イギリスのEU離脱、貿易協定が成立しないと、経済混乱に加えイギリス分裂の危機
前回の投稿で、「イギリスが交渉打ち切りを宣言、今年中の合意は事実上不可能に。」と伝えましたが、その後、EUが態度を変えたこともありジョンソン首相は協議を再開。今は11月15日を交渉期限として交渉を再開しました。報道では、どちらかが妥協して協定は締結されると予測しているようですが、イギリスが本気で合意なき離脱を検討していると言う報道もありました。
本気で合意なき離脱を検討していると推測する理由は、イギリスの「国内市場法案」です。これは、イギリスが合意なき離脱状態になったときに、イギリス本土と北アイルランドの間に税関の国境ができることを防ぐ法案です。国際法に反する悪法とイギリスの内閣が認めた無理のある法案ですが、イギリスの下院はこれを可決しました。この法案は、合意なき離脱を本気で考えているから、その必要性に気付いたのです。
そして、貿易交渉合意の最終期限と言われる11月15日を前にして、11月9日にイギリスの上院がEU離脱協定違反可能にする規定削除する案を可決しました。これは、ジョンソン首相に合意なき離脱を思いとどまるように圧力をかけたものと思われます。ジョンソン首相もEU離脱の結果イギリスが分裂したのでは、EUを離脱した意味がなくなります。
ただし、上院と下院の力関係で、最終的に下院の意志が尊重されるようですので、イギリス本土と北アイルランドの間に税関の国境ができるのを防ぐ「国内市場法案」が最終的には可決され、イギリスは合意なき離脱に突入しそうです。
そうなると、ただでさえコロナで悪化しているEUとイギリスの経済は大混乱に陥ります。イギリスはコロナ問題で、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの地域間の対立が顕在化してきており、経済混乱の中で中央政権を批判し、各地域の独立を主張する政党が躍進し、「国内市場法案」があっても結果としてイギリスという国家自体が分裂する可能性もありそうです。
■イギリスに異変…EU離脱の狙いが早くも壁に直面している「厳しい現実」2020年10月21日
FTA交渉では、(1)イギリス海域での漁業権問題(2)政府補助金の是非など産業政策のルールをめぐる問題の二分野で両者が鋭く対立。イギリスとEUの双方が「ボールは相手コートにある(譲歩すべきは相手側)」と一歩も譲らない姿勢を見せている。
まずは漁業権問題である。イギリスにとって漁業は経済全体の0.1%を占めるに過ぎない。一方で、これまで英海域での操業に依存してきたでフランスやオランダなど一部EU加盟国の水産業界にとっては死活問題である。イギリスは漁業権問題をEUに他の問題で譲歩を迫る「交渉カード」として温存していると考えるのが妥当であろう。
次は、産業政策の規制・ルールの問題である。この問題でのEU側の主張は明快である。「EU市場に自由にアクセスしたいならEUのルールを守れ」ということ。離脱後のイギリスが、特定産業への政府補助金や税制・雇用・環境面などで企業への規制を緩めれば、EUの企業が競争で不利になるとの懸念である。これに対しイギリスは将来的にEUのルールに縛られることを警戒し、「主権の侵害だ」「EU離脱の意味がない」などと強く反発している。
離脱協定には連合王国解体の引き金になりかねない合意が潜んでおり、ジョンソン政権は突然そのことを懸念し始めた。離脱協定では北アイルランド和平への悪影響を避けるため、両国間に物理的な国境を設けないことが最優先された。その結果、北アイルランドだけがEUの関税同盟と単一市場に残るという「苦肉の策」が選択され、言わば、連合王国内に事実上の「国境線」が敷かれることになったのである。
イギリスの「国内市場法案」は、簡単に言うなら、この税関措置を実施するかどうかの権限を英閣僚に与えることで、合意内容の一方的な変更を可能にしているのである。
ジョンソン政権は、「合意なき離脱」も選択肢として想定する中で、その意味することの重大さにようやく向き合うことになった結果なのだと思う。「主権を取り戻す」と訴えながら、イギリス国内に「関税主権の境界線」を敷くという主権の移譲をEUに行った自己矛盾が現実の姿となるのを何としても避けたいのだろう。
■英EU、FTA交渉再開へ 22日からロンドンで集中協議2020年10月22日
ジョンソン英首相は、英国側に譲歩を求めた15日のEU首脳会議に反発し交渉を中断していたが、フロスト英首席交渉官は21日、「交渉する根拠があらためて確立された」と述べ、交渉妥結を目指す集中協議に応じる方針を示した。
ロンドンでの協議は25日までだが、英EUはその後も連日交渉を続ける見込み。共同事務所を設置し、意見が対立する分野で妥協点を探る一方で、合意可能な部分では法的文書の作成にも着手する。
英国が事実上EUに残留する「移行期間」は12月末まで。FTA発効が間に合わなければ、経済などが大混乱する恐れがある。だが、双方は英海域でのEU加盟国の漁業権の取り扱いや、国家補助金のあり方など市場における「公正な競争条件の確保」などで対立し、交渉は難航している。
■英EU、「11月合意」に照準 貿易交渉、溝残る2020年10月31日
英国と欧州連合(EU)の貿易交渉は31日、EU側が主張してきた「合意期限」を迎えた。 ただ、焦点の漁業問題などをめぐって溝が残り、妥結のめどは立っていない。英EUは11月中旬までの決着に照準を合わせ、詰めの折衝を続ける。
こうした期限の設定は、交渉相手に圧力をかけて譲歩を引き出す戦術の面がある。ジョンソン英首相は10月15日が合意期限だと宣言したが、交渉は今も続いている。本当のタイムリミットはもう少し先だったわけで、英メディアによると、英EUは「11月中旬」が最終期限だという意見に収れんしつつある。
■英中銀、資産買い入れ枠を1500億ポンド拡大 成長見通し引き下げ2020年11月5日
イングランド銀行(英中央銀行)は5日、金融政策委員会で量的緩和措置の資産購入プログラムを1500億ポンド(1950億ドル)拡大して8950億ポンドとすることを決定した。新型コロナウイルスの感染第2波で打撃を受けた経済に対応する。
中銀は、今回の決定により2021年末まで国債買い入れを継続できると表明。「英経済の見通しは引き続き異例なほど不透明だ」とし「新型コロナの感染状況と公衆衛生上の措置、欧州連合(EU)と英国の新たな通商協定の性格と同協定への移行に左右される」と述べた。
中銀は、英国とEUの貿易交渉について、たとえ合意が成立しても貿易に悪影響が出ると予想。「EUとの新たな通商協定への調整で、当初どの程度の悪影響が出るか不透明だ」とし「金融政策委員会の予測は、企業がEUとの新たな通商協定に調整するため、2021年上半期の貿易が一時的に減少することも前提にしている」としている。
■英・EU通商交渉、「極めて深刻な相違」残るとバルニエ氏2020年11月5日
英、EU双方が見なす合意成立の最終期限まで2週間を切ったが、漁業権や公正な競争環境、ガバナンスを巡る相違を埋める解決策はまだ見いだせていないと、バルニエ氏は4日、EU加盟国との会合後にツイッターに投稿した。
英国の交渉責任者デービッド・フロスト氏はツイッターで「進展はあったが、一部の中核的な問題で大きな隔たりが残っているとの点で、バルニエ氏と同じ見解だ」と述べた。
■英EU、FTA交渉さらに継続 11月中旬に山場か2020年11月5日
英国と欧州連合(EU)の新たな自由貿易協定(FTA)など将来関係を巡る交渉を巡り、フロスト英首席交渉官は4日、協議をさらに延長する方針を明らかにした。年内に経済活動の混乱回避に必要な合意にこぎ着けるかどうか不透明な状況が続いている。
英政府関係者は合意した後の英国とEUの双方の議会での承認作業を考えると、11月中旬が交渉の最終期限になるとみている。10月中旬にはジョンソン英首相がEUの強硬な姿勢に反発して一時、交渉が中断した。その後、EUの態度の軟化を受けて同22日から交渉が再開している。
■貿易交渉、来週も継続 「大きな違い残る」 英EU首脳電話会談2020年11月7日
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長と英国のジョンソン首相は7日、電話会談を行い、自由貿易協定(FTA)締結交渉をめぐって意見を交換、合意実現に向けて来週も協議を続けることで一致した。歩み寄りの糸口を探ったものの、主要懸案での隔たりの大きさを確認して終わった。
1月末にEUから離脱した英国の「移行期間」終了が年末に迫る中、英EUは今月半ばまでの合意に照準を合わせているが、決着のめどは立っていない。協定が発効できずに年明けを迎え、経済・社会の混乱を招く事態への懸念は高まっている。
■英・EU貿易交渉が再開 11月15日までの妥結目指す2020年11月10日
英国と欧州連合(EU)は9日、ロンドンで将来的な関係を巡る対面での協議を再開した。双方とも会談後に、「一定の進展は見られるものの、レベル・プレイング・フィールドや漁業権でなお著しい相違点が残る」とコメントした。英国のEU離脱後の移行期間は12月31日に終了する。
■英上院、EU離脱協定違反可能にする規定削除を可決 首相に痛手2020年11月10日
英議会上院は9日、欧州連合(EU)離脱後に国内地域間の円滑な通商を維持するための「国内市場法案」に関し、英領北アイルランドの扱いで英政府にEUとの離脱協定を部分的に違反する権限を与える規定を削除する案を可決した。同法案を推し進めてきたジョンソン首相にとっては手痛い敗北となった。
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