2009-10-20

ドルに代わる通貨システムは?〜2.SDRは現代の“金預り証”か?

IMF_HQ.jpgドル基軸通貨体制に代わる国際決済通貨として、今もっとも頻繁に話題になっているのが、IMF(国際通貨基金・写真)の発行するSDR(Special Drowing Rights:特別引出権)だ。SDRは前回記事で紹介したバスケット方式でその価値が算出されるが、特別引出権という名前の通り、正確にはSDRは通貨ではない。では、SDRとは一体なんなのか?そして、どのようにして通貨でないSDRが通貨になることができるのだろうか?
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■SDRとはどういうものか?
まず、この特別引出権なるものの特徴を整理してみる。
◎IMFが加盟国の出資額に比例して発行する。
IMFは、加盟国が経済危機に陥った時に短期融資を行う機関だ。加盟各国は予めIMFに出資し(クォータと呼ばれる)、それが短期融資の原資になる。現在のIMFへの出資総額は約3400億ドル、各国の出資割合は下図の通りで、米国(青)が一位、日本(赤)が二位だ。加盟国には出資割合に応じて融資を受ける権利が割り当てられ、SDRとはその単位である。

実際にどのように融資が実行されるかというと・・・

国際収支が悪化した国は、自国が持つSDRを他の加盟国に渡して、代わりに必要な外貨を手に入れることができるという仕組みだ。この場合SDRを受け取った国は、要求された通貨を手渡す義務を負う一方で、このSDRを外貨準備に計上することができる。
MUFG五十嵐レポート

つまり、SDRは他の加盟国から融資を受ける「権利」であり、通貨ではない。
◎ドル・ユーロ・円・ポンドのバスケットである。
かつて、金とのリンク、16カ国のバスケットなどの変遷があったが、現在は4つの主要通貨のバスケットに落ち着いている。
SDRの計算方法は、前回記事のコメントでyhondaさんが紹介してくれたこちらにある。これによれば、現在は1SDR=1.59ドル相当で、4通貨の構成は、0.41ユーロ(38%)+18.4円(13%)+0.0903ポンド(9%)+0.632ドル(40%)、ということになる(比率は現在の為替による)。
◎政府・中央銀行だけが保有できる特殊な外貨準備
SDRは、IMFと加盟国の間だけで通用する単位である。かつ、SDRは各国の外貨準備としてのみ配分・保有される。日本の財務省による外貨準備の内訳にもSDRがこのように計上される。日本は現在211億ドル(約1.9兆円)相当のSDRを保有していることになる。
■SDRは“通貨”になることができるか?
SDRは、現在は通貨でもなんでもない“融資を受ける権利”という曖昧なシロモノだ。実際にお金として使おうとすれば、どこかの政府・中央銀行に頼んでドルやユーロなどの通貨に交換しなければならない、金融当局限定の商品券のようなものだ。そのようなSDRが、どのように国際準備通貨になりうるのだろうか?これには、4段階程度のステップがあるのではないかと思われる。
①SDR建て決済が各国中銀間で増加する=SDRという“単位”が普及する。
②SDRの使用が政府・金融当局だけでなく一般政府や民間の決済にまで広がっていく。
③SDR建て決済の普及により、他の既存通貨への交換の必要が減ってくる。
④SDRという単位が通貨単位としての機能を獲得する。

つまり、決済単位の普及からホンモノの通貨へ、という過程を踏むだろう。そのための第一ステップがIMFと加盟国との間のSDR建て決済の普及だが、金融危機で多くの加盟国が莫大な融資を必要としている現在は、その格好の機会というわけだ。
SDR建ての配分や融資を増やす方法には2通りある。一つは、加盟国の出資額(クォータ)を増加させることだ。実際にその動きもあるが、出資額はIMFの議決権に影響を及ぼすので、各国の思惑が絡んで容易に変えたり増やしたりできない(この辺は次の記事で扱いたい)。
もう一つは、6月頃に登場した「IMF債券」だ。これは、資金に比較的余裕のある加盟国から、出資ではなく融資を受ける代わりにIMFが債券を発行し、その資金で経済危機に陥っている加盟国にIMFから融資を行うものだ。先日亡くなった中川昭一が、今年2月に財務大臣としてIMFへの最大1000億ドル(約9兆円)の融資に調印したが、これもIMF債券の一つである。
さてしかし、これはIMFが債券を発行して各国から金を借り、困っている国に回しているだけなのだが、これでSDRが通貨になりうるのだろうか?おそらくなりうる。なぜなら、現代ある『紙幣』という通貨も、そもそも借用書が起源だからだ。以下、グランドセオリーvol.4より抜粋。

◆金の預り証=紙幣の誕生
 その様な中、中世ヨーロッパにおいて、財を蓄え始めた商人の中から金貸し業を営む者が登場する。当時の大商人は大量の金貨及び金を保有していたが、強盗や空き巣などに奪われないように、堅牢な金庫を持つ金細工師や両替商に預けていた。この金庫を保有する金細工師たちは金貨を預った証拠として「預り証」を商人に対して発行した。
 商人同士の支払において決済の度に「預り証」を用いて金貨を引き出し続けることは手間がかかる。そのため、次第に金貨の「預り証」が金貨そのものと同様の価値を持つようになり、金貨の代替物として流通し始める。実は、次第に小口化されていったこの「預り証」こそ、後の紙幣の(兌換紙幣:金との交換が保証された紙幣)の起源である。

今、IMFが進めていることは、増資や債券発行の形で“既存の通貨を預り=吸い上げ”、代わりに“SDRという単位の預り証”を発行していることに他ならない。やがて預り証そのものが広く流通していき、既存の通貨を凌駕していけば、SDRという単位を握るIMFが自然に通貨発行権を手中に収めるというシナリオなのではないだろうか。
では、現在SDRを普及しようとしているIMF及びその支持勢力とは何者なのだろうか?次回記事ではここに迫ってみたいと思う。

List    投稿者 s.tanaka | 2009-10-20 | Posted in 05.瓦解する基軸通貨1 Comment » 

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コメント1件

 wholesale bags | 2014.02.10 4:47

金貸しは、国家を相手に金を貸す | 「市場の原理(価格格差の秘密)」−7「『レアもの』と評価欠乏

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