止まらない円高=世界通貨戦争どうなる?10〜固定相場制と通貨危機〜
前回の番外編で過去に起きた各国の通貨危機を紹介したが、これらの事例には共通項が見られた。それは、英国ポンドの例外を除き、ヘッジファンドなどの国際資本が暴れ回った通貨危機はいずれも固定相場制を敷いている途上国・中進国で起こり、通貨危機を通じてIMFが介入、切り下げや変動相場制への移行を余儀なくされる、という流れになっていることだ。
今回は、この固定相場制のもとで通貨危機がどのように起こるのか?その発生構造をさらに深く追求してみたい。
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■固定相場制(ペッグ制)とは?
自国の為替相場制度を何にするかは各国が自由に選択できるが、IMF加盟国(現在187ヶ国)は、IMFに対してその選択を通告しなければならないことになっている。IMF加盟国の中で固定相場制を採っている国は現在も約140ヶ国に及ぶ。
固定相場制にも幾つかの種類がある。欧州通貨ユーロや自国通貨を持たずドルやユーロを使用する場合も広義の固定相場制とされるが、主なものは次の3つだ(為替レートの固定度は、1が最も厳格で3が最も緩い)。
1.カレンシー・ボード制
特定の外貨と自国通貨を固定レートで交換することを保証する=外貨準備の範囲内でのみ自国通貨を発行することを法的に定めた固定相場制(香港、ブルガリアなど13ヶ国)。
2.ペッグ制
他国の通貨やバスケットに一定のレートで固定させる制度(中東諸国など68ヶ国)。IMFでは、最低3ヶ月間、為替レートの変動が2%以内に抑えられているものを指す。
3.管理フロート制
通貨当局により、特定の通貨に対して為替レートが一定の範囲内に調整される制度。IMFの定義では調整方法や調整幅によってさらに細分化されている。(中国、インドネシアなど約60ヶ国)。
■固定相場制を維持する条件
固定相場といっても、為替レートを決めただけで維持できるわけではない。
固定相場制を実現するためには、以下の二つの方法がある。
1.中央銀行が要求される為替をすべて受け入れる。
2.資金の移動を規制し、固定相場になるようにする。
(ウィキペディアより)
例えば、貿易黒字の増大や外国資本の流入が起こると、自国通貨買いの圧力が高まる。放っておくと通貨高になるので、当局は必要なだけ外貨を買い、自国通貨を供給しなければならない。そのために新規通貨発行や国債発行による自国通貨の調達が行われる。
逆に、貿易赤字の増大や外国資本の流出が起こると、自国通貨売りの圧力が高まる。通貨当局は必要なだけ自国通貨を買い、外貨を供給することになる。従って、固定相場制を採る国は一定の外貨を保有していなければ自国通貨の信用を保てないことになる。
また、固定相場の国はペッグ先の国と金利政策を連動させなければならない。自国の金利がペッグ先の国の金利より低ければ、儲かるペッグ先の国へ簡単に資金流出が起こってしまうからだ。これらの事態を初めから回避するには、2.のように海外との間の資金移動を規制するしかない。
固定相場制を採る国の多くは途上国や中進国である。ドルやユーロにペッグし自国通貨の安定を図りながら、海外投資を呼び込み、或いはコストの低さを活かして輸出を伸ばし、貿易黒字を重ねながら生活を豊かにしていくのが彼らの主要な成長戦略だ。しかし・・・。
■固定相場下での通貨危機の発生構造
ブラジル、韓国、アルゼンチンなど通貨危機が起こった国の多くに共通するのは、危機発生前に海外資本流入が活発化し、一時的に好景気めいた状態になっていることだ。こうした国で通貨危機が発生したメカニズムは次のように考えられる。
①固定相場制の下での輸出主導の成長
途上国の価格競争力と安定した為替を活かして、順調に成長している段階。
②海外投資・投機資金の急激な流入
固定相場国がある程度まで成長すると、投資による利益を見込んだ、あるいは通貨切り上げを見込んだ投機筋などの海外資金が急速に流入する。
③通貨当局によるマネーサプライの急増
流入する外国資金に応えて、当局による通貨発行や国債発行が急増する。
④インフレの急進と財政赤字の進行
マネーサプライが急増することで、国内のインフレが進行する(現在の中国がこの段階)。国債発行による場合には国家財政赤字が増加する。
⑤輸出競争力の低下
急速なインフレで国内物価や人件費→生産コストが上がり、輸出競争力が低下する。アジア通貨危機のようにペッグ先通貨の通貨高が重なるとこれに拍車がかかる。
⑥外貨準備の減少・財政赤字の更なる進行
貿易赤字・経常赤字を埋め合わせるため、それまでに蓄積した外貨準備が急減。
⑦海外資本の流出・通貨売りの発生
外貨準備の減少により通貨の信用が下がり、海外資本の流出や通貨切り下げを見込んだ投機筋の売り、ヘッジファンドの空売り等が起こる。
⑧外貨準備の枯渇⇒通貨危機の発生
外貨準備が枯渇し、激しい通貨売りに対する買い支えが不可能になる。通貨危機の状態。
⑨固定相場の破綻⇒IMFの介入
固定相場制が維持できなくなり、IMFが介入。緊縮財政や切り下げ、為替相場制の変更が実施される。
緊縮財政や財閥解体で国の産業が根こそぎ外資に持っていかれるIMF介入の悪行は本ブログでも紹介してきた通りだが、こうして見ると、途上国・中進国の通貨危機は、IMFを牛耳る欧米勢とヘッジファンドなど投機筋が組んだ、途上国・中進国の育成と刈り取りの仕掛けではないかとも思えてくる。
固定相場の下で途上国や中進国に経済力をつけさせ、彼らがある程度力をつけてきた段階で通貨危機を仕掛けて叩き、再び支配下に置くというやり方ではないだろうか。アセアン諸国のような小さな国は、ジョージ・ソロスなどヘッジファンド1社の仕掛けでもひとたまりも無い。
大きく見れば、インフレ・バブルが進む現在の中国も上記の④の段階にあるといえる。ただし、中国はその規模が巨大なので、少々のマネーゲームで翻弄されることは無く、むしろペッグ先の基軸通貨ドルを揺るがす力を持っている。ドルが勝つか人民元が勝つか?後半の勝負は世界中を巻き込んだものになるだろう。
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