米中貿易戦争、現時点ではアメリカが優勢か
9月18日に第3次の追加関税が発表された米中の貿易戦争、今年の3月頃から始まり、新聞紙上をにぎわしていますが、何回かに分かれて制裁が発表されており、全体像が良く分からなくなってきたので、今の状況をまとめてみました。
まず、これまでの経緯です。事の発端は、トランプ大統領の就任にまでさかのぼります。就任当初からトランプ大統領はアメリカの貿易赤字を問題にし、なかでも最大の赤字国である中国を問題にしていました。しかし、トランプ氏が大統領に就任して間もなく、習近平主席がアメリカを訪問し、大型の商談をまとめることでトランプ大統領も面子が立ったこと、その後、北朝鮮問題で協力が必要になったこともあり、しばらく米中は良好な関係が続きました。
状況が大きく変わったのは、トランプ大統領のロシアゲート疑惑と来年に行われる中間選挙です。ロシアゲート事件で足を引っ張られたトランプ大統領が来年の中間選挙で勝つために、中国との貿易赤字問題がクローズアップされたとみて間違いないでしょう。
トランプ大統領の目先的な判断に加え、中国がハイテク産業に力を入れだしたことに危機感を持つ勢力もあり、米国の知的財産権を守ることを建前にして、アメリカが中国に対する経済制裁を発動しました。
4月には500億ドルの制裁が発表されますが、この段階では貿易赤字が減らないと実行すると言う発表にとどまっていました。実際に発動されたのは7月3日で、まず340億ドル分、そして8月23日に追加の160億ドル分が関税の対象になりました。この時は、中国も全く同じ金額の追加関税を報復措置として実施しています。
それでも、状況が改善しないことから、9月18日に追加の2000億ドルを追加関税の対象として発表、中国は600億ドルの報復を公表します。合計するとアメリカが2500億ドル、中国は1100億ドルの輸入に関税をかけることになっています。
アメリカは今後さらに、中国からの輸入総額を超える5500億ドルまで追加関税の対象を増やすと脅しています。
この貿易戦争の行方ですが、エコノミストの予測ではアメリカ有利の予測が多いようです。根拠は大きく二つで、一つは輸入が多い方がお客さんなので強いと言うもの、もう一つは現在のアメリカ経済が好調で輸出が減っても内需の増加で賄えるのに対して、中国経済は不調で輸出の減が経済の悪化に拍車をかけると言う理由です。
世界経済の大きな潮流としては、行き過ぎたグローバリズムに対して反グローバリズムの潮流が広がってきており、世界全体で輸出頼みの経済は今後立ち行かなくなる可能性も高そうです。そう考えるとここしばらくはアメリカ優位が続きそうですが、中国には15億と言う世界最大の人口があり、内需中心の経済に転換出来れば、アメリカを超える経済大国に発展する可能性もありそうです。
■米、対中制裁の品目の原案公表 中国は25%の追加関税で応酬、WTOに提訴2018年4月4日
米通商代表部(USTR)は3日、米国の知的財産を侵害する中国に対し、通商法301条に基づく制裁措置として25%の追加関税を課す対象品リストの原案を公表した。米国が中国に追加関税を課す対象は医薬品や産業用機械のほか、自動車、家庭用食器洗い機など。USTRは、約500億ドルの関税対象額について「米経済が受けた損害を考慮すると適当だ」としている。中国に対米貿易黒字の縮小を求めているトランプ米大統領は、中国側の対応を見極めながら、制裁措置発動の是非を最終決定するとみられる。
一方、米国に対する中国の報復関税の対象となるのは、大豆や自動車など。中国商務省によると、対象106品目の2017年の輸入額は約500億ドルに上り、米国の追加関税額に匹敵する。
■ついに幕を開けた米中貿易戦争 形勢不利なのは中国2018年7月3日
トランプ政権は中国からの輸入品に対する制裁関税の詳細を発表した。しかし、詳しく見ると、当初リストにあったテレビやプリンター、エアコンなど消費者向けの品目が除外され、電子回路や電子機器、鉄鋼製品など製造業向けの品目が追加されている。こうした川上の品目は中国製以外からも調達可能で、価格転嫁はされにくい。
今後の焦点は、中国側が報復措置対象とする米国製品の詳細品目に移る。とりわけ注目すべきは、中国が7月6日からの報復措置対象とした545品目に含まれている大豆を、実際に高関税の対象にするかどうかだ。中国が輸入する大豆は、主に家畜用高たんぱく飼料として使用されており、中国の大豆輸入量の約3分の1を米国産に頼っている。米国のほかに有力な生産国もなく、手ごろな価格と高たんぱくの効率性を兼ね備えた飼料は他に見当たらない。
米中の貿易戦争は報復合戦の色合いを強めているが、中国の旗色は悪い。米国が3752億ドルもの巨額な貿易赤字(17年)を抱えている意味は、中国から米国への輸入額が米国から中国への輸入額を3752億ドル上回っているということだ。
■米国、中国製品340億ドルへの関税を発動ー中国は報復表明2018年7月6日
トランプ米大統領は中国からの輸入品340億ドル(約3兆7600億円)への追加関税を発動し、世界的な貿易摩擦問題で最も大きな号砲を放った。トランプ大統領が先に記者団に明らかにしたところでは、別の160億ドル相当の中国製品への関税を2週間内に発動する可能性があり、最終的に5500億ドル相当の中国製品が対象になり得ると示唆した。これは中国の年間のモノの対米輸出額を上回る。
米税関当局は中国から輸入される耕運機や半導体、航空機部品などへの25%の追加関税の徴収を開始。トランプ大統領は中国が米知的財産権を侵害し、米貿易赤字を不当に膨らませていると非難してきたが、直接、中国産品を標的に関税を課すのは初めて。
■米中貿易戦争はトランプに勝算、エコノミストが予想2018年7月6日
世界第2位の中国経済は失速中だ。2ケタ成長を続けた2000年代と比べて、最近は実質成長率が6.6%前後まで減速している。中国の株式市場は弱気相場に転じ、今年に入って20%下落した。その要因について、シンガポール大手銀行のDBSグループ・ホールディングスは、資金の流れが一時的に滞る流動性不足やデフォルト(債務不履行)、米中貿易摩擦の激化などを挙げている。
逆にアメリカの2018年の経済成長率は約3%に上向くと予想され、アメリカの経済や株式市場の指標となるダウ工業株30種平均も過去12カ月は好調を維持している。トランプが大統領に就任してから株式相場は堅調で、ダウ平均は2017年1月20日の大統領就任式でつけた1万9827ドル25セントから、現在は約25%も上昇した。
最新の統計によれば、アメリカの小売業や製造業は最高益を記録し、失業率は低下して完全雇用に近づくなど、経済は勢いを増している。製造業に関する調査を見ても、事業拡大に関する数値や消費者信頼感指数は異例の高水準だ。
2人のアナリストはアメリカの経済状況の方が力強いとしたうえで、もし貿易戦争が激化すれば、中国の方がより深刻な経済的苦痛に直面する、と予想する。
■中国への関税発動、アメリカの真の狙いは「中国製造2025」計画の阻止だ2018年7月31日
7月6日に340億ドル相当の中国製品に25%の追加関税を発動し、まもなく160億ドル相当を課税対象に加える。また、8月下旬の公開ヒアリングを経て、2000億ドル相当の製品に10%の追加関税を適用する可能性も示唆している。
対立する二つの派閥がいずれも危険視している動きがある。それが「中国製造2025」だ。2015年に中国政府が発表した産業政策で、簡単に言えば「今後10年で10分野において重点的に産業の高度化を図り、世界の製造強国レベルに持っていく」というものである。
10の重点分野は以下の通りだ。1.次世代情報技術(IT)2.ハイエンド制御工作機械とロボット3.航空宇宙設備4.海洋エンジニアリング・ハイテク船舶5.先端鉄道交通設備6.省エネルギー・新エネルギー自動車7.高付加価値電力設備8.農業用機械設備9.新素材10.バイオ医薬・高性能医療器械。「中国製造2025」に挙げられた10の重点分野は、いずれも軍事技術に直結する。それらの技術水準がアメリカに追いつけば、アメリカの軍事的優位が脅かされ、「米中もし戦わば」負ける可能性が出てくるのではないか——。そんな最悪のリスク・シナリオとして理解されたのである。
「中国に対する関税発動は、短期的にはアメリカ経済に痛手を与えるかもしれない。しかし、中国に進出したアメリカの企業はこれを機に、拠点を中国からアメリカに戻すか、中国以外に移すことを考えるだろう。そうすれば、アメリカから中国に技術が流出することはなくなる」
■米、追加関税第2弾発動=中国報復、「貿易戦争」泥沼化2018年8月23日
トランプ米政権は米東部時間23日午前0時(日本時間同日午後1時)すぎ、中国による知的財産権侵害を理由とする制裁関税の第2弾を発動した。新たに160億ドル(約1兆8000億円)相当の中国製品に25%の追加関税を課す。中国は「断固反対する」(商務省報道官)として、同規模の報復措置を実施した。
米側は前回同様、中国がハイテク産業振興戦略「中国製造2025」で重点とする品目を主な標的にした。半導体関連に加え、プラスチック、鉄道など279品目が関税の上乗せ対象。一方で中国の報復は自動車関連をはじめとする米国製品333品目。
■対中赤字10%増え過去最大に 制裁関税効かず2018年9月5日
米商務省が5日発表した7月のモノの貿易収支(通関ベース)によると、国別で最も多い中国に対する赤字は前月比10.0%増の368億3400万ドル(約4兆1000億円)で、単月として過去最大となった。米国は7月から中国からの輸入品に制裁関税をかけたが、目的とする赤字削減効果は出ていない。
トランプ政権は、中国がアメリカのハイテク技術などを不当に手に入れて知的財産権を侵害しているとして、第3弾の制裁措置として今月24日から、これまでで最大の2000億ドルの輸入品に10%の関税を上乗せすると発表しました。
これに対して中国政府は、アメリカからの600億ドルの輸入品に最大で10%の関税を課す報復措置を、同じ24日から実施すると発表しました。今回の報復措置が実施されると、アメリカから中国への輸入品の70%以上が関税上乗せの対象となります。
トランプ大統領は、次は中国のほぼすべての輸入品を制裁の対象にする方針を示しており、米中の貿易をめぐる制裁の応酬は一段とエスカレートし、全面的な対立に発展しそうです。
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