米中貿易戦争、中国の株価操作でトランプ大統領は追い詰められ、終結に向かう?
昨年4月頃から本格化した米中貿易戦争、いまだに協議は続いていますが、終結に向かう流れが出来つつあるようです。前回の投稿では、12月1日の米中首脳会談で、90日間の停止期間を設けて協議を行う事が決定されたところまでお伝えしました。その期限が本日3月1日という事で、その後どのような協議が行われ、3月1日の期限にどのような結論が出たのか調べてみました。
結論から言うと、協議の結論は出ておらず、まだ時間はかかるようですが、トランプ大統領は60日間の協議期間延長を検討しており、近々公表されるそうです。また、3月中には米中首脳会談を開催し、習近平国家主席と合意したいと意欲を示しています。協議は終結に向かっています。
最終的に問題になっているのは、知的財産権保護、進出企業に対する技術移転の強要問題や、政府補助金などの構造問題です。中でも重要なのが、合意に拘束力を持たせる仕組みのようです。いくら合意に至っても、中国が合意事項を遵守、実行しなければ意味が無く、これまで中国は約束しても実行してこなかったと指摘しています。
貿易戦争全体は沈静化に向かっていますが、ハイテク分野の競争は激化しています。トランプ大統領は、アメリカの通信会社に対し、中国製の通信機器の使用を禁じる大統領令に署名する意向を表明したり、大統領令で、AIなどの研究開発(R&D)を安全保障上の理由から優先的に行うよう政府機関に指示するなど、貿易協議の枠組みを超えて、ハイテク分野で中国に負けない体制をつくろうとしています。
トランプ大統領も本当は中国との貿易戦争をもっと徹底的にやりたかったのかもしれませんが、貿易戦争が本格化した昨年10月頃からアメリカの株はどんどん下がり始め、2万6千ドルまで上昇した株価が、昨年末には2万2千ドル割れまで暴落します。トランプ大統領は中間選挙で何とか優勢は保ったものの、ロシア疑惑もあって次期大統領選の再選が危ぶまれており、トランプ大統領にとって株価維持は大きな課題だったと思われます。最も大きな問題であるハイテク産業の課題は貿易協議から外して政治的に重視する姿勢は示しながら、貿易協議全体は収束させるつもりのようです。
一般的には、米中貿易戦争は輸出が多い中国の方が劣勢で、アメリカが優位に交渉を進めていると言う報道が多いようですが、アメリカの株価の動きを見ると、中国が株価の暴落を仕掛け、トランプ大統領を追い詰めることで貿易戦争を終結に導いていると考えられます。
中国も国内経済は破たん寸前であり、貿易戦争を終結に向かわせる必要があることはアメリカと同様ですが、国内の体制は今の所安定しており、次期大統領選に不安を抱えるトランプ大統領の方が追い詰められ、早期解決に向けて舵を切ったと思われます。
■米中株価回復の背景に政策転換 貿易戦争の見通し改善も2019年2月6日
NYダウ指数が戻り歩調となっている。2018年12月26日の場中で21713ドルの安値を記録したNYダウ指数だが、2月4日の終値は25239ドルまで上昇、この間の上昇率は16%に達している。急落の主な要因がFRB(連邦準備制度理事会)の金融政策、米中貿易戦争の激化であるなら、急回復の要因はFRBの金融政策の変更であり、米中貿易戦争の見通し改善である。
FRBのパウエル議長は1月4日の講演で、金融政策を柔軟に見直すと発言、利上げの一時停止を示唆した。1月30日のFOMC(連邦公開市場委員会)では追加利上げが見送られると同時に、これまでは年2回の利上げを見込んでいたが、それを棚上げし、さらに、資産圧縮計画の見直しも示唆された。
米中貿易戦争に関して言えば、トランプ大統領は1月8日、貿易協議について順調に進んでいるとツイッターを通じて発言、ムニューシン財務長官は1月17日、対中関税の撤廃を提案したと発表している。1月30、31日に行われた米中閣僚会議では、中国側は重要な進展があったと報じている。トランプ大統領は2月2日、鴻海精密工業の郭台銘会長に直接電話し、一時凍結していたウィスコンシン州での液晶パネル工場建設の再開を促したほか、米中貿易協議は順調に進んでおり合意に達するだろうと発言したという。
トランプ大統領の最大の目標は次の大統領選挙で再選を果たすことである。株価の上昇が大統領としての大きな成果の一つとして喧伝してきたこともあり、株価の下落を放置するわけにはいかない。それは即、落選に繋がってしまうリスクが高い。トランプ大統領の強力な指導力がアメリカの株価を支えているといった見方ができよう。
一方、中国の株式市場についても共産党、国務院幹部など、当局が支える形となっている。アメリカも、中国も、マクロの景気、ミクロの企業業績ともに下向きであり、見通しも不透明である。そうした中での政策変更であり、新たな政策発動である。
最近、中国経済の停滞が目につくようになった。中国の昨年第三四半期の実質GDPは6.5%とリーマンショック直後以来の低水準となった。確かに、中国では自動車販売が28年ぶりに前年割れとなると見込まれるほか、固定資産投資も前年比5%程度にまで落ち込んでいる。雇用面でもテック部門や半導体などの関連業界では大量解雇が始まっていると伝えられている。
中国にかつてのような高成長は望めない。つまり長期的観点から見れば、中国の成長率が徐々に低下していくのは避けられないからだ。もはや農村部から都市に移動するような余剰労働力は残っていない。悪いことには人口動態からみても、生産年齢人口が減少局面を迎えて2012年ごろには人口ボーナスを喪失したとみられる。
第二には中国の過剰債務問題の是正を意識した習近平政権が大気汚染や河川の汚濁などの環境問題への対応に加えて、シャドーバンキングに対する規制強化や過剰設備の廃棄などの施策を講じたことも景気には抑制的に働いた。
第三にはトランプ米大統領が仕掛けた米中貿易戦争の悪影響が加わった。共和党、民主党の別を問わず、また日頃トランプ政権に批判的な良識派を含めて、みな対中強硬策を支持している。ただ、対中貿易赤字を問題にしているのではない。中国がサイバー攻撃など不正な手段を通じてハイテク科学技術を米国等から窃盗を続けるのを見過ごしていては、5Gなどの通信技術、月面裏側にまで到達するような宇宙開発技術などで米国が中国に追い越されることを懸念しているためだ。
■トランプ大統領 中国製通信機器使用禁止へ2019年2月9日
アメリカは、中国の通信機器大手「ファーウェイ」と「ZTE」をサイバーセキュリティー上の脅威とみなしている。こうした中、アメリカの一部メディアはトランプ大統領が来週、アメリカの通信会社に対し、中国製の通信機器の使用を禁じる大統領令に署名する見通しだと報じた。背景には、次世代の通信規格「5G」などハイテク技術の分野で、中国に世界の覇権を握られかねないとの危機感があるとみられる。
■大統領令でハイテク加速=AIや5Gで「対中国」-米2019年2月12日
トランプ米大統領は11日、人工知能(AI)や次世代通信規格「5G」など最先端技術の開発を加速させるため、政府の役割を強化する大統領令に署名した。経済・軍事力を左右するハイテク技術で台頭する中国に対抗し、官民連携で国内産業の育成に取り組み、優位の維持を図る。
トランプ氏は大統領令で、AIなどの研究開発(R&D)を安全保障上の理由から優先的に行うよう政府機関に指示した。超高速計算が可能で暗号技術にも大きな影響を及ぼす量子コンピューターの開発も推進。投資拡大や規制緩和を通じ、防衛、エネルギーを含む関連産業の競争力を強化する。
■米中貿易戦争“ヤマ場”の閣僚級協議始まる2019年2月14日
米中貿易戦争の泥沼化を回避できるのか、「ヤマ場」の協議が始まった。4日に始まった閣僚級協議では、知的財産権の侵害など、中国の構造改革で両者が歩み寄れるかが焦点。交渉期限が来月1日に迫る中、一部のアメリカメディアは「トランプ大統領が、期限を60日間延長することを検討している」と報じている。
■根深い米中の経済対立、米中貿易戦争の行方2019年2月17日
ホワイトハウスが劉鶴氏の訪米に関して出した声明からは、米国は、中国による知的財産権の侵害、補助金や国営企業、米国企業への技術移転の強制、中国による関税および非関税障壁、貿易赤字といった点を問題視する、従来の姿勢を維持しているように見える。すなわち、中国に対して構造的な改革と対米貿易黒字の削減を求めていくということである。中国側が提示した譲歩は、米国のエネルギーや農産物など12分野での輸入拡大、米国の対中投資受け入れ拡大などにとどまるようである。米国との隔たりは大きい。しかし、中国側は米中首脳会談を提案し、トランプもこれに前向きのようである。中国側は経済が急失速しており、トランプの方は2020年の大統領選挙を控え貿易面で何らかの得点を挙げたいと考えているものと思われる。中国から何らかの具体的譲歩を引き出し、それをトランプの駆け引きの勝利と宣伝し、米中の冷戦の一時的休止がもたらされる可能性は否定できない。
ただ、仮に首脳会談が開かれ短期的に妥協が成立したとしても、長期的には米中の経済競争が終わることはないであろう。中国との対決は貿易から始まり、今や先端技術における覇権争いをはじめ、全面対決の様相を示している。米中の対決が先端技術にまで及んでいるのは、米国が、中国の挑戦は米国の卓越した地位を脅かしているとの危機感を抱いているからである。例えば、中国は、通信速度が現行の4G携帯電話の100倍となる、次世代の社会基盤となると見込まれる5G技術で、米国に引けを取らない開発をしていると言われる。
■NYダウ反発、2万6000ドル台回復=3カ月半ぶり2019年2月23日
週末22日のニューヨーク株式相場は、米中「貿易戦争」が終息に向かうとの期待から反発した。優良株で構成するダウ工業株30種平均は前日終値比181.18ドル高の2万6031.81ドル(暫定値)と、昨年11月8日以来約3カ月半ぶりに2万6000ドルの大台を回復して終了した。
■中国景気低迷で労使紛争1700件超、経済成長+6.8%はウソか2019年2月23日
中国では昨年1年間で少なくとも、1700件以上の労使紛争が起きており、労働者による激しいデモや集会が1日平均で5件以上も行われていることが明らかになった。これは2017年と比べて500件も急激な増加を記録しているが、中国当局の厳しい報道規制により、多くの抗議活動は報道されていないという。これは個人消費の低迷や米中貿易戦争により、中国の景気悪化が一段と進んでおり、中国各地で、労働者への賃金未払いが多数出ていることも影響。労働者らは待遇改善を求めるデモを展開しているほか、なかには「給料を支払わなければ飛び降り自殺する」と訴える農民工(出稼ぎ農民)も出ているという。
中国人民大学・国際通貨問題研究所の向松祚教授は昨年12月、同大学での講演で、「ある重要な政府系研究機関の統計結果」として、2018年の中国のGDP成長率は政府報告の6.8%ではなくて、「実際は1.67%だった」と指摘。さらに、「他の試算方法ではマイナス成長だった」とも述べており、中国経済が急激に悪化しているとの見通しを明らかにしている。
■トランプ氏、米中協議「合意近い」 首脳会談での署名に意欲2019年2月26日
トランプ大統領は25日、中国との貿易協議は「進んだ段階」にあると述べ、中国の習近平国家主席と合意文書に「署名する会談」を開くことになるとの見通しを示した。トランプ氏は24日、4日間にわたる米中当局者間の話し合いで進展があったとして、3月1日とされていた協議期限を延長し、2000億ドル(約22兆2000億円)分の中国製品を対象とした制裁関税の引き上げを先送りしていた。トランプ氏は先に、フロリダ州に所有する高級リゾート施設「マーアーラゴ」で3月中に習氏と会談するとの見通しを明らかにしている。
■ますます先鋭化、5Gをめぐる米中の争い2019年2月27日
米中貿易戦争は、米中間の技術をめぐる争いにも発展し、それは、軍事競争にも発展し得る。そして、その技術戦争の中心は、現在5Gになっている。5Gは、単なる通信施設ではなく、工場の自動化、自動運転、遠隔医療など、IoT(モノのインターネット)時代の社会基盤になる可能性があると言われる。その5Gで、米国は、中国に比して劣勢に立たされていると言う人もいる。ある民間調査会社によれば、2017年時点で1 万人当たりの5G基地局(電波を中継する)は、中国が約14万基であるのに対して、米国は4万7000基であったとのことである。
米国が危機感を持っているのは、5Gで中国に後れを取っているのみならず、5Gのネットワークが情報の搾取に利用される恐れが高いからである。中国の「2017年国家情報法」は、中国の企業が中国の国家情報局を支援し、これと協力しなければならない、と規定している。5Gは広大な通信ネットワークで、米国はファーウェイが深●(土へんに川)の本部から世界に張り巡らされたネットワークにアクセスし、これを管理することを懸念している。
今後、米国を中心とする5Gのシステムと、中国を中心とする 5Gのシステムが併存する事態が想定される。これは、世界的なサプライ・チェーンが分断されることを意味し、経済効率の点からは、大きなマイナスであるが、5Gをめぐる争いは単なる経済上の争いではなく、安全保障の絡む問題であるので、経済的効率の考慮は二の次にならざるを得ないだろう。
■米中協議、なお多くの作業 知財保護など順守への仕組み不可欠2019年3月1日
USTRのライトハイザー代表は27日、米中貿易協議に関し、「米中が合意に達する前に、なお多くの作業が必要だ」と述べた。中国が知的財産権保護などの構造問題に確実に取り組むことが重要だとし、「(最終)合意に拘束力を持たせる仕組みが不可欠だ」と語った。
最終合意には、中国に合意事項を順守させるための十分な仕組みが盛り込まれることが前提条件になるとの認識を示した。また、進出企業に対する技術移転の強要問題や、政府補助金などに関する中国の取り組みについて、定期的に進捗(しんちょく)を検証する制度を米側が求めていると説明した。事務レベルで毎月開き、次官級を四半期ごとに、閣僚級は半年ごとに開く考えも示した。違反が確認された場合は「米国は一方的に行動をとる」と述べ、対抗措置に出る可能性も示唆した。
トランプ大統領は3月中にも米南部フロリダ州で米中首脳会談を開き、習近平国家主席と最終合意を結ぶ意向を示している。当初3月に予定した対中制裁関税の引き上げも延期する方針だ。
■米中貿易協議は予定調和の「先送り」——まとまらない対中強硬策に焦るトランプ大統領2019年3月1日
2019年2月24日、トランプ米大統領は3月2日に予定していた中国製品に対する追加関税の引き上げを見送り、3月下旬ごろ習近平・中国国家主席と会談して交渉決着を目指すと表明した。
2018年から、トランプ政権は対米貿易黒字を抱える国々を主たる対象として矢継ぎ早に制裁を打ち出してきたが、当初から中国との対決色が全面に出ていたわけではない。米中貿易戦争の実質的な開戦は「2018年7月6日」だったと言えるかもしれない(ちなみに同日、中国は同額・同率の制裁関税を決定している)。その後、500億ドルから340億ドルを除いた残額160億ドルに対し25%の追加関税が8月に、さらに2000億ドルに対し10%が9月に決定され、賦課が始まっている。今年に入ってから注目されてきた追加関税の引き上げ期限「3月1日」はこの最後の2000億ドルに対する10%を25%にするか否かという話である。
全てはトランプ大統領の交渉戦術通りに進んでいるようにも見えるが、実情はそうでもなさそうである。米中両政府は2019年1月以降、3回の閣僚級会合を開催し、第3回目の最終日である2月24日にトランプ大統領から再延期が表明された。だが、このタイミングで公表されるとささやかれていた覚書やこれに付随する共同声明などが出たわけではない。「任期のない中国国家主席」が「任期のある米大統領」を徐々に押し込み始めているようにも見える。
中国に関しては、やや事情が異なる部分もあるのが厄介だ。アメリカ側が最も毛嫌いする、巨額の補助金などによるハイテク産業育成策「中国製造2025」は、そもそも通商問題ですらない。次世代先端技術を巡る覇権争いなのだとすれば、対米貿易黒字がどうであろうと争いは続く。どちらも覇権を譲るつもりはないであろうから、最悪、トランプ政権後も続く恐れがあるだろう。
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