2018-05-11

反グローバリズムの潮流(イタリアの反EU政権は連立協議が不調で、再選挙突入か?)

アングル:イタリア政界、新政権樹立へ今後のシナリオ今年の3月4日に行われたイタリアの総選挙、単独政党では第1党になったポピュリズム政党の「五つ星」、4党の提携で最大勢力となった「中道右派連合」ともに、反EUの姿勢を明確にしており、EUの主要国、経済規模で第4位のイタリアで反EU政権が成立するかと注目していましたが、残念ながら連立協議が不調に終わり、再選挙になりそうな様子です。第1党になった五つ星は、ベーシックインカムの導入を公約に掲げていただけに、残念な結果です。これまでの経緯と、今後、どうなるかをまとめました。

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連立協議が上手く行かない一つ目の理由が、イタリアの選挙制度です。今回の総選挙は新選挙法に基づいて行われていますが、この法の特徴が政党連合が認められたことです。事前に提携宣言をすることで、小選挙区では複数政党の中で候補者の一本化が図れる上、比例区についても、単独では最低得票率と定められている3%を確保できない政党も、政党連合によって議席の確保が可能になりました。この法律は「五つ星運動」を実質的に狙い撃ちにしているとみられています。

今回の選挙では、「五つ星運動」が得票率32%で第1党となりましたが、総得票数では政党連合である「中道右派連合」が得票率37%で五つ星を上回っています。ちなみに「中道右派連合」を構成する政党の得票率は、「同盟(旧北部同盟)」18%程度、「フォルツア・イタリア」14%程度、残り2党「イタリアの同胞(FdI)」と「私達とイタリア(NcI)」の得票率は不明。

連立協議で揉めたのは、第1党である「五つ星運動」が首相を出すのか、総得票数で上回る「中道左派連合」が首相を出すのか、どちらが国民の支持を受けたのかという点です。

二つ目が、「五つ星運動」と「フォルツア・イタリア」の仲が悪いことです。「五つ星運動」は既成の政治を批判する政党です。それに対して「フォルツア・イタリア」の党首ベルルスコーニ氏は、イタリア政界のドンで世界有数の資産家、イタリアのメディア王でもあり、汚職や性的スキャンダルなど様々な問題を起こした古いタイプの政治家です。「五つ星運動」の31歳の党首ディマイオ氏からしたら、とても連立を組める相手ではない。

「フォルツア・イタリア」をはずしても「五つ星運動」と残りの政党が組めば過半数を確保できるのですが、「中道左派連合」で最大の得票率だった「同盟(旧北部同盟)」は政党連合を組んだ経緯を重視し、「フォルツア・イタリア」をはずした連立政権は認めないと言う姿勢でした。上院、下院の議長選挙では、「五つ星運動」と「同盟(旧北部同盟)」2党が組んで、それぞれが議長を確保しましたので、2党による連立が期待されたのですが、実現しませんでした。

3点目が、「五つ星運動」と「同盟(旧北部同盟)」の政策の違いです。同盟と五つ星運動は反EUや移民政策では考え方が近いですが、同盟が北部の富裕層が基盤なのに対し、五つ星運動は南部の貧困層の支持が厚く、国内政策をめぐっては違いが際立ちます。「五つ星運動」は貧困層に対する最低限所得保障であるベーシックインカムの導入を提唱して若者の票をかき集めました。イタリア北部の富裕層に溶け込む「同盟」は、累進課税から税率を一律15% にするフラット税の導入を提唱しています。

このまま政権がまとまらないと国政が混乱するために、イタリアのマッタレッラ大統領は今年度予算編成のために大統領が任命する「中立政権」を支持するよう各政党に求めましたが、「五つ星運動」と、「同盟(旧北部同盟)」は、直ちに大統領の提案に反発を表明。早ければ7月にも再選挙が行われる可能性が高まっています。しかし、再選挙をしても状況が変わらない可能性も高く、イタリアの政治的混乱は、まだまだ続くことになりそうです。

一方で、次期総選挙で「五つ星運動」と「同盟(旧北部同盟)」が政党連合を組んで参加することになれば、イタリアに反EU政権が成立することになりそうです。

 

■イタリア政界、新政権樹立へ今後のシナリオ2018年3月15日

中道右派連合の得票率は37%で、単独政党としては反体制政党「五つ星運動」が32%を獲得したが、いずれも過半数を大幅に下回った。このため選挙で惨敗した中道左派の民主党(PD)が政権樹立の鍵を握っている。しかし民主党は連立政権への参加に否定的な上、中道右派最大勢力の「同盟」と五つ星運動にも関係改善の兆しが見えず、政権樹立にはなお数週間かかりそうだ。

次の節目は23日の新議会招集。上下両院の議長が選出され、政党間の連携が浮き彫りになる。五つ星運動と同盟は上下両院で議長ポストを分け合うとの見通しを示している。政治的な解決に至らなかった場合、マッタレッラ大統領はすべての政党から支持を取り付けて、政権運営目標を絞り込んだ、テクノクラートで構成する挙国一致型内閣の成立を目指すだろう。五つ星運動と同盟はこうした動きを支持しない方針を示している。

■伊上下両院「五つ星」と「同盟」が議長分け合う-連立にはなお障害2018年3月26日

五つ星のディマイオ党首と、同盟のサルビーニ書記長は24日の両院議長選出で協力し、中道右派連合を構成するフォルツァ・イタリアを率いるベルルスコーニ元首相および与党・民主党を外すことに成功した。

首相指名を目指す者は議会の過半数の支持を得ていると大統領を納得させる必要がある。24日の議長選出投票では、ディマイオ党首とサルビーニ書記長の合意に基づき、五つ星が下院議長、中道右派連合が上院議長を分け合うことが決まった。他の欧州連合(EU)加盟国や投資家を不安にさせる五つ星と同盟の連立シナリオは、あり得るが実現は困難と考えられてきたが、今回の協力は両者の連立観測を促す結果となった。

一方、サルビーニ書記長は25日のツイッターで、次期首相を提案すべき勢力は中道右派連合だと述べ、五つ星と連立を組むのは、中道左派の民主党との連携を望んでいるベルルスコーニ氏の賛同が得られる場合に限られると主張した。

■イタリア:ベルルスコーニ氏が五つ星含む連立可能性排除せず-関係者2018年3月29日

イタリアのベルルスコーニ元首相は、中道右派陣営と反エスタブリッシュメント(既成勢力)政党「五つ星運動」による連立政権に自身の「フォルツァ・イタリア」が参加する可能性を排除しないが、五つ星のディマイオ党首が首相の座を要求するのをやめることを望んでいる

五つ星はベルルスコーニ氏を腐敗した既成勢力の象徴と見なし批判。一方、ベルルスコーニ氏はディマイオ氏が自身との会談を拒んだことを許しがたいとして態度を変えることを求めている。

■見えない伊新政権、誰が首相になってもEU離れ2018年4月1日

ベルルスコーニ元首相が率いる「フォルツア・イタリア」を含む右派連合が最大の得票率となる37%を獲得した。ただ「フォルツア・イタリア」の得票率は14%程度で、反移民政策を掲げる「同盟(旧北部同盟)」が18%程度と右派連合の中で最大の得票を得た。また「五つ星運動」が前回総選挙の25%から今回は33%に得票率を伸ばして、単一政党としては第一党となった。「五つ星運動」「同盟」などのいわゆるポピュリスト政党の得票率が50%を超えたのも今回の特徴である。

同盟と五つ星運動は反EUや移民政策では考え方が近いが、同盟が北部の富裕層が基盤なのに対し、五つ星運動は南部の貧困層の支持が厚く、国内政策をめぐっては違いが際立ちそう。「五つ星運動」は貧困層に対する最低限所得保障であるベーシックインカムの導入を提唱して若者の票をかき集めた。イタリア北部の富裕層に溶け込む「同盟」は、累進課税から税率を一律15% にするフラット税の導入を提唱している。両党とも増税や歳出削減などの財源手当てには全く触れていない。EUは財政赤字をGDP比3%以内に抑えるように定めているが、「(EU規制が)イタリア経済の成長のためにならないのであれば、イタリア国民の役に立つことを行う」(同盟・サルビニ党首)と公然と無視する構えでいる。

EUも「イタリアでどこが与党になっても新政権によるポピュリズムが今年のEUにとって最大のリスク要因である」とみている。

ちなみにOECD諸国の中で国民総生産が2007年末の金融危機前に戻っていないのはイタリアとギリシャ、フィンランド、ポルトガルだけである。従って失業率もピークの13%台から下がったとはいえ、なお10.8%(12月)にとどまっている。労働組合が強くて労働生産性は欧州トップのドイツを10%以上下回っている。昔ならイタリアリラの大幅切り下げで生産性格差は調整されていたが、単一通貨ユーロの下では賃金コストを引き下げる以外に国際競争力を取り戻す手段はない。さらに財政赤字のGDP比も130%と高水準で、これを上回る先進国は日本とギリシャのみである。低成長が持続する中で、不良資産問題も依然として深刻である。

■イタリアのポピュリスト政党接近、首相の座やベルルスコーニ氏が争点2018年4月6日

イタリアのユーロ懐疑派政党、「同盟」と「五つ星運動」は政策上の差異を埋めつつある。同盟のサルビーニ書記長の経済顧問、アルマンド・シリ氏がインタビューで明らかにした。ポピュリスト政党による連立政権の可能性が高まった。

シリ氏によると、中道右派と5つ星の連携にとって最大の障害は引き続き、五つ星のディマイオ党首が首相の座を要求していることと、ベルルスコーニ元首相のフォルツァ・イタリアとの連立を拒否していることだ。

上院議員のシリ氏(46)は「政策について共通の基盤を見いだした。これについては協力が可能だ。ただ、人事の問題でまだ隔たりがある」と述べた。 「ディマイオ氏は首相の座を求めるのをやめる必要があり、ベルルスコーニ氏を拒否することもできない」と語った。

■イタリア右派3党、政権樹立協議に結束して臨む姿勢強調2018年4月9日

イタリアの主要右派政党3党は8日、近く再開する見通しの新政権樹立に向けた協議に結束して臨み、反体制派政党「五つ星運動」が個別に連携を求めても応じない姿勢を示した。

3月4日の総選挙では五つ星運動が単独政党として第1党となった一方、中道右派の「同盟」や「イタリアの同胞」、ベルルスコーニ元首相率いる「フォルツァ・イタリア」などからなる右派連合が最大勢力となった。中道右派連合は次期首相を選出すると主張する構えで、選挙前に合意した減税や不法移民阻止などの公約を尊重する考えを示した。

マッタレッラ大統領は初回協議で、右派3党の党首と個別に会談。サルビーニ氏が最終的にはベルルスコーニ氏との協力関係を解消し、五つ星運動と合意を結ぶとの観測が広がっていた。

■イタリア連立協議、大統領が調停役指名する可能性=関係筋2018年4月12日

関係筋は、各政党がマッタレッラ大統領との協議で予想通り妥協しない姿勢を維持した場合、大統領の次の一手は、調停に向けてより柔軟な非公式協議を行う誰かを指名することかもしれないと語った。大統領は、上下院の議長や憲法裁判所の判事といった重要な機関での職務を担う人物を指名する可能性がある。

五つ星運動のディ・マイオ党首は、独連立政権が結んだような政策合意を同盟か中道左派の民主党(PD)とまとめる案を支持しているが、同盟、PDともこれまでのところ、この提案を拒否している。

■伊連立協議、第2回も成果なく 大統領「こう着打開に数日必要」2018年4月16日

2日間の協議を終えた大統領は13日、連立協議のこう着状態を打開するには「あと数日必要」との考えを示した。

「五つ星運動」は「同盟」との連立に前向きな姿勢を示していたが、「同盟」とともに右派連合を形成するベルルスコーニ元首相率いる「フォルツァ・イタリア」との連携は拒否。一方、「同盟」は「フォルツァ・イタリア」との連携解消を拒否している。

「同盟」のサルビーニ書記長は13日、「フォルツァ・イタリア」と「五つ星運動」に対し、言い争いをやめ、連立で合意するよう要請。国営放送RAIに対し、「このまま政党間の対立が続く場合、選挙のやり直しが最善策になる」と述べた。

■イタリア連立協議難航、ベルルスコーニ氏は五つ星運動との連携否定2018年4月23日

ベルルスコーニ氏は一時、五つ星運動と協力することに何も問題はないと述べていたが、この日「五つ星運動はイタリアにとり危険だ。民主主義のための政党ではない。失業者のための政党だ」と批判。中道右派連合は、中道左派の民主党(PD)との連携を再検討すべきだと語った。

一方、同盟のサルビーニ書記長は、ベルルスコーニ氏を念頭に「仮に誰かが侮辱的な言動で(連合から)離脱して左派の方に向くのであれば、それはその人だけの選択だ」と語った。その上で、民主党に協力を求めることはないと断言した。

五つ星運動は、中道右派連合の「同盟」との連携に前向きだが、ベルルスコーニ氏との協力は否定している。

■イタリア民主党、五つ星運動と連立協議の用意 条件満たせば2018年4月25日

イタリア中道左派の「民主党(PD)」は24日、中道右派との交渉を断つなら、大衆迎合主義(ポピュリズム)政党「五つ星運動」と連立協議を行う用意があると表明した。

五つ星運動は24日、民主党との連立協議を模索する意向を示し、中道右派勢力との追加協議に否定的見解を表明した。

■イタリア「五つ星」党首が首相断念も-連立協議の行き詰まり打開に道2018年5月7日

イタリアの反エスタブリッシュメント(既存勢力)政党「五つ星運動」のディマイオ党首が、右派政党「同盟」(旧北部同盟)のサルビーニ書記長との新政府発足に向けた協議開始に道を開くため、首相ポストの要求を断念する用意があることを示唆した。2カ月続く政治的行き詰まりを打開に導く転機となる可能性がある。3月の総選挙後に絶対多数政党不在の「ハングパーラメント」となった政治状況を打開するため、マッタレッラ大統領が各党の代表と7日に会談する予定。

■イタリア大統領、中立政権を提案 主要政党反発で7月にも再選挙か2018年5月8日

イタリアのマッタレッラ大統領は7日、3回目の連立協議終了後、連立政権の樹立は不可能との見方を示し、大統領が週内に任命する「中立政権」を支持するよう各政党に求めた。だが、3月の総選挙で第1党となった「五つ星運動」と、中道右派連合の「同盟」は、直ちに大統領の提案に反発を表明。早ければ7月にも再選挙が行われる可能性が高まった。中立政権が議会で承認された場合、同政権は2019年予算案を策定した上で12月に辞職する。これにより、来年春にも総選挙が実施される運びとなる。

マッタレッラ大統領はテレビ放送された声明で「政権を完全に信任するかどうか、政党の自由意志に委ねる。信任しなければ、7月か秋に再選挙を行うべきだ」と述べた。また、再選挙を行っても再びいずれの政党も過半数に達しない可能性があると警告し、議会に対し責任を果たすよう訴えた。

五つ星運動のディマイオ党首はツイッターに「『中立政権』は官僚政府と同じことであり、信用できない。7月の選挙を求める」と投稿した。同盟のサルビーニ書記長も「時間は無駄にできない。官僚政府を樹立している余裕はない」との考えを示した。ベルルスコーニ元首相率いる「フォルツァ・イタリア」は、中道右派連合で連携する各党と状況を協議するとした上で、再選挙の時期は7月ではなく秋の方が好ましいとの見方を示した。

List    投稿者 dairinin | 2018-05-11 | Posted in 05.瓦解する基軸通貨No Comments » 

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