過激化する中国、習近平総書記に何が起こっているのか―2
前回の投稿では、近年、中国の過激化が進んでいること、その原因は国際金融資本の攻撃で中国共産党が崩壊の危機に追い込まれているからではないかと分析しました。かつての日本が、アメリカに次ぐ経済大国に成長しアメリカを追い越すかと思われた、その直後バブル崩壊で日本の主要企業も、国家も完全に世界金融資本に支配されたのと同じような状況です。今回は、もう少し詳しく中国の状況を抑えてみました。
まず、中国国内の状況ですが、習近平総書記が追い詰められているのは、大衆の支持を失っているからではなく、支配階級の中での権力闘争のようです。具体的な動きとしては、李克強首相との路線対立、「太子党」と呼ばれる高級幹部の一部子弟の批判、紅二代(親が革命の功労者)の中に生まれた共産党批判などが見られます。なぜ、習近平は支配階級の中で対立しているのでしょうか。
現在、習近平総書記は双循環という新しい経済目標を掲げています。これは、従来の輸出重視の経済から、輸出と内需を上手く相乗効果を持たせて経済を発展させると言う政策です。その中で重要なのが、土地・居住制度の改革を加速し、消費を圧迫してきた貧富の差の拡大に取り組む、そして巨大国有企業を改革して根深い経済のゆがみを解消し、民間企業が平等に闘える土俵を築くことです。
これは、これまでの中国の経済発展を支えてきた支配階級を解体すると言うことでもあります。解体の対象となる支配階級は、開放改革路線の中で世界経済と密接な関係を持つことで貿易を拡大してきており、世界金融資本とつながっていることは明らかです。世界金融資本は自由経済を通じて中国を資本主義の世界に引き込もうとしていたのだと思われます。中国が経済発展を続けてこられたのも世界金融資本の制御下にあったからでしょう。
しかし、習近平は自由経済の手法ではなく、国家管理経済で世界一の経済大国になろうとしており、それは国際金融資本を敵に回すと同時に、中国国内の自由経済派も敵に回すことになります。いま中国では、自由経済派が国際金融資本と組んで、習近平と権力闘争を繰り広げている。世界から中国を孤立させ、その責任を習近平におわせて失脚させようとしていると思われます。
■習近平vs李克強の権力闘争が始まった2020年08月31日
今年5月28日、全人代が閉幕した日、中国の李克強首相は首相記者会見で「爆弾発言」をした。中国の貧困問題について「今の中国では、6億人が月収1000元前後」と発言したのである。ちなみに「月収1000元」は日本円で約1万5000円、日本の生活保護の基準金額よりもはるかに少ない。この発言には重大な政治的意味合い――事実上、習近平国家主席にケンカを売ったこと――が含まれていた。
習は2015年ごろから「2020年に脱貧困、小康社会の全面的実現」を自らの政権の看板政策として掲げてきた。各地方から相次ぐ「脱貧困報告」に基づき、習政権は2020年の年末に「14億国民全員が脱貧困し全面小康社会が実現された」と誇らかに宣言し、それを習の偉大な業績にする腹積もりだろう。
「中国有史以来の偉業を達成した偉人」となって自らの権威樹立を図る習近平の目論見は、李克強の手によってほぼ完全に打ち壊され、「中国の夢」ならぬ「習近平の夢」の1つはこれで破れたのである。李は上述の数字の披露によって、もう1つの目的も達成している。それは、「李首相こそ国家の実情をしっかりと把握し、本当のことを国民に伝えるまともな政治家」であるとの印象を国民と国際社会に与えたことである。
両者は最初から確執があってライバル意識が強く、信頼関係が全くない。政権が始まった後、習は独裁志向を強め、外交や経済運営などの決定権を首相の李克強からことごと取り上げ、政権内でいわば「李克強封殺」を進めた。それが今年に入ってから突如、君子豹変して習近平にケンカを売るようになった。豹変のきっかけは新型肺炎の感染拡大だろう。1月下旬に武漢が都市封鎖された直後、中央に設置された「疫病対策指導小組(対策本部)」の組長(対策本部長)に国家主席の習近平は就任せず、李克強に押し付けた。李克強は「危急存亡の秋」にもっとも困難な仕事を引き受け、感染拡大中の武漢に入って危機対応に当たった。しかしその後、武漢の感染拡大が治まりかけた時になってようやく、習は「疫病対策はずっと全て自分の直接指揮下にあった」と宣言し、李克強の手柄を横取りしたのである。今の習近平政権が内政と外交の両面でかなりの行き詰まりを見せ、習に取って代わる指導者を求める思いが党内と民間に広がり始めていることも李の豹変の背後にあろう。
■「習近平vs.李克強の権力闘争」という夢物語_その12020年9月1日
李克強は同じ記者会見で「中国の平均年収は3万元だが平均月収が1000元の人が6億人もいる」と発言した。これに対して日本の権力闘争論者たちは、「習近平の了承を得ずに中国の貧困の実情をばらしてしまった。これは貧困脱却を謳っている習近平への重大な反逆だ」と主張している。この主張がいかに事実無根であるかを示そう。
中国の2020年の貧困脱却の基準は、毎年の「平均純収入」が4000人民元以下なので、李克強が言った年収1万2000人民元以下というのは、かなりの収入がある者を指しており、習近平が党の方針として唱えている貧困脱却をかなり達成しているということになる。習近平は一方では発展途上国優遇という特別待遇を維持しようとしているので、この金額が中共中央(習近平)にとってのギリギリの妥協線なのである。
■習近平が大迷走…! いよいよ追い詰められた「中国経済」のヤバい末路2020年9月10日
中国の中長期的経済の方向性を決めるこれら重要な政策について、おそらくキーワードとなるのは「双循環」という概念だろう。国内・国際の二つの循環を新たな発展スキームとするという考えを「双循環」の定義として説明。7月30日の中央政治局会議でも同様の定義が再度強調された。
興味深いのは、「双循環」がどういったものであるかについて、経済を主管するはずの李克強首相の言及がほとんどないことだ。習近平は8月24日の経済社会領域専門家座談会で林毅夫や鄭永年ら中国を代表するトップエコノミストを招集したが、このとき李克強首相は臨席しなかった。この座談会は第14次五か年計画の策定に習近平は李克強をかかわらせないという意思を見せるためのパフォーマンスではないか、といった憶測も一部で出ていた。一般に、李克強は民営経済(特に中小零細企業)重視で改革開放推進派、習近平は「公有制主体は揺るがない」と強調し国有経済重視の計画経済回帰派という正反対の方向性を打ち出しているかのように見えるが、第14次五か年計画に李克強がどれほどかかわるかは、秋の五中全会の注目点の一つでもある。
習近平を核心とする党が経済を含めてすべてをコントロールする、という傲慢さを改めないかぎり、起死回生、というのは困難だろう。
■焦点:中国、内需シフトの改革に期待 次期5カ年計画の軸に2020年9月13日
中国改革派の間では、習近平国家主席が提案した新たな経済モデル「双循環」を契機に、内需振興と構造改革が加速するとの期待が高まっている。習主席が5月に発表した双循環モデルの柱は、国内で生産、分配、消費を循環させる「内需大循環」だ。貿易や資本、投資を対外開放して世界経済との一体化を進める「国際大循環」が、これを補助する形となる。
政府顧問らは、土地・居住制度の改革を加速し、消費を圧迫してきた貧富の差の拡大に取り組むよう提案している。また、巨大国有企業を改革して根深い経済のゆがみを解消し、民間企業が平等に闘える土俵を築くことも、政府顧問らが提唱するポイントだ。
改革は大きな賭けだ。国の所得水準が中間レベルに達した時点で経済が停滞する「中所得国の罠」に陥るのを避けるには、さらなる改革が必要だとエコノミストは指摘する。最先端技術を備えた国々との競争激化と併せ、より労働コストが低い国々との競争が成長の最大の障害だ。
■太子党「第2の新疆」と習氏批判 モンゴル巡り公開書簡2020年9月24日
中国の内モンゴル自治区で少数民族モンゴル族への標準中国語(漢語)教育が強化された問題で、「太子党」と呼ばれる高級幹部の一部子弟らが連名の公開書簡で、習近平国家主席に「第2の新疆ウイグル自治区」になりかねないと政策の見直しを求めたことが、24日までに分かった。習氏自身も元副首相を父に持つ太子党で“身内”から批判が出た格好だ。
■「中国のトランプ」に鉄槌、習近平文革の始まりか2020年9月24日
「中国のトランプ」といわれるほどの遠慮のない発言、放言で知られる、紅二代(親が革命の功労者)の実業家・任志強(じん・しきょう)は、習近平を「裸の皇帝」「道化」などと激しく批判し、宮廷クーデターを煽ったともとれる署名原稿を米国発の華字論文サイトに寄稿したことで、9月22日、懲役18年という重い判決が言い渡された。
任志強は元中央規律検査委員会書記の王岐山の親友という極めて強い政治的バックがあり、これまでは習近平に批判的な態度をとっても党籍剥奪を免れていた。中国政治の人治性を知る人間からすれば、これは相当激しい権力闘争が背景にあったと想像せざるを得ない。
2016年2月に任志強がSNSの「微博」上でつぶやいた批判がきっかけで、習近平の「個人崇拝路線」は挫折した。任志強は、中国メディアで「反党的」と一斉にバッシングされ、そのバッシングは任志強の親友である王岐山にも及んだ。それから4年、任志強は表舞台から身を引いていた。なぜ任志強は再び、習近平を攻撃し始めたのだろうか。
考えられるのは、党内で任志強に同調し、新型コロナ肺炎の蔓延や、中国の国際社会における孤立、経済悪化の責任を習近平に取らせたいと考える勢力が実は想像以上に存在するということ、そしてその勢力には、王岐山以上のかなりの上層権力者が含まれているのではないか、ということである。
中央党校の定年教授の蔡霞は「共産党はゾンビ」「習近平はマフィアのボス」と批判し、党籍をはく奪された。彼女はすでに米国に亡命している。ボイス・オブ・アメリカの取材に「数年前から中国共産党内の紅二代が集まる会食の席では、みな今の共産党政治への反省の話になる。その中には共産党体制に疑問を持つ声もあった」と証言していた。
習近平はこうした紅二代勢力によって、自分が権力の座から追い落されることを極度に恐れている。だからこそ、王滬寧らに命じて任志強を何としても重い判決に処し、紅二代勢力全体に対する委縮効果を狙ったのだろう。
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