反グローバリズムの潮流(フランス暴動を巡り、反EU勢力が国を超えて共闘を開始)
前回の反グローバリズムの潮流(フランス「黄色いベスト」暴動で、揺らぐマクロン政権)では、暴動を受けてマクロン大統領が燃料税の増税を断念したことまでお伝えしました。さらにその後にも、最低賃金の上乗せ、残業代の非課税化など相次いで対策を発表しましたが、暴動はおさまる様子を見せません。それどころか、イタリア政府の要人がデモへの支持を表明し、仏伊の国家間の対立にまで事態は悪化、拡大しています。何故、こんなことになったのでしょうか。
象徴的な言葉が、「立ち上がれフランス」党首の次の言葉です。「親グローバリズム、富裕層優先といった政策はまったく変わっていない。私たちはマクロン大統領の辞任を求めていきたいと思います」。前回の記事でお伝えしたように、「グローバリズムの主張は、経済を自由化すれば、金持ちから豊かになり、それがいずれ国民全体を豊かにすると言うものですが、フランス国民の多くは現実的にそうなっていないことに憤っており、ついに我慢の限界を超えたという事でしょう。マクロン大統領=グローバリズムの主張する論理は、嘘だと多くの大衆が気付いたのです。」という事です。だから小手先の対策では暴動は治まりません。
さらに、それはフランス国内だけではなく、ヨーロッパ全体に広がり始めたのが、イタリアの政府要人の動きです。イタリアのディマイオ副首相はフェイスブックへの投稿で、「フランス国民は変革を求め、国民が必要としていることにより目を向けることを要求している」と述べました。同じくイタリアのサルヴィーニ副首相兼内相は、国営ラジオでマクロン大統領について、「彼は支持率が低迷している。仏国民は別の選択をすべきだ」と発言しました。
イタリアの政府要人がこの時期にフランスに対立する発言を始めたのは、5月の欧州議会選挙に向けた準備でもあります。「五つ星」のディマイオ氏は、フランスの体制派に歯向かう「黄色いベスト」と、ディマイオ氏が連帯しようとしており、「同盟」のサルヴィーニ氏は、マクロン氏のライバル、極右マリーヌ・ル・ペン氏と共闘する立場です。
こうした動きを、単なる選挙のための人気取りとみることも出来ますが、これまで国ごとにばらばらに動いていたヨーロッパの反グローバリズム勢力が、国を超えて共闘を始めたとみることも出来ます。今年に入って、EUの崩壊がさらに加速しているようです。
■フランスで続く大規模デモを収拾できない、マクロン大統領の“金持ち優遇政策”2018年12月24日
「黄色いベスト運動」のキッカケになったのは、マクロン大統領が来年1月から燃料税を増税するという政策だ。マクロン氏は2018年から富裕税を不動産富裕税に転換。これは富裕層への減税です。債券からの収入への課税を30%に一律課税とすることも実施しました。最高税率が60%でしたから、これも富裕層優先です。だから、『マクロンは金持ちの味方だ』と言われました。金持ち優遇政策を推進してきたから、環境税としての燃料税の値上げが大衆課税だと思われてしまった。
マクロン政権は12月4日に6か月間の延期を表明した。しかし反対運動が収まる気配は見られず、12月5日に燃料税の値上げの中止を発表した。運動の呼びかけ人の多くが「不十分」と反発。予告したとおり12月8日にもデモを実施した。
マクロン大統領は12月10日にテレビ演説を行い、過熱するデモについて自身の責任を認めた。また「経済的・社会的な非常事態だ」と宣言。低所得者への配慮として、2019年から最低賃金を月100ユーロ上げる政策を発表。さらに「残業代や賞与を非課税にする」「企業に対して、できる限り年末ボーナスを従業員に支給するよう要求する」など大幅な「譲歩案」を打ち出した。
マクロン大統領のこの政策を「立ち上がれフランス」党首のエニャン下院議員は次のように批判する。「“焼け石に水”程度の効果しかない。親グローバリズム、富裕層優先といった政策はまったく変わっていない。私たちはマクロン大統領の辞任を求めていきたいと思います」
「マクロン氏が有権者の審判を受けるのは、2019年5月に実施される欧州議会議員選挙だ」と指摘するのは、フランス政治が専門の研究者・藤谷和廣氏。マクロン大統領は政権発足時に63%あった支持率が、オランド政権の末期と同じ23%にまで落ちた。世論調査でマクロン与党の共和国前進に投票すると答えたのは、本年5月では33%で、極右の国民連合は12%だった。それが、11月の調査で共和国前進に投票すると答えたのは18%で、国民連合は24%と追い抜かれてしまった。
フランスでマクロン政権に抗議する黄色いベスト運動の一斉デモが5日、8週連続で行われた。年末の休暇時期は大幅に規模が縮小したが動員は継続。運動側は年初のデモで勢いを取り戻したい考えだ。継続するデモを受け、マクロン大統領は昨年末、最低賃金引き上げなどの家計支援策を発表したが、減税や市民の国民投票請求制度導入を求めるデモは続いている。
マクロン政権に抗議する黄色いベスト運動の一斉デモの際、デモ関係者とみられる集団がパリの政府庁舎の扉を破壊して侵入、グリボー政府報道官(副大臣)らが避難する事態となった。グリボー氏は今回の事件を受け「狙われたのは私ではなく(フランス)共和国だ。許せない」と訴えた。
■ディマイオ伊副首相:フランス「黄色いベスト運動」への支持示す2019年1月8日
ディマイオ副首相はフェイスブックへの投稿で、「フランス国民は変革を求め、国民が必要としていることにより目を向けることを要求している」と述べ、「この国民の要求を私は共有している。フランス国民に対して何ら攻撃的なものがあるとは考えていない」と記した。ディマイオ氏は7日にも黄色いベスト運動を支持していた。
■フランス抗議デモ、2週連続拡大 取材メディアへの攻撃も2019年1月13日
マクロン政権に抗議する黄色いベスト運動が9週連続で行った一斉デモについて、全国の参加者は約8万4千人だったと明らかにした。同国メディアが伝えた。年末の休暇時期にはデモの規模が大幅に縮小したが、前週の5日に続き2週連続で拡大した。
■仏大統領、黄ベスト対策で「国民大討論」 本人も対話行脚へ2019年1月14日
フランスのマクロン大統領は13日、国民向けの手紙で、「国民大討論」と銘打った対話集会への参加を国民に呼び掛けた。国民大討論は反政府運動「黄色いベスト」の沈静化を目指すもので、税制、民主主義、環境、移民などのテーマについて国民が直接話し合える場とする。
マクロン氏は国民大討論について「選挙でも国民投票でもない」と断り、「どの税を最初に引き下げるべきだと考えるか」「具体的にどのような案であれば、環境配慮型社会への移行が促されると思うか」といった35の議題をめぐって話し合ってほしいと訴えた。実施期間は1月15日から3月15日で、結果は終了から1か月後にも「直接報告する」という。
■仏、黄ベスト抗議へのゴム弾使用に批判 失明や脳卒中も2019年1月19日
警察との衝突でこれまでに数十人が重傷を負っている。警察は40ミリのゴム弾やスタングレネード(閃光音響弾)を使うなど、強硬な戦術を取ることがあり、そのやり方に批判の声が高まっている。警察による暴力への抗議運動を行う仏活動団体「ディスアーム」の報告によると、全土での抗議デモが始まった昨年11月17日以降、98人が重傷を負い、このうち15人が片目を失明した。今月10日にボルドーで行われた抗議デモでは、頭部にゴム弾を受けたとみられる男性が脳卒中を発症。ソーシャルメディアで拡散した動画には、退散するデモ参加者らの頭の高さに弾丸を発射する警官や、地面に倒れるこの男性の姿が捉えられており、怒りの声が広がった。
■仏抗議デモ、規模縮小せず 10週連続、全国8万4千人2019年1月20
フランスでマクロン政権に抗議する黄色いベスト運動のデモが19日、10週連続で行われ、同国メディアによると内務省は、全国の参加者が前週12日と同じ約8万4千人だったとの集計を明らかにした。マクロン政権はデモを生む市民の不満を受け止めようと、15日から2カ月にわたる「国民大討論」の取り組みを始めたが、デモの規模縮小にはつながらなかった。
■仏の「黄ベスト」デモ11週目、主導者は欧州選挙に出馬表明2019年1月27日
マクロン大統領の政策に抗議する「黄色いベスト運動」は26日、11週目に突入し、国内各地で大規模デモが行われた。一部都市では治安部隊との衝突も発生し、抗議デモの収拾を図ろうとするマクロン氏に異議を突き付ける形となった。推計6万9000人が参加。前回19日の約8万4000人からは減少した。
運動の中心人物の一人である看護師のイングリッド・ルババスール氏(31)が、5月に行われる欧州議会選挙に黄ベスト運動の候補者として出馬すると表明したのだ。この発表後に行われた世論調査は、黄ベスト運動の得票率が13%に上る可能性を示唆した。
だが、黄ベスト参加者全員がこの動きを歓迎しているわけではない。多くの参加者たちが求めているのは、一般市民の意見を政策に反映させるための国民主導による国民投票の実施だ。この要望を、政府側は一貫して拒否している。
■パリで「赤いスカーフ」隊がデモ 「黄色いベスト」の暴力に1万人超が抗議2019年1月28日
仏パリで27日、反政権運動「黄色いベスト、」の暴力行為に抗議するデモが行われ、1万人以上が参加した。参加者が赤いスカーフなどを身に着けてデモ行進するこの対抗運動は「赤いスカーフ」と呼ばれている。
中道派によるこの運動は、黄色いベストの一部の過激グループによる暴力行為に恐怖を覚えたという南西部トゥールーズの技師が発案した。参加者の多くは、貧困層への支援拡充という黄色いベストの要求自体は反対しているのではなく、衝突や破壊行為に嫌気が差していると説明している。
■イタリア・ポピュリズム2与党 フランスたたき「競演」 EU選挙前に支持率逆転で、せめぎ合い?2019年1月28日
イタリアのサルビーニ副首相兼内相は23日、国営ラジオでマクロン大統領について、「彼は支持率が低迷している。仏国民は別の選択をすべきだ」と発言した。22日には、不法移民の流入はリビアの政情不安が一因だとしたうえで、「フランスは石油権益があるから、リビア安定化に無関心だ」となじった。
ディマイオ副首相兼経済発展・労働相も負けていない。「アフリカから移民が来るのは、フランスが植民地化したせいだ」と批判。仏外務省は駐仏イタリア大使を呼んで抗議した。
イタリアでは、同国の移民政策を批判するフランスへの反発が強く、2人の副首相はそれぞれ「フランス叩き」を支持拡大の材料に使っているとみられる。欧州議会選でも双方はたもとを分かち、同盟は仏極右「国民連合」と連携。五つ星はフランスで反政府デモを続ける「黄色いベスト」運動に接近している。
マクロン氏は昨年、移民救助船の寄港を拒否したイタリア政府を「無責任」と批判。伊世論調査で、「欧州で最も敵対的な国」にフランスをあげた人は最多の38%にのぼり、3年前の約3倍に増えた。
■仏「黄ベスト」デモ12週目、治安部隊と衝突2019年2月3日
マクロン大統領の政策に抗議する「黄色いベスト運動」は2日、12週目に突入し、首都パリではデモ隊と治安部隊が衝突した。前日、同国裁判所は、機動隊が使う40ミリゴム弾の武器の使用禁止を求める訴えを棄却した。このゴム弾により多くのデモ参加者が重傷を負ったとされており、この日、市内では数千人が治安部隊の暴力に対して声を上げた。
■マクロン大統領、「黄ベスト」収拾へ5月に14年ぶり国民投票か 仏紙2019年2月4日
黄ベストデモへのマクロン氏の対応をめぐっては、欧州議会選挙が行われる5月26日に国民投票を行うのではないかとの観測がある。マクロン氏は1月31日、国民投票の準備が進んでいるとする週刊紙カナール・アンシェネの報道について問われ、「検討中の課題の一つだ」と答えた。
発足から2年8か月のマクロン政権は、燃料税引き上げや生活苦への抗議に端を発する黄ベストデモの暴力化で最大の危機に直面している。昨年12月、マクロン氏は最低賃金の引き上げや増税の一部撤回などの対応策を発表。さらに今年に入り、政策の選択や政策課題について市民とじかに語り合う「国民討論会」を立ち上げ、国内各地で集会を開いている。国民投票は「国民討論会」を締めくくるとともに、直接民主制を求める黄ベストデモへの回答ともなるイベントと目されている。
■フランス、駐イタリア大使を召還 「黄色いベスト」が外交問題に2019年2月8日
イタリアのルイジ・ディマイオ副首相は5日、マクロン仏政権の政策に反対する「ジレ・ジョーヌ」運動の幹部、クリストフ・シャランソン氏や今年5月の欧州議会選挙に出馬する予定の活動家たちとパリ近くで面会し、集合写真をツイートした。
これに対して仏外務省は7日、「直近の介入は、これに輪をかけた受け入れられない挑発に相当する。意見の相違はさることながら、選挙目的に関係を悪用するのは別の話だ」と批判した。これに対してディマイオ副首相は、「ジレ・ジョーヌ」参加者と面会したことに問題はないと反論しつつ、フランス国民は「友人で仲間」だと述べた。
マッテオ・サルヴィーニ副首相は、フランス政府に、イタリア当局が指名手配している左派過激派を引き渡し、フランスに入国する移民のイタリア送還を中止するよう求めた。さらに、両国国境でフランス側が入国審査に時間をかけるせいで国境周辺が渋滞していると問題視した。サルヴィーニ氏は今年1月、フランス国民が「ひどい大統領から逃れられる」よう期待すると、マクロン大統領を直接批判していた。
フランスとイタリアが対立する原因のほとんどは、移民問題だ。地中海の移民救助船の接岸をイタリア政府が許可しないことについてフランスが批判すると、イタリアはフランスこそ移民を受け入れずイタリアに送還しているではないかと反発していた。
フランスにしてみれば、騒ぎの原因は手に取るように明らかだ。「同盟」のサルヴィーニ氏と「五つ星」のディマイオ氏はただ単に、今年5月の欧州議会選挙に向けて選挙運動を展開しているに過ぎないと、フランスは受け止めている。フランスの体制派に歯向かう「黄色いベスト」と、ディマイオ氏が連帯しようとするのは当然のことだ。そして右派内相のサルヴィーニ氏は、マクロン氏のライバル、極右マリーヌ・ル・ペン氏と共闘する立場だ。
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