金貸しは日本をどうする?~日本の状況(3)集団的自衛権の行使容認の真の狙いは、軍事産業の延命とBRICs陣営との分断
安倍内閣は、2014年7月1日、憲法解釈を変更し、集団的自衛権を行使できるという立場をとる閣議決定しました。 集団的自衛権は、国連憲章の第51条に記載された権利ですが、日本政府は日本国憲法第9条により日本はその行使をできないと50年以上に渡って解釈してきました。 この変更により何がどう変わるか、この変更の背景にはいったい何があったのか。 ひとつずつ紐解いていきます。
◆集団的自衛権行使の容認、何がどう変わるのか
集団的自衛権とは、アメリカなどの同盟国が武力攻撃を受けた際に、日本が直接攻撃を受けていなくても、自国への攻撃とみなして反撃できる権利のこと。日本への直接攻撃に対して反撃できる個別的自衛権の範囲を同盟国や友好国にまで拡げたもので、国連憲章でも「国家固有の権利」として認められています。<リンク>
安倍内閣は「日本国憲法が許すのは、あくまで我が国の存立を全うし国民を守るための自衛の措置だけです。外国の防衛それ自体を目的とする武力行使は今後とも行いません。」「今回の閣議決定によって日本が戦争に巻き込まれるおそれは一層なくなっていく。そう考えています。日本が再び戦争をする国になるというようなことは断じてあり得ない。」と述べています。しかし、戦後、戦争を引き起こしているのはいつもアメリカ。今回の変更によっていざ同盟国アメリカから要請があった際、戦争に巻き込まれることは不可避です。
◆閣議決定による強引な変更、その背景とは
日本は憲法第9条のため、長きに渡り集団的自衛権を有していながら行使できない姿勢をとっていました。なぜ今このタイミングで、しかも閣議決定という強引な手段をとって変更にいたったのでしょうか。安倍内閣はあくまで日本が「普通の国になる」などと、日本の国際的立場に力点を置いて意義を述べていますが、そこにはアメリカと背後の金貸しの思惑が潜んでいると考えられます。
○アメリカの財政難→国防費削減→軍産協同体の延命処置 米国防総省(ペンタゴン)のヘーゲル国防長官は2月24日、陸軍の兵力を現在の約52万人から44万─45万人規模に削減、実現すれば、米陸軍の規模は第2次世界大戦に参戦する前の規模に縮小すると発表しました。今後10年間で約1兆ドル(約102兆円)の歳出を削減する案を模索中で、2015年度の国防予算は約4960億ドル(約51兆円)という。 米国は「世界の警察官」と言われてきたかつての「栄光ある強い米国」の面影は、いまはない。第2次世界大戦後、これまで10年に1度のサイクルで「大戦争」(朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラン・イラク戦争、湾岸戦争、アフガニスタン・イラク戦争など)を行って、「軍産協同体」を生き延びさせてきているうちに、巨額な軍事費の重圧に耐えきれなくなってきている。それが、ついに2013年には、国防総省予算の大幅削減を余儀なくされて、将兵150万人、文官80万人の給料遅配、自宅待機を断行せざるを得なくなった。 <リンク>
大きな戦争を起こし、軍需から利益を得るという金貸しの収益システムはすでに限界に達しています。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が14日に発表した報告書によると、2013年の世界の軍事費は1兆7,500億ドルとなり、前年比1.9%減少した。アメリカによる軍事支出が前年比7.8%減少したことや、ヨーロッパ諸国における緊縮財政策が影響している。<リンク>
世界の国防費(軍事費)は減少、さらには毎度戦争の主役であるアメリカ自身が国防費削減へと踏み切りました。これは金貸しにとって大きな痛手です。アメリカの軍事費削減分をどこかで補填しなければなりません。しかし、 アメリカの削減分をどこか一国に肩代わりさせるにはあまりにも額が大きすぎる故、複数の国の軍事費を底上げする必要があります。集団的自衛権行使の容認はこのための延命処置の一手と考えられます。
日本は、中国の海洋進出をにらみ、新たな防衛大綱と中期防衛力整備計画(中期防)で打ち出した離島防衛強化策を実行に移すため、前年度比2.8%増の4兆8848億円となった。防衛費の増額は2年連続。 中国は日本の防衛費の増加について、「中国は日本の行動に断固反対する」とし、これは地域の緊張を高めると批判。 <リンク>
◎中国国防費12.2%増=4年連続2桁の伸び-尖閣・歴史で対日けん制-中国全人代 【北京時事】中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が5日、北京の人民大会堂で開幕した。全人代に合わせて公表された2014年の中央国防予算は前年実績比で12.2%増の8082億3000万元(約13兆4400億円)に達した。4年連続2桁の伸びで、昨年の10.7%増という伸び率も上回った。李克強首相は就任後初の政府活動報告で「国の領土主権と海洋権益を断固として守った」とした上で、「平時の戦闘への備えと国境・領海・領空防衛の管理を強化する」との方針を表明した。 さらに李首相は「われわれは第2次世界大戦の勝利の成果と戦後の国際秩序を守り抜き、歴史の流れを逆行させることは決して許さない」と述べ、名指しはしなかったが、靖国神社に参拝した安倍晋三首相をけん制した。政府活動報告は、沖縄県・尖閣諸島と歴史認識問題で日本を意識した内容となった。<リンク>
近年国家間の緊張が高まっている日本と中国。集団的自衛権行使の容認により国家間の緊張はよりいっそう高まり、それに伴い軍備増強(国防費の増加)は続くと考えられます。さらにはこの2国間だけではなく、アジアやロシアを巻き込みこの流れは波及していけば、金貸しは軍事産業を生きながらえさせることができます。
◆中露~BRics陣営と日本の分断~
軍事費の減少の他に、金貸しにはもうひとつの懸念が起こっています。反金貸し色を強めるロシアは、近年は中国との友好関係を深めています。さらにインド、ブラジルを巻き込んで巨大な脱米陣営を形成しようとしています。もともと金貸しが提唱したBRicsが金貸しの手の外で結束しようとしているのです。 ロシアは日本にも秋波を送っており、彼らの持つ資源、エネルギー、潜在市場は日本にとっても大きな魅力。もし日本が引き込まれるようなことがあれば、金貸しにとってこれ以上不都合なことはないでしょう。
2014.05.21ロシアと中国は天然ガスの供給契約を結び、今後30年間にロシアから中国へ毎年380億立法メートルを共有することとなったが、総額約4,000億ドルという大きな取引をロシア通貨のルーブルと中国の減で決済する準備を進めていると伝えられています。 ロシアと天然ガス取引でドル離れが広がれば、アメリカの経済はますます追い込まれることになる。 <リンク>
BRICS、開発銀行を設立へ ロシア・中国が主導、アメリカに対抗(抜粋) ■ロシアと中国の主張、色濃く反映 首脳会議の後に発表された共同宣言には、軍事介入や経済制裁に反対する文言も盛り込まれるなどロシアと中国の主張が色濃く反映されている。欧米主導の国際秩序に異を唱え、新興国を軸とした新たな国際秩序を構築していく姿勢を鮮明にした。 また、ロシアが主要8カ国(G8)から排除されて欧米の経済制裁を受ける原因となったウクライナ危機に関し、共同宣言は「深い懸念」を表明。別条項で「一方的な軍事行動や経済制裁を非難」することで、間接的にロシアを支持した。 ロシアのプーチン大統領は首脳会議を前に14日、BRICSに対し、アメリカによる制裁に対抗する措置で合意を求める姿勢を示していた。 <リンク>
つまり、日本、中国間の緊張とも関連させ、アメリカはロシアを牽制する為、日本に集団的自衛権の行使を認めさせたと考えられます。
◆まとめ
集団的自衛権行使の容認は、
◎縮小する軍産市場に対し、国家間の緊張感をもたらすことで軍産市場の延命を図ろうとするためのカンフル剤
◎反欧米を図ろうとする、ロシアに対しての牽制
資金面でも、地政学的にも追い詰められている、金貸しの焦りの表れではないだろうか。
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