2022-02-10

目減りする通貨を用いた「デジタル・ベーシックインカム」の可能性

苫米地英人さんの「デジタル・ベーシックインカムで日本は無税国家になる!」という本が2021年12月に発行されました。

この中でのポイントは①目減りする通貨の可能性②ベーシックインカムの財源について
BIに対して賛成派、反対派の議論もよく目にしますが、そういった意見も受け止めつつ実現可能性を語られており、非常に面白かったので紹介いたします。

■①目減りする通貨の可能性
本書籍の中で提案しているのは「半減期通貨(一年で価値が半額になる)」
1万円が

半年後には7500円になり、1年後には5000円、2年後には2500円になる
そんな通貨可能なのか・・・

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ドイツの経済学者シルビオ・ゲゼル (Silvio Gesell) が1900年ごろに提唱している。
この方はかなり有名人です。
最近だと映画「えんとつ町のプペル」で出てくる腐るお金『L』をつくったとして登場するシルビオ・レターの元ネタの人ですね。劇中の『L』の説明は端的にゲゼルの考えを説明してくれています。(ネタバレ注意)

 

「人々はお金に生活を支配され、心支配され、ついには奪い合いを始めた。それに待ったをかけたのがシルビオ・レター。あらゆるものが時間の経過と共に腐り、価値が下がっていくのに対し、お金だけが腐らないこと問題視した。これにより肉よりも魚よりも、お金を持つ者が力を持ってしまい、お金の奪い合いが起こってしまう。・・・」

「溜め込んでいてもどうせ腐ってしまうので、人々は積極的に『L』を使い、町は大いに賑わった。
しかし、それも長くは続かなかった。『腐るお金』が普及してしまう事で都合が悪くなる連中がいたんだ。それが中央銀行だ・・・」

まさにこの通りでインフレとデフレを繰り返すアルゼンチン経済から上記の問題視を持ち、『自然的経済秩序』(Die Natuerliche Wirtschaftsordnung) という本を出す。1918年からバイエルン・レーテ共和国で金融担当大臣に就いたが、一週間で共産主義者が権力を奪取し、彼は国家反逆罪に問われ拘留されています。
なぜそんなことが起きてしまったかといえば、中央銀行の逆鱗に触れてしまったからでしょう。

そんなゲゼルマネーには実例がある。
●地域限定貨幣『ヴェルグルの労働証明書』

1900年初頭、世界恐慌の影響が広がる中、オーストリア・チロル地方のヴェルグル町は人口わずか4300人の内、500人が失業者、1000人の失業者予備軍がいた。
人々は不安から通貨を使おうとしなかったので、経済は循環しませんでした。それを問題と捉えた当時の町長、ミヒャエル・ウンターグッゲンベルガーは、地域通貨を導入し、ヴェルグルの経済が循環するように、スタンプ貨幣(月が替わる毎に目減りを証明するスタンプを押さないと使えない通貨)を発行し、世界恐慌を乗り切った。

 

ヴェルグルは世界恐慌後に完全雇用を実現した初めての自治体として、他国からもその実績が注目されました。ヴェルグルの成功を目の当たりにした多くの都市が、この制度を取り入れようとします。

しかし、オーストリアの中央銀行が「国家の通貨システムを乱す」として禁止通達を出され、労働証明書の制度は廃止に追い込まれました。この経済的功績は、『ヴェルグルの奇跡』と呼ばれ、今も尚、多くの人々の間で語り継がれる実話です。

●ドイツの地域通貨キームガウアー

また、今日でも減価する貨幣が、地域通貨として実践されています。その中でも最も有名なのが、このヴェルグルからさほど遠くないドイツはバイエルン州のキームゼー湖周辺で使われているキームガウアー(ドイツ語)です。これは、ヴァルドルフ学校(人智学の創設者ルドルフ・シュタイナーの哲学を基盤とした教育プログラムを実施している私立学校)で社会科を担当していたクリスティアン・ゲレリとその学生6名によって2003年1月に立ち上がったもので、ユーロを担保として発行されています。

■②ベーシックインカムの財源
国民全員に毎月10万円を支給すると年間約150兆円の予算が必要となる。
日本の国家予算が100兆円程度なのでBIだけでその1.5倍必要ということになる。
そのためBI導入するためには年金や健康保険、生活保護等のシステムを廃止する必要が叫ばれるが、本書ではそういった社会保障を残した上でのBI導入を提案している。
よりハードルは上がるがその財源の一つはQEである。
2013年の黒田日銀総裁が就任し「異次元のQE」を行うと宣言して以降マネタリーベースは6倍近く増えている。このマネタリーベースは「銀行当座預金≒一般銀行が引き出せるお金」+流通している貨幣。QEで買い取った国債などのお金は「銀行当座預金」に振り込まれ、その国債買い取りのためにお金発行する。
よって、マネタリーベースの大半は「銀行当座預金」となる。
この眠っている「銀行当座預金」を使い景気の刺激とする。

BIで配るお金を①の「半減期通貨」とすることで、貯めるのではなく使うことを促す。
また、貯めることを制限するために、資産になるものを購入するのには使えないモノとする。
このお金を過去のゲゼルマネーのようにスタンプや切手を貼るのでは管理が難しいが、デジタル通貨にすることでその目減りも管理可能。
また、その目減りした分はどこへ行く?それは銀行に帰っていく。
100兆円発行しても、翌年50兆円帰ってくる。翌年も100兆円配る際は帰ってきた50兆円に50兆円追加するだけで継続可能。さらに翌年は50兆円+25兆円返ってくるので、25兆円追加するだけで継続可能。

このシステムでベーシックインカムは実現できるのではないか。

List    投稿者 okuno-s | 2022-02-10 | Posted in 05.瓦解する基軸通貨No Comments » 

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