2023-03-17

宇宙開発が推進されているのは何で?part2

国際宇宙ステーション

前回の宇宙開発が推進されているのは何で?では、人類初の月面着陸に至る過去の宇宙開発が、第二次世界大戦と米ソ冷戦の産物であり、米ソ冷戦の終結によって、宇宙開発に大きなブレーキがかかったことをお伝えしました。それが現在では、民間主導で宇宙開発ビジネスが大きく拡大しています。なぜ、このような動きが起こっているのか調べてみました。

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(1)冷戦後は予算抑制のために国同士が共同、そして民間中心に移行

まず、冷戦後の世界の宇宙開発ですが、お金のかかる有人宇宙飛行は人工衛星に限定し、衛星・惑星探査は無人探査の時代に入ります。さらに、それも国同士が競い合うのではなく、世界が共同して取り組むことで予算を抑制する方向に大きく舵を切ります。1990年のハッブル宇宙望遠鏡はNASAと欧州宇宙機関の共同事業です。1992年に始まったアメリカのディスカバリー計画は、速い良い安いをスローガンに実施されました。1993年スタートのシャトル・ミール計画はアメリカとロシアの共同による宇宙ステーションです。さらに1998年の国際宇宙ステーションISSはアメリカ、ロシア、EU、日本、カナダの5か国が参加しています。

世界的には宇宙開発が縮小傾向にある中で、積極的な開発を進めたのが中国です。2003年には世界で3番目の有人宇宙飛行に成功します。2007年には月探査機嫦娥1号が打ち上げられ、月軌道に到達した5番目の国となります。2020年には無人機で月の資料採取に成功、火星探査機もソフトランディングに成功します。そして2022年、宇宙ステーション天宮を単独で完成させました。

中国以外の国で、政府による宇宙開発が縮小する中で、成長しているのが民間の宇宙開発です。米ソ冷戦の時代には、打ち上げられる衛星の75~80%は軍事衛星であったが、現在は80%が民間衛星だそうです。ロケットの打ち上げも民間が主導するようになります。2002年にイーロンマスクが設立したスペースXはアメリカで唯一の有人宇宙船を持っています。また、ファルコン9ロケットは世界で初めて商用ロケットの再使用を成し遂げ既存の使い捨て型ロケットと比べて半分以下のコストでの打ち上げを実現しているそうです。

(2)人工衛星の打ち上げはここ10年で14倍

人工衛星の用途は多岐にわたり、一般的なものは、軍事衛星、偵察衛星、通信衛星、放送衛星、地球観測衛星、航行衛星、気象衛星、科学衛星、アマチュア衛星などです。人工衛星の打ち上げも大幅に増加しており、2021年に打ち上げられたのは1809機でしたが、これは2011年の129機の14倍にもなります

GPSや気象観測、テレビの衛星放送など、民間の需要で衛星が増えている側面もありますが、軍事的な側面もかなり大きいようです。ウクライナ軍が激しい戦力の劣勢を克服してロシア軍に対抗するうえで、地理情報の把握と画像制作など商業的な目的を持つ民間の衛星が、軍事的効用を発揮しているのです。軍は民間衛星の情報を買うようになりました。強靱な宇宙産業を育成することが、とりもなおさず宇宙における軍事力を高めることにもなるのです。

ウクライナ・マリウポリ

(3)民間ロケット拡大の背景に軍事的緊張がある

そういった視点で、人工衛星の打ち上げ数を見直してみると、2012年にオバマ大統領が中国の膨張を抑止すると宣言したあたりから打ち上げ数が上昇を始め、2014年にロシアがクリミアを併合、トランプ大統領が2016年に大統領に当選して中国との貿易戦争を開始してから一気に急上昇、2021年ロシアのウクライナ侵攻と、世界情勢の悪化に比例するように人工衛星の打ち上げが増加していることが分かります。

ちなみに、軍事衛星の世界市場は、予測期間2021-2027年にかけて6%以上の健全な成長率で成長すると予測されています。また、日本では1998年に北朝鮮が「テポドン」を打ち上げた後に、続々と偵察衛星を打ち上げ、年間約800億円をコンスタントに消費する宇宙計画へと巨大化し、2023年現在における日本国最大の宇宙計画なのだそうです。

防衛省は防衛力抜本的強化の初年度に当たる23年度予算で、宇宙領域の能力強化として「衛星を活用した極超音速ミサイル(HGV)探知・追尾等、対処能力向上に必要な技術実証」に46億円を盛り込みました。また宇宙領域把握(SDA)衛星製造など「SDA強化」に595億円を充てます。中国は日本を射程に収める弾道ミサイルを約1900発、巡航ミサイルは約300発を保有するとされており、加えて中国は宇宙の軍事利用に積極的で、早急に対策を打つ必要に迫られています。民間の衛星コンステのサービスを陸海空の自衛隊が利用し、国土防衛に役立てる計画もあります。やはり、宇宙開発は戦争と切っても切れない縁があるようです。

List    投稿者 noda | 2023-03-17 | Posted in 05.瓦解する基軸通貨No Comments » 

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