【金による新基軸通貨】金価格についての総合論(前編2)(吉田繁治氏)
「金価格についての総合論(前編1)(吉田繁治氏)」の続き。
【結論】金価格は、FRBがドル基軸通貨体制の危機と認識されたとき、下げ誘導される。過去は、1回目が1980年から1999年、2回目が2013年から2015年だった。
今回も、2020年の第四四半期(9月~12月)に小規模な、金ETFの売り越しがある。これは、FRBによる調整誘導ではなく、20年12月決算に向かっての、ヘッジファンドの益出しだった。20年3月に株価が33%下がって大きな赤字が出たので、ヘッジファンド8000本は、20年12月の益出しに迫られていた。運用に利益が出ないと、ファンドが破産するからである。
金価格は、FRBのドル政策の、逆の評価関数である。このため、ドル高期待があるときは下がり、ドル安期待のときは上がる。
「これからの金価格についての総合論―3」
■世界のドルを増やす、米国の経常収支の構造的な赤字
【結論】米国は、一国で、世界の経常収支の赤字を引き受けている。この構造的な要素から、米国の対外債務は、増え続ける宿命にある(現在は3600兆円)。ということは、長期的には、金価格は上がり続ける。
■ドルは、海外でどう処理されているか(通貨の売買である国際金融)
【結論】ドルが、金準備制をやめたあとも基軸通貨と認められてきたのは経常収支の大きな黒字国である日本、ドイツ、中国が受け取ったドルを貯蓄(外貨準備と対外投資)して、米国に還流させたからである。
▼人民元という、ドルの攪乱要素
【結論】華僑(海外に3000~4000万人)の投資家が、中国共産党の人民元に不安を感じ、事実上はドルペッグの、元脱出の機会を狙っている。2020年から、珍しく米国の金輸入が増えた理由は、米国の富裕な華人の金買いが増えたからであろう。米国人は、1933年から1975年まで42年間も、個人の金保有が禁止されていた後遺症から、金を買う投資家は少ない(それでも日本よりは多い)。日銀が金を買わないのは、米国がドル国債を買えと指示しているからである。
「これからの金価格についての総合論―4」
■基軸通貨のドルは、海外の外貨準備になる
経常収支黒字国の、銀行に溜まるドルは、中央銀行(CB)あるいは財務省が買い上げ、輸出の支払いのための「外貨準備」にしています。世界の外貨準備は、2000年代に世界貿易とともに増えて、12.2兆ドル(1300兆円:60%が米ドル)を超えています。
DS派(影の国家)の、「新自由主義」の経済思潮から、2000年代の20年、経済のグローバル化と海外生産が進展しました。
工場の、新興国(生産コストが低い)への移転のため、国際貿易は、GDPの増加率の約3倍で増え、ドルの外貨準備への需要(=海外のドル貯蓄:ドル高の要素)も増えたからです。
世界の外貨準備の、需要の増加(=ドル買いの増加)が、1990年代から2010年代の30年間も、ドル相場を底支えしてきたのです。
通貨相場のグラフからは、その動きの意味を、読まねばならない。表面の傾向に意味が隠れています。ドルが支持されたという意味ではないのです。
国際貿易が増えたため、世界の外貨準備に増加需要があったことが、ドルの相場を支えて来ました。
エコノミストの多くが、「ドルの通貨信用が高い」としていますが、誤った推論でしょう。
経常収支の赤字から、下がるべきドルの価格が、海外からの買いの必要から、1ドル=100円~120円の幅で、維持されてきたということです。
(注)トランプの、1919年からの中国輸入の制限は、ドルの下落要素です。
【結論】2000年代に、新興国(筆頭が巨人の中国)の5%~7%の経済成長と、先進国のサプライチェーンの、グロバーリズムが進展した。これは国際貿易の増加だから、各国の外貨準備としてドルへの超過需要が生じ、ドルの外為レートは、高く維持された。これが、赤字国のドルの不敗神話を生んだ。神話は、表面をなでるものである。
■米ドルの価値の構造
【結論】米ドルは、2020年代のGDPの成長率鈍化ともに、国際貿易が減っていくと、長期的には、下落する通貨である。基軸通貨は、貿易の決済通貨である。貿易が増えるとドル需要が増えるが、減って行くとそのドル需要も減る。2020年代の世界貿易は、2010年代との比較では下がる。中国が2010年から、なだらかな高齢化に突入したからである。
■不適な基軸通貨が、米ドル
【結論】基軸通貨は、金でなければ、米国の信用通貨であるドルではなく、IMFの国籍のないSDR(特別引き出し権:通貨バスケット、現在148.8円)でなければならなかった。しかし経済力ではなく軍事力で圧倒的な優位の米ドルを、世界は基軸通貨と認めて、1771年以来、50年続いている。
「これからの金価格についての総合論―5」
■米国の財政赤字の急増(4兆ドル:2021年)
【結論】コロナ危機対策としての、ドル・ユーロ・円・人民元の、同時の通貨の大増発(確定した)は、ドルの反通貨である金価格を高騰させる。金の急騰が始まる論理的な時期は、当然に、不明である。市場はそうしたものです。米ドルには、心理的な慣性での信用がある。ドルへの心理的な呪縛が解け始めるのは、直観では、2022年から23年から思っているが・・・以降では、未来の想定検証です。
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