2020-07-28

中国の農業:日本をお手本に追いついて、追い越していく勢い

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前回の投稿、中国経済はコロナウイルスから回復に向かっている。」で、中国の農業生産は自給率95%以上を確保していることを紹介しました。中国と言えば世界の工場としての生産力や、ファーウェイのようなハイテク企業が注目されていますが、中国の農業がどうなっているか、あまり報道されていません。最新の中国農業事情を紹介している記事があったので共有します。

 

まず、驚いたのが中国の農業の1戸当たり経営面積が日本の半分以下だったということ。日本が1.77ha2019年)に対して、中国は0.64ha2015年)だそうです。そして、中国の農業も日本同様低迷しており、「三農問題」(1)農業生産の低迷、(2)農家所得増の鈍化、(3)農村の疲弊があるそうです。

しかし、大きく違うのは、中国がこの問題を国家の第一課題に掲げていることです。国土の5割強を占める農地をどう扱うか、14億人をどう養っていくか、都市と農村の格差をどう埋めるかということは、中国にとって最重要課題であり続けています。日本も農業問題に23千億円の予算を投じていますが、中国では15兆円の予算を投じているそうです。

中国では耕地面積の下限を120万平方キロメートル(日本国土の3倍)とし、それを維持するために、レジャー農業、コメの先物市場の導入、スマート農業の拡大に国家をあげて取り組んでいます。中国の農業政策は、農業を稼げる産業にすると言う発想で、日本の農業を手本にしていたところもあったようですが、国家をあげての取り組みで既に日本を追い越しているようです。コメの先物市場は、日本では自民党や農協の反対でいまだに実現していませんが、中国で農家の経営安定化のために先に実現してしまいました。

また、福建省泉州にある1万平米の人工光型植物工場は、2年で初期投資を回収し、利益を生んでいるという。なお、1万平米というのは、当時世界最大級の人工光型植物工場。同社は中国科学院植物研究所とLED光の技術を持つ福建三安グループが2015年に立ち上げた合弁会社で、ラスベガスにも工場を持ち、シンガポールにも工場を建設中で、世界に最新のシステムを輸出するところまで進歩しています。

 

【特集・中国農業のキーワード 第1回】14億の国民を支えるための中国農政の本気度2020.3.23

日本と中国の農業には共通点が多い。日本は一戸当たりの経営面積が狭く、北海道を除いた販売農家の経営耕地面積の平均は1.77ha2019年)。中国はさらに輪をかけて狭く、0.64ha2015年)に過ぎない。

中国には「三農問題」と呼ばれる深刻な課題がある。これは、(1)農業生産の低迷、(2)農家所得増の鈍化、(3)農村の疲弊。巨額の予算を投じることも共通で、日本は2020年度の農林水産関連の通常予算が23109億円と決まったばかり。中国は1兆元(約15兆円。1元=約15円)を超す予算を三農問題の対策に投じるようになって久しい。

中国農政の指針でもっとも有名なのが、「1号文件(文書)」だ。中国共産党中央が毎年年初に出す最初の文書のことで、その年の特に重要な政策決定を示す。このテーマを「農業」が長らく独占している。2004年から農業や農村をテーマにしており、2020年も三農問題が取り上げられた。国土の5割強を占める農地をどう扱うか、14億人をどう養っていくか、都市と農村の格差をどう埋めるかということは、中国にとって最重要課題であり続けている。

中国はしばしば日本農業を手本にしてきた。ただ、政治家と官僚の農政への態度に関してはむしろ、日本が中国に学ぶべきではないだろうか。

【特集・中国農業のキーワード 第2回】日本を手本にした中国版グリーンツーリズム「休閑農業」の現状2020.3.30

中国では、すさまじいスピードで農村の観光開発が進んでいる。農業の景観や資源を使って観光やレジャーを楽しむ「レジャー農業(休閑農業)」が一気に広がっているのだ。都市化が進み、農的な体験を新鮮に感じる都市住民が増えたのも、人気が出た理由の一つ。ただ最大の理由は、官が旗を振っていることにある。その背景には、土地制度の維持という命題があるのだ。

都市化の進む中、多くの優良農地が商業施設や住宅地に転用されてきており、この流れは今後も続く。中国では食料安全保障の観点から、「18億畝(ムー、1畝は666.7平方メートルで、18億畝=120万平方キロメートル)の耕地のレッドライン」という死守すべきラインが設けられている。18億畝というのは、日本の国土面積の軽く3倍はある。

このレッドラインを死守するため、農地の際限のない転用は認められない。しかし、農村部の過疎化、高齢化、貧困は深刻で、農地面積当たりの収益を上げないことには農村を維持できなくなっている。その解決策の一つがレジャーと農業の融合で、農業を稼げる産業にし、農村を維持することなのだ。

【特集・中国農業のキーワード 第3回】コメ先物取引で中国に先を越された日本2020.4.15

「“新潟県産コシヒカリの値段が中国で決まる”なんてことになるんじゃないか」2019年の夏、こんな話が米業界をにぎわせた。国産米には自由市場が存在せず、相場が明らかでない。相場の参考になるのが試験上場中のコメ先物取引で示される価格だ。その本上場が見送られた20198月、中国・大連でジャポニカ米の先物取引が始まった。

コメ先物取引は、江戸時代の1730年、大阪堂島米会所で世界で初めて始まった。将来のある時点でコメを一定の価格で売買する契約を結ぶ仕組みだ。戦前まで続き、一旦廃止され、2011年に72年ぶりに大阪堂島商品取引所で再開された。11年に試験上場として認められてから9年にもなり、本来であれば本上場に切り替えるべきところだ。しかし、JAグループや自民党内の反対などにより、本上場への格上げは進まないままだ。20198月、4度目となる試験上場の延長を農水省が認めた。

大連商品取引所の上場にあたっては、先物取引が生産者と実需の双方に資するリスクヘッジ機能を持ち、経営の安定化につながると強調された。「国家の食料安全保障にかかわる戦略作物であるコメ産業の安定化に欠かせない」と。

【特集・中国農業のキーワード 第4回】中国でスマート農業が急拡大している背景2020.5.11

中国のスマート農業において、特によく使われるものは、多い順に、1.データプラットフォーム、2.ドローン、3.精密な飼育、4.ロボット農機となっている。

1は、農産物の価格変動を抑制するため、品目ごとのビッグデータを集める動きがある。農業者の経営合理化のためのプラットフォームもある。2のドローンで使用面積が多いのは綿花。新疆の散布実績が多い。3は酪農や養豚のデータ収集による管理の精緻化を指す。4はロボットトラクターのほか、国内で開発された自律多機能ロボット「MY DONKEY」のように、1台にさまざまなアタッチメントを付けて運搬や農薬散布などを担わせるものもある。

スマート農業が発展する素地を作ったのは、「農業の構造調整」による規模拡大だ。具体的には、大規模と言えないまでも、家族農業に雇用労働者を加えた中規模の経営体が増えた。また、生産や販売で規模のメリットを発揮できるよう、農業者をまとめる組織「農民専業合作社」ができている。

農作業を請け負う「コントラクター」(contractor)も増えた。コントラクターは、国内だと北海道で普及している農機と人を農家に派遣する組織で、収穫などの繁忙期の作業になくてはならない存在だ。

そして、スマート農業の普及の下地ができつつあったところに、政府の肝いりでさまざまな政策的支援がなされ、資金が投下された。スマート農業は「三農問題」という中国のアキレス腱とも言うべき難題を、緩和し得るからだ。

 

【特集・中国農業のキーワード 第5回】資本力と技術が駆動する中国発のスマート農業2020.6.24

サナン・バイオは人工光型植物工場の福建省発祥のメーカーだ。ラスベガスに7000平方メートルの植物工場を持つ。会社の中国名は福建省中科生物だ。中国に詳しい方なら「中科」の2文字にピンとくるかもしれない。これは、科学技術分野での最高諮問機関である中国科学院を指す。同社は中国科学院植物研究所とLED光の技術を持つ福建三安グループが2015年に立ち上げた合弁会社なのだ。

 

LED光を使った人工光型植物工場で、統合環境制御(=光、温度、湿度、養分、水分、二酸化炭素濃度などさまざまな環境因子を統合的に制御すること)システムを備え、栽培の自動化を進めている。中国で流通の川上から川下まで投資を拡大し地位を高めると同時に、海外に植物工場のシステムと技術面のフォローも含めたパッケージを輸出すると掲げる。

福建省泉州にある16年から稼働する1万平米の植物工場は、2年で初期投資を回収し、利益を生んでいるという。なお、1万平米というのは、当時世界最大級の人工光型植物工場だったそうだ。栽培するのはもともとは葉物野菜だった。今では食べられる花、エディブルフラワーを取り入れる。無農薬で栽培するエディブルフラワーは高級レストランで添え物として使われ、より高値で売れるからだ。シンガポールでは、合弁会社を作って2万平米の巨大な植物工場を建設中だという。

List    投稿者 dairinin | 2020-07-28 | Posted in 05.瓦解する基軸通貨No Comments » 

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