2023-03-04

ハイリスクハイリターン文化が生んだベンチャーキャピタル2~スタートアップの聖地、シリコンバレーの勃興2~

ハイリスクハイリターン文化が生んだベンチャーキャピタル2~スタートアップの聖地、シリコンバレーの勃興1~

では、シリコンバレー勃興の要因となった①~➂のうち、
①スタンフォードを中心とする大学の存在について紹介しました。
今回も、ベンチャーキャピタル全史(トム・ニコラス著)を参考に、
②ハイテク業界の発展を後押しした政府の軍事支出
③地域特有の文化的、法的、物理的な環境

について考察していきます。

②軍からの需要拡大

シリコンバレーのエレクトロニクス企業は、その技術力から第二次世界大戦と朝鮮戦争中にアメリカ軍からの注文が殺到し、他地域との差を広げていきます。
加えてシリコンバレーの企業群が他と異なり優れていたのが、安定した軍との契約後もそれに甘んじることなく生産性を高めるため企業努力を継続していた点です。
戦争が収束に向い軍からの発注が少なくなっても、シリコンバレーの企業は製造ラインを変更するなど社内の経営資源を再配分して適応していく事が出来ました。

この適応力の高さは他の地域には見られず、例えばボストンの「ルート128」と呼ばれる地域は自己変革が出来ず廃れていきます。

結果として、アメリカ国内の雇用と生産活動の重心は、急速に西へ移動することになったのでした。

➂シリコンバレーというカルチャー
ここが一番重要だと思いますが、3つ目はカルチャー。

シリコンバレーには、そもそもスタートアップを育む基盤、すなわちスクを奨励し失敗を受け入れる、起業家の可能性を制限するような、年齢や地位、社会的立場による差別が無かった、と言われています。

また、カルチャーとは若干異なりますが、

「私たちはなぜ、この地に引き付けられたのでしょうか?まず、なんといっても気候が世界中でずぬけてすばらしい。いつも天気がよくて、近郊には昔のままの風土がー少なくとも今のところはーそのまま残っているのです。(インテルのロバート・ノイス)」

とあるように、気候が良く働く環境として優れていた、という点も要因として挙げられそうです。
暗くじめじめした所で新しいアイディアが生まれる感じはしないですからね。

さて、このシリコンバレーカルチャーの原点は、1910年代~20年代に流行したハム無線の愛好者グループであると言われています
短波ラジオの愛好者たちは、初期のベイエリアのエレクトロにクス業界に、階級や教育などは全く気にせず、技術上の新しい発見はニューズレターで嬉々として公表されるオープンなカルチャーを作り上げていきました。

この文化が後に新進の起業家たちが「互いに学びあいながら」真新しいキャンバスの上に自分達独自のルールを描くことが出来たのです。

このようなカルチャーをベースに設立されたスタートアップは、非常に民主的で、
例えば、企業名に「平等な人達の団体」を意味する「アソシエイツ」という名前を付け、先進的な企業づくりにチャレンジしたり、ヒューレッド・パッカードの様に、従来の縦割りの企業構造とは異なる分散型の組織構造にチャレンジする企業が現れます。
ヒューレッド・パッカードは、創業者を含む経営幹部が新入りエンジニアと一緒にプロジェクトに取り組んだり、マネジャーたちが社内をうろつきまわったり、ざっくばらんな会話をスタッフとするなど非常にフラットな組織でした。
上が変われば下も変わる。スタッフ側も自分たちのアイディアを主体的に追求する企業風土が作られていきます

制度面でも先進的でした。当時のアメリカの民法は、雇用契約が終了した後の一定期間は、競合会社に移る事が禁止されていましたが、カルフォルニア州は、1872年に民法を改正し、起業をしようとした従業員が元の会社から制約を受けない仕組をつくりだします。

これは他の州とは一線を画す制度で、制度上も起業家が生まれやすいカルチャーを生み出した。と言えるでしょう。

以上、2回にわたって、シリコンバレーがスタートアップの聖地として勃興した要因を整理してきました。

あらためて整理すると、順番がやや変わりますが、

・まずは住みやすい気候とそこから生み出されたオープンなカルチャー。
・それを土台にした新進企業の設立とそれと呼応したスタンフォード大学の諸改革。
・伸長の大きな要因となった軍需産業。

と言った所でしょうか。

アメリカのバクチ文化は良い面も悪い面もあると思いますが、
スタートアップが数多く生まれ、新しいモノを次々と生み出していく。
という位相においてはプラスの面が大きいと思いました。

アメリカを参考にしながらも、日本は日本のカルチャーに合わせたイノベーション、スタートアップの仕組の構築が必要になるのだと思います。

List    投稿者 ko-yugo | 2023-03-04 | Posted in 05.瓦解する基軸通貨No Comments » 

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