2021-03-11

イギリスのEU離脱、合意なき離脱は回避できたが、国家分裂の危機に。

04イギリスのEU離脱、ぎりぎりのタイミングでEUとの合意が成立し、合意なき離脱は避けることができましたが、離脱後のイギリスはどうなっているのか、コロナ報道に紛れてあまり注目されておらず、あまり報道も見かけませんので調べてみました。

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まずイギリスとEUの合意内容を、おさらいしてみました。最後までイギリスとEUがもめていたポイントは、主に三つです。一つ目の公正な競争条件ですが、公正な競争が阻害された場合は、両者が対抗措置を発動できるルールを盛り込むことで合意に至りました。二つ目の北アイルランドの国境問題は、北アイルランドが実質的にEU市場にとどまることで決着しました。三つ目の漁業権問題はイギリスが譲歩してEU側が5年間で25%削減することで合意しました。

これで、イギリスはEUから主権を取り戻し、なおかつ従来通り関税ゼロでEUと貿易できる立場を獲得できました。これだけを聞くと、イギリスはEU離脱で有利な立場を獲得したように見えますが、現実は甘くないようです。

貿易については、従来通り関税無しの立場を維持できましたが、金融やサービス業については英国はEU市場への自動的なアクセス権を失います。その結果、ロンドン金融市場は取引量を減らしています。

さらに、関税は無くなっても、検疫や原産地証明の確認といった税関手続きが新たに必要となり、貿易は滞り、イギリス本土とアイルランドの間、さらにはイギリスとパリの間での物流が大きく滞っています。その結果、イギリス国内でスコットランドに加え、北アイルランドでもイギリスから独立しEUに復帰する動きが強まっています。英紙サンデー・タイムズの1月の世論調査では、北アの成人の42%が既にアイルランドとの統合を支持。親EU派が多いスコットランドはさらに英国離れの傾向が強く、成人の49%が独立を支持しました。

今年1月にイギリスが日本主導のTPPへの加盟を決定しました。その理由として、アメリカや日本と手を合わせて、中国をけん制するためという分析もあります。しかし、最も大きな理由は、EUに変わる新たな市場を開拓しなければ、イギリスが分裂する危機的な状況にあると言うことです。

 

■何が変わった? これからどうなる?ポストEU時代の英国2021年1月21 日

英国とEUは自由貿易協定(FTA)を締結したため、モノの貿易は従来通り関税ゼロ、割り当てなしのルールが継続する。しかし、新たに通関業務が行われるようになったため、国境での流通が滞る可能性は懸念として残る。金融を含むサービス業については、英国はEU市場への自動的なアクセス権を失い、活動が制限されることに。

公正な競争条件、EU側は、政府補助金、競争法、社会・雇用規制、環境基準、気候変動、租税の分野で英国がEUと共通の規則・基準の採用することを求めたが、最終的には譲歩。公正な競争が阻害された場合は、両者が対抗措置を発動できるルールを盛り込むことで合意に至った。

EU加盟国と北アイルランドの間での物品取引には、通関手続きや管理が適用されない方針が決まり、北アイルランドは実質的にEU単一市場に留まることとなった。

英海域での漁業権は英国側が大きく譲歩。EU側は今後5年半で英海域での漁獲量を段階的に25%削減することが決定。

英EU間において、将来発生する紛争の解決方法、まず当事者同士の交渉による解決を試み、解決しない場合は事案ごとに設置される独立裁定機関に判断をゆだねる旨の方針を決定。英国はEU司法裁判所の介入を受けない立場となった。

英国はEUとの自由貿易協定(FTA)を成立させ、EU非加盟国でありながらモノの貿易には関税がかからず、数量制限も課されない独自の立場を獲得した。また、EU司法裁判所の管轄には入らない方針を死守し、EU単一市場から抜け出したことで、離脱志向を加速化させる一因となったEU移民の無制限流入にも歯止めをかけた。ボリス・ジョンソン首相が繰り返した「英国を国民の手に取り戻そう」というスローガンをひとまずは実現させた形と言えよう。

一方、失ったものも少なくない。金融、建築業、会計などのサービスを提供する企業はEU市場に自動的にアクセスする権利を失った。安全保障にかかわるEUのデータへの自動アクセスもできなくなった。また、FTAは締結されたものの、検疫や原産地証明の確認といった税関手続きが新たに必要となるため、物流に一定の混乱が出ることも予想される。

離脱はスコットランド地方の独立機運を高めるとも言われている。北アイルランドでもアイルランド共和国との統一を求める声が強まりそうだ

政治統合の深化に向かうEUに背を向けた英国。その代わり、米国や英連邦諸国、日本を含むアジア各国と関係を深める方向に向かうという見方が強い。

■EU離脱の完了と、それでも終わらない課題 ~ Brexit 2021年1月21日

EUとの交渉でイギリス側が何よりも重視したのは、「主権」を取り戻すことだった。最も重要なのは、経済規制でEUに縛られないことだった。この問題は結局、双方が譲歩し、どちらかに規制・規則の変更が生じ、市場の均衡を乱すような場合には、再均衡措置(rebalancing measure)がとられることで合意された。

そうした状況の犠牲となったのが、イギリスとEUとの間の貿易である。2021年1月1日以降、さっそく問題が各地で発生している。たとえ関税が課されなかったとしても、食品の衛生基準を含む動植物検疫はもちろんのこと、工業製品に関する適合性検査、原産地規則など、検査事項は数多い。EUの単一市場、関税同盟からの離脱とは、端的にいって、貿易に対する障壁の再建だった。

経済規模的により大きな影響を受けているのが北アイルランドである。英本土(グレート・ブリテン島)と北アイルランドの間のアイリッシュ海には、イギリス国内でありながらチェックポイントが設けられた。この手続きへの対応が、大手業者ですら間に合わず、北アイルランドでは、スーパーマーケットで生鮮食料品が不足するなどの事態が発生した。

1月に入ってからの混乱の責任を問う声の矛先は、これまでのところ、ジョンソン政権に向かっている。今回のBrexit完了を受け、「連合王国(Union)離れ」がより確実に進むのは北アイルランドであろう。スコットランド独立問題よりも喫緊の問題である。スコットランドが独立した場合には、独立国家としてEUに加盟申請を行う必要があり、その場合は、イギリス(イングランド)との間にハードな国境が出現せざるを得なくなるなど、容易には解決し得ない問題が出現する。それに比べれば、北アイルランドの場合は、独立ではなく、アイルランドとの統一であり、他のEU加盟国が承認する限りにおいて、自動的にEU加盟国(の一部)になる。

■イギリスがTPPへ参加する本当の理由2021年1月21日

イギリスは今年(2021年)に入ってEUを離脱して、自由に自由貿易協定を結べる立場になりましたので、いろいろなところとの戦略的なつながりを持とうとしています。イギリスから見れば、コロナ禍でも相対的に成長の軌道に乗っているアジア諸国との経済関係を結びたいということもあります。またTPPはいま11ヵ国でつくられているのですが、そのうち6ヵ国はいわゆる英連邦、イギリスの旧植民地になります。オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシア、カナダ、ブルネイ、こうした国々との、もともとの関係も強くありますので、そういうなかでいままで自分が持っていた経済圏を通じて、アジアに広がる自由貿易圏に参加したいということだと思います。

ただ、実質的には、中国に対抗するという側面もあります。中国による国家安全法の成立と香港に対する抑圧。これによって、一国二制度、これはイギリスと中国のあいだで結ばれた協定のなかで一国二制度というものが決められているわけですけれども、それを中国が一方的に反故にしたというところが対中政策の大きな転換点だったのではないかと思います。いまのイギリスの力では、中国に対して単独で圧力をかけることは難しいと思いますが、「いざとなればアメリカや日本と協力して圧力をかけるぞ」という意思表示をしたと見るべきでしょう。

■EU復帰はあり得ない──イギリスの将来を示すスイスの前例2021年1月23日

スイスは1992年の国民投票で、有権者の50.3%が欧州経済地域(EEA)への参加に反対した。その結果が10年に及ぶ低成長だ。競争力を求めた輸出業者は、生産拠点をEU加盟国に移した。スイスは1992年以降、EUとの交渉を絶え間なく続けねばならなかった。今後のイギリスとEUの関係も同様だろう。スイスの主要紙や政治家は今も、EU反対論を再燃させるため世論をあおる新しい材料を探し出している。

つまり今後数十年にわたり、イギリス政治でもEUとの関係が中心議題となり、他の重要課題に光が当たらないことが予想される。長い目で見れば、そこで失われるものこそ、ブレグジットがもたらす最大の損失になるかもしれない。それに加えてイギリス人は、EU残留派も含め、EUをパートナーではなく対立相手と見なすようになるだろう。永遠に続く交渉の中で自らの劣勢を認識した場合、英政府は国内での立場を守るためにEUを悪者に仕立てようとする。そして政府が不満を感じる問題で妥協を余儀なくされれば、国内のEU懐疑主義をさらにあおることになる。

■EU完全離脱から1カ月 パリでは品不足、イギリスは分裂の危機 2021年2月1日

貿易の通関手続きが復活したため、双方の一部スーパーでは輸送の遅延による品不足が発生。EU経済圏に事実上残った英領北アイルランドと英本土間でも物流の障壁があらわとなった。英スコットランド地方の独立機運が過熱する中、北アが地続きのアイルランドとの統合に傾くとの観測も強まり、英連合王国の枠組みが揺らぎ始めた。

「今日も何もない…」。1月下旬、パリ中心部のオフィス街にある英スーパー大手「マークス&スペンサー」で、男性客がつぶやいた。昨年末までパスタやサラダが並んだ棚は空っぽ。「英EUの新たな貿易関係で入荷できない商品がある」との札が掲げられ、女性店員は「いつ届くか分からない」とあきらめ顔だ。

北ア東部バリークレアで有機野菜を販売するパトリシア・ギルバートさんは「英本土から商品がほとんど届かない。今後は通関手続きがないアイルランドや他のEU加盟国に頼る」と話す。北アでは離脱問題が生じた5年ほど前から、アイルランドとの再統合の議論が再燃している。経済の一体化が進めば、統合機運はさらに高まる。英紙サンデー・タイムズの1月の世論調査では、北アの成人の42%が既にアイルランドとの統合を支持。

一方、親EU派が多いスコットランドはさらに英国離れの傾向が強く、成人の49%が独立を支持した。スコットランドのスタージョン自治政府首相が率いる地域政党は1月24日、5月の地方議会選挙で過半数を獲得すれば、独立の賛否を問う住民投票の実施許可を英政府に求めると公表。

■イギリスがTPPに参加する2つの理由 2021年2月25日

イギリス政府は2月1日、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に正式に参加を申請する。EU離脱から1年の節目に申請する象徴的な意味合いもあり、TPP発足メンバー以外からの参加申請は初めてである。

イギリスのEU離脱を受けてスコットランド側からの不満が出ていて、またしても「イギリスからの離脱」ということも言われています。そういう不満を抑えるためにも、「将来的には、このような成長的な選択肢がある」ということを示す必要がある。そういう国内事情もあれば、国外事情としては、やはり中国に対する牽制、「香港からの移民を受け入れる」というところとワンセットになっているのだと思います。

List    投稿者 dairinin | 2021-03-11 | Posted in 05.瓦解する基軸通貨No Comments » 

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