反グローバリズムの潮流(移民問題でドイツ政権は崩壊の危機)
日本ではあまり報道されていませんでしたが、ドイツは移民問題で政権崩壊の危機を迎えていました。メルケル首相は、連立政権のCSU党首のゼーホーファー内相との協議で7月4日に何とか合意に至り、政権崩壊の危機を回避しました。何が問題で、どうやって解決したのでしょうか。
ドイツ政権崩壊の危機、その発端はメルケル首相の連立相手のCSU党首、ゼーホーファー内相が国境で移民を追い返す権限を警察に与えると主張した事でした。人権派のメルケル首相はこれを拒否しますが、連立解消の脅しを受け、EU全域で「移民を最初に登録した国に送り返す」ことができるようまとめ上げると約束させられてしまうのです。
ところで「最初に登録した国」は最初に上陸する国になるので地中海沿いの南欧諸国、具体的にはギリシャと極右政権が誕生したばかりのイタリアであり、これらの国々からするとたまたま海に近いからといって移民をドイツから送り返されるなどたまったものではありません。EUでも簡単に合意されるわけがありません。
この問題と並行して進んでいたのがEU改革で、ここでは南北格差解消のために数兆円規模の投資予算を確保する事、金融危機に対応する欧州版国際通貨基金(IMF)の創設などです。
これを受けて、ドイツに恩を売っておけば、優先的に資金を提供してもらえると判断したスペインとギリシャがドイツからの難民返還を受け入れることを表明、それには反対しているイタリアも、EU全体で難民の受け入れ施設をつくることには合意し、何とかEUでの移民問題もまとめることが出来ました。
今回は、下手をすればEUの移民政策が合意できず、ドイツ政権が破綻し、EU全体の統合が揺らぐと言う所まで事態が悪化する可能性もありました。メルケル首相はこの危機を何とか切り抜けることは出来ましたが、アメリカとの貿易摩擦の問題や、イギリスのEU離脱まで1年を切るなど、次々と問題が発生しており、綱渡り状態が続くことには変わりがありません。
ドイツのメルケル首相は19日のビデオ談話で、近く行う中国訪問への大きな期待と、中国と共に多国間主義を強化し、重要な議題について意見交換したい考えを表明した。メルケル首相は「ドイツは中国と共に多国間主義を強化することを望んでいる。独中両国はG20体制で緊密な協力を行い、共通の議題について議論してきた。今回の訪中で、ドイツは中国と二国間関係、経済情勢、貿易などについて対話する」とした。
■メルケル独首相、イタリア債務削減を否定 「自助努力を支援」2018年6月4日
イタリアの大衆迎合主義(ポピュリズム)政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」が2500億ユーロ(2960億ドル)の債務削減を欧州中央銀行(ECB)に求めることを計画していたと報じられたことについて、同紙の質問に答えた。首相は、ユーロ加盟国の結束は重要だが、債務を共有する連合になるべきではないと強調。加盟各国の自助努力を助ける存在であるべきだとの見方を示した。
欧州連合(EU)改革で沈黙を守ってきたドイツのメルケル首相が独自案を示した。ユーロ圏経済の南北格差の解消を目指す数兆円規模の投資予算、危機に対応する欧州版国際通貨基金(IMF)の創設、国境警備の強化の3つが柱だ。背景には、欧州への不法移民の大量流入や、域内の経済格差拡大で台頭するポピュリズム(大衆迎合主義)勢力への危機感がある。
ドイツでもCSU出身のゼーホーファー内相が「すでに他のEU加盟国で難民申請が登録された人を国境で追い返す権限をドイツの警察に与えたい」としたが、欧州で難民・移民に対して最も理想主義で無原則である政治家の一人でもあるメルケル首相はこれを拒否し、首相・内相間の争いとなった。
結局メルケル側が折れて期限を決めてEU全域で「移民を最初に登録した国に送り返す」ことができるようまとめ上げると約束することになった。ところで「最初に登録した国」は最初に上陸する国になるので地中海沿いの南欧諸国、具体的にはギリシャと極右政権が誕生したばかりのイタリアであり、これらの国々からするとたまたま海に近いからといって移民をドイツから送り返されるなどたまったものではない。
■独仏首脳、ユーロ圏予算創設で一致=EU首脳会議に提案へ2018年6月20日
ドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領は19日、ベルリン近郊で会談し、ユーロ圏の共通予算創設を含めた欧州連合(EU)の改革案に合意した。2021年までの予算実現を目指し、28、29両日に開かれるEU首脳会議に提案する。欧州経済の両輪である独仏の合意で、欧州の財政統合の強化で不可欠となる共通予算の実現が近づいた。
共通予算は、ギリシャの財政難に端を発し、ユーロ圏全体に広まった危機を教訓に、マクロン大統領が創設を提案。各国が資金を拠出して域内の共通予算として確保することを目指している。ドイツの負担増大への懸念から共通予算に慎重だったメルケル首相も「投資を増やす用途に使えるよう努力する」と、前向きな姿勢を示した。
■メルケル首相、移民巡る与党内の対立収束できず-EU会合で打開探る 2018年6月28日
ドイツのメルケル首相は移民政策を巡る連立与党内の衝突を解決できずにいる。キリスト教社会同盟(CSU)が国境管理の厳格化を要求、その期限が今週末に迫る中で、首相に対する圧力が強まっている。首相は28日の欧州連合(EU)首脳会議で、自ら練り上げたEU域外との国境管理強化策について他国首脳に支持を呼び掛ける考えだが、長く維持してきたCSUとの連携は崩壊の危機にひんしている。
欧州連合(EU)首脳が29日、移民・難民問題で合意したことは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相の政治家として最も厳しい闘いにつかの間の休息をもたらしたようだ。
EU首脳は9時間にわたる議論の末、地中海で救助された移民・難民の一部の行き先を分担することで合意した。これにより、イタリアをはじめとする地中海に面した国々を支援することになる。
同時に、地中海で救助された移民・難民の大半が送り返される北アフリカ諸国に一時的な収容施設を開設することを目指すとした。「上陸プラットフォーム」と呼ばれるこの施設は、国際連合(UN)機関と共同で運営され、本国への帰還または欧州諸国での定住までの間、人道的環境を確保する。
■メルケル首相「ドイツに入国した難民・移民は送り返す!」2018年06月30日
ドイツのメルケル首相は29日、ギリシャとスペインからドイツに入国した難民や移民を送り返すことで両国と合意したことを明らかにしました。ドイツでは、難民の受け入れをめぐって連立政権の中で対立が激化し、政権が崩壊するおそれも指摘されていましたが、EU=ヨーロッパ連合の首脳会議を含めた一連の合意によって、危機はひとまず回避されるという見方が強まっています。
■メルケル独連立政権が難民政策巡る対立解消-内相留任へ 2018年7月3日
CSU党首のゼーホーファー内相はベルリンでメルケル首相と4時間余りにわたり協議した後、同首相およびキリスト教民主同盟(CDU)と「明確な合意に達した」と述べた。ゼーホーファー氏は1日に辞任の意向を示していたが、2日の首相との会談後、内相のポストにとどまると表明した。
■ドイツと中国の首相、自由貿易システム維持で連携2018年7月10日
ドイツのメルケル首相と同国を訪問した中国の李克強首相が9日、会談を開き、200億ユーロ(235億1000万ドル)規模の取引で合意した。両首脳は米国との貿易戦争が本格化する中、多国間の貿易秩序に関与していく姿勢を強調した。
欧州連合(EU)と中国は今月16、17日に北京で首脳会議を開く。メルケル氏は首脳会議について、投資の保護のほか、世界的な貿易紛争の拡大防止につながるよう求めると述べた。
李氏は、中国が海外からの投資にさらなる門戸を開くと表明。保険や債券市場を海外投資家に開放する用意があるとし、ドイツ企業が中国で事業を行うに当たり自社技術を失うと懸念する必要がないよう、知的財産権の保護を保証するとした。メルケル氏は、中国金融市場の開放を歓迎したが、一段の取り組みも求めた。
■メルケル独首相、中国開放路線を称賛 米とは一線画す協調姿勢示す2018年7月11日
ドイツのメルケル首相は9日、訪独した中国の李克強首相とベルリンで会談した。メルケル首相は、中国が進める外国からの投資への開放路線を称賛し、両国と米国との関係に重くのしかかる貿易摩擦とは一線を画する協調姿勢を示した。
李首相は、ルールに基づく国際貿易を守ろうとするメルケル首相の協力者だと自らをアピールし、トランプ米大統領が離脱を表明したイランとの核合意を維持する考えでもメルケル氏と一致した。
■ドイツ、メルケル政権が崩壊の危機……。それを救ったのは意外な2国 2018年7月12日
EUに君臨する女王、メルケルの牙城がついに崩れるか!?という危機が迫っていたが、メルケルが巧みな戦略でそれを見事に回避した。70年続いているドイツのキリスト教民主同盟(CDU)とキリスト教社会同盟(CSU)の連携が難民問題で崩れる可能性が生まれていたが、7月1日の夜CSUのゼーホーファー党首兼内相はメルケル首相との協議で合意に至ったと発表したのだ。
極右派政党ドイツの為の選択肢(AfD)への支持が急激に伸び、CSUの党首ゼーホーファーが焦りを感じて、メルケル首相に難民を直ぐにでも強制送還させることができるようにすることを要求。メルケルがそれを受け入れない場合はCSUはCDUとの連携を破棄する用意があるとメルケル首相に迫っていたのである。
この要求に対し、メルケルはドイツとオーストリアの国境近くに「難民を収容する施設を設ける」ということを条件にして合意に持ち込んだ。
この合意に至る下地を最初に作ってあげたのがスペインとギリシャだったのだ。スペインの新政権であるサンチェス首相とギリシャのチプラス首相が、ドイツからの難民、すなわち、スペイン又はギリシャに入国してドイツに向かった難民の送還を受け入れることをメルケル首相に伝えたのである。
スペインとギリシャの率先した姿勢を後から追うようにベルギー、デンマーク、エストニア、フランス、フィンランド、ハンガリー、レトニア、リトアニア、ルクセンブルグ、オランダ、ポーランド、ポルトガル、チェコ、スウェーデンの14か国が追随して、メルケル首相が要請しているドイツからの難民の送還の受け入れを受諾したのである。その後、チェコ、ハンガリー、ポーランドは当初の態度を翻し、「合意はしていない」という声明を発表した。
一方、イタリアとオーストリアはこの受け入れを拒否したままである。
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