周知の通り。2003年に米国はイラクに侵攻し、原油決済はドル建てに逆戻りした。
戦争まで起こし辛うじて原油ドル建て制の決壊を防いだ米国だが、2007年サブプライムローン問題、そして2008年の世界金融危機に起因するドル信用の世界的凋落で、世界の産油国は原油決済や自国通貨のドル離れ傾向を強め、これはもはや止めようのない流れになっている。
08年1月:産出量 2位、埋蔵量8位のロシアがルーブル建て原油取引市場を開設。
08年5月:産出量 4位、埋蔵量6位のイランがドル決済全面停止を発表。
08年7月:産出量 7位、埋蔵量7位のベネズエラが原油の他国通貨での取引を導入。
09年5月:産出量10位、埋蔵量5位のクウェートがドルペッグからバスケット制へ移行。

こちらの記事も参照:山田冬樹の部屋〜原油ドル建て決済の危機
これらの動きの延長線上に、冒頭の原油ドル建て廃止の密談スクープやクウェート副首相の発言のニュースがある。今後、原油取引のドル離脱の動きと湾岸共通通貨の実現のカギを握っているのは、ニクソン・ショック後の原油ドル建て体制の確立を主導した一方の当事者であり、現在も生産量世界一のサウジアラビアだ。サウジアラビアが原油ドル建て廃止に傾く時、湾岸共通通貨構想は再び実現に向けて動き出し、同時に、ドルは一気にその価値を激減させるだろう。
共通通貨創設の動きは湾岸諸国だけではない。次回は、日本民主党への政権交代で再び注目され始めた「東アジア共同体構想(東アジア共通通貨)」を取り上げてみたい。

List    投稿者 s.tanaka | 2009-11-10 | Posted in 05.瓦解する基軸通貨1 Comment » 

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コメント1件

 hermes bags britain | 2014.02.01 19:35

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