反グローバリズムの潮流(ノルウェーの進歩党)
前回は、反グローバリズム勢力(いわゆる右翼ポピュリスト政党)が第1党となっている国としてスイスを紹介しました「反グローバリズムの潮流(スイスの国民党)」 。今回、紹介するのはノルウェーです。ノルウェーの第1党の保守党は反グローバリズム勢力ではありませんが、この保守党と連立政権を組む第3党の進歩党がいわゆる右翼ポピュリスト政党=反グローバリズム勢力です。
9月11日にノルウェーでは総選挙が行われましたが、保守党と進歩党の連立政権が勝利し、政権を維持することとなりました。2013年に政権を取った時には、短期政権に終わると思われていましたが、4年の任期を終えた総選挙で勝利したことで、国民の信任が証明されたと言えます。
以前は、異端政党と思われていた進歩党が2期連続して政権を担う事となり、進歩党も普通の政党として認められたという事でしょう。ノルウェーではなぜ反グローバリズム勢力が支持を受けているのでしょうか。
ノルウェーで、進歩党の主張が受け入れられやすいのには、大きな理由があります。それは、石油資源を持っているからです。北海油田の利益のおかげでノルウェー政府には財政赤字は存在せず、国家予算の5倍の基金を蓄積しています。
経済的繁栄を享受している中、EU加盟により得られる利益に懐疑的な国民世論、EU加盟による自国農業及び漁業への影響に対する懸念等が理由で、EUにも加盟しておらず、世論は概ねEU加盟賛成3割、反対7割で推移しています。一方でEUとの協力関係は緊密かつ広範囲に及び、関係欧州諸国との間の自由往来を実現しています。
前回紹介したスイスも経済的に安定しており、状況には似通ったところがあります。EUやグローバリズムの出発点は、世界経済の行き詰まりが原因であり、市場経済の発展のためにはグローバリズムしかないという論理でした。スイスやノルウェーは経済が行き詰っていないために、グローバリズムに飲み込まれずに済んでいると言えます。
逆に、EUに加盟した他のヨーロッパ諸国は、経済が行き詰ったゆえにグローバリズムの波に飲み込まれたとも言えます。そしてEU諸国では、経済がさらに悪化し、貧富の格差が広がる中で、反グローバリズム勢力が台頭しつつあります。しかし権力を握っている官僚、政治家、財界、マスコミがグローバリズム勢力であるために、反グローバリズム勢力が抑え込まれているのです。グローバリズムと反グローバリズム、どちらの主張が正しいかは明らかなように思えます。
■ノルウェー政治の「新しい普通」「右翼ポピュリストが与党」が当たり前の国に2017年9月14日
欧州で台頭しているという「極右」・「右翼ポピュリスト」政党。ノルウェーでは「進歩党」がこのグループに位置する。11日に迎えた国政選挙では、現政権の中道右派陣営が勝利。保守党と進歩党の連立政権で、自由党とキリスト教民主党が閣外協力をしている。
移民や難民に対して過激な言動を繰り返す進歩党。支持率が高くとも、政権入りすることはなかった。2013年までは。進歩党が与党として2期目を迎えることは、ノルウェーでは不思議なことではなくなったのだ。
■ノルウェー政府「経済格差の原因は外国人」2017年3月13日
国連の世界幸福度報告書で「最も幸せな国」として1位となったノルウェー。一方、30日に子ども・青年・家族総局が発表した調査では、9万8千人=「ノルウェーに住む10人に1人の子どもが貧困」とされた。統計局SSBが1月に発表した調査では、4.4%にあたる12万人が無職の状態。
イェンセン財務大臣(進歩党)は31日の記者会見で以下のような点を指摘する。2012年と比較して、ノルウェー経済を支えてきた石油価格は2016年には42%下落。同時に人口は増加し、高齢化が課題となるパートタイムからフルタイムで働く納税者を増やし、誰もがより長い期間働き、生産性を上げなければいけない。
平均より就労していない層は「移民」。30代の就労調査では、ノルウェー生まれの移民の就労率は83%、EU出身者は71%。アフリカ、アジア、ラテンアメリカ出身者は56%と最も労働市場に溶け込んでいない。40~50代の調査でも大きな変化はみられない。
財務大臣が所属する進歩党Frpは、右翼ポピュリスト政党であり、首相が率いる保守党と連立政権を組む。移民や難民の受け入れには批判的な立場をとっており、同党のリストハウグ移民・統合大臣をはじめとして、「移民・難民・難民申請者の中には、ノルウェーの福祉制度の甘い蜜を吸おうとしている者もいる」と警戒を強めてきた。
ノルウェーは、石油・天然ガスを生産(合計:年産約14億4,500万バレル)、欧州諸国を中心に輸出しており、GDPの約15%、輸出(サービスを除く)の約50%を占めている。豊富な水資源を利用して(国内電力の95%は水力発電)、電力を多消費する加工産業(アルミニウム、シリコン、化学肥料)が盛ん。また、水産業がGDPに占める割合は2%程度と小さいが、水産物輸出は(商品輸出の11.9%)、石油・ガスに次ぐ輸出品目となっている。ノルウェー大陸棚の未発見の石油・ガス資源は推定埋蔵量の43%とされており、長期的には、石油・天然ガス輸出に依存する経済構造からの脱却が課題。比較優位のある分野における研究開発や技術革新に、限られた資源を投入して国際競争力を強めていく方針。(データは全て2016年。)
ノルウェー経済は、2008年に発生した世界金融危機の影響を受けたが、石油・ガス部門への投資が堅調を維持したことに加え、政府の大幅な財政出動を伴う各種対策の効果もあり景気回復に転じ、2010年から他の欧州諸国に比べて堅調に推移している。しかし、2014年の石油価格の下落に伴い、2015年以降の投資及び経済成長見通しは多少悲観的なものとなっており、政策金利は2014年12月、2015年6月、同9月、2016年3月と、相次いで0.25%ずつ引き下げられた(現行0.50%)。
ノルウェー政府は、石油・ガス事業からの収入を、「政府年金基金-グローバル」として将来の国民の年金資金等にするために積み立てる政策をとっており、全て外国に投資している。ノルウェー政府には、財政赤字は存在せず、基金の残高も国家予算の約5倍の額に及んでいる。なお2016年12月末時点での概算評価額は、7兆5,000億ノルウェークローネ(約97兆6,000億円、1NOK=約13円)となった。
ノルウェーはEU非加盟国。1994年11月、国民投票でEU加盟を否決(1972年にもEC加盟を否決)して以来、EU加盟に関する具体的な議論は行われていない。経済的繁栄を享受している中、EU加盟により得られる利益に懐疑的な国民世論、EU加盟による自国農業及び漁業への影響に対する懸念等が理由。世論は概ねEU加盟賛成3割、反対7割で推移。一方で、EUとの協力関係は緊密かつ広範囲に及び、大部分のEU指令を国内適用。1994年に発効した欧州経済領域(EEA)協定を通じEUと緊密な経済関係にあることに加え、シェンゲン協定国(1999年参加)として関係欧州諸国との間の自由往来を実現。
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