2023-02-23

ハイリスクハイリターン文化が生んだベンチャーキャピタル2~スタートアップの聖地、シリコンバレーの勃興1~

画像はこちらからお借りしました。

前回記事

ハイリスクハイリターン文化が生んだベンチャーキャピタル1~19世紀の捕鯨業から始まるロングテール型投資システム

では、ベンチャーキャピタルと捕鯨業の投資形態が非常に似通っている事を切り口に、アメリカのハイリスクハイリターン文化が生んだ捕鯨業のエコシステムが現代VCへの脈々と受け継がれている事を整理しました。

今回は、スタートアップの聖地と言われるシリコンバレーの勃興に照準を当ててみたいと思います。

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シリコンバレーは、今でこそアメリカの合衆国ベンチャーの代名詞として知られていますが、150年程前にはオレンジ畑や農場に囲まれた一帯に過ぎませんでした。
シリコンバレーの勃興は19世紀後半に端を発しますが、この地がベンチャー投資を発展させながら拡大出来たのは、

①スタンフォードを中心とする大学の存在
②ハイテク業界の発展を後押しした政府の軍事支出
③地域特有の文化的、法的、物理的な環境

という3つの重要な要素が重なったのが大きいと言われています。
今回はそのうち①スタンフォードを中心とする大学の存在に照準を当てて整理していきます。

①大学の存在

画像はこちらからお借りしました。

シリコンバレーと切っても切り離せないのがスタンフォード大学です。
スタンフォードも元々は財政的に貧弱な大学でしたが、工学部長や副学長を務めたフレデリック・ターマンが現在のスタンフォードの基盤を作りました。

ターマンがまず照準を当てたのは産学連携の強化です。その為には「スペースの提供と共有」が必要だと考え、【起業家たちに研究スペースと実験室用備品をフリーで提供し、その見返りに大学は特許収入を得る事が出来る】WinWInの仕組みを作り出しました。

続いて1946年には実践的科学研究を行うためのスタンフォード研究所を設立すると、研究所には西海岸の企業を支援しようという教授陣がたくさん集まってきました。

企業誘致も積極的に行います。1950年代には大学が所有していた未開発の土地の一部を「スタンフォード・インダストリアル・パーク」に指定し、ヒューレッドパッカードエレクトロニクス・ハイテク企業をテナントを呼び込むことに成功します最終的には、この地はGE、イーストマン・コダック、ロッキード、ゼロックス等、東海岸の名門企業が支社を構える一大インダストリアルパークに成長していきます。

加えて1954年には、地元のエレクトロニクス企業のエンジニアたちが大学院の講義に出席することの出来る「名誉協力プログラム」をスタート。今でこそ社会人大学が当たり前になっていますが、当時は非常に画期的にプログラムだった様です。

さらに1969年にはライセンス室を設置。大学が新製品の商業化をサポートすることで、規模の小さな企業でも成功を手にする事が出来る様になりました。

そして、1975年からは若手の技術者や起業家が自分達の最新の技術的発明を披露しあったりアイデアを共有し合ったりする「ホームブリュー・コンピューター・クラブ」の会合も主催します。

このように、ターマン時代の様々な改革により、スタンフォードは産業界の間に協力な協働関係を築き上げていきます。
スタートアップ目線で言うと、少ない費用負担で研究室を利用出来たり学生、教授陣と協働出来たり、就職イベントの開催が出来たりと、非常にメリットの多い改革を断行したのでした
熱意と能力と行動力はあるがお金のない起業家と、場所はあるが腰の重い大学を上手くマッチングしたのがスタンフォード(≒ターマン)であった。という事ですね。


スタンフォードは代表的な事例ですが、この地域に影響を及ぼしたのはスタンフォードだけではなく、カリフォルニア大学バークレー校やローレンス・バークレー国立研究所等が集積していた事、そしてカリフォルニア州が誇っていた高度な教育制度もハイテク分野での優秀な研究拠点を生み出すのに一役買っていた様です。

こうした大学側の改革や研究機関の集積によって、シリコンバレーにはスタートアップを基点とした経済活動の密集地帯が生まれていく事になりますが、必然的にスタートアップへの投資を目的とするベンチャーキャピタルもシリコンバレーに注目。ひとたび拠点が置かれ始めると、その数は一気に増えていったのでした。

以上がシリコンバレー勃興における大学が果たした役割ですが、大学だけでは「聖地」と呼ばれるまでには行かなったでしょう。次回はあとの2つの要因となった

②ハイテク業界の発展を後押しした政府の軍事支出
③地域特有の文化的、法的、物理的な環境

について整理していきたいと思います。

List    投稿者 ko-yugo | 2023-02-23 | Posted in 05.瓦解する基軸通貨No Comments » 

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