反グローバリズムの潮流(イタリアでは、成立したばかりの親EU政権が崩壊寸前)
前回、前々回と、イギリス離脱後のEUの状況としてドイツ、フランスの様子をお伝えしました。ドイツではメルケル首相の後継者が党首を辞任、フランスではマクロン大統領の年金改革に反対し全国規模のデモで混乱、マクロン大統領が「欧州は未来に希望のない大陸へと変わりつつある」と発言する等、混乱が続いています。ドイツ、フランスに次ぐEUの中の大国イタリアについて調べてみましたが、イタリアも反EUの流れが現体制を押し流そうとしているようです。
イタリアでは昨年9月に親EU政権が発足しました。それ以前は五つ星運動と同盟の連立政権で、EUと対立した政策運営を進めていました。しかし、同盟の支持率が上昇する中、サルビーニ党首が単独政権の樹立を目指して、コンテ首相の不信任案を提出し、連立政権は崩壊しました。そして、そのまま、議会は解散総選挙に向かうかと思われたのですが、このまま選挙をすれば反EUを掲げる同盟が勝利することは確実と考えた他の政党は、解散総選挙をせずに、五つ星運動が前回選挙で打倒した前政権の民主党と連立政権を組むと言う離れ業を行い、解散総選挙を回避して今に至っています。新政権は、親EU 姿勢を表明した事は前回お伝えした通りですが、その結果、景気対策などの財政支出はEUの基準内にとどめて抑制され景気回復の目途が立たないなど、国民の反EU感情がますます高まっていることは間違いありません。さらに、元は対立していた政権同志であり政策の不一致も多く、既に政権の崩壊、総選挙への突入が近いと噂されています。
第一の関門であった、1月のエミリア・ロマーニャ州選挙では、何とか民主党が同盟を押さえて勝利しましたが、議席数を減らしており同盟がすぐ後ろまで迫って来ていることは間違いありません。親EU政権側も必死で、同盟のサルビーニ党首が、独断で移民船からの移民の入国を拒否したとして、不訴追特権をはく奪する決議を議会で行うなど反攻に出ており、状況は混とんとしています。
次の関門は、国会の議席を2/3に大幅削減する憲法改正。憲法改正前に総選挙を行い国会議員としての任期を伸ばしたいと思う議員は多く、春の憲法改正成立前には総選挙が行われる可能性があります。そうなると同盟が得票率を伸す可能性が高く、イタリアで同盟を中心にした反EU政権が誕生する事になります。
イタリアでは9月に五つ星運動と民主党によるEU(欧州連合)寄りの新連立政権が発足しました。反EU姿勢が強く、財政出動に前向きであった「同盟」が連立政権から外れた結果、市場が懸念していた2020年度予算案は、財政拡張的なものとはなりませんでした。
IMF(国際通貨基金)や欧州委員会の予測ではイタリア経済の低迷は継続する見込みです。財政拡張的でない予算は、財政出動による景気対策を打ち出せないことにつながり、イタリア経済の回復が遅れることになるものと思われます。
今後も低成長が継続する場合、国民の批判の矛先が連立政権に向かうこともありそうです。10月末に行われた新連立政権初の地方選挙では、与党が圧倒的な地盤を有している地域で、野党である「同盟」の圧勝という結果も見られました。
2020年1月に与党の支持率が高い地域で行われる選挙は連立政権にとって試金石となりそうです。再び野党が勝利するようなことになれば、連立政権崩壊の危機(解散総選挙)につながることも考えられます。
■イタリア議会、2020年度予算案を可決2019年12月27日
イタリアの代議院(下院、定数630)は23日、2020年度予算案を賛成334票、反対232票で承認した。来年1月から実施予定だった230億ユーロ規模の付加価値税(VAT)増税は一時凍結。財政赤字の対国内総生産(GDP)比率目標は2.2%に設定した。
■イタリアの政治リスク再燃は? ~連立継続に様々な試練~ 2020 年1月 10 日
昨夏のポピュリスト政権の崩壊後、総選挙回避に成功したイタリアだが、組み換え後の連立政権内に早くも不協和音が高まっている。26日のエミリア・ロマーニャ州議会選挙、同盟のサルビーニ党首の訴追判断、春に予定される議員定数削減の国民投票、選挙制度改正などをきっかけに、連立政権の崩壊と前倒し総選挙のリスクが高まる恐れがある。
このまま前倒し総選挙となれば、サルビーニ氏の首相就任とEUに批判的な右派ポピュリスト政権が誕生することになる。
■イタリア人が好む、価値観が真逆の2人のリーダー2020年1月17日
国内のリーダーとして、サルビーニ氏は21%と圧倒的な人気票を集めたが、不人気票も劣らず、34%と最高を記録した。2位は、ジュセッペ・コンテ首相の12%だった。一方、国際的なリーダーに選ばれたフランシスコ教皇は8%と低い数字だが、最高をマーク。2位は、環境活動家グレタ・トゥンベリさんの5%だった。
「同盟」のサルビーニ氏は、反欧州連合(EU)、反グローバル主義、反移民・難民などを唱え、極右の政治家として「欧州で最も危険な人物」と称されている。だが同党の国内支持率はトップで、30%を超える。
■エミリア・ロマーニャ州選挙で中道左派が勝利2020年1月28日
イタリア北部のエミリア・ロマーニャ州で1月26日、州知事と州議会議員の選挙が行われ、知事に中道左派・民主党(PD)のステファノ・ボナッチーニ氏が再選、議会ではPDが第1党の座を保持した。ボナッチーニ氏は51.42%の得票率で当選、州知事として2期目を迎える。同盟など右派勢力が支持していたルチーア・ボルゴンゾーニ氏は43.63%の得票率でボナッチーニ氏に迫った。議会でも同盟が第2党を維持し議席を増やした。PDを中心とした左派で辛うじて過半数を確保するものの、同盟の存在感が目立つかたちとなった。
■伊上院、サルビーニ前内相の不訴追特権はく奪 移民政策めぐり裁判へ2020年2月13日
イタリア元老院(上院)は12日、マッテオ・サルヴィーニ前内相の不訴追特権をはく奪することを152対76の賛成多数で可決した。サルビーニ氏をめぐっては昨年8月、船でイタリアにたどり着いた移民を不法に海上に留め置いたとして、検察が裁判を求めていた。
イタリアでは、閣僚時代の行いについて議員に不訴追特権がある。しかしイタリア議会の委員会は1月に、サルビーニ氏の特権はく奪を決定。元老院に最終判断が委ねられていた。この裁判で有罪となれば、サルビーニ氏は最長で禁固15年を言い渡される可能性がある。
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