世界で進むカーボンニュートラル、その実態は過剰消費社会の延命か?
菅義偉首相は2020年10月26日、国会での所信表明演説で2050年までにカーボンニュートラルにする目標を表明しました。その後、日本の政策は地方自治体も含めてカーボンニュートラルがコロナ対策に続く最重要課題になった感があります。なぜ、今なのか、世界の動向を調べてみました。
カーボンニュートラルの動きは2018年にEUが2050年にカーボンニュートラルを目標にすることで始まりましたが、その動きが加速したのは2020年~2021年にかけてです。まず、中国の習近平主席が2020年9月に2060年にカーボンニュートラル実現を宣言します。そして、日本では菅首相が2020年10月26日、アメリカのバイデン大統領は、選挙公約に2050年カーボンニュートラル実現を掲げ2021年1月20日アメリカがパリ協定に復帰する大統領令に署名します。
菅首相が突然カーボンニュートラルを宣言したのは選挙のための人気取りか、世界の流れに追従したというところでしょうが、それまで、経済拡大優先で、地球環境問題に消極的だった米中が大きく転換したのはなぜでしょうか。地球環境がそこまで深刻であるという認識が米中の首脳まで動かしたのでしょうか。コロナウイルスによる世界経済の縮小と同時に発生したことから、世界が経済縮小にかじを切ったのかと思いましたが、少し調べてみるとそうとも言い切れないようです。
まず、今回示されている目標ですが、エネルギー効率を高めることは示されていますが、経済規模の縮小自体は目標とされていません。菅総理などは成長戦略の柱と位置付けて取り組むと述べています。どうやら、化石燃料を用いない社会にするということは、これまで蓄積されてきた生産施設の大半が無用の長物となるということで、膨大な生産投資を誘発する効果があるようです。
そして、化石燃料を用いない代わりに、EUもアメリカも中国も、そして日本も原子力を推進しようとしています。電気を主要なエネルギーとし、その一定比率を原子力とすることで、結果的に原子力は現在よりも拡大する方向が各国で示されています。
さらに言えば、化石燃料の使用もあきらめていません。CO2の回収貯留技術を開発することで、化石燃料の継続使用も可能になると、各国が新しい技術の開発を急いでいます。マスコミはカーボンニュートラルをさも地球環境に良いことかのように報道していますが、現実は違います。
現在の人類の生産と消費は明らかに過剰であり、それが環境問題の根本原因です。それを改めない限り地球環境を守ることはできない、多くの大衆は過剰生産、過剰消費からの脱却をカーボンニュートラルの社会に期待していると思います。しかし、カーボンニュートラルを推進している勢力は、過剰な生産と消費を継続できる新技術を開発することで、経済を最優先とする現体制を維持しようとしているようです。
■2030年温室効果ガス目標2013年度比46%削減を2021年4月22日
菅総理大臣は「世界各地で異常気象が発生する中、脱炭素化は待ったなしの課題だ。同時に、わが国経済を力強く成長させるという思いで『2050年カーボンニュートラル』を宣言し、成長戦略の柱として取り組みを進めてきた」と述べました。
また、脱炭素電源の最大限の活用や、投資を促すための刺激策、地域の脱炭素化への支援、それに、3000兆円とも言われる世界の資金を呼び込むための「グリーン国際金融センター」創設や、アジア諸国をはじめとする世界の脱炭素移行への支援など、あらゆる分野で経済と社会に変革をもたらしていく考えを強調しました。
経団連の中西会長は「日本の国際的な競争力強化につなげる形で、再生可能エネルギーを大量導入し、政治の強いリーダーシップで原子力発電所の再稼働や新増設を実現しなければならない。」とコメントしました。
■バイデン政権、気候変動対策に力 ルール作りへ外交先行2021年3月22日
米国では大統領就任後100日で選挙公約がどれだけ実現できるか決まるという。バイデン大統領の目玉政策、気候変動対策もスタートダッシュが重要だ。中国が経済や安全保障面で最大の脅威と認識される中で、米国からは「協調」より「プレッシャー」が強くなりそうだ。
下院エネルギー商業委員会が3月2日に発表した「クリーンな未来」(Clean Future Act)は50年のネットゼロに加え、30年の50%削減を目標とした。第1は「全てのエネルギーの活用」だ。再生可能エネルギー活用やEV促進などは当然含まれている。しかし米国は天然ガス・石油などでも豊富な資源を持つ。二酸化炭素地下貯留(CCS)による化石燃料の脱炭素化、小型原子炉を念頭にした原子力発電の利用などあらゆる可能性を盛り込んでいる。第2は「州の独自性」だ。米国内の分断が深まったことを受けて、連邦は外交と横断的な政策、個別の政策の実施は各州という伝統的な役割分担に戻したとも見える。
習近平国家主席は9月の国連総会ビデオ演説で、2060年に二酸化炭素(CO2)の排出と吸収をプラスマイナスゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言した。清華大学が長期シナリオで想定する60年のエネルギーミックスによれば理にかなった戦略とも解釈できる。
1つ目に、中国は原子力を増やすメリットがある。中国は政府の強い権限のため住民の反対が制約になりにくい。世界で原子力発電所を新設しているのはロシアと中国だけ、発展途上国を中心にニーズのある世界の原子力発電市場での競争力につながる。
2つ目に、中国の再生可能エネルギー産業は世界のトップにある。太陽光発電は世界トップ10のうち9社が、風力発電は世界トップ10のうち4社が中国系企業である。3つ目に、中国が自動車産業の覇権を握るための電気自動車産業強化が後押しになる。4つ目に、先進国の50年の目標に対して10年のタイムラグがある。中国は欧米や日本が進める技術革新を踏まえてアクションを取れる。5つ目に多様なエネルギーを活用できるため、残りの十数%の化石燃料に課題が絞られている。
■気候サミット ウラジミール・プーチン大統領スピーチ 2021年4月23日
昨日、私はロシア連邦議会で年次教書演説を行いました。社会経済の発展という観点から私が設定した最優先課題のひとつは、2050 年までにわが国の累積排出量を大幅に制限することでした。
1990 年と比較して排出量は 31 億トンから 16 億トン(СО2 換算)へと半減しました。現在ではエネルギー収支の 45%が原子力発電を含む低公害エネルギーで賄われています。原子力発電所は、そのライフサイクルにおいて、温室効果ガスの排出がほとんどないことが常識となっています。また、あらゆる発生源からの二酸化炭素の回収・貯蔵・利用を確実に行い、水素を原料およびエネルギー源として製造するためのインフラを整備します。
ロシアは、年間 25 億トンともいわれる生態系の吸収能力により、自他ともに認める世界の排出量の吸収に大きく貢献していす。次に、地球温暖化の原因をすべて考慮しなければなりません。メタン 1 トンあたりの温室効果は、CO2 1 トンあたりの 25〜28 倍にもなります。大気中のすべての汚染物質の排出量を計算し、監視するための広範かつ効果的な国際協力を展開することが重要です。
■英国・EUにおけるカーボンニュートラルシナリオについて2020年11月
英国のカーボンニュートラルシナリオについて。2021年に2050年ネットゼロの長期低排出発展戦略を国連に提出すべく作業を進めている。電力部門:再エネ、原子力・水力等の低炭素電源化、民生部門:エネルギー効率の改善と低炭素暖房の普及等による住宅の脱炭素化 産業部門:ヒートポンプ・水素利用などの資源効率化による省エネ、CCS利用、運輸部門:自動車・トラックの電動化、船舶のアンモニア燃料化、航空のバイオ燃料の導入、炭素除去:BECCS等の脱炭素技術の導入。
EUのカーボンニュートラルシナリオについて。2018年11月欧州委員会は、2050年のカーボンニュートラルを目指す「ビジョン」を公表。①エネルギー効率の最大化(ZEBを含む)②再エネ導入の最大化、電力の脱炭素化の推進:再エネ、原子力を骨組みに脱炭素電源を推進。③クリーン、安全、コネクティドモビリティの推進。④産業政策と資源循環経済。⑤スマートネットワークインフラ。⑥バイオ経済と吸収源。⑦CCS(二酸化炭素回収貯留)。
2050年カーボンニュートラルのシナリオでは電化率が50%に増加することを想定。2050年の8つのシナリオにおける電源構成は以下を想定。再生可能エネルギー全体:81~85%(うち太陽光+風力:65~72%)、原子力:12~15%、化石燃料:2~6%
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