反グローバリズムの潮流(ドイツ総選挙、メルケル首相は連立協議に失敗、再選挙の可能性も)
9月24日のドイツ総選挙で過去最低の結果ながら辛くも勝利した(詳しくはこちら)メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)ですが、それまで連立を組んでいた第2会派の社会民主党から連立を断られ、左派系環境政党・緑の党と中道の自由民主党(FDP)と連立協議を行いましたが決裂。改めて、社会民主党との連立協議に入りましたが連立が成立するか不透明な状況が続いています。選挙後2カ月以上たちながら、いまだに政権を発足させることができず、再選挙に突入する可能性も出てきました。あれほど強いと言われていたメルケル政権がなぜここまで混迷しているのでしょうか。
緑の党・自由民主党との連立協議が上手く行かなかった理由は、大きく三つあります。一つが移民問題で、緑の党は難民家族の受け入れを主張しましたが、移民問題で大きく議席を減らしたメルケル首相は妥協できませんでした。
二つ目が石炭火力発電で、石炭火力の廃止を求める環境保護政党である緑の党に、経済界寄りで企業の競争力低下を懸念する自民党は対立しました。
三つ目がEUの問題で、マクロン仏大統領が提案するユーロ共通予算、ユーロ財務省などユーロ改革での食い違いは鮮明でした。とくに自民党はマクロン流の財政統合に強く反発し、EU統合を推し進める立場の緑の党との差はぬぐいがたいものがありました。
マスコミではEUの問題はあまり報道されていませんが、国際ジャーナリストの木村正人氏は次のように指摘しています。
「EUは世界金融危機のあと大きく開いた富者と貧者の二極構造の中で、経済的強者をさらにリッチにさせるだけの巨大システムとみなされるようになってしまったのだ。
「社会保障や教育を犠牲にした巨大バンクの救済。資産バブルを生み出した量的緩和。グローバル企業の悪質な租税回避を助長しているのはEU加盟国の銀行や弁護士、公認会計士なのだ。極めつけが、世界金融危機と欧州債務危機の際、欧州委員長を務めたジョゼ・マヌエル・バローゾ氏の米ゴールドマン・サックスへの天下りである。EUとは一事が万事この調子なのだ。」
「政治家もEU官僚も、庶民がどんなに苦しもうと何一つ困らない。EUというネオリベラリズムを極端にしたシステムの中でますます権力を強大化させているのだ。」
これまでのマスコミの論調は、メルケル首相が移民規制に消極的だったために敗北したと言うのがほとんどでしたが、移民規制に舵を切ったにもかかわらず総選挙で大きく議席を減らしたと言うのが真相です。やっとマスコミでも本当の原因であるEUの問題点がクローズアップされてきたようです。
ドイツのメルケル首相は7日、東部ドレスデンで開かれた所属国政会派・キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)のイベントで、4期目を目指し左派系環境政党・緑の党と中道の自由民主党(FDP)と連立協議を開始する意向を表明した。
これまで国政でこの3会派による連立はなく、自動車業界への規制を求める緑の党と業界寄りのFDPでは経済政策が大きく異なる。また、難民問題で新興右派「ドイツのための選択肢」(AfD)に保守票を奪われたCSUは「難民受け入れの上限設定」を改めて求めており、これを拒否するメルケル氏と対立している。協議は難航する見通しで、年内に新政権が発足するかは不明。
■ドイツの連立交渉が暗礁に、メルケル首相に試練2017年11月17日
ドイツのメルケル首相は17日、4期目に向け困難な局面に差し掛かった。キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、自由民主党(FDP)、緑の党が連立交渉で自ら設定した期限を過ぎたものの、主要な政策を巡り折り合いをつけられなかった。
■ドイツ連立協議決裂、FDPが撤退 メルケル氏の4期目続投に暗雲2017年11月20日
ドイツのメルケル首相が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、自由民主党(FDP)、緑の党による連立協議が19日、決裂した。企業寄りのFDPが、妥協できない意見の相違を理由に協議から撤退した。FDPは、移民・難民や環境など主要な政策で妥協点を見いだせなかったと主張。これにより、メルケル首相が緑の党と少数与党政権の樹立を目指すか、新たな選挙が実施されることになる。
再選挙となれば9月の選挙で国政に初進出した極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」がさらに得票率を伸ばす可能性もあるため、CDU・CSUなどはこれを回避したい考え。
■メルケル独首相の窮地で揺らぐ欧州と世界2017年11月22日
欧州連合(EU)の盟主であるドイツの政治空白が長期化するのは避けられない。それはマクロン仏大統領と組んだ独仏連携による欧州統合に響くだろう。英国のEU離脱交渉にも影響は必至である。さらに、トランプ米大統領による「米国第一主義」で揺らぐ世界を一層、混迷させる恐れがある。
環境政党の緑の党と経済界寄りの自民党の差はあまりに大きかった。石炭火力の廃止を求める緑の党に、企業の競争力低下を懸念する自民党は対立した。難民受け入れでも、難民家族の受け入れを主張する緑の党と、それに慎重な与党キリスト教民主・社会同盟と自民党のズレは大きかった。
マクロン仏大統領が提案するユーロ共通予算、ユーロ財務省などユーロ改革での食い違いは鮮明だった。とくに自民党はマクロン流の財政統合に強く反発した。EU統合を推し進める立場の緑の党との差はぬぐいがたいものがあった。
社民党出身のシュタインマイヤー大統領は、各党に連立協議を呼び掛けたが、連立の再協議は極めてむずかしいだろう。まず、総選挙で台頭した極右「ドイツのための選択肢」(AfD)と旧東独共産党の流れをくむ左派党は連立相手にはなりえない。これまでの大連立の結果、支持を大幅に失った社民党のシュルツ党首は改めて「大連立はありえない」と強調している。
メルケル首相自身、「少数与党になるくらいなら、再選挙を」と述べているが、再選挙しても、メルケル陣営が勝利する保証はない。それどころか極右勢力のさらなる伸長に手を貸す結果にもなりかねない。だいいち、再選挙という事態になれば、メルケル首相に変わる「選挙の顔」を求める政治的動きが表面化し、突如、メルケル時代に終止符が打たれる恐れもある。
■ドイツ、大連立政権の継続模索=大統領仲介、再選挙回避目指す2017年11月23日
イツのメルケル首相が主導した第4次政権樹立に向けた3党連立交渉の19日の決裂を受け、第3次政権を担った首相の保守系キリスト教民主・社会同盟と中道左派・社会民主党の二大政党による大連立継続を探る動きが出てきた。再選挙の可能性を意識しつつ、ぎりぎりの駆け引きが続けられる見通しだ。
社民党は過去4年間、連立政権に参加し、影響力の強いメルケル首相の陰に隠れてしまったことで存在感が薄れた。9月の連邦議会(下院)選挙で第2党の座は守ったものの得票率が大幅に下落。この結果を受け、シュルツ党首は党を立て直すため、連立に終止符を打ち、下野することを決断した。
一方、社民党出身のシュタインマイヤー大統領は3党連立交渉の決裂後、「すべての党はもう一度、対応を熟慮すべきだ」と訴えた。23日にはシュルツ党首と会談。再選挙を回避し、政治を安定させるため、大連立継続を考えるよう促したとみられる。社民党議員からは党首が打ち出した大連立拒否方針に反発する声も出ており、今後、党内議論が活発化するとみられる。
■大連立継続「党員が判断」=社民党首、態度を軟化-独次期政権2017年11月24日
難航中のドイツの連立交渉をめぐり、連邦議会(下院)第2党の中道左派・社会民主党のシュルツ党首は24日、記者会見し、メルケル首相率いる保守系のキリスト教民主・社会同盟との二大政党による大連立継続の是非について、党員の判断を尊重する考えを示した。シュルツ氏は9月の下院選での社民党大敗を受け、党の立て直しを図るため、下野する方針を固めていたが、態度を軟化させた。政権樹立へ他党と「率直に」議論すると述べた。社民党内には大連立継続を視野に入れた動きが出始めている。
■メルケル独首相、SPDとの連立協議を歓迎2017年11月27日
ドイツのメルケル首相は25日、第2党のドイツ社会民主党(SPD)と連立協議を行う見通しなったことを歓迎する姿勢を示し、これまでの大連立はうまく機能してきたと強調した。
首相はドイツ北部で行ったキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の会合で、「欧州には強いドイツが必要だ。早期に政権を樹立することが望ましい」と述べ、「有権者に再び投票してもらうことは完全に誤っている」との見方を示した。20日の時点では、少数政権より再選挙のほうが望ましいと述べていた。
ただ、移民受け入れなどを巡る双方の立場の違いから、協議は難航する可能性もある。SPDのシュルツ党首は、結果が自動的に決まっているわけではないとくぎを刺し、党員による投票によって決定する考えを示している。
■ドイツ「大連立」交渉が破綻すればEUのカオスが始まる2017年11月27日
9月のドイツ連邦議会選挙から2カ月余が経ち、キリスト教民主同盟(CDU)のアンゲラ・メルケル首相と社会民主党(SPD)のマルティン・シュルツ党首が3度目の「大連立」を組むか否かの交渉に入る。下手をすると解散・総選挙という事態に追い込まれるかもしれない。
議席数だけを見れば、もともと大連立の継続がメルケル首相にも、ドイツにも、そして欧州連合(EU)にとっても最も望ましい選択肢だ。がしかし、大連立を組むたび社民党は恐ろしいほど票を減らし、9月の連邦議会選挙では史上最低の得票率20.5%まで落ち込んだ。
オランダ総選挙とフランス大統領選でEU崩壊を目論む極右政党を抑え込み、「EU防衛戦争」の勝利は確実になったかに見えたのだが、肝心要のドイツが足をとられた。「EUの女帝」とまで呼ばれるメルケル首相の終わりが始まるのか。
EUは世界金融危機のあと大きく開いた富者と貧者の二極構造の中で、経済的強者をさらにリッチにさせるだけの巨大システムとみなされるようになってしまったのだ。
社会保障や教育を犠牲にした巨大バンクの救済。資産バブルを生み出した量的緩和。グローバル企業の悪質な租税回避を助長しているのはEU加盟国の銀行や弁護士、公認会計士なのだ。極めつけが、世界金融危機と欧州債務危機の際、欧州委員長を務めたジョゼ・マヌエル・バローゾ氏の米ゴールドマン・サックスへの天下りである。EUとは一事が万事この調子なのだ。
それはバローゾ氏の件を見るだけでも明らかだ。メルケル首相にも、シュルツ党首にも、マクロン大統領にも選択肢はない。EUの信頼を取り戻す以外に道はない。
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