2020-08-28

イギリスのEU離脱、貿易協定の合意ができず大混乱に至る可能性も

_113598500_election_downing_street_gettyimages-1188232541前回は、コロナウイルスの混乱もありEU離脱が暗礁に乗り上げており、アメリカでの人種差別大規模デモ、中国とインドの抗争勃発、北朝鮮のビル爆破など、世界秩序が崩壊に向かっている危機感が高まっていることをお伝えしました。その後イギリスのEU離脱協議に進展があったか調べました。残念ながら進展は見られず残された期間はあと1か月、合意なき離脱に進む可能性が高まっています。

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まず、イギリスのEU離脱に伴う1年間の移行期間ですが、もし延長する場合は6月末までに合意する必要がありました。イギリスはこれを拒否し、移行期間は今年いっぱいで終了することが決定しました。ですから、年内にイギリスとEUで新たな貿易協定が締結されなければ、イギリスとEUの間の貿易は大混乱に陥ることになります。

それを避けるために、協議が続いているわけですが、今のところイギリス・EU共に歩み寄る気配は有りません。12月末に貿易協定を発効させるためには、EU各国の承認期間を考えると9月中に合意し、10月末までに協定案に正式署名することを目指しており、残された期間はあと1か月です。

貿易協定が締結されないことに備えて、ドイツは「貿易協定なしプラン」の立案を進めるべきだと主張、イギリス政府自身も合意なき離脱とコロナウイルスの第2波が重なった場合の非常事態計画を立案していたことが明らかになっています。参考に、イギリス政府の非常事態計画のいくつかを抜粋します。「最悪シナリオに備えて街頭の警察を支援する英軍部隊1500人がすでに待機」、「イングランドでは20に1つの自治体の財政が破綻」、「配水や電気供給が止まる」。このような混乱を受けて、イギリスからEUに脱出する動きも始まっています。

イギリスもEUもぎりぎりまで互いの主張を譲らないものの、期限が来れば混乱を避けるために妥協点を見出すのではないかと、これまでの常識では考えがちですが、今の社会全体の動きを考えると、世界秩序の混乱が意図的に仕組まれている可能性が高く、イギリス・EUの貿易協定は合意に至らない可能性もありそうです。

 

■英EU貿易交渉 独は「貿易協定なしプラン」の立案を求める 2020年7月1日

英国のEU(欧州連合)離脱にともなう新通商協定の交渉(第4ラウンド)が行われました。英国は今回の交渉で大枠合意ができなければ交渉から撤退する姿勢を示していましたが、7、8月に集中的に協議を行うことで決裂が回避されました。また、12月末までの移行期間を延長しないことが確認されました。ドイツは貿易協定が締結されないことに備えて、「貿易協定なしプラン」の立案を進めるべきだと主張しています。

EUは英国以外のカナダなどの第3国との自由貿易協定では、EU基準の採用を厳格に求めておらず、英国は第3国と同様の扱いを求めています。しかし、EUは英国にEU基準(もしくは近い基準)の採用を求めています。

各国議会での承認が必要となることから10月末が合意のデッドラインとされます。仮に合意に至ったとしても、一部で通関業務が発生する場合には、実務面での混乱が予想されます。

■ジョンソン英首相、就任1年 ブレグジット政局から新型ウイルスまで2020年7月26日

ボリス・ジョンソン氏がイギリスの首相になってから、ちょうど1年がたった。ジョンソン氏が昨年7月24日に英首相に就任した当時、まずやるべきことはブレグジットだった。前任者テリーザ・メイ前首相がEUと交わした離脱協定を反故(ほご)にして、EUと離脱条件を交渉し直すのが、まず最初の課題だった。自分に造反する保守党議員21人を除名し、下院採決で何度も敗れ、土曜審議に議会閉会という異例の事態になって、期限は延長されたものの、ついに解散総選挙と選挙圧勝を経て、離脱法案の成立にこぎつけた。イギリスは今年1月31日にEUを離脱した。そして3月には、双方の通商協定の交渉が始まり、またしても交渉期限を気にすることになった。通商協定の交渉期限は今年の年末だ。

2011年の議会任期固定法にもとづき、下院の3分の2が解散・総選挙を求めない限り、ジョンソン氏の任期は5年だ。新型ウイルスについては首相の言うように「まだ問題が片付いたわけではない」。イギリス経済は大打撃を受けたし、政府の巨額債務をどう返済するのかについても疑問は尽きない。さらに加えて、ブレグジット後のEUとの協議は続いている。ジョンソン政権が続く限り、劇的な展開も続くはずだ。

■EU・英の将来関係協議第5ラウンド、一部論点で進展するも状況は厳しく2020年7月27日

EUと英国の将来関係協議の第5ラウンドが7月20~23日にロンドンで開催され、欧州委員会のミシェル・バルニエ首席交渉官は23日に「過去数週間、英国はEUの基本原則と利益を尊重した解決策を探すという観点において、われわれと同等の取り組みと準備を示していない」と不満を表明した。

進展が見られない主な論点として、公平な競争条件の確保と漁業の2点を挙げた。公平な競争条件については、とりわけ国家補助の規律に関して進展がない点を挙げ、英国で将来的に国内補助金がどのように管理されるか予見できないことを懸念しているとした。漁業では、英国は実質的に英国領海からEU漁船のほぼ完全な排除を要求しており、全く受け入れられないと述べた。

将来関係協定が1月1日に発効するためには、「遅くとも10月には合意に達しなければならない」と指摘。7月27日の週も予定どおり首席交渉官以下でロンドンでの協議を継続するとともに、次回の包括的な協議ラウンドは8月17日の週に開催する。

■イギリスからEUへの移住者が30%増加、ドイツへの帰化は2000%増。頭脳流出の恐れも2020年8月6日

ヨーロッパに移住するイギリス人の数が2016年の欧州連合(EU)離脱をめぐる国民投票以来、30%増えている。最新調査の結果、イギリスからEU加盟国に移住した人の数は、2016~2018年は1年あたり7万3642人と、2008~2015年の1年あたり5万6382人から増加した。

ジョンソン政権は”人の移動の自由” —— EU市民なら現地で在留申請をしなくても、他のEU加盟国で生活し、働き、定住することができる —— を終わらせると約束した。

今回の調査では、EU加盟国に引っ越し、その後、引っ越した先でパスポートを取得したイギリス人が500%増えたことも分かった。その数字はドイツで最も多く、2000%増となっている。

■フロスト首席交渉官「離脱後のEUとの貿易交渉、ほとんど進展なし」 2020年8月 22 日

英国とEUの自由貿易協定(FTA)締結交渉で、フロスト首席交渉官は第7回の全体会合が終了した21日、「有益な話し合いだったが、進展はほとんどなかった」と明らかにした。声明でフロスト氏は、EUが「進展を不必要に困難にしている」とも主張した。

EUは英沖合での漁業権の在り方や、英EUそれぞれの企業が公平な条件で競争する枠組み整備といった懸案で進展が図られない限り、他の分野の交渉も先に進めない考え。二つの懸案で譲歩を渋っている英国は、EUの戦術にいら立ちを募らせている。

英EU双方は9月中に合意し、10月末までに協定案に正式署名することを目指しており、残り時間は少ない。

■コロナとEU離脱でカオスに陥った英国 雲隠れのジョンソン首相はスコットランドで夏休みを取っていた2020年8月24日

イギリスは欧州最大の被害を出したコロナだけでなく、EU離脱後の交渉も暗礁に乗り上げ、文字通り、崖っぷちに立たされています。イギリスとEUは8月21日、将来の関係について7回目の交渉を終えたものの進展がなく、「合意なき離脱」の可能性が再燃しています。

英大衆紙サンやデーリー・メールの電子版は22、23の両日、今年末から来年にかけ「合意なき離脱」と新型コロナウイルスの第2波に見舞われた場合の英政府の非常事態計画をすっぱ抜きました。

・イギリスの漁業水域に違法に侵入してくる何百隻もの外国漁船と英漁船が衝突するのを阻止するため英海軍が必要とされるかもしれない

・新型コロナウイルスとEU離脱の影響で社会の混乱、物不足、物価上昇が増幅される

・最悪シナリオに備えて街頭の警察を支援する英軍部隊1500人がすでに待機

・イングランドでは20に1つの自治体の財政が破綻。支援が必要になったり、中央政府の直接管理下に置かれたりする場合も

・EUから輸入される食料品の3割が不足、医薬品、飲料水を浄化する化学物質、燃料供給が足りなくなる

・配水や電気供給が止まる

・全体的な経済危機を引き起こす。可処分所得、失業、事業活動、国際貿易と市場の安定に大きな影響を与える

EUのミシェル・バルニエ首席交渉官は21日の記者会見で、年内の自由貿易協定(FTA)合意について「現段階では可能性は低い。失望し、懸念を抱いている」と悲観的な見通しを語りました。

List    投稿者 dairinin | 2020-08-28 | Posted in 05.瓦解する基軸通貨No Comments » 

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