2022-04-08

戦争が「貨幣制度」「中央銀行」「資本主義」を生み出した

今や私たちにとって当たり前となっている「貨幣制度」「中央銀行」「資本主義」。

歴史をたどってみると、戦争と深い関係が。

世界のあり方、人々の意識が変わりつつある今、経済のあり方も変わっていくのは必然。

今までの経済システムが通用しなくなり、崩壊寸前の状況である今こそチャンスと見ることもできる。
皆が「これがいい!」と感じる新たな収束先:目標を創出できるかが鍵となる。

これからの社会、世界のあり方を考える上で、経済の可能性はどこにあるか考えていく。

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この残酷な世界を「普通の国民」が生きるために、絶対に知っておくべきことより転載

◆戦争が「貨幣制度」「中央銀行」「資本主義」を生み出した

中野 誰かが設計してそうなったわけではないことです。むしろ、ヨーロッパ各国が戦争を繰り返すなかで、試行錯誤をするうちに、知らず知らずのうちに、貨幣制度も中央銀行も資本主義も、そして国家すらも生み出されてきたんです。

――それは、かなりショッキングな事実ですね?

中野 たとえば、中央銀行制度の先駆となるイングランド銀行は、1689年から始まったフランスとの九年戦争を契機に生み出されたものです。

まず、対仏戦争の戦費調達をするために、1692年12月に、国債に関する最初の法律が成立し、翌年1月から、トンティン年金国債の発行が開始されました。そして、その国債を引き受けて、イギリス政府に対する長期融資を行うことを目的に設立されたのがイングランド銀行です。

イギリス政府は、イングランド銀行に銀行券発行業務を独占させることを認め、イングランド銀行券と同行の預金債務を徴税の支払い手段として受け入れました。こうして、徴税権に裏付けられたポンドは貨幣としての安定性を高め、資本主義の勃興につながっていきました。そして、銀行制度によって多額の投資が可能となったことで、産業革命が成し遂げられることになるわけです。

――なるほど。

中野 あるいは、ナポレオン戦争中に、イギリスは意図せざる経済政策の革新も生み出しました。当時、フランスが金を国内に流入させる政策をとったことで、イングランド銀行の保有する金が著しく減少したため、1797年、イギリス政府は、「銀行制限法」によってイングランド銀行券と金の兌換の停止に踏み切らざるを得なくなったんです。

この兌換停止は1821年まで続いたのですが、この間、金兌換の制約から解放されたイギリスは、不換紙幣を増刷することで戦費を調達できるようになったのですが、これが同時に金融緩和の効果も生み出したのです。

こうした意図せざるケインズ主義的マクロ経済政策の結果として、ナポレオン戦争中のイギリスは好景気を謳歌。イギリスの国内総生産は、1790年から1815年までの間、年率2.25%のペースという、これまでにない成長を遂げました。国民所得は、フランス革命以前は1億3000万ポンド程度でしたが、1814年には4億ポンド近くまで増大したんです。

これに対して金融システムが遅れていたフランスでは、公債による戦費調達が困難であったため、それが軍事費に厳しい制約を課していました。また、公債の発行は不道徳的であり、秩序破壊的であるという偏見を抱いていたナポレオンは、イギリスのような赤字財政には消極的であり、不換紙幣の発行についても拒絶しました。

そのため、財産の没収によって国家財政を支えるしかなくなったフランスは、他国の富を収奪すべく侵略を繰り返し、疲弊していきました。こうして財政軍事国家イギリスは、ナポレオン戦争に勝利し、覇権国家としての地歩を固めたんです。

――そうなんですね。つまり、現代の資本主義を支えるさまざまな制度は、戦争を通じて生み出されてきたと?

中野 歴史を丹念に辿ると、そう観察するほかないんです。

――それが事実だとすれば、否定するわけにはいかないですね……。

中略

◆残酷な世界を生き抜く「日本の戦略」とは?

中野 そもそも、国家の力が及ばない動きをグローバリゼーションといいます。ということは、グローバリゼーションには国家ですら対抗するのが難しいわけで、国家というプロテクターを外した「個人」はもっと対抗できないと考えるべきでしょう。実際、グローバルに活躍できる「個人」は、非常に限られるのが現実ではないですか?

例えば、パンデミックは、ウイルスのグローバリゼーションですが、それを防ぐ「水際対策」とは、国家権力が国境を管理して個人を守ることでしょう。国家は古いとか、国境なんかいらないと言っていた人たちは、この現実を見て、どう思うのでしょうかね。

グローバリゼーションから個人や地域を守ろうとしたら、ありうるのは国家しかないわけです。国家は古いんだ、これからは個人だ、これからは地域だと言うけれど、国家でも勝てるかどうかわからない相手に、なぜ個人や地域で戦おうとするのかがよくわかりません。

――そうですね。しかも、アメリカのグローバル覇権が終わるとともに、世界経済が停滞・縮小へと向かうなか、国家間の緊張が日増しに高まっているのが現状です。しかも、中国は軍事的な覇権を強めているわけで……。

中野 ええ。日本が非常に困難な時代を迎えていることは間違いありません。もしこのまま世界経済が縮小するならば、市場競争がもたらす摩擦や緊張は、貿易・投資が以前より自由化されているがゆえに、かえって深刻なものとなるはずです。TPPなどの自由貿易・経済連携は、安全保障に資するどころか、逆に覇権戦争の種を播いているようなものなんです。

ただし、世界経済が縮小していても、各国が内需拡大に努めるのであれば、海外市場の争奪戦による緊張を緩和することは可能です。自由放任の市場ではなく、政府の介入による国内総需要の創出こそが、国際平和に貢献するんです。

それこそ、ケインズが『雇用、利子、貨幣の一般理論』において述べたことだし、E・H・カーもまた、『危機の二十年』の結論において、政府が国内の総需要を刺激して雇用を創出するという可能性に希望を見出しています。

ところが、中国は外需依存度が高く、内需を拡大しにくい経済社会構造になっています。そのため、不況に陥った中国は、これまで以上に攻撃的な海外進出を推し進めようとするかもしれない。日本を除くアジア諸国も、外需依存度が高い国が多く、内需拡大による衝突回避という手段をとることはできません。

これに対して、日本は、世界第3位の経済規模をもち、内需依存度が高いため、ケインズ主義的な積極財政によって雇用を創出し、内需を拡大できる国家なんです。デフレを放置したために外需依存度はやや高まりましたが、本来、正常な状態では、外需依存度は一割程度です。それに外需依存・インバウンド頼みの危険性は、パンデミックによってはっきりしたでしょう。ですから、まずは内需主導の景気回復・経済成長を目指すべきです。

そして、国内の景気がよくなれば、中国やアジア諸国からの輸入を増やすことによって、グローバルな市場争奪戦を緩和することができる可能性があるんです。

――なるほど。大規模な財政出動によってデフレから脱却することは、国民生活を向上させるのみならず、安全保障的な意味までも持つわけですね?

中野 ええ。そして、前にも説明したように、デフレの日本では財政支出の制約は一切ありませんから、大震災・風水害に備えた防災、インフラ整備、教育、科学技術、感染症対策、国防などに思い切った公共投資をするチャンスでもあるんです。どの分野にどれだけの投資をするかは、国民的議論をしたうえで政治的に決定すればいい。自国通貨発行権という「国家主権」は、私たち国民の「特権」なんです。いまこそ、「国民主権」を行使すべきときなのではないでしょうか?

転載終わり

List    投稿者 前の院 | 2022-04-08 | Posted in 05.瓦解する基軸通貨No Comments » 

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