2019-07-04

現代貨幣理論(MMT)はベーシックインカムの財源になるか

無題前回の投稿、「ベーシックインカム、今、何故、注目を浴びているのか-2」で、ベーシックインカムの財源として現代貨幣理論MMTが取り上げられていましたので、日本の代表的な研究者として上げられていた、中野剛志氏、朴勝俊氏のMMTに関する説明を調べてみました。従来の経済理論を地動説とすれば天動説と言っていいような発想の転換と説明されていましたが、一読の価値ありです。

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その主要な論点は、自国の貨幣を発行している国は国債をどれだけ発行しても返済不能にはならないと言うものです。これに対して常識的には、どんどん国債を発行し続ければインフレになるという反論が当然出てきます。MMTではこれをどう回避すると言っているのでしょうか。

まず、MMTも国債を過剰に発行すればインフレになることは認めています。その上で、インフレになるまでは財政出動をどんどんすればよい、そしてインフレになった時には増税すれば良いと言うのがその主要な主張です。確かにバブル崩壊後の日本は毎年40兆前後の国債を発行しながらデフレ状態が続いており、ちょっとやそっとではインフレにならない事は確実なので、従来の経済理論よりは進んでいるようにも見えます。

ただ、国債を発行し続ければインフレになるのが確実であれば、それを抑制するために税金を増やし、国債と税金がどんどん膨らんで行く社会と言うのも異常な感じがします。なぜ、このような不自然なシステムになってしまうのか。

MMTの理論には二つの欠陥があると思われます。一つが、国債を発行し続ければインフレになると言う論理を認めている事。毎年40兆円もの国債を発行してデフレと言う日本の現実を見れば、今や日本は国債をどれだけ発行してもインフレにならない時代に突入したと考えるべきでしょう。

前回、ケインズも必要が満たされれば経済の拡大は止まると予測したように、人間の欠乏は無限ではなく限界があり、供給力がそれを上回れば、いくらお金があっても消費は伸びずインフレにはならないのです。

そして、もう一つが政府の支出を金利と返済が発生する国債の発行を前提にしている事。借金と言う古い常識から抜け出せていない。インフレが起こらないのであれば政府紙幣を発行してしまえば良いと言う所まで突き抜けていない。MMTでは貨幣も通貨も政府の債務証書で、政府が貨幣発行権を握っていても、直接の貨幣発行を禁じても、貨幣発行権を持つ中央銀行を独立させても、結果は同じになる、と言う認識までたどり着いていながら、なぜ、国債の発行にとどまって、政府紙幣発行まで突き抜けられないかですが、やはり金融界は金利で設ける金貸しの世界であり、ここを否定しては、自分たちの存立基盤をすべて失う事になりかねないからでしょう。

現代の経済界では確かに、地動説から天動説への転換のような大転換が起こっている。その根本原因は、生産力の上昇で物的な豊かさが実現し、物的欠乏が衰弱した事。だから、インフレは起こらなくなっている。そして、現実の社会では、どんどん金貸しの出番は縮小してきています。遠くない将来にMMTの研究者もこのことに気付き、MMTがさらに進化して、政府紙幣の発行が異端ではなく、真面目に検討される時代が来るのではないでしょうか。

 

■MMTとは何か-L. Randall WrayのModern Money Theoryの要点

貨幣も国債も政府の債務証書である。貨幣の価値は納税義務によって保証されている。

ソブリン国家とは通貨発行権を有する政府の意味であり、ソブリン通貨とはそうした政府が発行した通貨のことである。

国債は、政府から見れば定期的に貨幣で利子を支払い、満期が来た場合に貨幣を返済しなければならないとう意味での債務証書ある。ただし、国債の元本も利子も、貨幣を創ることによっていくらでも、必ず返済できる。MMTの立場から、財政赤字が問題ではないと論じられるのはこのためである。インフレーショは、財政破綻と別問題である。

MMTでは政府が貨幣発行権を握っていても、直接の貨幣発行を禁じても、貨幣発行権を持つ中央銀行を独立させても、結果は同じになると考える。

経済が政府と民間に二分されるとすれば、民間の貯蓄超過(黒字)は政府の財赤字によってしか生じない。すなわち、政府の財政赤字は民間の純貯蓄を意味し、政府の財黒字は民間の純負債の増加を意味する。

ユーロには設計上の欠陥がある。ユーロ加盟国政府は通貨発行権限を欧州中央銀(ECB)に移譲してしまっており 、経済危機が発生したときに金融政策をとることはでない。ユーロ圏内でも貿易収支の赤字国・黒が生じるが、赤字国は輸出振興のため通貨の切り下げもできない。その上、財政ルール(安定成長協定)によって財政赤字を増やすことも禁じられている。それでいて、黒字国から赤字国への財政調整のメカニズムも存在しないのである。ユーロ加盟国政府は(ドイツでさえ)ソブリン政府ではない

税は何のためにあるのか。第1にインフレーショを抑えるため(貨幣価値を維持するため)、第2に所得や富の分配を変えるため。第3に好ましくない行為を抑制するため、第4に特定の公共プログラムの費用を受益者に認識させるためである。

もちろんMMT論者もインフレーショを懸念している。政府にとって財源は問題でないというMMTの主張は、財源を気にせずいくらでも支出すべきだということを意味しない。1970年代以来、変動相場制をとった西側主要国がハイパーインフレに陥った事例はない。金などの裏付けなしに、政府が「キーボド入力」で貨幣を発行することは、それがすなわちハイパンインフレにつながるものではい。

■消費増税も吹っ飛ばす破壊力。「MMT」(現代貨幣理論)の正体

MMTとは、どのような理論なのでしょうか。日本やアメリカやイギリスのように、自国通貨を発行できる政府(正確には、政府と中央銀行)は、デフォルト(債務不履行)しない。だから、アメリカや日本は、財源の心配をせずに、いくらでも、好きなだけ支出ができる。

財務省だって、日本の国債は、自国通貨建てなので、デフォルトしないと言っているのです。ただし、財政支出を拡大し、需要超過になって、インフレになる。

無税国家は不可能です。なぜなら、税金を一切なくして、政府が好きなだけ財政支出をしまくったら、消費や投資が拡大し続け、インフレが止まらなくなって、大変なことになるからです。だから、税金を課して、消費や投資を抑えて、インフレを止めるのです。高所得者により重い所得税を課すと、所得格差を是正できます。温室効果ガスの排出に対して、炭素税を課すと、温室効果ガスを抑制できます。このように、税金は、抑制したいものや減らしたいものに課すことで、経済をうまく調整するのに使うのです。消費税は、何を減らすのでしょうか。消費に税金を課しているのですから、当たり前ですが、消費を減らすことになります。

ところで、日本は二十年もデフレで苦しんでいて、安倍政権はデフレ脱却を掲げています。そうだとしたら、安倍政権は、インフレを実現するために、財政赤字を増やさなきゃ、いけないはずですよね。それなのに、消費増税で財政赤字を減らしたりなんかしたら、どう考えたって、デフレはひどくなるでしょう。

■異端の経済理論「MMT」を恐れてはいけない理由

銀行は預金を元手に貸し出しを行うのではなく、その反対に、銀行による貸し出しが預金を生む。それゆえ、原理的には、銀行は、返済能力のある借り手さえいれば、資金の制約を受けずに、いくらでも貸出しを行うことができてしまう。ただし、銀行は、預金の引き出しに備えるために、預金の一定割合を中央銀行に「準備預金(日本であれば、日銀当座預金)」として預け入れることを法令で義務づけられている。

そして、銀行が貸し出しを増やして預金を増やすと、法令により、準備預金を増やすことが義務づけられているので、準備預金が増えることになる。要するに、銀行の貸し出し(貨幣供給)の増加が、中央銀行の準備預金を増やすのだ。

主流派経済学によれば「ベースマネーの増加→銀行の貸し出し(貨幣供給の増加)」となる。しかし、現代貨幣理論は「銀行の貸し出しの増加→ベースマネーの増加」だと言う。このように、現代貨幣理論と主流派経済学は、まさに、地動説と天動説のように違うのだ。

デフレ下では、企業など借り手に資金需要が乏しい。それゆえ、銀行は貸し出しを増やすことができないので、貨幣供給量は増えないのである。銀行の貸し出しの増加が準備預金を増やすのであって、その逆ではない以上、日銀が量的緩和をやっても、銀行の貸し出しは増えない。黒田日銀の量的緩和政策は、経済学の「天動説」に基づく誤った政策なのだ。

現代貨幣理論は、財政赤字が金利を上昇させるという理論を否定するのである。なぜ、財政赤字を増やしても、金利は上がらないのか。

政府が赤字財政支出をするに当たって国債を発行し、その国債を銀行が購入する場合、銀行は中央銀行に設けられた準備預金を通じて買う。この準備預金は、中央銀行が供給したものであって、銀行が集めた民間預金ではない。そして、政府が財政支出を行うと、支出額と同額の民間預金が生まれる(すなわち、貨幣供給量が増える)のである。貨幣供給量は、量的緩和ではなく、財政赤字の拡大によって増えるのだ。したがって、「財政赤字によって資金が逼迫して金利が上昇する」などということは、起きようがない。

List    投稿者 dairinin | 2019-07-04 | Posted in 05.瓦解する基軸通貨No Comments » 

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