ドル支配・SWIFT制裁の濫用が新しい国際通貨システム構築を加速
ロシア・ウクライナ問題に関して、欧米諸国が中心となって2022年2月よりロシアへの経済制裁を発動させている。その一つとして、ロシアの金融機関を国際的決済網であるSWIFTから遮断する措置が取られている。
SWIFTは、国際的な組織かつシステムであり、政治的には中立を標榜しているが、実質的には欧米、特に米国の意向が強く反映される。改めてSWIFTとは何なのかを押さえた上で、通貨システムの行く末を考えてみたい。
SWIFTの概要
・1973年に国際間送金の手段として設立
・本拠地はベルギー
・現在は200以上の国・地域で11000以上の金融機関が参加
・12の中央銀行※による監視体制
※G7(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)とオランダ、ベルギー、スイス、スウェーデンの中央銀行、欧州中央銀行
SWIFTが担っている役割
・国際間送金のための電文(メッセージ)をやり取りする仕組み
・中継銀行(コルレス銀行)によるSWIFTに直接加盟していない金融機関への電文配信
※送金成立には最終的にどの銀行のどの口座に入るかを関係銀行が共有して統一ルールで処理する必要がある。
なぜ米国の意向が強く反映されるのか
SWIFTは、ベルギーとEUの法律に則っているが米国の法規制は適用されない。
ただ、現在の国際貿易は約8割が基軸通貨ドルによって行われており、それらのドルの過半はSWIFT経由で米国の金融機関で処理されている。
SWIFT自体は送金や取引を行っているわけではなく、送金や取引の担い手が他にいることで機能する存在である。もし米国が自国の金融機関をSWIFTとは異なるシステムへ参加させると判断すると、その存在基盤が失われる。
実際、米国の思惑により、2012年のイラン制裁(直接の支持はEU)、2014年のロシアへの警告、2018年のイランへの再制裁が行われている。特に2018年のイランへの再制裁は、トランプ政権からの強い要請を受け、米国が実施した経済制裁と歩調を合わすように発動された。
新システム構築への動き
ただ、ここまで露骨な濫用とも言える制裁は、世界各国の危機感とドル基軸通貨体制への不信感を強め、SWIFTに代わるシステム構築の模索へと向かわせた。
その一つが、中国が2015年に導入した人民元による国際決済システム(CIPS)がある。SWIFTに比して、まだまだ規模は小さいが、2022年4月時点で約1,300の金融機関が参加している。(中国の金融機関中心主だが、欧米のメジャー銀行のいくつか、日本の3メガバンクも参加)
また、脱SWIFT・脱米ドルの可能性として、CBDC(中央銀行デジタル通貨)が挙がっている。
ブロックチェーン等の新技術を用いて、SWIFTのシステムとは異なる国際間の送金方法についての実証実験が各地で進められている。
米政権は、ドルの基軸通貨体制を脅かす恐れのあるCBDCの発行に対して、否定的であった(ex.2019年に少なくとも5年間は発行不要との見解提示)が、2021年から姿勢を急転換し、「デジタルドル」発行についての研究を急加速させている。
SWIFT組織自身も、既存の金融システムにおいて、CBDCの国際間取引とトークン化資産決済の実験に成功したことを2022年10月に発表しており、旧来のドル決済以外の取引への適応を試みている。
今後の通貨システムと国際間取引
SWIFTが米国の経済制裁道具となるのは、ドル基軸通貨体制が盤石であることが条件であった。
しかし、システムを濫用した結果、世界中の各国がドル基軸通貨体制との決別を模索し、ドルの基盤を揺るがすことになった。米国もその流れに抗えない状況になっている。
SWIFTシステムがこの先も国際間送金のデファクトスタンダードとして存続するかはわからないが、ドル基軸通貨体制による経済支配が終末を迎えるのは確かである。
次の経済システムは、ドルに代わる通貨が台頭して一極支配の基軸通貨体制を構築するのではなく、CBDCをはじめとするデジタル通貨技術を活用して、多極的な通貨システムと国家間の関係を創っていくのではないか。
by小石丸
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