2011-07-19

金融資本主義の崩壊、その実相追求 1.中小国家のデフォルトと日本の資金供出

現在の国際金融の危機は、強い通貨であるドル(米国)とユーロ(欧州共同体)の危機です。 
 
連邦政府の債務上限を巡る議会・政府の分裂が、ドルへの信認を崩壊させ、世界の金融秩序を瓦解さます。或いは、ギリシャを始めとした欧州内弱小国家のデフォルトが、ユーロを崩壊させます。 
 
現在起っているのは、基軸通貨(国)のデフォルト危機です。 
 
歴史的には、いくつもの国家がデフォルト(国家債務の不履行)に至っています。この歴史的なデフォルトがどうなっていたのかを、まずはみてみます。 
 
1.90年代、2000年代に起ったデフォルト(ロシア、アルゼンチン、エクアドル) 
2.最貧国のデフォルトと救済策 
3.IMFの救済資金を供出させられる日本 
 
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1.90年代、2000年代に起ったデフォルト(ロシア、アルゼンチン、エクアドル) 
 
1998年にはロシアがデフォルトを宣言し、2001年にはアルゼンチンがリラ建国債と円建国債のデフォルトをしています。2008年には、エクアドルが前政権の再建の利払い停止をしています。 
 
それぞれのデフォルトの内容と特徴をみてみます。 
 
資本主義化の過程で生じたロシアデフォルト 
 
ロシア政府及びロシア中央銀行は、1998年の8月17日に、対外債務の90日間支払停止を発表しました。ロシア政府及び中央銀行の外貨(ドル)が枯渇し、支払ができなくなりました。 
 
アジア通貨危機の余波を受け、ロシアを資本主義化するために流入した膨大なドルが、一斉に引上げにかかったのです。 
 
このデフォルト危機では、ロシアの資本主義化への投機(ロシア投資)をしていた米英のファンドが倒産の危機に陥りましたので、時のクリントン政権は、IMFを使って、ロシア救済策に乗り出しています。(実際には、最大のファンドであるLTCMが倒産しています。) 
 
英米の金貸し勢力は、ロシアを資本主義化するために、ドル流入を行い、うまく行かなくなったら、IMFを使って救済したのです。ロシア国富を民営化の名の元に、収奪していった過程で生じたデフォルトです。この民営化路線を、プーチンの民族主義政策がひっくり返すのは、2年後の2000年です。 
 
IMF指導下で、債務カットを行なったアルゼンチン 
 
2002年に、アルゼンチンが国家債務の支払停止をしました。その経過を、内閣府の世界経済の潮流2010年Ⅰのコラムからみてみます。

91年以降カレンシーボード制による固定相場を維持していたアルゼンチンは、90年代半ば以降、財政赤字と対外債務の拡大が続き、ブラジルの通貨危機等をきっかけに、01年に債務危機が発生した。こうした状況の中で政府は、02年1月、イタリア・リラ建て国債(2,800万ドル相当)の利払い停止を発表、国債のデフォルトとなった。また、同年3月には、円建て国債の利払いも不履行となった。 
 
デフォルト発生後、債権者との交渉は難航した。政府はまず資金協力を受けていたIMFとの交渉を行ったが、提示した財政再建計画の見通しがIMFに承認されず、交渉が長引いた。IMFとの交渉で債務返済条件についてようやく暫定合意に至ったのは、デフォルトが発生してから1年が経過した03年1月だった。 
 
その後、IMF以外の国際機関とも債務返済についての合意を得ることができたため、改めて民間債務の返済交渉を進めた政府は、04年12月、民間債務再編案を提示した。対象となる民間保有の国債の元本総額は約810億ドルであり、再編案は元本の75%削減となる内容であったが、05年3月の政府発表によると、対象国債保有者の76%がこの提案に応じた(図2)。 
 
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自国通貨の大幅な切下げによる輸出競争力の回復や、主要輸出品目である大豆や小麦等の価格高騰もあり、03年から07年まで毎年8%を超える経済成長率を達成し・・・・

デフォルトに陥ると、金貸し達の国際組織IMFが登場し、債務カットを行い、国家を資本主義に引き止める古典的な救済が行なわれています。 
 
前政権の不正債務の利払いを停止したエクアドル 
 
2008年に起ったエクアドルのデフォルトは少し様相が違います。ロイターの記事エクアドルが対外債務利払い停止、今後想定されるシナリオからみてみます。

[キト 12日 ロイター] エクアドルは、旧政権が違法に約定したとして2012年償還のグローバル債について債務不履行(デフォルト)を決定した。 
 
コレア大統領は2012年債について3100万ドルの利払い停止を決めたが、クロスデフォルト条項により、2015年と2030年償還の他のグローバル債もデフォルトすると見られる。 
 
以下はデフォルトを受けて今後予想されるシナリオ。 
 
<訴訟とエクアドル資産の差し押さえ> 
 
債券保有者はエクアドルが支払いできる十分な資金を保有していると見ており、同国が海外に保有する外貨準備のドルや石油代金の差し押さえに動くと見られる。 
 
エクアドルはデフォルトした場合、いかなる法的措置にも対応する準備を整えていると言明していた。しかし、債券保有者は資産差し押さえにより、エクアドル経済にかなりの打撃を与えることができると見ているという。 
 
<デフォルト債の再交渉> 
 
エクアドルはデフォルトしたグローバル債の交渉で強硬姿勢を示し、総額38億ドルのこれらグローバル債の元本削減を求めてくる可能性がある。 
 
アナリストによると、コレア大統領がデフォルトの構えを示し始めた最大の理由は元本削減と償還期間の延長とされる。大統領はタフネゴシエーターとして知られ、交渉は数年続く可能性がある。 
 
<国内外投資の減少>
国際資本市場はすでに世界的な金融危機の影響を受けており、エクアドルの民間セクターは資金調達が一段と難しくなっている。製造、農業、サービス関連のエクアドル大手企業は隣国のペルーやコロンビアで借り入れや事業を拡大する可能性がある。 
 
<国際金融機関が融資抑制> 
 
国際金融機関は今後、エクアドルに対する融資を抑制する方針で、同国は、原油価格の悪化で財政状態が悪化しているベネズエラのような友好国への融資依存度を高めると予想される。

民族主義政権であるコレラ大統領が、前政権の行なった債務の正当性を問題にして、最初に利払いの停止を行ないました。 
 
このエクアドルのデフォルトは、米国離れと英米主導のMFに対する反発を強めているラ米諸国の積極的な反撃策なのです。 
 
英米から外貨(ドル)の糧道を断たれても、ベネズエラやブラジル等の支援があり、英米の圧力が働かないので、金貸し達の国際組織IMFの権力(金の脅し)が効かなくなっています。 
 
2.最貧国のデフォルトと救済策 
 
エクアドルは、小国で貧しい国です。小国・最貧国の政権が、英米の金貸し達に唆されて、対外債務を拡大させ、返済不可能になるケースは沢山あります。
このデフォルトに対処する、債務をカットし、最低限の資金供与をするのが、『重債務貧困国(HIPC)イニシアチブに基づく債務救済』です。 
 
IMFの重債務貧困国(HIPC)イニシアチブに基づく債務救済から概要をみてみます。

IMFと世界銀行が共同で行う債務減免のための包括的手法は、いかなる貧困国も対処できないほどの債務を抱えることがないよう確保することを目的としています。これまでに35カ国(うち29カ国はアフリカ諸国)に対して債務減免の取極めが承認され、510億米ドルに上る債務が減免されました。 
 
二段階のプロセス 
 
債務救済を受けるためには、各国は一定の条件を満たし、政策変更による貧困の削減を約束し、良好な政策遂行の実績を残すことが求められます。IMFと世界銀行は初期の段階で暫定的債務救済を行い、当該国がコミットメントを達成した段階で完全な債務救済を実行します。
第一段階:判断基準 
 
3)IMFと世界銀行の支援プログラムを通じて実行する改革と健全な政策運営について、実績を挙げること。
4)当該国において、広範な参加方式のプロセスに基づいた貧困削減戦略ペーパーが策定されていること。 
 
第二段階:完了基準
1)IMFおよび世界銀行の融資によるプログラムに基づいて、良好な遂行の実績を更に続けること。
2)判断基準で合意された主要な改革を十分に実行すること。
これらの要件を満たした場合、対象国は完了基準に達します。この時点で当該国は判断基準で約束された債務救済額の全額を履行してもらえます。

つまり、IMFや世銀の管理下に入ることが、債務救済の条件です。国家主権の放棄を要求されるのです。 
 
その歴史的な背景、貧国・途上国の債務の本質について、北沢洋子の国際情報、DebtNet通信からみてみます。

1970年代、先進国の銀行は、途上国政府に野放図に貸し続けた。そして、農産物や鉱産物など途上国輸出品の国際市場価格が下落して、収入が激減した時に、銀行が利子をつり上げた。その結果途上国で債務危機が発生した。 
 
国際金融機関は、銀行の危機を救うために、途上国政府に対して救済融資をした。同時に、厳しい緊縮政策と自由化を押し付けた。その結果は、明白であった。貧困と飢えが蔓延した。 
 
途上国は、独裁者が作った債務を、彼らが打倒されても、その債務を返済させられている。たとえば、南アフリカ政府は、冷戦時代にアパルトヘイト政権を維持するために先進国が融資した債務220億ドルを、返済させられている。 
 
冷戦時には、西側政府がIMF、世銀に対して独裁政権を政治的同盟国とみなして、融資させた。コンゴ民主共和国(旧ザイール)では、モブツ独裁政権に対して、IMFがモブツは「公金を横領しており、返済の見込みがない」という調査結果を発表した後でも、IMFや世銀はモブツに貸し続けた。 
 
すでに70年代、石油ショックにより、ドル貨が余り、北の銀行がそれを途上国政府に貸した。それは、ついに持続不可能な額にまで達した。途上国政府は、新たにIMF、世銀から借り入れて、古い債務を返済するという“債務のリサイクル”が起った。 
 
ヨーロッパの債務危機と第三世界

3.IMFの救済資金を供出させられる日本 
 
最貧国の救済に出動するIMFは、しかし、その資金を潤沢にもっている訳ではありません。救済資金の供出国が必要なのです。

他の財源により補完されるIMFの債務救済 
 
HIPCイニシアティブのための資金の半分はIMFと国際機関によって拠出され、残りの半分は二国間の債権者が提供します。 
 
IMFが負担する費用の主な財源は、IMFのPRGF・HIPCトラストに寄託されていた、1999年にオフ・マーケットで金を売却した際の売却益からなる投資収益です。また、加盟国による同トラストへの追加的拠出も行われています。 
 
重債務貧困国(HIPC)イニシアチブに基づく債務救済

IMFへの資金供出(貸付)を、日本政府(財務省)は、継続して行なっています。

IMFのPRGFに対する国際協力銀行の貸付枠の拡大 
 
IMFのPRGF(貧困削減成長ファシリティー)は2002年から2005年までの貸付必要額(40億〜45億SDR)に対し、7〜12億SDR(約10〜15億ドル)程度の資金が不足しており、パキスタン等の低所得国に対する円滑な貸付に支障が生ずる状況にあった。 
 
我が国としては、PRGFの2002年以降の貸付を可能とし、特に最近の出来事により経済的に悪影響を受けているパキスタン等の貧困国がPRGFから適切な資金供与を受けられるようIMFの貸付原資を補充する観点から、今般、国際協力銀行からPRGFに対する貸付枠を10億ドル拡大することとした。 
 
リンク

日本政府と国際通貨基金(IMF)との間で、IMFの低所得国向け支援のための債券購入取極が締結されました 
 
9月3日、日本政府とIMFとの間の債券購入取極が締結されました。 
 
IMFは、低所得国を支援するために、一般資金勘定から供与される通常資金とは別に、IMFが管理する信託基金を通じて低所得国向けの譲許的融資を供与しています。 
 
今回の日本とIMFとの取極は、IMFの低所得国向け融資の原資への貢献を目的とするものです。 
 
本取極に基づき、今後、IMFからの要請があれば、我が国は、外国為替資金特別会計が保有するSDR(特別引出権)により、IMFの低所得国向け融資の実施主体である信託基金が発行するSDR建債券を、累計18億SDRまで購入することとなります。 
 
なお、今回、IMFと債券購入取極を締結した国は、日本、イギリス、中国の3カ国、また、IMFと融資契約を締結した国はフランスとなっています。 
 
リンク

最貧国救済に出動するIMFに対する最大の資金供出国が、日本です。IMFは、何かといえば、日本の資金を頼りにしているのです。 
 
日本は、最貧国救済だけではなく、欧州の通貨危機への対応を迫られるIMFに対して、1000億ドルの資金供給さえ行なっています。

中川財務大臣とストロス=カーン国際通貨基金(IMF)専務理事との間で、日本政府と国際通貨基金との間の融資取極が締結されました 
 
2月13日(ローマ時間)、中川財務大臣とストロス=カーンIMF専務理事は、イタリア・ローマで、日本政府とIMFとの間で融資取極の締結につき、署名を行いました。 
 
今回の日本とIMFとの取極は、平成20年11月に開催された金融・世界経済に関する首脳会合において、麻生総理が、IMFに対して、日本として最大1,000億ドル相当の融資を行う用意があることを表明したことを受けて、締結されたものであり、IMFの資金基盤を十分に確保し、国際金融・世界経済の安定化に向けたIMFの役割に対する信認を高めるものです。 
 
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世界的なデフォルトとその救済策に対して、日本の資金が止め処もなく供出される事態が続いています。 
 
今後、欧州・ユーロのデフォルト、ドルのデフォルトをみていく時、この「お人好し」ともいえる日本のスタンス、財務省の無責任さを合わせて見ていく必要がありそうです。 
 

List    投稿者 leonrosa | 2011-07-19 | Posted in 05.瓦解する基軸通貨11 Comments » 

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