イギリスのEU離脱。離脱協定を無効にできる法案イギリスで成立、コロナと合意なき離脱でヨーロッパ経済は壊滅するか
前回は、「イギリスのEU離脱、貿易協定の合意ができず大混乱に至る可能性も」とお伝えしました。今の社会全体の動きを考えると、世界秩序の混乱が意図的に仕組まれている可能性が高く、イギリス・EUの貿易協定は合意に至らない可能性もありそうですと分析しました。イギリス国会で離脱協定を無効化できる法案が成立し、いよいよ合意に至らない可能性が高まってきました。
イギリスのジョンソン首相は、9月7日にFTAをめぐり10月15日が交渉期限と宣言したうえで、9月9日にはイギリスの国内法で離脱協定を変更できる法案を検討すると宣言。当然EUは反発し、貿易交渉は暗礁に乗り上げます。イギリス国内でも、メージャー元首相、ブレア元首相、ブラウン元首相、キャメロン元首相、メイ前首相もそれぞれメディアに登場し、ジョンソン政権の姿勢に懸念を表明。存命中の首相経験者5人全員がジョンソン内閣を批判したにもかかわらず、イギリス議会は9月29日にこの法案を賛成多数で成立させてしまいました。これを受けてEUは法的措置を開始しました。
ジョンソン首相が宣言したFTAの交渉期限まで2週間しかないこの時期に、EUを激怒させる法案を成立させた訳ですから、これは交渉術の範囲を超えています。交渉を成立させる気がジョンソン首相にはないと考えたほうが良さそうです。
コロナによる経済低迷が続いている中で、イギリスが合意なき離脱を行えば、ヨーロッパの経済は壊滅的な打撃を受けることになりそうです。経済の混乱は全ての人がそれで損害を負うわけではなく、この混乱を仕掛けた勢力は混乱に乗じて一気に世界経済を支配することも可能です。イギリスのジョンソン首相はそうした勢力にイギリスの再興ができると騙されて、破滅の道を歩んでいるのかもしれません。
■ジョンソン英首相、EUとのFTAめぐり10月15日が交渉期限2020年9月8日
英国のボリス・ジョンソン首相は9月7日、難航する英国とEUの将来関係交渉について声明を発表。冒頭で8日からのロンドンでの交渉第8ラウンド開始を念頭に、「EUとの交渉は最終局面に入った」とコメント。「2020年末までに施行するならば、10月15日の欧州理事会までに欧州の友人との協定(の妥結)が必要」と交渉期限を示した。その上で「それまでに合意できなければ、両者間に自由貿易協定(FTA)は成立せず、われわれはこれを受け入れて前進すべきだ」と述べ、10月半ばで交渉を打ち切る考えを明らかにした。
ジョンソン首相は声明で、今回示した期限までに交渉が妥結しない場合、両者の通商関係は「オーストラリア型」、すなわち英・EU間にFTAのないWTOルールに基づく関係になるとコメント。それが最初から英国にとって「良い結果」になると述べてきたと言い切った。
■英政府、ブレグジット協定を変更の方針 国際法違反の可能性と閣僚が答弁2020年9月9日
イギリスのジョンソン政権は欧州連合(EU)と昨年合意した離脱協定の一部を変更する方針を示している。これについて閣僚の1人が下院で8日、そうすれば「限定的な形」で「国際法に違反」する可能性があると認めた。
英首相官邸は7日、新しいイギリス国内市場法案を近く提出すると明らかにした。この法案が、ブレグジット(イギリスのEU離脱)後の北アイルランドでの関税や通商のルールに影響する可能性があるという。首相官邸は、「きわめて限定的な分野で、細かい内容を明確にする」だけだと説明している。
ルイス担当相は、「この法案は確かに、きわめて特定的で限定された形で、国際法に違反する」と答弁した。ルイス氏は、北アイルランドの貿易について今なおイギリスは「誠実に」EUと交渉を続けているものの、「状況が変化すればイギリスも諸外国も、国際法上の義務を検討し直さなくてはならない。これには明確な前例がある」と述べた。
ジョンソン首相は7日、欧州理事会が10月15日に開かれるまでに通商協定がまとまっていなければ、イギリスもEUも通商協定はないものと受け入れて、「次の段階へ進む」べきだと話している。
■EU、イギリスの離脱協定変更法案に反発 9月末までの撤回を要求2020年9月11日
イギリス政府は9日、新しい国内市場法案を提出。1月に調印した離脱協定の一部を変更する内容となっている。離脱協定はブレグジット(イギリスのEU離脱)時点で国際法となっているため、この法案を可決するとイギリスは国際法に違反することになると、EUは反発している。EUは、この法案が「信用を著しく損なう」もので、もしイギリスがこの法案を通せば法的措置も「いとわない」としている。
法案では、北アイルランドとブリテン島の間に新たな検査を設置しないと記されている。この法案が可決すれば、イギリスとEUが独自の通商協定を結べなかった場合に適用されるWTOの通商ルールに、イギリスが一方的に修正を加えたり、「非適用」を決められる。
法案が提出された直後、イギリスのマイケル・ゴーヴ内閣府担当閣外相は欧州委員会のマロシュ・シェフチョビッチ副委員長と緊急会談を行った。この会談後に発表した声明でEUは、離脱協定には法的な責務が伴っていると強い語調で警告。「EUもイギリスも、この協定について一方的に変更、修正、意訳、無視、非適用を決めることはできない」と指摘した。
■貿易交渉、風前のともしび 信頼関係にひび―英EU2020年9月12日
英国と欧州連合(EU)の自由貿易協定(FTA)締結交渉は、「最終局面」(ジョンソン英首相)の第8回会合でも進展がなく、行き詰まりを打開できなかった。「見解の相違は依然大きい」「大きな違いが残っている」。会合終了を受けて10日に発表されたフロスト英首席交渉官とバルニエEU首席交渉官の声明は、妥結のめどがつかないという認識で一致した。
加えて、1月末に発効した国際条約「離脱協定」の主要部分をほごにしようとする英政府の法案が議会に提出され、英EU関係は英国のEU離脱が決まった2016年の英国民投票以降、最悪の状態となった。
交渉が決裂すると、英EU間の人やモノの流れに支障を来す恐れがある。離脱後も英国をEU加盟国並みに扱う「移行期間」は年末で終了し、英国の経済・社会制度は一変するからだ。 バルニエ氏は声明で「あらゆるシナリオへの準備を強化していく」と説明。旅客機の運航がまひしたり、英仏海峡の両岸でトラックの大渋滞が発生したりする事態に万全を期すと訴えた。
■英とEUの自動車業界が緊急声明 自由貿易協定の締結求める2020年9月14日
イギリスのジョンソン政権がEU=ヨーロッパ連合と合意した離脱の取り決めをほごにする法案を提出し、期限が迫る自由貿易協定の締結が危機的な状況になっていることを受け、イギリスとEU各国の自動車の業界団体は共同で緊急の声明を出し、協定なしでは双方の業界が壊滅的な打撃を受けるとして早期の締結を訴えました。
イギリスとEU各国の自動車の業界団体は14日、共同で緊急の声明を出し、協定のないまま移行期間が終了すれば、自動車に新たに10%の関税がかかるようになって需要の落ち込みを招き、業界全体の損失は今後5年間で1100億ユーロ(日本円で13兆円)を超えると訴えました。そのうえで、協定なしでは、新型コロナウイルスの影響で業績が落ち込んでいる双方の業界がさらに打撃を受けることになるとして、自由貿易協定の早期の締結を求めています。
■英国ジョンソン首相の暴挙…EUが激怒した国内市場法案の中身2020年9月22日
「合意なき」離脱への恐ろしいカウントダウンが再度始まったか。英国ジョンソン首相が提出した「国内市場法案」をめぐり、国内・欧州全体が紛糾している。欧州連合と英国の間で締結された離脱協定とは異なる内容の法案をEUは強く非難、法的措置も辞さない考えを示した。
この法案は、北アイルランドと英国本土との貿易に関する税関手続きを免除する規定や、「合意なき」離脱となった場合に北アイルランドに輸入される物品が関税対象かどうかを判断する権限が、英国の政務担当者にあるとの規定を含んでいる。これらの手続き規定は、欧州連合と英国の間で締結された離脱協定の基本内容と相反すると考えられる。
しかし、ジョンソン首相は欧州委員会の批判に耳を貸さず、英政府として要求を拒否した。バルニエEU首席交渉官も、英国との交渉はまったく進展しないと述べて、さじを投げた格好になってしまった。
英国内でも、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。メージャー元首相とブレア元首相は、13日に日曜紙サンデー・タイムズに連名で寄稿し、ジョンソン首相の提案は「英政府の名誉を傷つけ、国に恥をかかせる」ものと指摘したうえで、「法案は英国が批准した離脱協定に違反し、議会が可決した法を覆すもの」と批判した。ブラウン元首相、キャメロン元首相、メイ前首相もそれぞれメディアに登場し、ジョンソン政権の姿勢に懸念を表明した。存命中の首相経験者5人全員がジョンソン内閣を批判する異例の混乱ぶりとなった。
新型コロナウイルスの感染拡大による影響に加えてFTAが締結されないとなれば「自動車業界は二重の打撃を受け、大ダメージを受けることになる」と述べた。早期の交渉妥結は欠かせないというのに、ジョンソン首相の戦略は英国及び欧州連合の経済をリスクに晒していることになる。ジョンソン首相のやり方は、交渉術としては、なかなかのものだが、離脱期限の延期を繰り返してきた綱渡りのやり方は、そろそろ限界に来ているように感じる。
■EU離脱協定 一部の無視可能に? 英下院で法案可決2020年9月30日
昨年イギリス政府がEUと合意した離脱協定では、北アイルランドとイギリス本島との間でモノを移動させる場合、一定の通関手続きが必要だと定められていますが、国内市場法案では、こうした取り決めの無視を可能にする条項が盛り込まれています。
これにEUは反発し、与党保守党からも「国際条約である離脱協定を国内法で上書きするものだ」と批判が出ていました。政府は、実際に離脱協定に反する措置をとる場合、議会で採決にかけるとの妥協案を提示。法案は29日、下院で賛成340、反対256で可決されました。
■EU、英への法的措置開始 離脱協定骨抜き法案巡り2020年10月1日
EUの執行機関である欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、同法案を巡りEUが離脱協定の条項にのっとり英国に正式通知の書簡を送ったと表明。英国は、この書簡に1カ月以内に返答する必要がある。欧州委は、英国からの返答を検討し、満足できる内容なら英国に協定の順守を要求し、満足できなければ欧州司法裁判所に提訴できる。英側に多額の罰金が科せられる可能性もあるが、決着には数年かかるとみられる。
EU側は、英国が離脱協定を骨抜きにしようとする限り、通商分野などで合意できないと強調。バルニエ首席交渉官は「それがEUと英国の長い交渉の結果だ」とし、北アイルランド紛争を終結させるため結ばれたベルファスト合意(グッドフライデー合意)を守る唯一の方法だとツイッターに投稿した。
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