ブラジルとアルゼンチンの共通通貨創設構想~ドル支配離脱を促進する中国人民元~
2023年1月23日にブラジルとアルゼンチンの首脳会議にて、両国が共通通貨の創設に向けて協議を開始することを決定した。
主にアルゼンチンの外貨(米ドル)不足が、両国の経済関係に停滞をもたらしていることから、米ドルに依存しない決済手段の構築が大きな目的と言われている。
ただ、この事象は当事者2国以外の思惑も大きく作用しているとみられる。
最も大きな影響を及ぼしていると思われるのが中国である。
中国とブラジル、アルゼンチンの経済的な関わりを見てみる。
中国とブラジルの関係
アルゼンチンに比して、ブラジルの国家経済は安定しているが、その経済に中国が寄与する比率は非常に大きくなっている。
中国-ブラジル間の貿易において、ブラジルの対中輸出が国内総生産(GDP)に占める割合は、30%強(20年前は約2%)となっている。また、2009年にはブラジルの最大の輸出相手国は米国から中国に代わっている。
また、2007年から2020年までの中国からブラジルへの累積投資額は約661億ドルとなっており、中国による南米諸国への総投資額の約半分を占めている。
中国とアルゼンチンの関係
アルゼンチンは1816年の建国以来9回の債務不履行(直近では2020年)を起こしており、経済が安定しているとは言い難い。このアルゼンチンとの通貨スワップ協定を締結(現時点で約1300億元)しているのが中国である。(2023年1月8日に350億元(約6800億円)規模の通貨スワップを発動した)
2022年2月6日の中国・習近平国家主席とアルゼンチン・フェルナンデス大統領の会談後に、アルゼンチンが中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の覚書に署名し、協力を強化することで合意している。ちなみに、アルゼンチンにとって中国はブラジルに次ぐ第2位の貿易相手国となっている。
2022年7月7日にアルゼンチンはBRICSへの加盟を目指すことについて、中国から支持を得たことを表明している。
こうしてみると、アルゼンチンとブラジルの共通通貨創設は、単に中南米の2国というだけでなく、中国が経済的影響力を強く及ぼす2国による脱・米ドルの動きと言える。
かつては中南米諸国の経済は米国に大きく依存していたが、米国がトランプ政権となり、中南米軽視傾向が強まってからは、その関係は良好とは言えなくなっている。ここに中国が経済的な関わりを深めることが、ドル経済圏の遠心力・分散力として作用している。
新しい経済圏という視点では、2022年6月23日に開催されたBRICS首脳会議では、各国の通貨バスケットによる新しい世界準備通貨確立のための協力が表明されている。資源国通貨バスケットともいえ、ドルに依拠しない新しい国際通貨となる可能性を持っている。
通貨の安定しない諸国が、単独や2国間で新通貨を設立しても、ドル支配からの脱却は困難である。しかし、中国が中南米で実践しているように、通貨スワップや資源への投資によって経済基盤を調えることで、ドルを用いない国際取引の可能性を示すことで、新しい国際通貨システムが現実味を帯びてくるのではないだろうか。
by小石丸
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.kanekashi.com/blog/2023/03/10689.html/trackback