反グローバリズムの潮流(スイスの国民党)
これまで、ヨーロッパで反グローバリズムの潮流が勢いを増してきている事を紹介してきましたが、その先頭を走っているのがスイスです。スイスでは右派で移民反対を唱える「国民党」が2003年以来、第1党を維持しています。
もともと、スイスは独立の気風が強く、永世中立国でもありEUとは距離を置いているイメージがありますが、実はグローバリズム勢力が強い国でもあります。 なぜ、国民党が第1党になれたのでしょうか。
スイスには世界的に有名な大銀行や保険会社が拠点を置いています。これらの企業は、ドイツやフランスなどから、高いスキルを持った人材を常にリクルートしており、移民の受け入れに積極的です。スイスは欧州連合(EU)に属していませんが、2002年にEUとの間で「移住の自由に関する協定」に調印しました。この結果、EU加盟国からスイスへの移民が急増し、スイスの人口約810万人のうち、ほぼ4分の1が外国人なのです。国民党が2003年に第1党になったのも、急激な移民の増加が原因だと思われます。スイスの経済力は世界でもトップクラスですから、政治力は経済界が掌握していても良さそうなものですが、少数のエリートによる大衆支配を防いでいる一つの要因が国民投票です。近年のスイスでは、国民党や関連団体が国民投票を活用しつつ、政治エリートに否を突きつけているのです。
また、面白いのは、この国民投票で国民党が圧倒的に強いのかと言うとそうでもなく、移民の人権を不当に差別する外国人犯罪者追放法案は否決されていますし、国民党が反対した脱原子力発電を目指す新エネルギー法は可決されたりしている事です。スイス国民は国民党のプロパガンダに洗脳されている訳でもありません。国民投票が有効に機能するだけの見識を、多くの国民が持っている事も大きな要因かも知れません。
■国民投票を武器に跳躍するヨーロッパのポピュリズム政党2017年6月28日
もともと山岳地帯に散らばるカントン(州)の自発的な連合体として出発したスイスでは、カントンの自治を重んずる気風に加え、ドイツ語をはじめとする複数の言語が用いられ、宗派もプロテスタントとカトリックが二分するなど、地域的、言語的、宗教的に分立した社会が維持されている。この多元的な社会状況を背景に、強力な権力を持つ中央政府の出現に対する警戒感は強く、連邦政府の権限拡大にはたびたびブレーキが掛けられてきた。この「権力抑制」のための切り札として一九世紀後半に導入され、現代まで多用されてきたのが国民投票である。
スイスの国民投票は、主に三つに大別される。第一は「義務的国民投票」であり、憲法改正や重要な条約など、国の根幹にかかわる事項について義務的に実施される。第二は、「任意的国民投票」であり、法律や条約などについて、一定数の署名やカントンの要求があった場合にのみ実施される。そして第三のタイプが「国民発案」である。これは一〇万人以上の署名で憲法の改正を提起し、国民投票にかけて賛否を問うというものである。
二〇世紀末以降、この国民投票の制度を積極的に活用してスイス政治の表舞台に躍り出たのが、ポピュリズム系の政党・団体である。まず一九八六年に設立された民間団体のAUNS(「スイスの独立と中立のための行動」)は、スイスの独自性の保持を掲げ、EUや国連などあらゆる国際組織への加盟を拒否する強い姿勢を打ち出し、社会各層から支持を得て数万人の会員を集める。そして一九九二年、EEA(欧州経済領域)加盟をめぐる国民投票で加盟反対の運動を大規模に展開し、五〇・三%の反対票で否決に追い込むことに成功した。
このAUNSの隆盛と軌を一にして存在感を高めてきたのが、国民党である。もともと穏健保守政党として地味な存在だった国民党は、AUNSのリーダーで急進派のクリストフ・ブロッハーが党を掌握した一九九〇年代以降、急速にポピュリズム色を強め、右派ポピュリズム政党として「再生」を果たす。そして既成政治を批判する一方、AUNSと足並みをそろえてEUや国際組織への加盟に反対し、イスラム移民の排除を訴える。そしてメディア戦略を駆使しつつ、これらの主張を有権者に広く訴える方法を採り、支持を拡大する。かつて国政第四党に甘んじていた国民党は、ついに二〇〇三年の総選挙で第一党にのぼりつめた。その勢いは今も継続している。
近年のスイスでは、国民党や関連団体が国民投票を活用しつつ、従来のスイス政治を彩ってきた政治エリートの協力関係(いわゆる「協調民主主義」)に否を突きつけている。しかもそこで特徴的なことは、それまで成功率の低かった「国民発案」をいくつも成功させていることである
■移民急増を拒絶したスイス国民投票の衝撃2014年2月20日
保守化傾向を示す端的な例が、2月9日にスイスで行われた国民投票である。外国からの移民を規制するよう求める右派政党SVP(スイス国民党)の動議に、有権者の50.3%が賛成したのだ。
スイスは欧州連合(EU)に属していないが、2002年にEUとの間で「移住の自由に関する協定」に調印した。この結果、EU加盟国からスイスへの移民が急増した。スイスの人口約810万人のうち、ほぼ4分の1が外国人である。
ブルナー党首は、ザンクト・ガレン出身の農民である。彼が始めた「大量の移民に反対するキャンペーン」は、過半数の有権者、特に農村など大都市以外の地域に住むスイス人の琴線に触れた。
これに対しスイス政府と経済界、大都市の市民は、SVPの動議に反対した。特に外国からの労働力に依存する経済界は、移民規制を批判するキャンペーンを行った。チューリヒやジュネーブには世界的に有名な大銀行や保険会社が拠点を置いている。これらの企業は、ドイツやフランスなどから、高いスキルを持った人材を常にリクルートしている。
都市部の住民の多くは、グローバル化の「勝ち組」である。同国の経済界と、「勝ち組」に属する市民は、EUへの接近を切望している。
つまりこの国民投票は、グローバル化によって利益を得る大都市の住民と、グローバル化に対して不安を抱く地方在住の市民の対決でもあったのだ。
■スイス総選挙、反移民の国民党が第1党維持へ右派が勢力拡大2015年 10月 19日
18⽇に投開票されたスイスの総選挙では、移⺠反対を唱える右派の国⺠党が下院での議席を増やし、第1党を維持する⾒通し。選挙の争点は、欧州に⼤量流⼊する移⺠・難⺠への対応だった。国⺠党と同じ右派で企業寄りの急進⺠主党も今回議席数を伸ばし、専⾨家はスイス政治の右傾化を指摘する。
■スイスで、ポピュリスト保守政党提出の外国人犯罪者追放法案が国民投票で否決されたことの意義は大きい。2016年3月1日
2016年2月28日(日曜日)の良いニュース。スイスで、反移民をかかげて第一党の位置にあるポピュリスト保守派政党UDC(スイス国民党)が提出した、軽罪を犯しただけでも外国人を自動的に追放できるという差別的なゼノフォビア(外国人排斥)法制への国民投票がありました。これに対してスイス国民は約58.9パーセントの反対票を投じ、この差別的な法案にノン(ナイン)の意思を示しました。
■スイス、移民3世の市民権取得容易に 国民投票で賛成多数2017年02月13日
スイスで12日、移民3世による市民権取得手続きの簡素化の是非を問う国民投票が行われ、賛成派が60%を占めて勝利した。移民3世は今後、自動的に市民権申請を承認されるわけではないが、時間のかかる市民権取得手続きの一部を省略できるようになる。
国会で最大勢力である右派のスイス国民党(SVP)は、イスラム教と国のアイデンティティーを争点に掲げ、反対運動を展開していた。
反対派陣営は黒い「ニカブ」(目以外の顔と髪を覆うベール)を身に着けてにらみつけるような視線を送る女性の姿に、市民権の管理放棄を拒否するよう呼び掛ける言葉を添えたポスターを大量に配布し、厳しい批判を浴びていた。
■スイス、脱原発と省エネへ 国民投票で可決2017年5月21日
今回可決された「新エネルギー法」は、エネルギー転換を目指す改正法案で、「エネルギー戦略2050」をベースとし、スイス国内にある原子力発電所5基の稼動を順次停止しながら、原子力発電所の改修や新設を禁じる内容となっている。スイス政府は、同法案を2011年の福島第一原発事故直後から年月をかけて慎重に策定し、連邦議会は昨年9月に承認した。ところが、右派の国民党が同法案に反対したことでレファレンダムが成立し、今回の国民投票に至ったが、最終的には国民の支持を得た。
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