中国はトランプ政権をどう見ているのか
前回、前々回はトランプ政権が今後、ロシア、中国との関係をどうしようとしているのかを見てきました。トランプ政権はグローバリズムからナショナリズムへの方針転換を志向しており、ナショナリズムの先輩であるロシアとの関係を重視し、グローバリズムを志向している中国と距離を置こうとしています。
その中国ですが、中国のグローバリズム=覇権を追及する上で、トランプ政権下のアメリカがナショナリズムに転換し世界における存在感が低下することを期待しており、トランプ政権を歓迎しているようです。トランプ氏が中国に関税をかけると言っているのも、中国市場をアメリカが捨てられるわけがないと、高をくくっているようです。
一方で、中国も国内の格差が拡大し国民に不満がたまっているのはアメリカと同じで、グローバリズムの弊害は中国国内でも顕在化しています。その上で中国は、グローバリズムをさらに追及して、覇権を握ることで国を豊かにして、貧困層の不満を解消する路線を取ろうとしているようです。
アメリカの圧力が弱まれば、中国は国内の不満を解消するためにも覇権主義的な姿勢をさらに強めて行くことになりそうです。
中国の指導層にとってトランプ氏の方がくみしやすいだろう。中国は、自尊心が強く、自己中心的で、お世辞や誘惑に弱いリーダーの扱いに非常に長けている。
アメリカ大統領選の結果を、中国政府は百年に一度の絶好のチャンスと捉えている。アメリカ人の選択に万歳だ。在日アメリカ軍を撤退させるとか、経済的中国包囲網であるTPP(環太平洋パートナーシップ協定)を大統領に就任した日に破棄するとか、頼もしいことを言ってくれる。
「特朗普(トランプ)」は「商人総統」だ。中国と政治問題や軍事問題で対立する莫大なコストを考えれば、むしろ友好関係を結んだ方が、アメリカにとって利益になると考えるだろう。
最も危惧しているのが、日本の核武装化なのだ。日本は、在日アメリカ軍が撤退してしまうかもしれないと危惧しているようだが、それを同じくらい危惧しているのが中国だ。日本が核武装したら、アジアの安全保障秩序は、根本から変わってしまう。
選挙戦でトランプ氏は、アジアの同盟関係に対して民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官よりも距離を置く発言が目立った。中国の戦略地政学者たちは、米国の力を弱め、アジアの地図を書き換えるという自分たちの野心的計画に、トランプ政権が役立つのを期待するだろう。彼らの期待が本当になる可能性は十分ある。
■トランプ当選で再浮上した「中国が覇権国家になる」という悪夢
アジア外交、貿易問題、安全保障などに関するトランプ氏の従来の主張がそのまま米国の政策となれば、中国の進める覇権主義戦略を利するようなことは多くあろう。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)がご破算になる可能性が非常に大きい。AIIB(アジアインフラ投資銀行)を立ち上げて中国中心の経済秩序をアジアで構築しようとする習近平政権にとって、それは願ってもない好機。万が一、沖縄から米軍基地が撤退するようなことが現実となれば、一番喜ぶのは習近平国家主席であろう。
習近平はその会談で概ね以下のように述べているという。中米国交正常化37年以来、両国関係は絶えず発展し、両国人民に実際的な利益をもたらし、世界各地域の平和と安定および繁栄を促進してきた。私は中米関係を非常に強く重視しており、米国とともに努力して、両国関係を推進し、両国人民とその他の各国人民に幸せをもたらしたいと思っている。
これに対して、トランプ次期大統領は、以下のように回答したという。米中両国は「ウィン‐ウィン」の関係を実現できるものと考えている。私はあなたとともに米中両国の協力関係を強化していきたいと思っている。私は米中関係が必ずさらに良い発展を遂げるものと信じている。
中国がトランプ現象をどうとらえたかを見ていきたいのだが、トランプという個性以上にトランプを押上げた米国民の怒り、なかでも経済発展から取り残された人々の怒りに注目していたと考えられる。
「格差により国民が分断される」とか「発展から取り残された国民の怒り」といった社会不安への警告は、中国ではアメリカ社会で広がるよりはるか前に持ち上がっていた。中国は、一定の経済発展を遂げた後のさらなる突破口として「民主化」という幻想を捨て、党がけん引する経済発展を模索し始めている。
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