反グローバリズムの潮流(ドイツのメルケル首相が党首選辞退表明、EU崩壊が始まる?)
10月18日の記事「反グローバリズムの潮流(ドイツのメルケル政権は次の州選挙でも負けたら崩壊する?)」で、ドイツのメルケル政権が崩壊の危機に瀕していることを伝えました。ドイツ南部バイエルン州で10月14日に行われた州選挙で大敗を喫したメルケル率いるキリスト教民主同盟(CDU)は、10月28日のヘッセン州選挙でも大敗を喫し、メルケル首相はついに責任を取って党首の辞任を表明しました。今後、ドイツ、EUはどうなるのでしょうか。
まずドイツですが、メルケル大統領が2015年に開放的な移民政策を採用してから、ドイツ国内では反移民、反EU勢力が勢いを伸ばしてきました。その勢力を抑え込んできたのがメルケル首相の過去の実績でした。メルケル首相のような求心力を持たない政治家が党首や首相になれば、当然、世論の支持を得るために、政策的には反移民、反EUに擦り寄らざるを得ないことになるでしょう。右翼政党の躍進に加えて、政府与党も右傾化して行くことは間違いなさそうです。そして、EUです。EU全体ではドイツ国内以上に、反移民、反EU勢力が勢いを伸ばしています。それをドイツのメルケル首相と、フランスのマクロン大統領が抑え込んできたわけですが、前回見たようにマクロン大統領の支持率は20%台と低迷し発言力の低下は否めません。そんな状況でのメルケル首相の引退表明ですから、EUも求心力を失っていくことはまず間違いないでしょう。
自国主義を強める、アメリカのトランプ大統領や、ロシアのプーチン大統領と、互角に渡り合える指導者はEUにいなくなります。今後、EUの崩壊は加速度的を増して一気に進む可能性が高そうです。
■独へッセン州で連立与党が苦戦、メルケル首相にまたもや打撃2018年10月29日
ドイツ中部ヘッセン州で28日、州議会選挙が行われ、連立与党を形成するキリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)が共に得票率を大きく落とした。メルケル首相率いるCDUは第一党を維持したものの、27.9%と前回選挙の38.3%から10ポイント以上を失い、SPDも30.7%から19.9%に落ち込んだ。CDUとSPDは共に、最近行われた各地の議会選挙で支持を失っており、連立は崩壊目前とされている。第3位には緑の党が19.5%の得票率で浮上。反移民を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は12%を獲得し、初めて同州議会入りした。
出口調査での投票結果:キリスト教民主同盟(CDU)27.9%(前回38.3%)、社会民主党(SPD)19.9%(30.7%)、緑の党19.5%(11.1%)、ドイツのための選択肢(AfD)12%、自由民主党(FDP)7.5%(5%)
■メルケル独首相、2021年に首相退任と表明 地方選連敗で2018年10月29日
28日の独地方選で大敗を喫したキリスト教民主同盟(CDU)を率いるアンゲラ・メルケル独首相が29日、2021年の任期満了をもって首相の職を退くと記者会見で発表した。今年12月の党首選に出馬しない意向も明らかにした。「任期を終えた後は、いかなる政治ポストも求めない」と、メルケル首相は記者会見で言明した。さらに、ヘッセン州やバイエルン州でCDUや提携政党が連敗したことについて、「全面的な責任」を負うと述べた。メルケル氏は2000年にCDU党首となり、2005年以降、ドイツ首相を務めてきた。
■トランプ政権、対米関係への影響注視=ドイツ政局2018年10月29日
トランプ米政権は、ドイツのメルケル首相が与党党首を辞任する意向を表明したことで、今後の対米関係に影響が出るかどうか注視している。国際協調を重視するメルケル氏は、「米国第一主義」を唱え、イラン核合意や地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱表明したトランプ大統領との折り合いは悪かった。 トランプ氏は、国防費支出で国内総生産(GDP)比2%以上とする北大西洋条約機構(NATO)の目標を実現していないドイツへの不満をあらわにしてきた。ドイツのロシア産天然ガス輸入に触れ、「ロシアの捕虜」と批判したこともある。
■マクロン仏大統領「威厳ある決断」=メルケル独首相を称賛2018年10月30日
フランスのマクロン大統領は29日、ドイツのメルケル首相が今期限りでの退任を表明したことについて「威厳ある決断だ」と称賛し、「欧州の価値観を忘れることなく、不屈の精神で国を統治してきた」と強調した。マクロン氏はドイツの州議会選で排外主義政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が躍進したことに関し、「ドイツだけの問題ではない。フランスでも極右政党が勢力を伸ばしている」と危機感を示した。
■顕在化する「ドイツリスク」 メルケル首相のCDU党首辞任でヨーロッパに激震2018年10月30日
ドイツ産業の集積地・バイエルン州議会選に続き、金融の中心・ヘッセン州議会選でも与党3党は大幅に後退、メルケル首相はキリスト教民主同盟(CDU)の党首辞任を表明した。
CDUは、反難民・反移民を声高に唱える極右政党「ドイツのための選択肢」に流れた強硬右派の票を取り戻すため、右旋回する可能性が極めて強い。党内右派のメルツ氏やスパーン氏が党首になればSPDは大連立から離脱し、CDUとCSUは右派による少数政権になるか、解散・総選挙になるかもしれない。ドイツも「欧州統合」という協調主義より、世界の例に漏れず「ドイツ第一」に政策転換すると筆者はみる。有権者にとって分かりやすいシグナルとなる政策転換の選択肢は次のようなものだ。
(1)100万人を超える難民を受け入れたメルケル首相の「門戸開放」政策を撤回する
(2)ギリシャやイタリアといったユーロ圏の重債務国への締め付けを強化する
(3)欧州統合強化を唱えるエマニュエル・マクロン仏大統領と明確な一線を画する
(4)対米関係を改善するため国防費を増やす
(5)ドナルド・トランプ米大統領の貿易戦争で痛手を被るドイツの自動車メーカーや製造業を守るため、大口の輸出先である英国の欧州連合(EU)離脱交渉を現実路線に転換する
■メルケル首相の党首退任表明と欧州ポピュリズム2018年10月31日
メルケル首相の存在感が低下していけば、EU内では、難民受け入れに対してより厳しい対応がとられていく可能性が出てくるだろう。懸念されるのは、それをきっかけに、反EU、反国際協調、反グローバリズムの勢力が欧州で一層力を増すことだ。
フランスでは2017年5月、極右政党「国民戦線」のルペン党首が大統領選の決選投票まで進んだ。既に見たようにドイツでは、2017年9月の総選挙で、極右政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」が第3党となる躍進を見せた。2018年3月のイタリア総選挙では、ともにポピュリスト政党の「五つ星運動」と「同盟」が連立政権を樹立することになった。寛容と福祉国家の国として知られる北欧のスウェーデンでも反移民・難民を叫ぶ極右政党「スウェーデン民主党」が台頭している。同党は、2017年までにスウェーデンで第3党となり、2018年9月の総選挙ではさらに議席を増やす躍進ぶりを見せた。
欧州では、英国がEUから離脱するという形で、反EU、反グローバリズムが既に具現化されている。一方、米国では米国第一主義を標榜するトランプ政権が国際協調路線に逆行する政策を打ち出し、貿易面では保護主義的な政策を強めている。反EU、反国際協調、反グローバリズムへのいわば防波堤の役割を果たしてきたメルケル首相の存在感が低下すれば、欧州大陸でも、ポピュリズムの気運が一気に強まることが懸念される。
■「リーダー不在」EU揺れる メルケル氏引退表明で2018年10月31日
ドイツのメルケル首相(64)が2021年の政界引退を表明し、欧州に動揺が広がっている。地域のかじ取り役のレームダック(死に体)化が進めば、欧州連合(EU)は「リーダー不在」に陥ることで結束が揺らぎ、国際社会での存在感に影響しかねない。
ポピュリズム(大衆迎合主義)のイタリア政権は財政赤字問題でEUと対立。難民受け入れ策などをめぐる東欧との亀裂も深刻で、重しとなる取りまとめ役が欠かせない。英国の離脱交渉は難航。メルケル氏は残る27カ国の結束を優先させつつ、メイ英首相の姿勢に理解を示し、決裂回避を強く訴えてきただけに、EUは今後、大きな試練を抱えていくことになる。
また、メルケル氏はトランプ米大統領やプーチン露大統領らと堂々と渡り合ってきたが、それは「安定の要」としてのEU内の圧倒的な存在感があったからだ。シンクタンク「欧州政策センター」は「もう世界に対する説得力はない」と指摘している。
■メルケル首相の後継レース始まる 新党首に3人が名乗り2018年11月1日
立候補を表明し、10月31日に会見した連邦議会の元院内総務メルツ氏(62)は「CDUは再出発を必要としている」と決意を語った。金融に精通した弁護士で、保守的な価値観を持ち、リベラル派が主張する「多文化社会」に対抗する。会見では「移民、デジタル社会の実現、気候変動は大きな課題で、自分の手で刷新したい」と語った。世論調査では一般の有権者の支持を集めるが、党内での支持は不透明だ。メルケル氏とは「水と油」の関係とされ、党首になった場合、混乱は避けられないとみられている。
党幹事長クランプカレンバウアー氏(56)は10月29日に立候補を表明した。2011年に西部ザールラント州で女性初の党支部代表となり、州首相に就任。昨年3月の州議会選挙で党を圧勝に導き、今年2月に幹事長に抜擢(ばってき)された。「ミニメルケル」と呼ばれるが中央政界での経験は浅く、手腕を不安視する声もある。
シュパーン保健相(38)も立候補の意思を表明。党内右派として知られ、メルケル氏の難民政策批判の急先鋒(きゅうせんぽう)だ。かつて有力紙の取材に「私は(難民に信者が多い)イスラムについて敏感な感覚を持っている。私のような同性愛者はイスラム社会では、塔から投げ捨てられる」と語った。欧州政策では、財政移転につながりかねないユーロ圏の改革には反対している。
■メルケル時代の終わり?EUに広がる不安、笑う右翼政党2018年11月1日
メルケル氏はEUの予算を最も多く負担する国のトップとして、ギリシャ発の債務危機や難民問題の対応など、EU全体の問題について議論を主導してきた。EUは今、より加盟国間の結びつきを強くし、通貨ユーロを使う国で共通予算を作ったり、難民の受け入れ負担を公平にしたりと、改革策を議論している。 CDU内には、他国への財政移転につながりかねないとの理由でユーロ圏内の共通予算案に反対し、難民の受け入れにも批判的な声は根強い。メルケル氏の後任党首にこうした主張の人物が選ばれれば、首相の方針と党の方針がずれる場面が増えそうだ。
30日には「メルケル氏とは水と油」と評される元連邦議会の議員でCDU・CSU(キリスト教社会同盟)の院内総務を務めたフリードリヒ・メルツ氏(62)が12月の党首選への立候補を正式に表明した。メルケル氏が党に配慮をすれば、EUの政策論議が停滞するおそれがある。
メルケル氏と二人三脚でEUを主導してきたフランスのマクロン大統領は29日の記者会見で「メルケル氏は欧州の価値が何かを忘れることはなかった。欧州では極右が台頭し、状況は全く楽観できない」と語った。メルケル政権の不安定化への懸念は大きい。 逆に、欧州の右翼政党は勢いづく。
移民排斥やEUからの離脱を主張するオランダの自由党のウィルダース党首は29日、ツイッターにこう投稿した。「メルケルは終わり。マクロンは弱い。(EU懐疑主義のイタリア副首相の)サルビーニは強い。英国のEU離脱。EUの崩壊が次々に明らかになっている」
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